決め手はAI?『超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか』初の4Kブルーレイ化の裏側に迫る
本アイテムは、1984年公開の劇場映画『超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか』の35mmネガフィルムを使用した最新のフィルムスキャンから4Kリマスターを実施。2012年に発売された初のBlu-rayで制作されたHDリマスターをもとに、画面の粒状感の軽減、カット単位での微調整を加え「オリジナルを尊重した」再リマスターを行った2016年発売のBlu-ray以来のパッケージとして登場する。
2012年盤、2016年盤から技術担当し、今回の2025年盤も4Kリマスタリング作業を手掛けたのは、株式会社クープ。本稿では、実際に本アイテムを手掛けた株式会社クープの庄司光裕氏の話を中心に、現状最高峰のフォーマットで発売される「愛おぼ」の完成に伴うエピソードを紹介していきたい。
■色域、解像度、HDR表現。新たなメディアで生まれ変わる「愛おぼ」に迫る
1984年に公開された『超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか』は、監督の河森正治氏、キャラクターデザインの美樹本晴彦氏を始め、作画監督に板野一郎氏、原画に庵野秀明氏、結城信輝氏などなど、今なお業界を牽引するクリエイターたちが20代の若かりし日に作り上げた、日本のアニメーション史に燦然と輝く作品の一つだ。高い作品評価を裏付けるように、VHS、DVD、Blu-rayはいうまでもなく、ベータマックス、LD、VHDなどのフォーマットでもパッケージ化されてきた。この度発売される4K UHD盤についても「いつか出る」と思っていたファンも少なくないだろう。
4K(3840×2160)の高解像度、HDRによる高輝度表示、BT.2020の広色域再現を備える4K UHD化はまさにファン待望といったところだが、制作のうえでどのようなプロセスが踏まれたのか──。
まず、映像の大元となる35mmネガからのフィルムスキャン工程はクープの所有するデジタルスキャン機材「Scan Station」を使用した5Kスキャニングにて行われている。フィルムスキャンを用いたマスターの制作については、2012年/2016年盤でも4Kスキャンで行われたが、2012年盤から数えて12年もの期間でスキャン技術は大幅に向上している。
例えば2012年盤はスキャンこそ4Kで行われたものの、編集作業ではBlu-rayへの収録にあわせて2Kにダウンコンバートされていた。今回の4K UHD盤では編集作業も4K環境にて行われているため、ゴミ取り、パラ消しの段でさらなる追い込みを実現し、画面の鮮明化に一役買っている。
また、庄司氏によるとスキャン機材の刷新による解像度の向上のほか、2012年盤のスキャン機材ではフィルムスキャン時の “揺れ” が取り切れず、編集作業で都度補正を掛けていたという。今回の4K UHD制作で使用した「Scan Station」ではスキャンに伴う揺れは一切なく、画面の揺れは作劇上の演出のみに留まるそうだ。
広色域や、HDRフォーマットによる輝度表現などBlu-rayと比較して表現の幅が拡がる4K UHDであるが、色味の “方向性” は「2012年のHDマスターを元に作りたい」というコンセプトのもと作業を進めたとのこと。上記の通りスキャン素材の高精細化、大きな記録容量を誇る4K UHDの採用などで、方向性こそ過去の盤を踏まえてもその見え方は大きく変わる。
実際に「色味に関しては2012年盤と全く一緒にすることも可能だった」と庄司氏は振り返るも、2KのBlu-rayよりも高画素、広色域の4K HDRで調整した色を河森監督にチェックしてもらったところ「やっぱり綺麗だよね」と好反応。この反応を受けて4K UHDのメディア特性を活かす形でカラーコレクションを行ったとのことだ。
色味の方向性こそ2012年盤を踏襲しているものの、実作業においては試行錯誤を繰り返して調整を行ったと庄司氏。これまでも河森監督の作品に携わっていたことから、今回の「愛おぼ4K UHD」についても一任されていたといい、「『愛・おぼえていますか』から40年が経った今なお、クリエイターとして新作を生み出す “今の” 河森監督の画に対する最適解を出せました」と自信を見せる。
また、河森監督は今回の4K UHDで「暗い部分に描かれた作画表現がしっかり見える」と、これまでのメディアでは描き出せなかった明暗のコントラスト差を高く評価していたとのこと。取材で一部シーンを拝見させてもらったが、暗い宇宙空間からSDF-1マクロスが登場する本作のタイトルバックを始め、4K UHDの威力を存分に感じられた。
「暗部を持ち上げれば書き込まれた作画をもっと浮き立たせることもできるが、そうすると全体的に画が白けてしまうので、ギリギリ見える部分を潰さないように追い込んだ」と庄司氏の談。ここまで画を追い込めたのは4K UHDという媒体ならではで、Blu-rayで発売された2012年盤では暗部に書き込まれた作画を見せるためにシーンを明るくする必要があったが、演出意図的には暗くしたい、しかし暗くすると作画が潰れてしまう……といったせめぎ合いもあったのだそうだ。
ビームや爆発といった透過光表現でも4K UHDの特徴、HDR化の恩恵を多分に発揮している。こういったエフェクト表現は、カラーマネージメントの段階で際限なく輝度を上げることもできるとのことだが「ずっと派手に光っていると目が疲れてしまう」として、様々なタイトルをHDR化してきた知見に基づいて、上映尺でも疲れないくらいの塩梅で派手さを模索したと語る。また、同梱のBlu-rayに落とし込む際にも透過光表現については充分留意しながら作業を行ったという。
4Kリマスターにおける画作りに関して、作業にも携わるバンダイナムコフィルムワークスの関根美里氏は「マクロス艦内のバーラウンジでの一幕」という具体例を挙げながら、作画のディテールがシーンの暗さで潰れることなくしっかり見える点を高く評価。社内のマスター担当者と一緒に驚いたという。「2016年盤だと若干潰れてしまっているところもあったのですが、今回は(キャラクターが) “ちゃんとそこに居る” とわかるのがすごいです」
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