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公開日 2007/07/25 11:35

ケンウッド/ビクター統合で「ブランド」「製品ラインナップ」はどう変わるか

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ケンウッドとビクターが経営統合に向かって動き出した(関連ニュース)。現段階で決定している事項としては、ビクターが第三者割り当て増資を行い、ケンウッドと投資ファンドのスパークス・グループが、計350億円を引き受けることと、10月からケンウッドとビクターがカーエレクトロニクス、ホーム/ポータブルオーディオ事業で協業することだけだが、2008年を目標に経営統合を検討することもあわせて発表しており、協業が成功すれば、両社の経営統合が実現に向かって大きく前進する。

経営統合と聞いて、オーディオ/AVファンがまず抱く関心事は、両社のブランドや製品ラインナップが変化するのか、変化するとしたらどう変わるのか、という点だろう。実際、「Phile-webコミュニティ」や一般のブログでも、両社のブランドや製品展開の今後を危惧する声が多かった。そこで、昨日の発表資料や記者説明会での情報をもとに、経営統合後の両社のAV事業について推測してみたい。

●両ブランドは存続する可能性が高い


経営統合は「対等の精神」のもと、共同持ち株会社の設立などの方法を検討している
まず、両社のブランドが今後どうなるのか、という問題について考えてみよう。PC業界などでは、経営統合を機に、「○○○-△△△」といった具合に、2つのブランド名をつなげた新ブランドを制定したり、全く新しい名前のブランド名を作ったりする例もある。KENWOOD、VICTORともに、日本人にはなじみの深く、またオーディオ/AVファンに長年愛され続けているブランドだけに、その行く末は気になるところだが、結論から言えば、KENWOODブランド、Victor/JVCブランドは、現状のまま存続する可能性が非常に高い。今回の発表では、経営統合後の姿として、あくまで一例としてではあるが、共同持ち株会社を設立する案が示されており、それぞれの事業会社が存続する可能性が高いからだ。

また、ケンウッドの河原会長が、再三にわたって「対等の精神での経営統合を目指す」と強調し、双方の独立性を保つ方針を掲げていることもあり、どちらかが片方を呑み込むというシナリオは考えにくい。さらに言えば、両ブランドは世界的な知名度と長い歴史を持っている。特に海外では、両社のブランド力は非常に強い。ビクターが業績低迷傾向にあるとは言え、そのブランド価値が大きく毀損したとは思えない。また、これまでブランドを育てあげてきた年月とコストを考えたら、新ブランドを立ち上げるのも現実的ではないだろう。

デノンとマランツがD&Mホールディングスという持ち株会社のもと、個別の事業展開やブランド戦略を行っているように、ケンウッドとビクターも、それぞれの事業を行いながら、お互いのシナジーを追求していくというスタイルを採用することになるはずだ。

●オーディオ機器で期待される具体的なシナジー効果


両社の業務提携によるシナジー効果
では、共同持ち株会社による経営統合が実際に行われた場合、両社の事業展開はどう変化していくのだろう。今回の発表では、シナジー効果を得るための方策として、ジョイントベンチャー設立による共同開発、共同資材調達、相互製造委託、クロスライセンスなどが挙げられている。本日付の日本経済新聞では、ジョイントベンチャーで「テレビやオーディオ、車載AV機器などを共同開発する」ほか、「ケンウッドはミニコンポなどの生産をビクターに委託するなどして経営効率を高める」と報道している。

具体的な計画として発表されたのが、カーエレクトロニクス事業でのシナジー追求だ。両社の事業規模を合算すると1,600億円程度になり、世界ナンバーワンの地位を固める。また、ホーム/ポータブルオーディオ事業も両社の事業分野が重複し、ここでもシナジー効果を求めていく。

では、ホーム/ポータブルオーディオ事業において、両社はどのように開発協力を行っていくのだろうか。まだ経営統合そのものが本当に実現するのか確定していない段階でもあり、個々の具体的な協力がどの程度の深度で行われるかは曖昧模糊としているが、両社の現行の製品ラインナップ、また保有している技術をもとに予想してみよう。

まずスピーカーについては、はっきりと相互補完の関係が期待できる。ビクターが1本63万円の「SX-L9」や、同30万円弱の「SX-L77」を筆頭に、ピュアオーディオ向けの高額製品を揃える一方、ケンウッドはシアター向け製品が多く、安価な製品を中心に展開しているからだ。双方のノウハウや技術を用いたり、あるいは足りないところをOEM供給するなどの方法で、それぞれのラインナップを充実させることができるはずだ。また、ビクターが苦心して開発したウッドコーンスピーカーは、その独特の音質からファンが多い。ケンウッドのハイコンポ「KSeries」のラインナップに、ウッドコーンモデルが登場すれば、歓迎するファンも多いのではないか。

ポータブルオーディオはどうだろう。現在、ケンウッドは“MEDIA keg”シリーズでHDD/メモリータイプを、ビクターは“alneo”シリーズでメモリータイプを展開している。特にMEDIA kegは、デジタルアンプのプリ段とパワー段を独立させるなど、凝りに凝った高音質化技術を投入しており、音質を重視するファンの間で評価が高い。また、ロスレスオーディオ技術でも、ケンウッドは「Kenwood Lossless」を開発するなど、独自の展開を続けている。両社の技術を融合することで、さらに魅力的な製品が登場する可能性がある。

システムコンポ分野でもユニークな協業が期待できる。ケンウッドは現在、PCからリニアPCM音声をワイヤレスで音声を飛ばし、コンポで受ける「SLG-7」を展開している。もともとケンウッドが無線通信機器メーカーとしてスタートした経緯もあり、無線技術、通信技術については豊富なノウハウを持つ。一方ビクターは、メモリーを本体内に搭載したコンポを、今後業界の主流にしようと計画している。この2つの基礎技術が融合したら、たとえばDLNA/無線LANに対応した、PCと親和性の高い製品など、他社にないモデルの登場が期待できそうだ。

そのほか、ビクターのユニークなフロントサラウンド技術「ルート4」も、さらなる応用が期待される。フロント4本のスピーカーでサラウンドを実現するもので、他社にない発想による技術だが、ビクター製品だけで普及を進めるには限度があった。これがケンウッド製品に搭載されることで、存在感が高まることになれば面白い。

●ハイファイコンポやAVアンプへの再チャレンジに期待

協業によりスケールメリットが生まれることで、現在、手薄となっているカテゴリーへの再チャレンジにも期待したい。具体的には、中高級クラスのハイファイコンポーネント、そしてAVアンプなどである。両社ともに、このカテゴリーへの新製品投入をしばらく行っていないが、スピーカー事業との親和性の高いこれらのカテゴリーに再参入することで、オーディオ/AVシステムのトータル提案が可能になる。

ピュアオーディオ分野では団塊世代のオーディオ回帰が始まっている。もともと技術力やブランド力の強い両社が力の入った製品を送り出せば、市場で台風の目となる可能性もある。また、AVアンプでは今後、PCやほかのAV機器との接続など、ネットワーク対応が重要な要素となる。その一方、機能が複雑化することでソフト開発のコストが膨大になり、単独では投資を回収しにくい構造が顕著になってきている。両社が共同で開発することで、投資負担を和らげることができるだろう。もともと両社の基礎技術の水準は高く、新製品の投入を待ち望んでいるAVファンは多いはずだ。

ケンウッドが持っていない、映像機器の展開はどうなるのか。これについては、ケンウッドの河原会長も「あまり貢献できることはない」としており、直接的なシナジーは期待できないが、ビクターの個別事業の方針については、昨日同社が発表した「アクションプラン2007」で、今後の計画が示されている。詳細はこちらを参照いただきたいが、大まかにまとめてしまえば、ディスプレイ事業では他社との差別化を進める一方でコスト改善に取り組み、ILAは民生用プロジェクターに特化。さらに、ビデオカメラは開発資源を集中投下し、2008年に予定していた製品を前倒しして投入するなどの施策により、グローバルシェアナンバーワンを目指していく、といった方針が打ち出されている。

ここで気になるのは、「テレビについてもジョイントベンチャーで共同開発する」という趣旨の、前述の日経新聞の報道だ。単に、ケンウッドの技術や特許の提供にとどまるのか、それとももう一歩踏み込み、共同開発した製品をケンウッドが自社ブランドで販売することで、販売規模を上げ、コスト削減を行おうとしているのか。現段階では予測不可能だが、いずれにしても今後の動向から目が離せそうにない。

歴史と企業文化が異なる両社だが、個々の事業を見ると、重複を整理することでさらに強化できるもの、お互いの補完効果が期待できるものが多い。両社が目指すシナジー効果が十分に発揮できれば、魅力的な製品が登場することは間違いない。専業メーカーの生き残りを賭けた今回の決断が、両社にとって、そしてユーザーにとって有益なものになることを期待したい。

(Phile-web編集部・風間)

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