評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
ジャーニー、LE SSERAFIM、ブルーノ・マーズ……オーディオ評論家が試聴に使った2024年の曲はこれだ!【Part.3】
土方先生が執筆したレビュー記事はこちら
(Apple Musicの空間オーディオ音源)
今年6月、自宅に7.2.6chのサラウンドシステムを構築した。「サラウンド? え、映画などのヴィジュアルでは」と思われる方がほとんどだと思うが、巷で急速に存在感を上げてきた、いわゆる「空間オーディオ=Dolby Atmos Audio」による音楽再生に対応させたのである。
ということで、おすすめの第1位は、セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。タイタニックのテーマソングがマルチトラックのマスターから新たに専用音源として作り出された。リアルなボーカルがファントムでセンター定位し、フロントからリアにかけてボーカルのリヴァーブが流れながら、視聴者を取り囲むように360度プラス天井からコーラスが響く。圧巻のMIXだ。
(Apple Musicの空間オーディオ音源)
イマーシブオーディオの空間表現は大きく2つに分かれている、ステレオの2チャンネル再生に近い、フロント側に音場を持ってくる“保守派のタイトル、そして視聴者を囲むように360度の水平方向を積極的に使い、フロント、リア、天井まで音を回す、いわゆるインタラクティブ派のタイトルである。そして、実のところK-POPは後者のものが多い。
韓国の5人組ガールズグループLE SSERAFIMの「CRAZY」はオススメだ。複数のエレクトリックシンセサイザーを積極的に空間に配置し、透明感の強いコーラスが時計回りに移動し視聴者を包む。音楽的にも洗練されており、紅白歌合戦にも3年連続で出場しているなど実力もお墨付きだ。
(Apple Musicの空間オーディオ音源)
現在におけるイマーシブオーディオの楽曲は玉石混淆だが、良質なタイトルにはいくつかの共通点がある。まず1つがここ半年ほどにMIXされたもの。次に海外のエンジニアがミックスしたものに印象深いものが多い。ジャンルはK-POP EDM、ヒップホップ、クラシックなどが強い。
エクスペリメンタルソウルバンドWONKとラッパーJinmenusagiがコラボレーションした本楽曲は、イントロから艶かしい女性のコーラスが背後上面から出現。そこに気にとられていると、まるでヘッドホンを聴いているかの如く頭内定位に「ん、うん!」としゃがれた咳払いが出現し、「女子に気を取られているんじゃない!」と嗜められる。この臨場感はイマーシブオーディオじゃないと絶対に体験できない。