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有機ELテレビで画質をチェック

4K・HDRで蘇る “不滅のバイブル”。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』UHD BDレビュー

公開日 2025/02/26 06:30 岩井 喬
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不朽の名作、劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか(以下、愛おぼ)』の4K ULTRA HD Blu-ray(4K UHD BD)が発売され、改めてその作品の良さに触れたという方も少なくないだろう。1984年の公開から40年。これまで様々なパッケージメディアで何度も発売されてきた日本アニメ史に残る傑作だ。

今回、35mmマスターフィルムから5Kスキャンを経ての4K・HDR化ということもあり、よりセルの質感が露わになるのではないかと期待して視聴に臨んだ。視聴に当たってはレグザのフラグシップ4K有機ELテレビ「65X9900N」を用意。HDR表現のわかりやすさに加え、有機ELだからこそのアニメと相性の良い鮮やかな発色、アクションシーンでも違和感なく追随する表示速度の早さの点で理想的な描写力を見せてくれるモデルである。

視聴時は “おまかせAI” モードを選択。なお従来の映像を確認すべく『Disney+』で配信されている『愛おぼ』(HD配信)とも比較を実施。4K UHD BDにて、鮮やかに蘇る本作の魅力を深堀りしていきたい。

2025年1月29日に発売された「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)」をチェック!

■ディスクレビュー:「手書きの限界・挑戦」の痕跡が4Kでより露わに。次元の違う画質に圧倒



4K UHD BD版最大の見どころ、大きく進歩した点は “光表現の鮮やかさ” にある。HDRの効果を最大限発揮できることも要因だが、ビーム表現、爆発表現に加え、歌モノとしてのステージ上でのライティング、レーザー光表現といった点は格別の効果を見せてくれる。

(C)1984 BIGWEST

セル画に加え、透過光などの特殊効果を重ねたうえで撮影している、現在とは違う製作手法のアナログ的感触が今回の4K UHD BD版ではよりはっきりと伝わってくるようであり、技術的に大きな進歩を遂げた現在のデジタル・CG全盛のシーンでは到底再現できないような独特な映像となっていることも改めて体感できた。スキャニング技術、その後の補正・AI修正の過程が加わることで、マスターフィルムの持つ情報をより正確に引き出している。

それゆえ、若干ピントが外れているように感じるカットもあるのだが、本作ではそうした点も一つの味と捉えてしまえるほど、フィルム全体から良いものを創り出そうという熱気、あるいは執念が感じられる。

ここからはいくつか具体的なシーンをピックアップし、4K UHD BD版の魅力を紹介していきたい。まず冒頭、タイトルバックからバルキリーの発進シーンからブリッジ内に至るマクロス艦の描写では、全体のヌケ感や発色の良さを実感。宇宙空間の暗がりから光を浴びて徐々に浮き上がるマクロス艦の鮮やかさ、暗闇のノイズの少なさもこれまで見たことのないレベル、コントラストの良さである。

(C)1984 BIGWEST

その後のバルキリーのコクピットから見た宇宙空間の星々の粒の細やかさ、色合いの違いも鮮明で、ここまで星に色がついていたのかと驚かされた。さらにマクロス艦のブリッジ内、コンソールの輪郭のシャープさ、エッジのハイライトがくっきりと描かれるキレ良い描写も新鮮に感じられる。

『Disney+』配信版は暗部のノイズが多く、以前のスキャンの課題であるコマのカクつきも感じられ、キャラクター描写の輪郭も甘い。色味に関しても今回の4K UHD BD版に比べ、淡い印象で、コントラストも甘いようだ。40年という歴史から、“そういうものだ” という諦めもあったが、4K UHD BD版を観てしまうと次元の違いに圧倒されてしまう。

ちなみに4Kリマスターセットに同梱されている2K BDも再生してみたが、色域や明るさの点では4K UHD BD版に及ばないものの、スキャニング精度の向上による画面の安定度、ノイズの少なさ、色味の濃さ、暗部のコントラストの確保など、従来のリマスター版より数段画質が改善されている。4K・HDR環境がない場合でも、今回の最新リマスターによる効果は十分感じてもらえるだろう。

そしてミンメイのライブシーン、「小白竜」を歌うチャプター5にかけてのパートでは、ステージのライティングの鮮やかさだけでなく、空中に浮かぶホログラフィの分離良い描写にも驚く。このホログラフィは一体どうやって描かれているのか、全体がより鮮明となったことで、手書きで表現していることへの感動を一層覚えるところだ。

また閉鎖ブロックで主人公・一条輝とミンメイが二人きりになるチャプター7は、特に暗闇の描写が多く、暗部コントラストが改善したことで、二人の輪郭もより明瞭となってきた。ノイズも大きく減り、ストレスなく画面に集中できることもメリットだ。ミンメイのステージ衣装に仕掛けられたライトホログラフィの発色の良さ、色抜けのない表現も魅力的であった。

(C)1984 BIGWEST

他にもたくさんの見どころはあるのだが、本作最大の見せ場であるチャプター30・展望室からチャプター32の展開は必見だ。決戦の場で歌うことを決意するまでの過程、そのドラマティックな演出を光の強さでより印象的に描き出す。ブリッジ内のステージに立ち、歌うミンメイの柔らかく丁寧な動きもヌケの良く捉え、かわいらしさも何割か増しているように感じる。

歌に乗せた戦闘シーンとのオーバーラップは何度見ても感動的であり、惹き込まれてしまう。情報量の多さと儚げな女性の艶やかさ、繊細さを感じさせる美樹本晴彦氏のキャラクターデザインを丁寧に動かす、劇場版ならではのこだわり。そしておびただしい幾多の誘導ミサイルを躍動的に描く、伝説的な “板野サーカス”、巨大なマクロス艦の動きをダイナミックに描き切った若き日の庵野秀明氏の原画の説得力など、製作陣の描き込みの細やかさ、アクションの緻密さも素晴らしく、今ではここまで濃密な動きの再現は難しいのではないかと思えるほど、終始ため息が出る描写の連続である。

(C)1984 BIGWEST

今回の4K UHD BD版ではより一層、一つ一つのカットが純度良く、色鮮やかに引き立っており、デジタル彩色では味わえない、絵具ならではの温かな色合いをダイレクトに感じ取ることができた。

同梱リーフレットのインタビューでも触れられているが、チャプター35からの本編最後の早瀬未沙とミンメイが見つめあうシーンでは、キラキラした背景の処理に透過光ではなく、セルに直接ラメを塗り、自然な物理的反射でキラキラと輝くさまを演出しているそうで、直接光っているのではない、粒の非常に細やかな柔らかい煌きの解像感、重層的な表現こそ、4K UHD BD版ならではの真骨頂であるといえるだろう。



1982年にTV放送された『超時空要塞マクロス』は、マニア心をくすぐる設定と濃密なドラマが人気を博したことで、当初の予定から放送期間を延長された経緯を持つ。その一方でTVシリーズの製作現場は限界を超える状況だったようで、作画クオリティとしては課題が残るものだった。この時のうっ憤を晴らすかのように、設定やデザインを刷新し、今なお語り継がれる未曾有の傑作として完成したのが『愛おぼ』というわけだ。

現状最も理想的な形で蘇った4K UHD BD版『愛おぼ』の映像美は、当時の熱量、情報量をできる限り損失なく再現するとともに、日本アニメの記念碑としてより鮮明に多くの人の心を捉えてくれる “不滅のバイブル” である。



■製品概要

超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか 4Kリマスターセット(4K ULTRA HD Blu-ray & Blu-ray Disc)
(特装限定版)
品番:BCQA-0020/価格:9,900円(税込)
※予告なく生産を終了する場合あり

【Disc仕様】
<1984年劇場公開時フォーマット>と<2016年完全版フォーマット>の2種を収録
※劇場公開版(116分)と完全版(116分)をメニュー画面で選択可能。
・日本語・英語字幕を初収録
・映像特典:「天使の絵の具」 from「Flash Back 2012」アップコンバートver.

UHD BD:123分(本編116分+特典:7分)
仕様:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・リニアPCM(サラウンド)・リニアPCM(モノラル、一部ステレオ)/HEVC/100G/16:9<2160p UltraHigh Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)

BD:123分(本編116分+特典:7分)
仕様:DTS-HD Master Audio(5.1ch)・リニアPCM(サラウンド)・リニアPCM(モノラル、一部ステレオ)/AVC/50G/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語字幕付(ON・OFF可能)

発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
(C)1984 BIGWEST

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