モニター・オーディオ各シリーズのレポートも今回が最終回。最後を飾るに相応しい圧倒的な存在感を誇る「Gold Signature」を紹介することにしよう。ブックシェルフの「10」、トールボーイの「20」「60」の各製品だ。

Gold Signature Seriesの概要

ゴールド・シグネチャーは、ゴールド・リファレンスに代わるモニター・オーディオの新しいフラグシップである。ユニットからキャビネット、脚部に至るまで全てを一新し、厳格・緻密に追い込むことで確実に一段違う次元に到達したといっていい。アルミ・マグネシウム合金にセラミック・コーティングを施したC-CAM振動板が、ユニットの基本であることはこれまでどおり。表面のディンプルも踏襲されているが、100を越すそれを外周部からスパイラル状に配列し、歪みとブレークアップをいっそう改善したのが目につく。またトゥイーターは43kHzまでのレスポンスを獲得している。ユニット・シャーシはアルミと亜鉛ダイキャストの組み合わせで共振を排除。キャビネットは伝統的なスタイルを貫きながらブレーシングによって内部を厳重に補強している。そして新設計の金属フィートとスパイクでアイソレーションの強化も図った。ともかく考えられる可能なことは全てやったという印象である。

[GS60/¥682,500(ペア・税込)] 
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●形式:2.5ウェイ・フロア型(防磁)フロント&リアポート・バスレフ ●ユニット:165mmウーファー×2、165mmウーファー/ミッドレンジ×1、25mmトゥイーター×1 ●周波数特性:28Hz〜43kHz ●外形寸法・質量:206W×1060H×330Dmm・27.1kg
[GS20/¥441,000(ペア・税込)] 
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●形式:2.5ウェイ・フロア型(防磁)フロント&リアポート・バスレフ ●ユニット:165mmウーファー×1、165mmウーファー/ミッドレンジ×1、25mmトゥイーター×1 ●周波数特性:32Hz〜43kHz ●外形寸法・質量:206W×924H×250Dmm・20.6kg
[GS10/¥252,000(ペア・税込)] 
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●形式:2ウェイ・ブックシェルフ型(防磁)リアポート・バスレフ ●ユニット:165mmウーファー/ミッドレンジ×1、25mmトゥイーター×1 ●周波数特性:40Hz〜43kHz ●外形寸法・質量:206W×360H×270Dmm・8.5kg
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良い予感を裏切らなかった 素晴らしい再生音に感服

シルバー・リファレンス(RS)シリーズの出来からして期待はしていたが、まさかこれほどの仕上がりになっているとは予想していなかった。素晴らしいという一語に尽きる。それは最初にGS10が鳴った瞬間に明らかだった。

とにかくスカッと鳴る。6.5インチ・ウーファーの2ウェイ・ブックシェルフにしては異例ともいえるほど豊かな低音に支えられて、悠々とレンジの伸びたレスポンスには少しも濁りがなく透明そのものだが、引っかかりというものがどこにも感じられない。どこまでもスムーズだ。ジャズ・トリオのバスドラムがドスドスと飛んでくるし、シンバルもいいようにパシパシとしているが、不思議に耳を刺すものがない。ピアノも音数が多く、表情がいつもの倍ぐらいに感じられる。それにベースの弾みのいいこと、そしてその明快なこと。どの音にも実在感が濃く、ものすごく細かなニュアンスを伴っていながら、それをあっさりと描き尽くしてしまう。ボーイソプラノもピアノ・ソロもオーケストラも、ブックシェルフという感触は全くない。マーカス・ミラーのベースにいたっては、こんな強靭ではっきりした低音を出し得た小型スピーカーは過去に例がないのではないかとさえ思えるのだ。

43kHzまでのレスポンスを獲得したシリーズ共通のトゥイーター

GS10の背面端子部。バイワイヤリングに対応
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どこにも無理がかからず、伸び伸びとして思うがままに鳴っている。動きが速く位相はぴったりだ。このGS10にウーファーを追加し、2.5ウェイとしたのがGR20である。やや小振りのフロア型。音もちょうどGS10を下の方へ掘り下げた印象である。

このウーファーがまた速い。バスドラムを聴くと、その低い音が一回り太く鋭くなっているのを感じる。また高域にも緻密さが増して、音全体が濃密になっている。ボーイソプラノのシャープなハイトーンが硬さを抑えながらもきりっとした質感を保ち、余韻の伸びやかさがいっそう鮮やかだ。ピアノのソロもタッチの響きが空間全体と溶け合って、目の前にステージが現れたような感触である。GS10がそのサイズの中で破綻なくまとまっているのに対し、GS20ではもっと再現性の厳しさを追及した趣がある。それだけ精密であり、また微妙なバランスの上に成り立っているのがわかる。

 

競合相手を全てなぎ倒してしまいそうな大変な製品

GS60はダブルウーファーによる3ウェイである。これまでのところで大体見当はつくが、それでもこれは想像以上だ。まず低音がものすごい。トリオのバスドラムやマーカス・ミラーのベースが大口径ウーファーでもめったに出ないほどの爆風のような低音を炸裂させるが、本当に不思議なのは低音という気がしないことである。他の2機種にも共通することだが、出方が軽い。風のように軽くふわっと来るのに、聴こえたときにはずっしりとした重さを感じさせる。よくある大型スピーカーのドンとした粘りのようなものがない。そしてこれが本物の低音なのである。こんな低音が出るスピーカーは38cmウーファーによる超大型モデルのほか2、3種しか知らないが、それに匹敵するものをこの製品は身に着けてしまっているようである。

高域も軽く潤いに満ちている。コーラスや弦楽器は、羽のように軽やかな響きにいつも包まれている。それで音が薄いかというとそうではなく、基本音の帯域は緻密な質感に富んでいる。その厚みがそのまま高域の果てまで続いている印象だ。軽く厚い。そしてつながりはいたって良好だ。それには位相の揃い方が精密なのも関係しているが、このため音のひとつひとつが明快でにじまない。必然的に音像がくっきりとして、フォーカスの明晰な再現が実現する。

ウーファー/ミッドレンジユニット

GS60のウーファーユニット。165mm口径を2発搭載する
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どうも大変なスピーカーが出現したものである。同じサイズ同じコンセプトのコンペティターを、端からなぎ倒してしまいそうだ。それは他のモデルにもいえることで、モニター・オーディオとしても会心の作といえるのではないか。このシリーズは同社過去30年の頂点に立つ。その位置づけに相応しい傑作の誕生である。

取材・文/井上千岳(Chitake Inoue)

PROFILE:慶應大学法学部・大学院修了。神奈川県葉山町に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。海外のオーディオショウ・イベントへも毎年精力的に足を運びながら、海外ブランドのキーパーソンへのインタビューも数多くこなす国際派。ワールドワイドなハイエンドオーディオ事情にも精通する。

Monitor Audio製品に関する問い合わせ:
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