評論家は「曲のどんなポイント」を聴いている?
ジャーニー、LE SSERAFIM、ブルーノ・マーズ……オーディオ評論家が試聴に使った2024年の曲はこれだ!【Part.3】
秋山先生が執筆したレビュー記事はこちら
11月27日から1週間ごとに5枚ずつ、計15枚が配信限定リリースされた、「サザンオールスターズ歴代オリジナル・アルバム2024年リマスターver.」を紹介したい。本来は1人3曲までとのことだが、サザン命の私には到底絞り込めるはずもなく、全220曲、総再生時間15時間28分のすべてを推薦させていただく。リリース以来、エンドレスリピート状態なので、これが公私ともに今年一番聴いた曲々になる。
5枚ずつ前・中・後期に分けると、1978〜1982年の前期は、まさに“最新リマスタリング技術万歳!”といった感じで、アナログマスターテープにはこんなにも情報量が詰め込まれていたのかと驚かれること請け合いだ。
デジタルと生音の融合がテーマだった1983〜1990年の中期は、オケより奥に定位していたボーカルの音像が前に出て、ベースやドラムのサウンドも一様に厚みが増している。当時の流行だったタイトな音作りを、マスタリング処理だけでここまで現代的に再構築してしまうなんて、まさにマジック!
デジタル録音全盛期である1992〜2015年の後期は、時代が進めば進むほど、トラックダウンのヘッドルームにも余裕が無いことが予想されたが、全くの杞憂だった。むしろ、聴感上のダイナミックレンジと、視覚的なパースペクティブは拡大していて、少しだけマスタリングをかじったことのある私は感嘆の声を上げてしまった! 配信限定リリースゆえにクレジットされていないが、このマスタリングエンジニアのテクニックには唸らされるばかりだ。
一昨年リリースされた桑田佳祐のベストアルバムも素晴らしかっただけに、今回も期待はしていたが、その仕上がりは私の予想を遥かに超えるものだった。何より、こんなにも一緒に歌いたくなるリマスター盤は初めてだ。これは、日本語の歌詞を“音”として捉える海外のエンジニアではなく、“言葉”として捉える日本人エンジニアの仕事だと確信している。
ファンはオリジナル盤に対しての思い入れが強いばかりに、とかくリマスター盤は批判の的になりがちだが、SNSの反応を見る限り、今回のリマスターは大絶賛で受け入れられているようだ。配信サイトでは2008年ver.との比較も可能。ハイレゾ解禁が見送られたのは残念だが、サザンファンだけでなく、オーディオファンも必聴の、令和の神リマスタリングである。