山崎さん特別インタビューも有り
山崎まさよし初ハイレゾ・ライブ録音『LIVE SEED FOLKS Special in 葛飾』誕生の舞台裏
山崎まさよしさんインタビュー
「ハコの良さや響き、そのなかでのアンサンブルの良さを聴いてほしい」
「“ハイレゾ”という言葉は最近耳にするようになりましたが、自分ではまだ聴いたことがないんです」という山崎さんに、ステージリハーサル終了後ライブが始まるまでの慌ただしい合間を縫って特別にお話しをうかがうことができた。「僕の仕事は曲を作ってアレンジして演奏して…までなので、それを流通するかたちにするのはエンジニアさんの担当」と断りつつ、“音”に対する考えや、今回のライブについて語ってくれた。
「今まで決してCDを悪い音だと思ったことはないですよ。そもそも何が“いい音”かというのは曖昧なもので、個人の好みによるところもあると思いますから。ただ、生音とCDはやっぱり違います。耳で聞こえる以外に身体で感じている振動なんかもあると思いますし。“スピーカーから出てくる音”と、“楽器を演奏している音”は全く別物だなと」
“スピーカーから出てくる音”を信頼する鈴さんやTASCAMメンバーに委ねる分、その大元となる部分 − 演奏する楽器の音やハコの響きにはこだわりをもって音楽を作り上げる。
「今回のライブは、せっかくこういうクラシックのホールに来てもらうので、PAは通すんですけどハコの良さや響き、そのなかでのアンサンブルの良さというのを聴いてほしいなと思っています。実際ステージリハーサルをやってみて、ハコの響きが気持ちよかったですね。返ってくるものがあるというか。スタジオとはやっぱり感じが違う。今回の編成はギター以外は単音の楽器の重なりなので、細かいところまでお客さんに聞こえるんじゃないかなと思います。まあその分、失敗したら分かるというね…(笑)。昨今いろいろな音楽があったりしますけど、歌の部分がこう、淀みなく伝わればいいなと。歌の持っている力や響きを味わいながらやっていけたらと思っています。今回のライブの音源が“ハイレゾ”で配信されることで、お客さんに良い音で楽しんでもらえる選択肢ができるならば、それは願ってもない、ありがたいことだなと思います」
当日のセットリストは新旧織り交ぜた名曲揃いの19タイトル。6月14日公開の映画『春を背負って』の主題歌『心の手紙』も披露された。非常に印象的だったのは、山崎さんから生み出される音楽の力。歌、そしてギター(ときどきピアノ)と弦楽カルテットだけでこんなに彩りさまざまな音楽ができるのだなあとため息の出るような思いだった。1,318の客席に対して、ステージ上にいるのはたった5人。なのに、会場全体が音で満たされ、音楽の世界に取り込まれる。この感覚は、クラシック向けの音楽ホールならではの豊かな音の響きも後押ししてくれたのではないだろうか。個人的に「One more time,One more chance」はステージ上の山崎さんが自分のすぐ近くに向き合って歌ってくれているような感じがして、思わず涙ぐんでしまった。
実はライブの日に山崎さんが蒔いていた“音楽の種”が胸のなかに根付いてしまい、以来一日のどこかで必ず、これまでのアルバムのどれかの曲を聴いている。このレポートを書いている時点ではまだ『LIVE SEED FOLKS Special in 葛飾』を試聴できていないのだが、あの日ホールのなかに満ちていた空気にまた身をひたすために、ハイレゾ版をきっと買ってしまうだろうなと思っている。
◇Photo:(山崎さん)…岩佐篤樹/(山崎さん以外)…大原朋美(彩虹舎)◇構成:ファイル・ウェブ編集部 小澤麻実