公開日 2012/06/01 13:53
日東紡音響のルームチューニング材「シルヴァン」ユーザーを訪ねる − パラゴンやGIYAの鳴り方はどう変わった?
「期待以上の効果でした」
“ライブよりもホットなサウンド”を追求する人物、それが今回紹介する宮下千明さんである。宮下さんは横浜の山下公園に面したマンションに“音楽愛好家の部屋”をテーマとしたモデル・ルームを公開(要予約)。ここでは自身が音楽制作やコンサートのPAなどに携わってきた経験を生かし、チューンアップされたヴィンテージスピーカー「JBL パラゴン」を始め、ヴィヴィッド・オーディオの「G1 GIYA」といった最新鋭のシステムなどがセッティングされ、最高の音質で音楽を堪能できる空間が整っている。
そして昨年、同リスニングルームに「シルヴァン」が導入されることとなった。今回は「シルヴァン」を中心として、宮下さんの音質へのこだわりを、日東紡音響エンジニアリングの山下さんとともに、語っていたただいた。
「シルヴァン」導入の効果は「期待以上でした」 |
ーいま宮下さんのパラゴンを聴かせていただきましたが、古いとか新しいとか、そういったことを超越した音楽を心の底から味わえます。素晴らしいチューニングのポイントはどこにあるのでしょうか?
宮下 音の指針を持つことが必要です。私たちはケーブルやアクセサリーなどを駆使していろいろ頑張っていますが、ちょっとまわり道をしてるなと思うのです。音楽的な喜びとか感動を生で充分体験しないで、オーディオという趣味に入ってしまうと、本質が分からなくなってしまう。
山下 生きた音を聴かないでオーディオを始める方々には、ある種のたどり着けない部分があると思います。
宮下 ただし、ライブもいろいろありますからね……。
山下 真剣勝負の演奏の感動をオーディオでも出せる、というのはこれからオーディオを始める方々にぜひ伝えたいところだと思います。
今までにも様々なユーザーさんのお宅へお邪魔し、その様子が記事として掲載されるたびに色々な反応をいただくのですが、そこでいちばん参考になるのは厳しい意見の方です。「なんでルームチューニングが必要なのかわからない」だとか、「自分の部屋はそもそも狭いのであきらめている」「大きな部屋が持てたらルームチューニングをやろう」という意見ですね。しかし私たちの理論はむしろ逆で、障害のあるお部屋だからこそルームチューニングがお役に立てると思っています。
ただ、例えばケーブルなどを換えるのと比べると、ルームチューニングは手間もかかるし、場所もとるし、そのあとの買い替えが大変だし…といったイメージを持たれてしまっているのかもしれません。そういった方々に「そうじゃないんですよ」ということをなんとかして伝えられないかといつも考えていています。
ーそもそも宮下さんはどのような過程を経てシルヴァンに辿りついたのでしょうか?
宮下 パラゴンはステレオ初期の設計で今風のサウンドを満足に聴くにはちょっと無理があります。デザイン優先的なところも多分にあるし設計者はそこまで考えていない。左右から真ん中に音をぶつけて、音場感を引き出す特殊構造なので、音の定位はきれいに出ません。そこで、ヴィンテージでは禁じ手かもしれませんがリアルサウンドラボ社の音響パワーイコライザー「コネック」で位相をデジタル処理、普通のスピーカーと変わらないくらいの定位を造り出しました。
次に最大の欠点である低域の異常なまでのピークを整え全域をほぼフラットにしカンカンボケボケのパラゴンから想像できないクリアな音に生まれ変わりました。
こうなるとだんだん欲が出て、ホールの豊かな臨場感を持たせるために「シルヴァン」を導入することにしました。
効果は期待以上でしたね。構造上モノラル的だったパラゴンの音がきれいに広がり、苦手なはずのクラシックがホール感たっぷりに鳴り響くではありませんか。スピーカーの横巾を遙かに超えるスケールをもってね。これにはビックリです。
元々得意なジャズはもちろんシンフォニー、ピアノソナタまで。ジャンルに得意不得意がなくなり、音楽を聴くのが楽しくなりました。
山下 チューニングにはイコライザーのようなデジタル処理と、「シルヴァン」のようなアナログ的対策という道があると思うのですが、宮下さんはこの使い分けをうまくやられているなあと思います。
宮下 ルームチューニングは“空気”を作ることだと思うのです。イコライザーは劇的効果をもたらしてくれましたが、空気までは無理ですよね、さすがに(笑)。結局ホールで音楽を聴くにしても空気感が伝わってくるじゃないですか。ライブだと観客の反応も伝わってくるわけですし、そういった音だけでなく、会場の雰囲気とのつながりを感じ取りたい、「シルヴァン」はそれを作れるものだと思います。
山下 それはすごくいい表現ですね。開発者の方の意図をふまえて、さらに自分でいいところを伸ばして、ということですね。
宮下 与えられたものを踏まえて、いかに能動的に付き合うのかが大事だと思います。
山下 それこそが、オーディオの楽しさと「いい音で音楽を楽しみたい」という欲求が両方重なる、いい楽しみ方ですよね。
宮下 パラゴンは私にとって、とても手強い難物です。ですので、やれることはなんでもやっています。
山下 パラゴンを使っている方はわりとヴィンテージのアンプを使っている方が多くて、新しいものを入れなくて、システムから何まで全部古いものでやっている方が多いように思います。そんななか、宮下さんの考え方はかなり異質というか斬新ですね。
宮下 いえ、僕も基本的には古いほうの人間ですよ。CDプレーヤーでこそemmラボですが、あとのマランツ7もそうだし、トーレンスの針にしても20年間一回も針交換していなかったりしますから。
乱暴な言い方になりますが、いわゆるハイエンドの音ってちょっと違和感を感じますね。「音が生きてない」部分もあるのではないでしょうか。なんかクールすぎる感じがして。それにみんな腕組みして難しい顔で聴いていたりだとか。そういうところに音楽好きな若い方を連れていっても、「たぶんいい音なんだろうけど自分にはよく分からないし欲しいとも思わない」と言うはずです。
以前、評論家の菅野先生が「入魂の音」という表現をされていて、私はまさにそこを目指しています。音楽を聴いていて、プレーヤーの魂を感じるようなサウンドでないと意味がありません。それが感じられないものは、いくら高くても、いくら立派なシステムでも、全然面白くないのです。
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