PRマイナーチェンジの範疇を超える
絶大な評価を受けるB&W「700S3」シグネチャーモデル。9人の評論家が実力をチェック!
英国Bowers & Wilkins(B&W)ブランドの中核ラインとして絶大な人気を誇る「700 S3」。同シリーズのSignatureモデルが世界的にも大きな評価を獲得している。本年度の「オーディオ銘機賞2025」の審査会も例外ではなく、見事に“銀賞"の栄誉を獲得している。美しいダトク・グロスとミッドナイトブルー・メタリックの2種類の仕上げが用意され、マイナーチェンジの範疇を超えた進化を遂げた同シリーズに関して小原由夫氏によるレポートを始め、9人の銘機賞審査委員がその音質的な魅力を語る。
Bowers&Wilkinsの700Signatureシリーズは、800Signatureシリーズのスピーカーとは異なる魅力を放っている。それは、スタジオモニター譲りの音を、より身近に手にすることが叶う点だ。700Signatureのシグネチャーたる所以は、外観面では特別色による、より高級な仕上げだ。ミッドナイトブルー・メタリックとダトク・グロス仕上げの2色があり、いずれもクリアラッカーを何層も塗り重ねている。これに合わせてドライバーユニットの外周部やトゥイーターのグリルには金色の縁取りが施された。また、背面のスピーカーターミナルについても、見た目ではわからないが、ニッケルメッキの厚膜処理のベースである真鍮材にグレード(鉛の含有量が少ない)の高いものが使われているという。このあたりは電気抵抗の低減によるシグナルロス対策といってよいだろう。
ドライバーユニットの改善点としては、まずはトゥイーターのグリル。振動板自体は変わりないが、前面に被せられたグリルの編目が細くなって開口率が向上した。これは800Signatureシリーズから伝承されたメソッドだ。他方ウーファー(ミッドレンジドライバーを含む)のダンパー用の樹脂も改善され、反応がよくなったことに合わせ、クロスオーバーネットワークのフィルムコンデンサーや空芯コイルも吟味され、より高品質な部品が採用されている。
今回試聴したのは、ブックシェルフ型の705Signatureとトールボーイ型の702Signatureの2機種(ラインナップとしては他に横置きのセンター用HTM71Signatureがある)。トゥイーターは25mm口径のカーボンドーム型。これを背圧を消音するお馴染みのノーチラスチューブに取り付けている。チューブはアルミ・ブロックからの削り出しで、エンクロージャー天面にがっちり固定するのでなく、緩衝材を介してフローティング・マウントである。705Signatureのウーファーおよび702Signatureのミッドバスに使用されているのが、15cm口径のコンティニュアム・コーン振動板のドライバーユニット。702Signatureの3つのウーファーは、適度な内部損失と軽量さを兼ね備えた16.5cmエアロフォイル・プロファイル・バスコーン。
エンクロージャーは前述のミッドバス、あるいはウーファーの口径ギリギリまで絞り込まれたスリムな全幅でまとめられている。これにはフロントバッフルからの不要な反射や共振を防ごうという意図もあるのだろう。なお、これらモデルは限定数量ではなく、700S3シリーズと併売されるレギュラー製品である。
705Signatureの印象は、微動だにしないステレオイメージに支えられた定位の明晰さ。そしてきわめて真っ当なエネルギーバランスである。どんな音楽を再生しても、独善的解釈や偏ったバランスで再生することはない。入力信号に対して忠実に反応している印象だ。情家みえの「レスト・オブ・ユア・ライフ」から「セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー」を聴いたが、瑞々しくて滑らかな声の再現が素晴らしい。定位も明瞭で、ピアノ、ベースとの距離感も好ましい。ピンクフロイド「アニマルズ」から「ドッグ」を聴くと、複雑なギターアンサンブルを巧みに分解しつつ、エフェクト的な犬の遠吠えの頭上定位が的確に感じられた。位相管理の確かさの賜物だろう。
ドヴォルザーク「新世界」、デュダメル指揮/LAフィルの演奏では、ティンパニーの強烈な打音にも崩れることなく、オーケストラの重厚なスケール感が陰影を伴って立体的に広がった。702Signatureでは、705Signatureのエネルギーバランスを低域方向に拡大し、ピラミッド状の安定感と重心の低さが達成されている。情家では低域をウーファーに任せられることからか、ミッドレンジの負担が減ったことで声が一段と伸びやかで実在的に聴こえた。ナチュラルなリヴァーブ感も心地よい。
ピンクフロイドではキックドラムのリズムがひときわ力強くてダイナミック。ギターソロの切れ味や分離も絶妙な感じだ。ドヴォルザークはオーケストラの楽器配置の階層をつぶさに見通すことができた。700Signatureシリーズは、700S3シリーズに比べ、より精巧緻密なパフォーマンスに仕上がっている印象である。
録音現場でのモニターとして脚光を浴びているB&W、その最上位に君臨するのが800Dシリーズで高い人気と実力を誇るが、手が届きにくい。そこで大いに注目されるのが700S3シリーズでラインアップの幅広さもあって身近なハイエンドスピーカーだ。
Signatureモデルでさらにグレードを高め、エンクロージャーの仕上げもよりゴージャスな雰囲気を持つ。702S3Sはまさに805D3譲りというか、低域から高域までスキがないというか、密度が高く、鮮度感も高く晴れ晴れとしたクリアネスにつながるオントップ・トゥイーター、伸びやかに開放感のある空間表現が見事である。また702S3Sもオントップ・トゥイーターの役割が大きく低域から高域まで十分に伸びて曇りのない高い解像力、例えばチェンバロや和楽器の琴など、爪が弾ける瞬間の立ち上がりの良さや金属打楽器の生々しさなど、ハッとさせられるようなリアリティが得られる。3基の6.5インチウーファーの威力は絶大なものがあり、大空間であっても十分なローエンドとエネルギーを堪能させる。
別項において筆者は、生産台数の多いスピーカーは総じて鳴らしやすい、という旨の文を書いた。それを引っ込めるつもりはないが、物事には例外がある。その典型がB&Wの製品である。思えば同社のスピーカーは登場当初から売れてはいるのに鳴らしにくかった。ダイナミック型スピーカーの世界に音場感という概念を持ち込んだトップランナーの一人がB&Wだったわけだが、同社が世に出た1970年代において音場表現を得意とするアンプはまだ少数派で、B&Wはそのポテンシャルは認められながらも、真価を発揮できるケースは稀だった。
アンプのサウンドパラダイムが音場系にシフトしても、鳴らしにくさはついて回った。多くのスタジオからモニター機として採用されるようになったことなども影響してか、ドライブするアンプにパワーハンドリング性能を求めるようになったからだ。現在、同社のスピーカーは、セカンドラインの当シリーズも含めて、オーディオエレクトロニクスの実力を探るための試金石のような存在になっている。その一方で、ユーザーの努力を正しく判定してくれるのもまた試金石的スピーカーである。だからこそ同社の製品は人気があるのだろう。
B&Wの特に上位モデルには、モニター的なイメージが付いて回る。音がいいのは間違いないが、鳴らすのが難しい。良好な条件が設定しづらく、それがモニター的という印象につながっているのかもしれない。本機がこれまでと異なるのはその点で、大体どういう状態でも音の出た瞬間に良さがわかる。音数が多く、さらにユニット間のつながりが大変滑らかなのだ。豊富な信号量が全て精密に音になっている感触だが、その点でもブックシェルフ型としては飛び抜けた存在と言っていい。
バロックやコーラスのようなソースはそのつながりの滑らかさが利いて、楽器それぞれの表情やハーモニーが生き生きとした生命力を発揮している。隅々まで神経が行き渡り、ニュアンスが非常にきめ細かく引き出されるのである。このため表情の陰影が深い。ピアノなどソロのソースでも表現が濃く、強弱の幅が広い。オーケストラのスケールとダイナミズムは広大で、多彩な再現力を縦横に展開する。小型2ウェイの可能性が大きく拡大されたのを感じる。
800シリーズSignatureで採用のトゥイーター・グリルメッシュの導入に始まり、やはり800シリーズ同等のチョークコイルへの換装やコンデンサーのグレードアップなどのパーツ増強から、ダンパーへの含浸剤の使用からバイパスコンデンサーの位置変更など微細な部分までに及ぶ刷新の数々。それらが実現したサウンドを体感すると、データをとことんまで追い詰めてから最終的にヒアリングで決定するという同社の透徹した製品開発を目の当たりにさせられる。
とにかく音の細部までを可視化しようとする解像力の高さが際立っているのだ。2ウェイブックシェルフの705S3Sでは、カチリと明瞭な描写力と、トゥイーターオントップ方式よる回折の少なさも相まって、隅々までを見渡す視界が爽快。低域方向も、エルボーダクトを初採用して十二分に低い音域までにリーチする。702S3Sでは、とりわけバイオミメティック・ダンパーを採用したエッジレス・ミッドコーンによるに中音域の表現が、いっそう繊細な解像力を実現するさまに瞠目させられるのである。
同社ミドルクラス700S3シリーズの進化系が700S3 Signatureシリーズだ。同シリーズはブックシェルフ型1機、フロア型1機、センター・スピーカー1機の3モデル構成で3機種すべてがノーチラス・チューブを備えている。25o口径トゥイーターはカーボンドーム振動板。チューブはアルミニウム・ブロックから切削加工で作られている。レギュラー機よりも長くなり内容積が増したことで低域特性が向上したという。
中・低域ユニットの振動板は同社独自のコンティニュアム・コーンで同素材は分割共振を抑制。自然な質感の中低域再生を実現している。再生音は十分なfレンジが確保され、聴感上でSN比の高まりが感じられる。またレギュラーモデルよりも解像度が高く情報量も豊富で音楽を忠実に蘇らせる。高音質なジャズ系ソフトを聴くと鮮度が高くアドリブソロなど生き生きと再生してくれる。ピアノ・トリオなどはバランスが良く個々の楽器の質感を正確に再現する。クラシック系オーケストラのでは立体感のある音場が展開され、セクション配置も鮮明かつ正確に再現される。
802D3を愛用する私にとっては今回の700S3 Signatureの音質は800シリーズに接近してきている印象を受けた。特にソリッド・ボディに搭載するトゥイーターは以前にも増して高域の伸びが良く、良い意味でカラーレーションが排除されている。コンティニウム・コーンのミッドレンジまたはミッド・バス・ユニットも音離れが良く、トゥイーターとの音色が揃っているように感じた。特にコンパクトな705S3 Signatureの音を聴いて感激した。音の透明感が通常モデルより洗練され、低域の強調を感じさせない。その場で演奏されているかのようなリアルな演奏の描写性が明らかに進化を遂げている。
702S3 Signatureの方はさらに解像度が高まり、音楽のディテールも強化される。倍音や余韻の再現性も高く、静寂な音も引き立て、音楽に深みを感じさせてくれる。再生する音楽の空気感やほんの僅かな音にも敏感に反応してくるところは800D4シリーズに繋がるところがある。音は技術の反映と言える。それを本シリーズでも実感できる。開発陣の音作りや繰り返しの試聴などの熱意も感じてしまう。
今期B&Wの705と702に特別バージョンが登場した。シグネチャー仕様である。技術的には内部を改善、変更したところがポイントになる。例えばウーファーのダンパーに使う樹脂を改善。よりSN比を高め、入力ターミナルは真鍮材ベースの厚膜ニッケルメッキを採用しているが、ベース材質の不純物(鉛)を減少させた。そして、ネットワークのコイルを大きく直流抵抗を減少。また、ダクトの位置を底面に向け、垂直に50cmの長さが採用されている。
これにより特に702S3は激変した性能を持つことになった。音像を明確に描き、トランジェントに優れSN比が高い。サウンドのコントラストの高い表現で音はくっきりと表現される。音場は澄みきり低音のダンピングを強化、分解力の高い性能が得られている。解像度やフォーカスがシャープになり、明確な音像を形成して大変精度が高く、リファレンス・スピーカーのような性能を備えている。したがって、曖昧に楽しませる要素はなく、サウンドの正確さを追求するマニア向きのスピーカーといえる。
フロア型の702S3 Signatureは楽器の音像だけでなく奏者の身体の動きまで伝えるような実在感のある音像定位を実現しており、しかも小型スピーカーのように広々とした開放感のある音場を再現する。眼前に展開するステージは前後左右の広がりが非常に大きく、その大きな空間のなかに各楽器が立体的に並ぶのだが、上位の800シリーズを連想させるほど、その位置の精度が高い。音場は透明感が高く、音が出る直前の静寂は深みがある。
強弱表現の精妙なグラデーションも800シリーズ譲りで、アイマスクを付けて802D4と並べて聴いたら識別が難しいのではと思わせる。広々とした音場空間を再現する点では705S3 Signatureもまったく遜色ない。このスピーカーは特に後方に広がる余韻の描写が得意で、真後ろだけでなく後方の高い位置にも余韻が浮かび、きれいに減衰していく様子が目に浮かぶ。声と旋律楽器のイメージは細部までピタリとフォーカスが合って周囲へのにじみがなく、3次元の立体的な形を想像させる。
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
小原由夫 / 800シグネチャーから伝承されたメソッドを投入
Bowers&Wilkinsの700Signatureシリーズは、800Signatureシリーズのスピーカーとは異なる魅力を放っている。それは、スタジオモニター譲りの音を、より身近に手にすることが叶う点だ。700Signatureのシグネチャーたる所以は、外観面では特別色による、より高級な仕上げだ。ミッドナイトブルー・メタリックとダトク・グロス仕上げの2色があり、いずれもクリアラッカーを何層も塗り重ねている。これに合わせてドライバーユニットの外周部やトゥイーターのグリルには金色の縁取りが施された。また、背面のスピーカーターミナルについても、見た目ではわからないが、ニッケルメッキの厚膜処理のベースである真鍮材にグレード(鉛の含有量が少ない)の高いものが使われているという。このあたりは電気抵抗の低減によるシグナルロス対策といってよいだろう。
ドライバーユニットの改善点としては、まずはトゥイーターのグリル。振動板自体は変わりないが、前面に被せられたグリルの編目が細くなって開口率が向上した。これは800Signatureシリーズから伝承されたメソッドだ。他方ウーファー(ミッドレンジドライバーを含む)のダンパー用の樹脂も改善され、反応がよくなったことに合わせ、クロスオーバーネットワークのフィルムコンデンサーや空芯コイルも吟味され、より高品質な部品が採用されている。
今回試聴したのは、ブックシェルフ型の705Signatureとトールボーイ型の702Signatureの2機種(ラインナップとしては他に横置きのセンター用HTM71Signatureがある)。トゥイーターは25mm口径のカーボンドーム型。これを背圧を消音するお馴染みのノーチラスチューブに取り付けている。チューブはアルミ・ブロックからの削り出しで、エンクロージャー天面にがっちり固定するのでなく、緩衝材を介してフローティング・マウントである。705Signatureのウーファーおよび702Signatureのミッドバスに使用されているのが、15cm口径のコンティニュアム・コーン振動板のドライバーユニット。702Signatureの3つのウーファーは、適度な内部損失と軽量さを兼ね備えた16.5cmエアロフォイル・プロファイル・バスコーン。
エンクロージャーは前述のミッドバス、あるいはウーファーの口径ギリギリまで絞り込まれたスリムな全幅でまとめられている。これにはフロントバッフルからの不要な反射や共振を防ごうという意図もあるのだろう。なお、これらモデルは限定数量ではなく、700S3シリーズと併売されるレギュラー製品である。
705Signatureの印象は、微動だにしないステレオイメージに支えられた定位の明晰さ。そしてきわめて真っ当なエネルギーバランスである。どんな音楽を再生しても、独善的解釈や偏ったバランスで再生することはない。入力信号に対して忠実に反応している印象だ。情家みえの「レスト・オブ・ユア・ライフ」から「セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー」を聴いたが、瑞々しくて滑らかな声の再現が素晴らしい。定位も明瞭で、ピアノ、ベースとの距離感も好ましい。ピンクフロイド「アニマルズ」から「ドッグ」を聴くと、複雑なギターアンサンブルを巧みに分解しつつ、エフェクト的な犬の遠吠えの頭上定位が的確に感じられた。位相管理の確かさの賜物だろう。
ドヴォルザーク「新世界」、デュダメル指揮/LAフィルの演奏では、ティンパニーの強烈な打音にも崩れることなく、オーケストラの重厚なスケール感が陰影を伴って立体的に広がった。702Signatureでは、705Signatureのエネルギーバランスを低域方向に拡大し、ピラミッド状の安定感と重心の低さが達成されている。情家では低域をウーファーに任せられることからか、ミッドレンジの負担が減ったことで声が一段と伸びやかで実在的に聴こえた。ナチュラルなリヴァーブ感も心地よい。
ピンクフロイドではキックドラムのリズムがひときわ力強くてダイナミック。ギターソロの切れ味や分離も絶妙な感じだ。ドヴォルザークはオーケストラの楽器配置の階層をつぶさに見通すことができた。700Signatureシリーズは、700S3シリーズに比べ、より精巧緻密なパフォーマンスに仕上がっている印象である。
石田善之 / ハッとさせられるリアリティを感じる
録音現場でのモニターとして脚光を浴びているB&W、その最上位に君臨するのが800Dシリーズで高い人気と実力を誇るが、手が届きにくい。そこで大いに注目されるのが700S3シリーズでラインアップの幅広さもあって身近なハイエンドスピーカーだ。
Signatureモデルでさらにグレードを高め、エンクロージャーの仕上げもよりゴージャスな雰囲気を持つ。702S3Sはまさに805D3譲りというか、低域から高域までスキがないというか、密度が高く、鮮度感も高く晴れ晴れとしたクリアネスにつながるオントップ・トゥイーター、伸びやかに開放感のある空間表現が見事である。また702S3Sもオントップ・トゥイーターの役割が大きく低域から高域まで十分に伸びて曇りのない高い解像力、例えばチェンバロや和楽器の琴など、爪が弾ける瞬間の立ち上がりの良さや金属打楽器の生々しさなど、ハッとさせられるようなリアリティが得られる。3基の6.5インチウーファーの威力は絶大なものがあり、大空間であっても十分なローエンドとエネルギーを堪能させる。
石原 俊 / 実力を探る試金石のような存在
別項において筆者は、生産台数の多いスピーカーは総じて鳴らしやすい、という旨の文を書いた。それを引っ込めるつもりはないが、物事には例外がある。その典型がB&Wの製品である。思えば同社のスピーカーは登場当初から売れてはいるのに鳴らしにくかった。ダイナミック型スピーカーの世界に音場感という概念を持ち込んだトップランナーの一人がB&Wだったわけだが、同社が世に出た1970年代において音場表現を得意とするアンプはまだ少数派で、B&Wはそのポテンシャルは認められながらも、真価を発揮できるケースは稀だった。
アンプのサウンドパラダイムが音場系にシフトしても、鳴らしにくさはついて回った。多くのスタジオからモニター機として採用されるようになったことなども影響してか、ドライブするアンプにパワーハンドリング性能を求めるようになったからだ。現在、同社のスピーカーは、セカンドラインの当シリーズも含めて、オーディオエレクトロニクスの実力を探るための試金石のような存在になっている。その一方で、ユーザーの努力を正しく判定してくれるのもまた試金石的スピーカーである。だからこそ同社の製品は人気があるのだろう。
井上千岳 / ブックシェルフ型は飛び抜けた存在
B&Wの特に上位モデルには、モニター的なイメージが付いて回る。音がいいのは間違いないが、鳴らすのが難しい。良好な条件が設定しづらく、それがモニター的という印象につながっているのかもしれない。本機がこれまでと異なるのはその点で、大体どういう状態でも音の出た瞬間に良さがわかる。音数が多く、さらにユニット間のつながりが大変滑らかなのだ。豊富な信号量が全て精密に音になっている感触だが、その点でもブックシェルフ型としては飛び抜けた存在と言っていい。
バロックやコーラスのようなソースはそのつながりの滑らかさが利いて、楽器それぞれの表情やハーモニーが生き生きとした生命力を発揮している。隅々まで神経が行き渡り、ニュアンスが非常にきめ細かく引き出されるのである。このため表情の陰影が深い。ピアノなどソロのソースでも表現が濃く、強弱の幅が広い。オーケストラのスケールとダイナミズムは広大で、多彩な再現力を縦横に展開する。小型2ウェイの可能性が大きく拡大されたのを感じる。
生形三郎 / 細部まで可視化する解像力が際立つ
800シリーズSignatureで採用のトゥイーター・グリルメッシュの導入に始まり、やはり800シリーズ同等のチョークコイルへの換装やコンデンサーのグレードアップなどのパーツ増強から、ダンパーへの含浸剤の使用からバイパスコンデンサーの位置変更など微細な部分までに及ぶ刷新の数々。それらが実現したサウンドを体感すると、データをとことんまで追い詰めてから最終的にヒアリングで決定するという同社の透徹した製品開発を目の当たりにさせられる。
とにかく音の細部までを可視化しようとする解像力の高さが際立っているのだ。2ウェイブックシェルフの705S3Sでは、カチリと明瞭な描写力と、トゥイーターオントップ方式よる回折の少なさも相まって、隅々までを見渡す視界が爽快。低域方向も、エルボーダクトを初採用して十二分に低い音域までにリーチする。702S3Sでは、とりわけバイオミメティック・ダンパーを採用したエッジレス・ミッドコーンによるに中音域の表現が、いっそう繊細な解像力を実現するさまに瞠目させられるのである。
小林 貢 / さらに解像度が高く情報量も豊富
同社ミドルクラス700S3シリーズの進化系が700S3 Signatureシリーズだ。同シリーズはブックシェルフ型1機、フロア型1機、センター・スピーカー1機の3モデル構成で3機種すべてがノーチラス・チューブを備えている。25o口径トゥイーターはカーボンドーム振動板。チューブはアルミニウム・ブロックから切削加工で作られている。レギュラー機よりも長くなり内容積が増したことで低域特性が向上したという。
中・低域ユニットの振動板は同社独自のコンティニュアム・コーンで同素材は分割共振を抑制。自然な質感の中低域再生を実現している。再生音は十分なfレンジが確保され、聴感上でSN比の高まりが感じられる。またレギュラーモデルよりも解像度が高く情報量も豊富で音楽を忠実に蘇らせる。高音質なジャズ系ソフトを聴くと鮮度が高くアドリブソロなど生き生きと再生してくれる。ピアノ・トリオなどはバランスが良く個々の楽器の質感を正確に再現する。クラシック系オーケストラのでは立体感のある音場が展開され、セクション配置も鮮明かつ正確に再現される。
角田郁雄 / 実力は800シリーズに接近してきた
802D3を愛用する私にとっては今回の700S3 Signatureの音質は800シリーズに接近してきている印象を受けた。特にソリッド・ボディに搭載するトゥイーターは以前にも増して高域の伸びが良く、良い意味でカラーレーションが排除されている。コンティニウム・コーンのミッドレンジまたはミッド・バス・ユニットも音離れが良く、トゥイーターとの音色が揃っているように感じた。特にコンパクトな705S3 Signatureの音を聴いて感激した。音の透明感が通常モデルより洗練され、低域の強調を感じさせない。その場で演奏されているかのようなリアルな演奏の描写性が明らかに進化を遂げている。
702S3 Signatureの方はさらに解像度が高まり、音楽のディテールも強化される。倍音や余韻の再現性も高く、静寂な音も引き立て、音楽に深みを感じさせてくれる。再生する音楽の空気感やほんの僅かな音にも敏感に反応してくるところは800D4シリーズに繋がるところがある。音は技術の反映と言える。それを本シリーズでも実感できる。開発陣の音作りや繰り返しの試聴などの熱意も感じてしまう。
福田雅光 / 技術歴な改善により性能が激変
今期B&Wの705と702に特別バージョンが登場した。シグネチャー仕様である。技術的には内部を改善、変更したところがポイントになる。例えばウーファーのダンパーに使う樹脂を改善。よりSN比を高め、入力ターミナルは真鍮材ベースの厚膜ニッケルメッキを採用しているが、ベース材質の不純物(鉛)を減少させた。そして、ネットワークのコイルを大きく直流抵抗を減少。また、ダクトの位置を底面に向け、垂直に50cmの長さが採用されている。
これにより特に702S3は激変した性能を持つことになった。音像を明確に描き、トランジェントに優れSN比が高い。サウンドのコントラストの高い表現で音はくっきりと表現される。音場は澄みきり低音のダンピングを強化、分解力の高い性能が得られている。解像度やフォーカスがシャープになり、明確な音像を形成して大変精度が高く、リファレンス・スピーカーのような性能を備えている。したがって、曖昧に楽しませる要素はなく、サウンドの正確さを追求するマニア向きのスピーカーといえる。
山之内 正 / 800シリーズを連想させる空間表現
フロア型の702S3 Signatureは楽器の音像だけでなく奏者の身体の動きまで伝えるような実在感のある音像定位を実現しており、しかも小型スピーカーのように広々とした開放感のある音場を再現する。眼前に展開するステージは前後左右の広がりが非常に大きく、その大きな空間のなかに各楽器が立体的に並ぶのだが、上位の800シリーズを連想させるほど、その位置の精度が高い。音場は透明感が高く、音が出る直前の静寂は深みがある。
強弱表現の精妙なグラデーションも800シリーズ譲りで、アイマスクを付けて802D4と並べて聴いたら識別が難しいのではと思わせる。広々とした音場空間を再現する点では705S3 Signatureもまったく遜色ない。このスピーカーは特に後方に広がる余韻の描写が得意で、真後ろだけでなく後方の高い位置にも余韻が浮かび、きれいに減衰していく様子が目に浮かぶ。声と旋律楽器のイメージは細部までピタリとフォーカスが合って周囲へのにじみがなく、3次元の立体的な形を想像させる。
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.194』からの転載です
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)