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技術的な背景やAV機器への影響を海上忍が解説

Googleの高速プロトコル「QUIC」はAV機器にも変革をもたらす

公開日 2015/04/23 11:10 海上忍
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2013年から実証実験が続けられてきた、Googleが開発する高速プロトコル「QUIC」が、いよいよ実用化に向け動き出す。PCやスマートフォンはもちろん、AV機器とも大いに関係がある存在だ。そのQUICの技術的な背景と、具体的にはどのような影響があるかについて解説してみよう。

■「QUIC」が登場した背景

QUICについて説明する前に、Googleという企業について少し説明しておきたい。

Googleは営利企業であり、収益を追求する。その事業分野は増加しているが、主要収入源は一貫して広告であり、創業以来変わらない。2014年第4四半期の売上181億ドルの内訳を見ても、Googleサイト(自社運営の検索サイト)からの売上が124億3千万ドル、Googleネットワーク(AdSenseプログラムを通じたパートナーサイト)からの売上が37億2千万ドルと、広告関連が全体の9割近くを占める。

検索エンジンが生み出す広告関連の売上を維持し、さらに押し上げるためにGoogleが重視しているのは「効率化」だ。効率化といっても、販管費などのコストを削減するのではない。WEBブラウザのデフォルト検索エンジンに採用してもらうよう働きかけたり、音声認識のような新しいUIを開発したりといった"間口を広げる"取り組みと、検索エンジンの性能を高めたりデータ流量を減らしたりという"回転率を高める"工夫がそれに該当する。より多くのユーザに多くの検索をしてもらうことが、GoogleサイトおよびGoogleネットワークの利用率向上に寄与するからだ。

Googleが開発した高速プロトコル「QUIC」も、その文脈で理解できる。サーバとクライアント間でやり取りする回数を減らし、WEBページの読み込みやバッファリングを効率化することで、通信に要する時間を短縮し"回転率を高める"のが狙いということだ。

単純に、WEBの新技術という解釈もできる。WEBの技術動向におけるGoogleの存在感と貢献度は大きく、バイナリフォーマットの採用と多重化により通信を高速化するプロトコル「SPDY(スピーディー)」はHTTP/2のベースとなり、JPEGに代替しうる高圧縮率静止画フォーマット「WebP(ウェッピー)」もある。Googleだけでなくエンドユーザ、ひいては社会の利益にもなる新技術というところがポイントだ。

QUICの概念図(Google公式ブログより)

QUICは、ストリーミングやゲームなどに利用されているプロトコル「UDP」をベースとするが、同じではない。そのレイヤー上でTCPおよびTLS(Transport Layer Security、TCP/IPネットワーク上でセキュアな通信を行うためのプロトコル)相当の機能を実現する、UDPとTCPの"いいとこ取り"をした新しいプロトコル、という理解が妥当といえる。

UDPは軽量/低遅延でありVoIPのような即時性が求められる処理に向くが、TCPと比べてエラー訂正機構に乏しく信頼性は低い。しかしTCPを改良して高速化を図ろうとすると、サポートが終了された旧型OSや家電に搭載されるOSなどGoogleの手が届かない部分が多く、現実的とはいえない。そこでGoogleが選んだのが、UDPの上に独自の信頼性あるレイヤーとしてQUICを用意し、その上でSPDYを実現する方法だ(いわば「SPDY over QUIC over UDP」、HTTP/2が標準化されればSPDYの部分はHTTP/2に置き換わるはず)。

Chromeを利用している場合、「chrome://flags」の画面からQUICを有効化できる

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