公開日 2012/06/11 12:11
【鼎談インタビュー】音のプロ達が語る「防音/調音/遮音」の重要性と導入ポイント
“音のDAIKEN”とインストーラーが対談
■室内の音環境の整備は機材と並んで重要 |
―本日は室内の音環境の整備、音質の向上に対する建築音響的なアプローチについて、音環境の整備に関して造詣の深いインストーラーである関本祥一朗氏と野田怜男氏、大建工業サウンドセンターの井上直人氏にお話しいただきます。まず、室内の音環境の重要性について、お話ししていただきたいと思います。オーディオファンやAVファンは機材を重視がちで、室内環境についてはあまり気にしていない傾向が多分にあると思いますが、いかがでしょうか?
関本 そうですね。頭の中では「遮音」や「調音」を気にしていますが、「後でいいや」と後まわしになってしまっている方が多い気がします。
野田 機材は高価なものにすればするほど音質も上がるというイメージを持っている方も多いかと思いますが、「買ったのはいいけど思い通りに鳴らない」というケースもありますよね。
関本 機材のポテンシャルが活かしきれていないんですね。室内環境は聴き比べがあまりできませんから、イメージしにくいのかもしれませんが、機材と並んで室内環境も音質にとっては重要です。
野田 室内環境に関しては、ベストな指針はありますが、敷地条件や構造など、さまざまな制約のために、現実的に、理想的な状態にはならないケースがありますし…。
■騒音を止めて、静寂でSN比のよい空間を創る |
―今お話に出ましたように、音づくりについては、機材と並んで室内環境が重要です。では、実際に室内環境を整えていく上でどうしていけばよいのか。「音のDAIKEN」で知られる大建工業さんは、〈遮音→吸音→音響コントロール〉という流れを提唱しています。
井上 遮音については「周囲に迷惑をかけない」という観点から、とにかく高遮音性能が必要と思っている方が多いのですが、実はそれほど高い性能が必要でないことが多いのです。その理由はみなさんが実際に出している音量にあります。
私は実際にみなさんが出している音量に対して以前から疑問に思っていました。当社のショールームには、ホームシアター歴の長い方も多く来館されますが、あまり大きな音は出されないのです。雑誌などを見ると「大音量で」と書いてあって、それはどれくらいかというと、文面からすると95dBだとか100dBだとかとんでもない音量だと思われるのですが…。実際にショールームに来た方で「私は凄い音を出しますよ」という方でも、90dBくらい出したら満足される方が多いんです。
それというのも、遮音で部屋の静けさが増しているからです。遮音ができると、人の息づかいまで聴き取れるぐらい静かになるので、SN比が増え、大音量で聴く必要がなくなるからだと思います。
つまり、遮音性能というのは単純に「音を止める」ということだけでなく、「外の音を中に入れない」ことでもあるんです。そうすることで再生する音量も下がりますから、遮音性能もそれほど必要なくなってくるという好循環になります。
ですから、まずはそういう空間を作ってあげないと、必要以上に音量を上げる方向にばかりいってしまいます。遮音というのは他人に迷惑をかけないという観点からだけでなく、音づくりの基本として、やはりある程度はお薦めしたいですね。
関本 新築の方や専用室を作りたい方では、当然遮音や吸音という話が出てきます。音を出していない状況でも部屋に静寂感があると、非常に落ち着きます。会話もしやすいですし。やっと「聴く準備」ができるという状態ですね。そういう意味では遮音/吸音というのは絶対に基本として考えます。お客様から希望が出なかった場合でも私から提案するようにしています。これは、ホームシアターやオーディオルームに限らず、家全体に言えることなんじゃないでしょうか。
野田 まず騒音を止めて、静かな環境をつくる、要するにSN比のよい部屋が重要です。
関本 今の住宅は高気密高断熱なので外からの音はあまり入ってきません。それよりは室内の他の部屋の音を入れないというのが重要ですね。
井上 そうですね。今の住宅は、外の音が入ってきにくくなったけど、屋内の音はよく伝わるようになっているんです。最近の住宅のトレンドにバリアフリーというのがあります。これは段差をなくすことを基本とした家づくりなのですが、そのためにドアの下側の靴づりと呼ばれていた部分をなくしてしまっています。
ところが靴づりがないと隙間が大きくなってしまうので、音漏れが大きくなってしまうのです。ですから、こちらで話している声が、ドアからドアへ廊下を通じて伝わりやすくなってしまいます。また、高気密高断熱住宅は外からの音が入ってこない一方で、中で出した音の逃げ場がないために、中ではワンワン響くことになります。まるで大きな洞窟の中で暮らしているようなイメージになっているのです。
野田 そうなると、今度は吸音が必要になってきます。
関本 特に防音ドアを付けると、どこにも音を逃がさないわけですから。ですので、まず遮音を行い、次に吸音もセットで考えていかなくてはなりません。
―お客様からの遮音に関する要望ではどんなものが多いのでしょうか?
関本 音楽関係の方やオーディオファンの方は分かっている方もいらっしゃるのですが、ほとんどの方は、遮音というと「遮断する」というイメージで「全く聴こえなくなる」と思っているんです。遮音=無音でないことをまず理解していただいて、どのくらいから不満なのかという程度、加減は話していって要望をつかむしかありませんね。
井上 例えば、我々が対談しているこの部屋では空調音が鳴っていますが、こうやって話す分には全く困らないじゃないですか。会話をする部屋であれば、ある程度の音はもれてきてもかまわないわけです。つまり、例えば隣が寝室だったとしたら、寝室として生活するのに邪魔にならない程度の音量になるよう遮音してあげればいいんです。そのあたりを見極めて「じゃあどの程度まで遮音すればいいのか」となってきます。
野田 そうですね。ですから、ヒアリングしながら要望を把握していくのが重要になります。
井上 当社の得意とするところは、「この音量まで下げればいい」ということをしっかり教えていただければ、その要望にあわせて設計してお渡しすることです。例えば音漏れを半分くらいに抑えてと言われれば、30dB前後の遮音設計を致します。ちなみに半分程度に下げるだけであれば、10 畳あったとしても、100万円以内で可能でしょう。
―意外と低コストでできる場合もあるのですね。
野田 そうですね。どの程度の遮音を求めているのかは、ケースバイケースとなりますから…。やはり十分なヒアリングが重要ですね。
関本 お客様からの要望のレベルについては、壁をいじっていいか、ドアを変えていいかなどの程度問題になりますが、やはりとことんまで話を聞いてみないと…。遮音工事は中途半端にやっては効果が得られないことが多く、意味がなくなってしまいます。
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