公開日 2023/09/27 07:30
TVアニメでDolby Atmosを !? 『ダークギャザリング』音響チームが本編とは別の意味でクレイジーホラーだった
“史上初”の試みの狙いをプロデューサー、音響監督らに聞いた
皆さんは『ダークギャザリング』という作品をご存知だろうか。集英社刊『ジャンプSQ』にて連載中の漫画で、7月からは2クールでのアニメの放送がスタートしている“最高にクレイジーな新感覚オカルトホラー”作品だ。
正直に申し上げると、記者はこれまで存じ上げていなかった。しかしアニメ1話の放送が始まった瞬間、耳と目を疑った。テレビアニメとは思えないほど音が良いのだ。そして画面には「5.1chサラウンド」のテロップが踊っていた。
確かに規格上5.1chサラウンドのテレビ放送は可能だが、実際に使っているのはNHKの野球中継や一部番組くらいで、アニメはもちろん、ドラマやバラエティ、映画の放送ですらほとんどお目にかかったことがない。どういうことかと調べてみると、どうやらU-NEXTではDolby Atmos音声で配信しているうえ、放送前にはDolby Atmosでの先行上映会を行なっているらしい。……つまり、5.1chサラウンドどころか、Dolby Atmosで音声を作っている?
ものすごくかいつまんで言うと、一般的なアニメでも使われるステレオが前方2つのスピーカーによる一次元の音声だとしたら、サラウンドはそれを前後方向に広げた二次元の音声、そしてDolby Atmosは、高さ方向にも広げた三次元の音声だ。
音響制作のことについては素人だが、同じ音声を作るにしても、一次元(ステレオ)より三次元(Dolby Atmos)の方が圧倒的に手間も技術も必要であろうことは想像に難くない。それをテレビアニメ、しかも2クール作品で? とても正気とは思えない。最高にクレイジーってそういうこと!?
明らかにヤバい匂いがプンプンするが、それと同時にDolby Atmosの新たな可能性も強く感じさせてくれる。真相を明らかにするため、我々取材班は都内某所、もとい本作の音響制作を行なった(株)qooopへと向かい、ポニーキャニオンの担当プロデューサー・山本京佳さん、音響監督・吉田光平さん、qooopの音響エンジニア・菊地一之さんとの接触に成功したのだった……。
なお、ここから先は本編の内容およびDolby Atmos演出について言及する箇所がある。過度なネタバレはないものの、視聴前に一切の情報を見たくない、Dolby Atmos心霊体験を新鮮に味わいたいという方は留意いただきたい。
■なぜ『ダークギャザリング』は“史上初”Dolby Atmosテレビアニメになった?
ーー本日はありがとうございます。まず確認させていただきたいのですが、『ダークギャザリング』はDolby Atmosで音響を作っている、という認識で間違いないですか?
山本京佳さん(以下、山本):はい、その通りです。
ーーそして規格の都合上、テレビでは5.1chサラウンドにダウンミックスして放送している、というわけですね。
山本:はい。実は当初は「地上波初のDolby Atmos放送」ができないかと思ってオファーをさせていただきまして、送出自体はできるようなのですが、それを受信するテレビ側が対応していない状況なため、皆様が視聴できるマックスのサイズでお届けしよう、ということで5.1chサラウンドになりました。
ーーテレビシリーズのアニメ作品でDolby Atmos音声というのは、少なくとも僕が知る限りでは前代未聞のことです。そんな最先端な取り組みを『ダークギャザリング』という作品で行ったのはなぜですか?
山本:『ダークギャザリング』は幽霊などがモチーフの「ジャパニーズホラー(Jホラー)」系の作品ですが、アニメ業界を見てみるとホラー作品は人間の怖さを描く「サイコホラー」などがメインで、Jホラーはあまりありません。
そういう意味でも尖った作品なわけですが、じゃあ何故Jホラーが少ないかと考えてみると、アニメだと丸っこい、可愛い絵柄になりやすい以上、実写ほどの怖さ、気持ち悪さが出にくいのではないか、と思うんです。そこで怖さを底上げする方法として「音」に着目しました。
当初はバイノーラルのようなかたちで、後ろから霊が囁いてくるような体験がテレビで再現できないかな、などと考えていたのですが、ちょうど同時期に弊社アーティストのofficial髭男dismがApple MusicでDolby Atmosによる空間オーディオ音源の配信をスタートしていたので、この技術をアニメにも落とし込むことができないか、と考えまして。
そんな作品は他になかったので「史上初になったら格好良くない?」などとも思いつつ(笑)、音響監督の吉田さんがミキサー出身で技術的な知見をお持ちということもあり、ヒゲダンの空間オーディオ音源を作っているqooopさんのスタジオと吉田さんのお力があれば実現できるのでは、とオファーしたのが始まりです。
ーー確かに幽霊や妖怪モチーフのアニメは数あれど、Jホラー的な“怖さ”を持った作品は意外と少ないですね。『ダークギャザリング』も絵柄自体は可愛い寄りですし、音響でホラー性を高めよう、というのはすごく有効的なアプローチだと思いました。
……ただ、こういった史上初の試みとなると、それこそポニーキャニオンさんで言えば『東京リベンジャーズ』のようなビッグタイトルで行う方が堅実なように思えます。今回の『ダークギャザリング』は失礼ながらニッチなJホラー作品ということで、正直、上層部を説得するのは大変だったのでは?
山本:それが逆で、むしろすごくスムーズに進みましたね。まずホラージャンル自体がかなり挑戦的だったのですが、弊社には「挑戦的なジャンルに挑むなら普通のことをやってもヒットしないよね」という考えがありまして、かつヒゲダンの空間オーディオが成功したから次はアニメに落とし込む、というのは説得力があったようで、「良いじゃん。やるならとことん突き詰めてよ」と言ってもらえました。
ーー尻込みするどころか、むしろポニーキャニオンさん自体が乗り気だったと。
山本:史上初のことをやるというのはリスキーではありますが、逆に成功したら革新的じゃないですか。ホラーというDolby Atmosと相性が良いであろうジャンルだったこともありますが、チャレンジすることを会社は後押ししてくれました。
ーーヒゲダンの空間オーディオ配信というと2021年8月頃ですね。Apple Musicの空間オーディオ対応が2021年6月だったので、邦楽アーティストの中でもいち早く対応したことに当時驚きましたが、どちらも根幹にはポニーキャニオンさんの攻めの姿勢があったのかなと、自分の中で話がつながった感覚があります。
正直に申し上げると、記者はこれまで存じ上げていなかった。しかしアニメ1話の放送が始まった瞬間、耳と目を疑った。テレビアニメとは思えないほど音が良いのだ。そして画面には「5.1chサラウンド」のテロップが踊っていた。
確かに規格上5.1chサラウンドのテレビ放送は可能だが、実際に使っているのはNHKの野球中継や一部番組くらいで、アニメはもちろん、ドラマやバラエティ、映画の放送ですらほとんどお目にかかったことがない。どういうことかと調べてみると、どうやらU-NEXTではDolby Atmos音声で配信しているうえ、放送前にはDolby Atmosでの先行上映会を行なっているらしい。……つまり、5.1chサラウンドどころか、Dolby Atmosで音声を作っている?
ものすごくかいつまんで言うと、一般的なアニメでも使われるステレオが前方2つのスピーカーによる一次元の音声だとしたら、サラウンドはそれを前後方向に広げた二次元の音声、そしてDolby Atmosは、高さ方向にも広げた三次元の音声だ。
音響制作のことについては素人だが、同じ音声を作るにしても、一次元(ステレオ)より三次元(Dolby Atmos)の方が圧倒的に手間も技術も必要であろうことは想像に難くない。それをテレビアニメ、しかも2クール作品で? とても正気とは思えない。最高にクレイジーってそういうこと!?
明らかにヤバい匂いがプンプンするが、それと同時にDolby Atmosの新たな可能性も強く感じさせてくれる。真相を明らかにするため、我々取材班は都内某所、もとい本作の音響制作を行なった(株)qooopへと向かい、ポニーキャニオンの担当プロデューサー・山本京佳さん、音響監督・吉田光平さん、qooopの音響エンジニア・菊地一之さんとの接触に成功したのだった……。
なお、ここから先は本編の内容およびDolby Atmos演出について言及する箇所がある。過度なネタバレはないものの、視聴前に一切の情報を見たくない、Dolby Atmos心霊体験を新鮮に味わいたいという方は留意いただきたい。
■なぜ『ダークギャザリング』は“史上初”Dolby Atmosテレビアニメになった?
ーー本日はありがとうございます。まず確認させていただきたいのですが、『ダークギャザリング』はDolby Atmosで音響を作っている、という認識で間違いないですか?
山本京佳さん(以下、山本):はい、その通りです。
ーーそして規格の都合上、テレビでは5.1chサラウンドにダウンミックスして放送している、というわけですね。
山本:はい。実は当初は「地上波初のDolby Atmos放送」ができないかと思ってオファーをさせていただきまして、送出自体はできるようなのですが、それを受信するテレビ側が対応していない状況なため、皆様が視聴できるマックスのサイズでお届けしよう、ということで5.1chサラウンドになりました。
ーーテレビシリーズのアニメ作品でDolby Atmos音声というのは、少なくとも僕が知る限りでは前代未聞のことです。そんな最先端な取り組みを『ダークギャザリング』という作品で行ったのはなぜですか?
山本:『ダークギャザリング』は幽霊などがモチーフの「ジャパニーズホラー(Jホラー)」系の作品ですが、アニメ業界を見てみるとホラー作品は人間の怖さを描く「サイコホラー」などがメインで、Jホラーはあまりありません。
そういう意味でも尖った作品なわけですが、じゃあ何故Jホラーが少ないかと考えてみると、アニメだと丸っこい、可愛い絵柄になりやすい以上、実写ほどの怖さ、気持ち悪さが出にくいのではないか、と思うんです。そこで怖さを底上げする方法として「音」に着目しました。
当初はバイノーラルのようなかたちで、後ろから霊が囁いてくるような体験がテレビで再現できないかな、などと考えていたのですが、ちょうど同時期に弊社アーティストのofficial髭男dismがApple MusicでDolby Atmosによる空間オーディオ音源の配信をスタートしていたので、この技術をアニメにも落とし込むことができないか、と考えまして。
そんな作品は他になかったので「史上初になったら格好良くない?」などとも思いつつ(笑)、音響監督の吉田さんがミキサー出身で技術的な知見をお持ちということもあり、ヒゲダンの空間オーディオ音源を作っているqooopさんのスタジオと吉田さんのお力があれば実現できるのでは、とオファーしたのが始まりです。
ーー確かに幽霊や妖怪モチーフのアニメは数あれど、Jホラー的な“怖さ”を持った作品は意外と少ないですね。『ダークギャザリング』も絵柄自体は可愛い寄りですし、音響でホラー性を高めよう、というのはすごく有効的なアプローチだと思いました。
……ただ、こういった史上初の試みとなると、それこそポニーキャニオンさんで言えば『東京リベンジャーズ』のようなビッグタイトルで行う方が堅実なように思えます。今回の『ダークギャザリング』は失礼ながらニッチなJホラー作品ということで、正直、上層部を説得するのは大変だったのでは?
山本:それが逆で、むしろすごくスムーズに進みましたね。まずホラージャンル自体がかなり挑戦的だったのですが、弊社には「挑戦的なジャンルに挑むなら普通のことをやってもヒットしないよね」という考えがありまして、かつヒゲダンの空間オーディオが成功したから次はアニメに落とし込む、というのは説得力があったようで、「良いじゃん。やるならとことん突き詰めてよ」と言ってもらえました。
ーー尻込みするどころか、むしろポニーキャニオンさん自体が乗り気だったと。
山本:史上初のことをやるというのはリスキーではありますが、逆に成功したら革新的じゃないですか。ホラーというDolby Atmosと相性が良いであろうジャンルだったこともありますが、チャレンジすることを会社は後押ししてくれました。
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