現代の最新技術で再構築した新300B
「300B」はなぜ“真空管の王様”と呼ばれるのか?ウェスタンエレクトリック流の矜持、復刻の舞台裏を探る
■優れた特性を持つ素材を投入、真空度も向上している
今回のオリジナル新300Bにおいて従来のものと大きく異なるのがプレートのコーティング素材である。往年はカーボンを用いていたが、今回はグラフェンを取り入れているという。プレート-フィラメント間の熱放射率や電気伝導率を改善するとともに、プレート自体の素材である純ニッケル合金とグラフェンの第一原子層が結び付くことで、高い真空を維持しつつ寿命に結び付くガスの発生を抑えるという。さらに平均プレート電流も高くなり二次電子放出の影響も大幅に減少しているそうだ。
フィラメントはかつてのウェスタンエレクトリック・ホーソン工場に由来する溶解物から取り出した伝統のある素材だそうで、酸化コーティング剤は海底ケーブル伝送用に開発されたものを最先端の製造工程で施しているという。
そして旧来の300Bに使われていたガラスやハンダなどはかつて鉛を含んでいたが、現在はRoHS指令などに基づいて、環境に配慮した素材を使わなければ国や地域によっては輸出ができない。それゆえ、プレートのコーティング素材を含め、現在入手できる優れた特性を持つ素材を導入しているのである。
ちなみに96〜06年までの再生産時には金メッキピン仕様のものも登場したが、「ウェスタンエレクトリックとしては本来はやりたくなかったが、輸入元の要請で実施した」という事情があったそうだ。他にもガラス管内の真空度に影響するポンプについて、ドライスクロールポンプを補助に用いた最新のターボ分子ポンプによって、極めて高い真空度を達成したとのこと。「優れたPSVANEでも新300Bの真空度にはかなわない」と山崎社長。この真空度の高さは新300Bの大きなメリットとなるだろう。
「実は去年からウェスタンエレクトリックの取り扱いについて話をしていまして、サンプルも来たんです。その最初のサンプルでは、プレートはカーボンコーティングを施した黒いものでした。ただ不具合がありまして、構造上の問題なのか、変に響くのでそれを直すよう進言しました。するとコーティングを変えて見事に直してきたんですね。結果的に良い改良だったと考えています。さすがウェスタンエレクトリックだと」
「PSVANE WE300Bと新300Bを比較すると、少し色気が違うのです。どちらもしなやかなサウンドで良いのですが、新300Bは低域の量、空間性が良い印象です。ただしPSVANEのWE300Bも継続して販売してゆく予定です。単価が違いますし、PSVANEにはPSVANEとしての個性と魅力がありますからね。ウェスタンらしいニュアンスを持ったリーズナブルな選択肢として存在価値があります」
「新300Bとどちらを選ぶのかという楽しみも増えますよね。アンプ製品にはオプションでウェスタンエレクトリックの新300Bに交換できるようにしたいと考えていますが、初めから新300Bを積んだアンプ製品については出す予定はありません」
現在真空管アンプを手掛けるメーカー各社にも新300Bの売り込みを行っているとのこと。販売に関しては量販店やECサイトには卸さず、定価で販売をお願いしているという。「ウェスタンエレクトリックというブランドの価値、プレミアムさを大事にしていきたい」と山崎社長は語る。