外観は共通だが内部回路をそれぞれ最適化
ディスクリートDACと汎用DACの音質の違いは?FIIOのUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「K11」を徹底比較
FIIOの「Kシリーズ」は据え置き型のDAC内蔵ヘッドホンアンプのシリーズで、「K11」は昨年11月に発売開始された同シリーズのエントリーモデルである。オリジナルのK11は汎用のDACチップを採用したモデルだったが、新たに独自開発のディスクリート型R2R DACを採用したバージョン「K11 R2R」が発売された。これらの音質の違いについて探ってみた。
改めてそれぞれの違いについて説明しよう。「K11」のDACにはCirrus Logic製DACチップ「CS43198」を採用、フルバランス設計のヘッドホンアンプ回路部で1400mWの出力、S/N比が123dB以上、THD+Nが0.00035%未満というコンパクトながら高い性能を有している。また音質に悪影響を及ぼす電源ノイズを抑制するために、回路の各ブロックにそれぞれ独立した電源供給を行う電源供給回路設計を採用している。
一方のディスクリート型のDACとはDACメーカーが開発したICチップではなく、抵抗など基本パーツを組み合わせることでDAC回路を一から開発したものを言う。
R2Rとは「Resistor to Resistor」の略語であり、これは文字通りに抵抗を組み合わせたDACのことだ。形状からラダー(はしご)DACとも呼ばれる。かつてはマルチビットDACとも呼ばれていたが、最近のDAC設計の複雑化を受けて現在では形状からR2R DACやラダー型DACと呼ばれることが多い。「K11 R2R」では合計192個の0.1%精度・低温度係数の精密薄膜抵抗で構成されたディスクリート型の設計がなされている。
現在ではデルタシグマ形式のDACが主流だが、この形式はDSD音源で最適の音質を得られるのに向いているが、PCM音源の時には少々複雑な手間がかかる。それに対してR2R形式ではPCM音源の時に不要な変換をすることがないので、デジタル臭い音の原因となる副作用が少ないと言うメリットがある。しかし、R2R DACは使用する高精度の抵抗のマッチングや温度変化への対応が難しいという問題がありあまり普及しなかったという歴史がある。だが、近年高精度の抵抗が入手しやすくなったことで、R2R DAC方式を採用するDAコンバーターも増えてきた。
FIIOに開発経緯を聞いたところ、R2R形式のDACの聴感は自然で甘くアナログ味が濃く、市場の評判も良いのでK11 R2Rの製品を開発することにしたと語っている。2020年から技術者を投入して研究開発を始めたが、途中でコロナや他の原因での中断を経て2023年末に技術的な問題をクリアすることができたという。
K11は見た目とサイズ感がとても良いので、それと一緒に積み重ねができる製品としてK11 R2Rを開発したという側面もあるという。つまり音の個性としては両者を使い分けることも想定されているようだ。
K11 R2RはR2R DCAの特徴としてNOSとOSとの2種類のフィルター設定の切り替え機能を搭載している。OSとは“Over Sampling”処理のことで、一般にこの方式はノイズを効率よく抑えることができる。NOSとは“Non Over Sampling”のことで、先の“Over Sampling”処理をせずに最小限のデジタル処理でダイレクトにDA変換するということを意味している。NOSは一般にR2R DACを好む人が使う方法でアナログの音により近いと言われるが、OSの方がSN比は一般に向上する。つまり好みが介在するので、多くのR2R DACでは切り替えを行うことが可能な設計になっている。
K11 R2Rでは、R2R DACに加えて音量調整機構も改良され、高精度な電子ボリューム「NJW1195A」を搭載している。これは4つの入力と2つの出力に対応した4チャンネル対応の電子ボリュームコントローラだ。低歪・低ノイズの特性を持ち、精密な音量調整を実現している。これによって、より細かな音量制御が可能になり音質向上に寄与している。
またカタログ上ではオリジナルのK11と比較して駆動力の値が最大1300mWと変わっているが、これはアンプ自体は変わらないが全体的なチューニングを変えた結果だそうだ。
オリジナルのK11とK11 R2Rを試聴比較して音の違いを検証した。まずイヤホンとの相性を試してみるためにqdc「WHITE TIGER」を使用した。WHITE TIGERはプロ向けブランドqdcのマルチBAドライバーのハイエンドイヤホンだ。
オリジナルのK11でまず聴いてみると、ジャズの女性ヴォーカルでは掠れていくため息が艶かしく、かなり解像力が高い。低音はタイトでよく引き締まり、たっぷりとした量感もある。高音域は伸びやかだが、刺激成分が少なく聴きやすいチューニングだ。帯域特性はフラットで特定の帯域の誇張感はあまり感じられない。WHITE TIGERのワイドレンジの再現能力が存分に発揮されていて、基本的な性能が高いのが良くわかる。
次にK11 R2Rで聴いてみた。K11 R2Rではフィルター設定で大きく音が変化する。フィルター設定をNOSモードにすると、R2Rらしく滑らかで柔らかい音が感じられる。サウンドはより温かみがあり心地よい。さきほどオリジナル「K11」で試した女性ヴォーカルの声も一味違う味わいがあり、より地下のバーに居るような湿り気のある感じがよく伝わってくる。帯域特性はオリジナルK11と同じである。
K11 R2Rのフィルター設定をOSモードにすると、音はより現代的なものとなり透明感が高くなる。いわばオリジナルのK11に音が近くなる。
次にヘッドホンとの相性を試してみるためにゼンハイザー「HD820」で試聴した。ハイインピーダンスのヘッドホンなので、ゲイン設定をハイに切り替える。
まずオリジナルのK11で試聴した。鳴らしにくいヘッドホンだが、K11では軽快なサウンドに感じるほど軽々と鳴らしているように感じられる。コンパクトなアンプだが駆動力も高いようだ。楽器音も美しく再現され、解像力がとても高い。K11ではデジタルフィルターで音を変えて楽しむこともできるが、そのフィルターの音の変化も大きく変化が分かりやすい。実はオリジナルのK11でもNOSモードというフィルターが用意されていて、それを使うとK11 R2Rに少し近い音になる。
そしてK11 R2RでHD820を試聴した。HD820ではK11 R2Rの素性の性能の良さがよく分かり、かなり細かい音もしっかりと再現できていて音質が高いと感じる。ただしオリジナルのK11とK11 R2Rとの音の違いは、WHITE TIGERで試聴したときの方がより大きく感じられた。インピーダンスの違いも影響しているかもしれないが、R2Rの音の違いも組み合わせる出力先によって少し異なるようには感じられた。
試聴を通して感じたのはやはり一長一短があり、HD820の場合にはオリジナルのK11の方がより音の歯切れ感がよく、ハイインピーダンス・ヘッドホンらしく感じた。FIIOのハイインピーダンスヘッドホンであるFT3を組み合わせても良いだろう。
K11 R2Rはより個性的な音質で、ハイエンド・イヤホンで細かい音を聴き込む際に良さが分かりやすいと感じた。やはりR2R DACの効果は大きく、音質が滑らかで心地よい。両者とも価格が安いということもあり、FIIOの開発が言ったように両者をスタックして好みに応じて両者を使い分けるのも面白いだろう。
■汎用DACチップとR2R、DAC違いでどう音は変わる?
改めてそれぞれの違いについて説明しよう。「K11」のDACにはCirrus Logic製DACチップ「CS43198」を採用、フルバランス設計のヘッドホンアンプ回路部で1400mWの出力、S/N比が123dB以上、THD+Nが0.00035%未満というコンパクトながら高い性能を有している。また音質に悪影響を及ぼす電源ノイズを抑制するために、回路の各ブロックにそれぞれ独立した電源供給を行う電源供給回路設計を採用している。
一方のディスクリート型のDACとはDACメーカーが開発したICチップではなく、抵抗など基本パーツを組み合わせることでDAC回路を一から開発したものを言う。
R2Rとは「Resistor to Resistor」の略語であり、これは文字通りに抵抗を組み合わせたDACのことだ。形状からラダー(はしご)DACとも呼ばれる。かつてはマルチビットDACとも呼ばれていたが、最近のDAC設計の複雑化を受けて現在では形状からR2R DACやラダー型DACと呼ばれることが多い。「K11 R2R」では合計192個の0.1%精度・低温度係数の精密薄膜抵抗で構成されたディスクリート型の設計がなされている。
現在ではデルタシグマ形式のDACが主流だが、この形式はDSD音源で最適の音質を得られるのに向いているが、PCM音源の時には少々複雑な手間がかかる。それに対してR2R形式ではPCM音源の時に不要な変換をすることがないので、デジタル臭い音の原因となる副作用が少ないと言うメリットがある。しかし、R2R DACは使用する高精度の抵抗のマッチングや温度変化への対応が難しいという問題がありあまり普及しなかったという歴史がある。だが、近年高精度の抵抗が入手しやすくなったことで、R2R DAC方式を採用するDAコンバーターも増えてきた。
■R2Rの甘くアナログ味が濃いサウンドに注目
FIIOに開発経緯を聞いたところ、R2R形式のDACの聴感は自然で甘くアナログ味が濃く、市場の評判も良いのでK11 R2Rの製品を開発することにしたと語っている。2020年から技術者を投入して研究開発を始めたが、途中でコロナや他の原因での中断を経て2023年末に技術的な問題をクリアすることができたという。
K11は見た目とサイズ感がとても良いので、それと一緒に積み重ねができる製品としてK11 R2Rを開発したという側面もあるという。つまり音の個性としては両者を使い分けることも想定されているようだ。
K11 R2RはR2R DCAの特徴としてNOSとOSとの2種類のフィルター設定の切り替え機能を搭載している。OSとは“Over Sampling”処理のことで、一般にこの方式はノイズを効率よく抑えることができる。NOSとは“Non Over Sampling”のことで、先の“Over Sampling”処理をせずに最小限のデジタル処理でダイレクトにDA変換するということを意味している。NOSは一般にR2R DACを好む人が使う方法でアナログの音により近いと言われるが、OSの方がSN比は一般に向上する。つまり好みが介在するので、多くのR2R DACでは切り替えを行うことが可能な設計になっている。
K11 R2Rでは、R2R DACに加えて音量調整機構も改良され、高精度な電子ボリューム「NJW1195A」を搭載している。これは4つの入力と2つの出力に対応した4チャンネル対応の電子ボリュームコントローラだ。低歪・低ノイズの特性を持ち、精密な音量調整を実現している。これによって、より細かな音量制御が可能になり音質向上に寄与している。
またカタログ上ではオリジナルのK11と比較して駆動力の値が最大1300mWと変わっているが、これはアンプ自体は変わらないが全体的なチューニングを変えた結果だそうだ。
■R2Rでは女性ヴォーカルにより“湿り気”を感じる
オリジナルのK11とK11 R2Rを試聴比較して音の違いを検証した。まずイヤホンとの相性を試してみるためにqdc「WHITE TIGER」を使用した。WHITE TIGERはプロ向けブランドqdcのマルチBAドライバーのハイエンドイヤホンだ。
オリジナルのK11でまず聴いてみると、ジャズの女性ヴォーカルでは掠れていくため息が艶かしく、かなり解像力が高い。低音はタイトでよく引き締まり、たっぷりとした量感もある。高音域は伸びやかだが、刺激成分が少なく聴きやすいチューニングだ。帯域特性はフラットで特定の帯域の誇張感はあまり感じられない。WHITE TIGERのワイドレンジの再現能力が存分に発揮されていて、基本的な性能が高いのが良くわかる。
次にK11 R2Rで聴いてみた。K11 R2Rではフィルター設定で大きく音が変化する。フィルター設定をNOSモードにすると、R2Rらしく滑らかで柔らかい音が感じられる。サウンドはより温かみがあり心地よい。さきほどオリジナル「K11」で試した女性ヴォーカルの声も一味違う味わいがあり、より地下のバーに居るような湿り気のある感じがよく伝わってくる。帯域特性はオリジナルK11と同じである。
K11 R2Rのフィルター設定をOSモードにすると、音はより現代的なものとなり透明感が高くなる。いわばオリジナルのK11に音が近くなる。
■ハイインピーダンスヘッドホンでも解像力の高さを聴かせる
次にヘッドホンとの相性を試してみるためにゼンハイザー「HD820」で試聴した。ハイインピーダンスのヘッドホンなので、ゲイン設定をハイに切り替える。
まずオリジナルのK11で試聴した。鳴らしにくいヘッドホンだが、K11では軽快なサウンドに感じるほど軽々と鳴らしているように感じられる。コンパクトなアンプだが駆動力も高いようだ。楽器音も美しく再現され、解像力がとても高い。K11ではデジタルフィルターで音を変えて楽しむこともできるが、そのフィルターの音の変化も大きく変化が分かりやすい。実はオリジナルのK11でもNOSモードというフィルターが用意されていて、それを使うとK11 R2Rに少し近い音になる。
そしてK11 R2RでHD820を試聴した。HD820ではK11 R2Rの素性の性能の良さがよく分かり、かなり細かい音もしっかりと再現できていて音質が高いと感じる。ただしオリジナルのK11とK11 R2Rとの音の違いは、WHITE TIGERで試聴したときの方がより大きく感じられた。インピーダンスの違いも影響しているかもしれないが、R2Rの音の違いも組み合わせる出力先によって少し異なるようには感じられた。
試聴を通して感じたのはやはり一長一短があり、HD820の場合にはオリジナルのK11の方がより音の歯切れ感がよく、ハイインピーダンス・ヘッドホンらしく感じた。FIIOのハイインピーダンスヘッドホンであるFT3を組み合わせても良いだろう。
K11 R2Rはより個性的な音質で、ハイエンド・イヤホンで細かい音を聴き込む際に良さが分かりやすいと感じた。やはりR2R DACの効果は大きく、音質が滑らかで心地よい。両者とも価格が安いということもあり、FIIOの開発が言ったように両者をスタックして好みに応じて両者を使い分けるのも面白いだろう。