ネット環境変化で音楽配信も変わる
「ハイレゾダウンロード」と「定額ストリーミング」 − 音楽配信に“真逆”の二大潮流
■Qriocityの「48kbps」の意味
Qriocityについては、楽曲データが48kbpsのHE-AAC(Ver1.9)と、かなり低ビットレートに抑えられていることも指摘しておきたい。
理由は色々と考えられるが、一つには定額制サービスであるため、ソフトメーカーとの収益配分のバランスから、あまり高音質のデータをばらまきづらいという事情があるだろう。
もう一つ、48kbpsというビットレートは、WANでの利用を念頭に置いている可能性が高い。
真偽のほどは不明だが、次期PSPに3G通信機能が備わるという噂があるし、ソニーが今後発売する予定のタブレットにも、3Gか4Gかはともかく、何らかのWAN接続機能が用意されるだろう。これらの機器も、当然Qriocityに対応してくるはずだ。
ちなみにVOD版のQriocityでは、ネットワークの接続速度に応じて自動的に最適なビットレートを選ぶ仕組みが備わっている。ただしこれが可能なのは、VOD版Qriocityが作品単位で課金しているためだ。
定額制で、楽曲単位の売上をもとに収益配分を行うわけではない音楽配信版Qriocityでは「Wi-Fi環境では高音質、3G環境では低音質」といったサービスを展開するのは難しい。収益配分の計算の煩雑さ、そもそもの契約条件で折り合いを付ける難しさなどを考えたら、ビットレートは一種類に揃えたい。そうなると必然的に、ビットレートを3G回線でも安定して再生でき、キャリアの回線負担も抑えられる低いレベルに揃えざるを得ない。
ソニーとしても、いくら定額で聴き放題とは言え、家庭内での利用に限定すれば、48kbpsの音楽配信サービスが強い競争力を持つとは考えていないはずだ。インターネットラジオでも、結構高音質なサービスはいくらでもある。
事実、Napsterは同じような定額制の聴き放題サービスを行い、ビットレートはQriocityよりも高かったが、iTunesを脅かす存在にはなれなかった。
ただし家の外へ出たら、定額制+ストリーミングというスタイルの利便性は大きく高まる。ポータブルデバイス単体で、ネットにさえ接続できれば、外出先のどこでも膨大なライブラリにアクセスできるメリットは大きい。多少音質が悪くても、それを補うだけの魅力があると考える人は多いだろう。
家庭内で高音質な楽曲を楽しむのはダウンロードで、外出先で手軽に大量の楽曲へアクセスするのはストリーミングで。今後、そういった棲み分けが進む可能性は大いにある。
■注目されるアップルの次の一手
見てきたように、ダウンロードとストリーミングには、それぞれメリットとデメリットがある。
それぞれの特徴を先鋭化させた結果、現在のQriocityとハイレゾ音楽ダウンロードサービスのように、まったく別の方向性へ二極化したというのは興味深い。もちろん、この二つのベクトルのサービスは相互補完関係にあり、今のところ対立するものではない。
欲を言えば、一つの事業者が両方を展開すれば、さらに面白くなりそうだ。より利便性が向上するし、定額制課金と楽曲単位の課金を組み合わせて幅広いニーズに応えることで、収益性も高まるのではないかと思うのだが。
本日、KDDIが音楽ストリーミングサービス「LISMO WAVE」を主にAndroidスマートフォン向けに開始した。AV/IT機器のネットワーク機能強化やネット環境の整備は、今後も急ピッチで進むはずで、それにあわせて、ストリーミング型を中心にして今後も新サービスの展開が加速するのではないか。
一方でアップルがストリーミング型の音楽配信サービスに乗り出すという噂は根強くあるし、Googleの音楽配信サービス開始もかねてから囁かれている。
いまはアップルが覇権を握る音楽配信サービスだが、ネットワーク環境の高度化を背景に、もう一度、競争環境がシャッフルされる可能性は十分ありそうだ。