改めて注目を集める理由とは
なぜ、いま「アナログレコード」なのか? “古くて新しい”スタイルが人を惹きつける
幅広い世代の音楽ファンをそこまで惹きつけるアナログレコードの魅力はどこにあるのだろう。レコードを買う音楽ファンが多様化しているように、魅力をひとつにまとめるのは難しそうなので、思いつく要素をいくつか挙げてみることにしよう。
■アナログレコードならではの「音」の魅力
まず注目すべきは、音そのものの魅力だ。若い世代の音楽ファンがレコードに惹かれるのは、デジタル化され、圧縮された音源で育った耳にアナログの音が新鮮に響くからにほかならない。録音時の変換プロセスが少なく、再生時の信号処理も最小限のアナログ盤は音にダイレクト感があり、ミュージシャンとの距離が近く感じることが多い。デジタル音源はたしかにノイズは少ないが、音が整理されすぎて面白みがないという不満も聞く。絶対的な情報量はデジタルの方が多くても、アナログレコードの音楽的な浸透力と伝播力の強さはけっして侮れないのだ。
一度体験したレコードの音は、強い記憶となって耳に刻まれる。私が小学生のとき初めて自分の小遣いで買ったカラヤンの「第九」は、いまも鮮明な音で頭のなかに蘇る。そこまで鮮烈な体験はデジタルではなかなか出会えない。
■手間を掛けて自分で「音を出す」感覚
聴き手が自分の手を動かして操作し、音を出す感覚にもレコードならではの魅力がひそんでいる。携帯音楽プレーヤーやパソコンで音楽を聴くスタイルは手軽で便利だが、自分で「音を出す」感覚は希薄で、演奏者との距離もなんとなく遠く感じてしまう。一方のアナログ盤は素材感や手作り感にあふれ、再生に手間をかけるほど肉声の生々しさやライヴの臨場感が浮かび上がってくる。アナログ再生の手間や苦労を知っている世代はCDの手軽さに感動したが、コンビニエントな環境で育った世代には、手間がかかる操作がかえって新鮮で、実体感のある「モノ」の魅力が伝わりやすいのかもしれない。
■音楽を「視覚」でも楽しめる
レコードは、デジタルメディアに比べて「音楽が目に見える」要素が多く、視覚で楽しむ余地が大きいことにも注目したい。盤に刻まれた音溝は音の振幅そのものが形になっていて、文字通り振動が目に見えるし、その気になれば針の微妙な動きを目で追うこともできる。
さらに、人が音楽を聴いている光景として、ライヴを除けば、他のどのメディアよりも「絵になる」のがレコードというメディアの特徴で、再生機器についてもスピーカーやヘッドフォンよりレコードプレーヤーの方が、音楽を聴く行為を強く実感させる。ジャケットのデザイン的な価値についてはあらためて指摘するまでもないだろう。
レコードが音楽メディアの中心だった時代はそんなことを誰も意識しなかったが、利便性が高くパーソナル化が進んだ現代では、そこに価値を見出すのはなんら不思議ではない。家庭で音楽を聴くことの価値を再発見したい人には、レコード再生を通してそれを実現することをお薦めする。
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