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連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー

GIGA MUSIC独占先行配信!アン・ルイスのセルフカバー・ベスト「me-mySELF-ann-i “refreshed” 」を聴く

公開日 2016/06/09 11:47 大橋伸太郎
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代表曲をセルフカバーした2004年の新録がハイレゾで登場
アン・ルイスの歌手としての本能を聴き取れる


日本の歌謡曲レガシーをハイレゾ化しダウンロード配信している「GIGA MUSIC」(運営:フェイスワンダーワークス)のカタログに、アン・ルイスが加わった。今回ハイレゾ化され配信が始まるアルバムは、『me-mySELF-ann-i “refreshed” 〜ミー・マイセルフ・アンアイ・リフレッシュド』。アン・ルイスがロック歌謡に転じた後の代表曲11曲が網羅されているがベスト盤でなく、全て新編曲を与えられた2004年の新録だ。

そのため、ハイレゾ化にあたり、2015年にDENONレーベルがインバル/フランクフルト放送交響楽団等の旧録に採用して高い評価を得た「ORTマスタリング(Overtone Reconstruction Technology)」が採用された。つまり単なるCD44.1kHz/16bit→ハイレゾ96kHz/24bitのオーバーサンプリング、ビット拡張ではなく、64bit処理をはじめ最新のデジタル技術を駆使したリマスターだ。

結論を言うと音質の向上はめざましい。全曲に共通しているのは、ORTマスタリングで音場の見通しが開け演奏に立体感と広がりが生まれたこと。帯域の拡張も印象的。元々デジタル多重録音だが、楽器一つ一つの音の鮮度と克明さでハイレゾは歴然たる差だ。

最も分かりやすい例がトラック4「美人薄命」のエレキベースの描写だ。CDも量感は出ているが音場に埋没しているのに対しハイレゾはずっしりした重低音を従えプレーヤーの指使いも生々しく音場から浮かび上がり生命を得てのたうつ。全曲通じて定位が安定、広がりのある音場にアンのボーカルが存在感豊かにゆるぎなくセンター定位するのもハイレゾだ。

解像度が向上した分、往年の美声の衰えが隠せない。ボイスイコライズしたトラックも多い。トラック1を1979年のオリジナルと比べると別人が歌っているようだ。しかし歌が巧くなった分でカバー、つまりフレージングや強弱抑揚、細かい表現をアンが工夫している様子をハイレゾは伝えてくれる。彼女の歌手としての本能をそこに聴き、筆者は胸が熱くなった。アンと親交のあった筆者の隣人、叶 央介氏(元サーカス)が彼女について語った言葉「いつも音楽に前向きな人」が思い出される。全11曲から誰もが聞き覚えのある代表曲を選んで44.1kHzと96kHzを比較してみよう。



トラック1「恋のブギ・ウギ・トレイン」


正調ポップスがフュージョン調アレンジでいっそう軽快洒脱に。CDは楽器の音が曇って音場がいまいちほぐれないが、ハイレゾは音場の澄明度が躍進し左右スピーカーの外へ広がり、ギター始め楽器が前に出る。歌声が鮮明に浮かび上がりバタ臭い曲でもアンが歌うと歌謡曲的なこぶしがあることに気付いてニンマリ。


トラック2「リンダ」


フルアカペラバージョン。リンダはアン・ルイスのミドルネーム。竹内まりやが贈った桑名正博との祝婚歌。短かかった結婚生活の追想をハスキーボイスで歌い上げ感動的。アルバム中、聞き物の一曲。CDはアンの歌声が左右スピーカーに拡散しフォーカス感が悪い。音場が垂直方向に広がらずもどかしい。ハイレゾは左右センターにピントがあったように収束、高さの表現が加わりアンが目の前にすっくと立ち万感の想いを込めて歌う。コーラスに深い重層性と厚みが生まれ歌うアンを全員で抱擁し感動。


トラック3「WOMAN」


アンプラグドバージョン。大ヒットしたヘビーロックバージョンをアンは本当は好きでなかったのかも。セミアコバンド演奏プラス女声コーラスゆえハイレゾはノイズシェーピングの効果がてきめんで、飾らないナチュラルさを狙ったアレンジの意図が伝わる。筆者はこの曲の歌詞が好きだが、ハイレゾはベールをはいだようにボーカルの鮮鋭感が増しアクセントやフレージングが鮮明になりアンの解釈が初吹き込みに比べ円熟し歌と一体になっていることが伝わる。


トラック6「あゝ無情」


ハイレゾでリズム楽器の解像度が上がり新録のエネルギッシュなヘビーロック風アレンジが効果を発揮。エレキベースの粘っこい伸び、タイトに締まったドラムスのビートに乗り歌謡ロック女王の面目躍如。


トラック7「天使よ故郷を見よ」


ギンギンのヘヴィメタルあるいはパンクロック調アレンジ。CDも音の重量感はそれなりに出ているがエネルギーが中音域に集中し平板。ハイレゾは帯域が上がってスケール感が生まれた。解像度の向上もめざましくドラムスの連打がキレを増し明瞭度を上げたベースが躍動しうなりを上げる。


トラック8「六本木心中」


1984年のオリジナルにもWildバージョンがあったが、新アレンジはテンポアップそれを上回るノリノリ。最大のヒット曲だけに水を得た魚のように歌う。ハイレゾの恩恵が最大限発揮され、CDの歪みとノイズが一掃されくっきりクリアで深い立体感のロックサウンド。虚栄の市の「純愛」をテーマにしたこの曲に汚れがあってはいけないのだ。歌詞に込められた本来のメッセージがハイレゾと円熟した歌唱で初めて浮かび上がった。



ハイレゾでアン・ルイスを聴いて、彼女が他の誰もその不在を埋め合わせることの出来ない孤高のディーヴァであることを改めて知った。今年6月5日は彼女の還暦の誕生日。生の歌声が聞けないことを嘆くのはもうやめよう。歌姫は私達に十分過ぎるほどの録音を残したのだから。ハイレゾがみずみずしい息づかいを吹きこんだ〈恩寵の歌声〉に今こそ耳を傾けたい。ハイレゾならアン・ルイスはいまも目の前にいる。美しい笑顔をほころばせて僕らファンをニッコリ見守っている。



<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802 Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」


(企画協力:フェイス・ワンダーワークス)

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