【連載】西田宗千佳のネクストゲート 第28回
スマホ対応にWindows 11統合、マイクロソフトが「BingとAI」開発を急ぐわけ
マイクロソフトが、ジェネレーティブAIを組み込んだ検索エンジン「Bing」の活用について、矢継ぎ早に展開を進めている。
チャット検索機能を搭載した「新しいBing」は2月7日に発表されたばかりだが、22日にはスマートフォンアプリへの対応が発表され、さらに28日にはWindows 11への統合も発表された(すべてアメリカ時間)。
スマホやWindowsへのAI統合はどういった意味を持つのか。そしてなぜ、マイクロソフトは展開を急ぐのか。その点を考察してみよう。
考察の前に、スマートフォンやWindows 11の上で「新しいBing」のチャット検索がどのように使えるのかを見ていこう。
まず、シンプルなWindows 11への統合から。Windows 11には、タスクバーに「検索」欄がある。キーワードを入力すれば、PC内のアプリや文書を検索でき、もちろんネット検索にも使える。
今後のWindows 11の大型アップデートでは、この検索欄が「新しいBing」と連携し、Bing AI(チャット検索)になる。つまり検索欄に、キーワードでなく文章で話しかけられるようになるわけだ。技術的には非常にシンプルだが、使い勝手の向上という意味では重要なことだ。
スマホでの対応も似ていて、検索用の「Bing」アプリから呼び出す先が従来のBingではなく「新しいBing」になる。PC以上に影響が大きいのは、「音声による検索」と「音声読みあげによる応答」が可能になる点だろう。
今も音声認識を使った検索はできるが、単語でなく質問の形になれば、もう少し問いかけがしやすくなる。また、検索で出てきた答えを1つ1つ見ていくには「スマホを見ながら使う」必要があるが、AIによって作られた文章が答えになるなら、スマホを見ていなくても、音声を聞くだけで答えがわかる。
スマホ版のBingはそのような使い方を強く意識しており、PCとスマホで同じ質問をした場合でも、音声読み上げに合わせたチューニングが行われている。箇条書きや順番表示が増え、さらに、それを読むときも自然になるように工夫されている。
Bingは検索エンジンであるため、本来はウェブブラウザーを選ばずに使える「べき」サービスである。だが現在は、基本的にマイクロソフト製のブラウザーである「Edge」でのみ使えるようになっている。スマホの場合にはEdgeではなく「Bing検索」を使用する。
他社のブラウザーで使えない理由は複数あるが、表向きの理由は「開発途上」だからだ。
「新しいBing」自体がまだプレビュー版であり、慎重に利用者を拡大している途上である。ウェイティングリストの順に利用者を招待し、利用可能な人数を把握しながら開発が進められている。また、「新しいBing」に最適化した機能を搭載したEdgeは開発中なので、「開発者向けEdge」との組み合わせが必要……という立て付けとなる。
ただもちろん、それだけではなかろう。マイクロソフトとして、これまで望んでもうまくいかなかった「ウェブへの影響力拡大」という狙いは、間違いなく存在する。
PCの場合、購入後いきなりChromeをダウンロードし、それをメインのブラウザーにする人は少なくない。Chromeのシェアが多いのはそのためだ。日本では「OSに入っているブラウザーをそのまま使う」人が多いためか、過去にはInternet Explorer、現在はEdgeのシェアが高いが、そういう国は多くない。
スマホの場合、わざわざスマホに入っているブラウザーを入れ替える人の方が少数派だろう。すなわち、iOSならアップル純正の「Safari」を使うだろうし、Androidなら「Chrome」を使う。OSに組み込まれた検索機能も、基本的にはそれらの「純正ブラウザー」を使うことが前提となっている。
どちらにせよマイクロソフトは、これらの領域で存在感を拡大できていなかった。一方でマイクロソフトは、ジェネレーティブAIを使った検索エンジンを、他の大手IT企業よりも先に実装してきた。このアドバンテージは、なんとしてでも生かしたいところだろう。
ならば、単純にBingが検索エンジンとして使われるだけでなく、EdgeやBing検索アプリも同時にプロモーションしたい……というのはよくわかる(消費者としては面倒な話ではあるが)。
検索エンジンとジェネレーティブAIの関係は微妙な部分がある。Open AIの「ChatGPT」に質問した場合も、まるで検索エンジンのように情報を教えてくれる。だがそれは、ChatGPTが「条件に応じて文章を生成するジェネレーティブAI」として作られたからであり、その際にネットからの情報を大量に学習した結果、検索エンジンのように見えている。
一方、検索エンジンである「新しいBing」は、Open AIの技術をベースにしつつ、検索エンジンとしての特性を重視した独自のものになっている。ベースがジェネレーティブAIであったとしても、Bingが検索エンジンであるということは、「いかにネットから質の良い情報をリストアップできるか」に最終的な答えの質がかかっている。
さらにマイクロソフトは、「Microsoft 365」や「Microsoft Teams」といったプロダクティビティツールも持っている。それらとOpen AIの技術も連携も控えているだろう。
現状、検索エンジンとジェネレーティブAIはイコールではない。だが、マイクロソフトでモダンライフ/サーチ/デバイス部門担当バイスプレジデントを務め、Bingの責任者でもあるユスフ・メディ氏は、筆者の質問に次のように答えている。
「確かに、両者は現状別れている。しかし、最終的には1つの存在になるだろう。マイクロソフトがジェネレーティブAIを『副操縦士(Co-Pilot)』と呼ぶのは、1つになったAIが、生活のさまざまな部分を助けてくれるようになる、と考えているからだ」
すなわち、検索へのAI活用で先を行き、次には自社の強いプロダクティビティの分野に広げ、双方をうまく統合していくことで差別化したい、ということなのだろう。
ジェネレーティブAIを使ったサービスは、おそらく今年は大量に出てくる。動きの早いスタートアップがライバルとなるので、マイクロソフトとしても「とにかく早く」施策を出していく必要がある。そう考えると、このところの矢継ぎ早な施策は必然、ということになるのだ。
チャット検索機能を搭載した「新しいBing」は2月7日に発表されたばかりだが、22日にはスマートフォンアプリへの対応が発表され、さらに28日にはWindows 11への統合も発表された(すべてアメリカ時間)。
スマホやWindowsへのAI統合はどういった意味を持つのか。そしてなぜ、マイクロソフトは展開を急ぐのか。その点を考察してみよう。
■Windows 11とスマホにも「新しいBing」
考察の前に、スマートフォンやWindows 11の上で「新しいBing」のチャット検索がどのように使えるのかを見ていこう。
まず、シンプルなWindows 11への統合から。Windows 11には、タスクバーに「検索」欄がある。キーワードを入力すれば、PC内のアプリや文書を検索でき、もちろんネット検索にも使える。
今後のWindows 11の大型アップデートでは、この検索欄が「新しいBing」と連携し、Bing AI(チャット検索)になる。つまり検索欄に、キーワードでなく文章で話しかけられるようになるわけだ。技術的には非常にシンプルだが、使い勝手の向上という意味では重要なことだ。
スマホでの対応も似ていて、検索用の「Bing」アプリから呼び出す先が従来のBingではなく「新しいBing」になる。PC以上に影響が大きいのは、「音声による検索」と「音声読みあげによる応答」が可能になる点だろう。
今も音声認識を使った検索はできるが、単語でなく質問の形になれば、もう少し問いかけがしやすくなる。また、検索で出てきた答えを1つ1つ見ていくには「スマホを見ながら使う」必要があるが、AIによって作られた文章が答えになるなら、スマホを見ていなくても、音声を聞くだけで答えがわかる。
スマホ版のBingはそのような使い方を強く意識しており、PCとスマホで同じ質問をした場合でも、音声読み上げに合わせたチューニングが行われている。箇条書きや順番表示が増え、さらに、それを読むときも自然になるように工夫されている。
■なぜチャット検索は「Edge」からしか使えないのか
Bingは検索エンジンであるため、本来はウェブブラウザーを選ばずに使える「べき」サービスである。だが現在は、基本的にマイクロソフト製のブラウザーである「Edge」でのみ使えるようになっている。スマホの場合にはEdgeではなく「Bing検索」を使用する。
他社のブラウザーで使えない理由は複数あるが、表向きの理由は「開発途上」だからだ。
「新しいBing」自体がまだプレビュー版であり、慎重に利用者を拡大している途上である。ウェイティングリストの順に利用者を招待し、利用可能な人数を把握しながら開発が進められている。また、「新しいBing」に最適化した機能を搭載したEdgeは開発中なので、「開発者向けEdge」との組み合わせが必要……という立て付けとなる。
ただもちろん、それだけではなかろう。マイクロソフトとして、これまで望んでもうまくいかなかった「ウェブへの影響力拡大」という狙いは、間違いなく存在する。
PCの場合、購入後いきなりChromeをダウンロードし、それをメインのブラウザーにする人は少なくない。Chromeのシェアが多いのはそのためだ。日本では「OSに入っているブラウザーをそのまま使う」人が多いためか、過去にはInternet Explorer、現在はEdgeのシェアが高いが、そういう国は多くない。
スマホの場合、わざわざスマホに入っているブラウザーを入れ替える人の方が少数派だろう。すなわち、iOSならアップル純正の「Safari」を使うだろうし、Androidなら「Chrome」を使う。OSに組み込まれた検索機能も、基本的にはそれらの「純正ブラウザー」を使うことが前提となっている。
どちらにせよマイクロソフトは、これらの領域で存在感を拡大できていなかった。一方でマイクロソフトは、ジェネレーティブAIを使った検索エンジンを、他の大手IT企業よりも先に実装してきた。このアドバンテージは、なんとしてでも生かしたいところだろう。
ならば、単純にBingが検索エンジンとして使われるだけでなく、EdgeやBing検索アプリも同時にプロモーションしたい……というのはよくわかる(消費者としては面倒な話ではあるが)。
■検索とクリエイティブツール向けでライバルと戦うマイクロソフト
検索エンジンとジェネレーティブAIの関係は微妙な部分がある。Open AIの「ChatGPT」に質問した場合も、まるで検索エンジンのように情報を教えてくれる。だがそれは、ChatGPTが「条件に応じて文章を生成するジェネレーティブAI」として作られたからであり、その際にネットからの情報を大量に学習した結果、検索エンジンのように見えている。
一方、検索エンジンである「新しいBing」は、Open AIの技術をベースにしつつ、検索エンジンとしての特性を重視した独自のものになっている。ベースがジェネレーティブAIであったとしても、Bingが検索エンジンであるということは、「いかにネットから質の良い情報をリストアップできるか」に最終的な答えの質がかかっている。
さらにマイクロソフトは、「Microsoft 365」や「Microsoft Teams」といったプロダクティビティツールも持っている。それらとOpen AIの技術も連携も控えているだろう。
現状、検索エンジンとジェネレーティブAIはイコールではない。だが、マイクロソフトでモダンライフ/サーチ/デバイス部門担当バイスプレジデントを務め、Bingの責任者でもあるユスフ・メディ氏は、筆者の質問に次のように答えている。
「確かに、両者は現状別れている。しかし、最終的には1つの存在になるだろう。マイクロソフトがジェネレーティブAIを『副操縦士(Co-Pilot)』と呼ぶのは、1つになったAIが、生活のさまざまな部分を助けてくれるようになる、と考えているからだ」
すなわち、検索へのAI活用で先を行き、次には自社の強いプロダクティビティの分野に広げ、双方をうまく統合していくことで差別化したい、ということなのだろう。
ジェネレーティブAIを使ったサービスは、おそらく今年は大量に出てくる。動きの早いスタートアップがライバルとなるので、マイクロソフトとしても「とにかく早く」施策を出していく必要がある。そう考えると、このところの矢継ぎ早な施策は必然、ということになるのだ。