公開日 2011/06/22 10:59
プラズマと好マッチ『バーレスク』の艶やかさをWoooで引き出す
話題のソフトをWoooで見る
この連載「話題のソフトを“Wooo”で観る」では、AV評論家・大橋伸太郎氏が旬のソフトの見どころや内容をご紹介するとともに、“Wooo”薄型テレビで視聴した際の映像調整のコツなどについてもお伝えします。
先日テレビの洋楽番組を見ていたら、ケイティ・ペリー(アメリカのアイドル系ロック歌手)のコンサートの映像が流れてきた。
私の子供がよくカーオーディオでこの人のCDを聴くのでつい見てしまったのだが、歌があまり上手でないことに驚いた。CDで聴く歌は結構良いから、狭いステージでダンスをしながら歌うのにまだ慣れていないのだろう。
ちょっとガッカリしたのだが、その後ふと思った。しばらく前だったら、これは口パクだったろうと。1980〜90年代にポップスのスーパースター達のコンサートがイベント化して、口パクがまかり通るようになったのはご承知の通りだ。
しかし、いまでは音楽事情は大きく変わった。配信の台頭である。
パッケージメディアが強ければ「音楽を聞きたいならCDでどうぞ。ライブはお祭りで別物です」という論理もありうるが、今はそうではない。ライブパフォーマンスの比重がどんどん高まっている。ちなみにケイティ・ペリーも、デビューはインターネットでの楽曲販売であった(2007年)。今やライブにこそアーティストの本分、というか全てがある。だから口パクが許されない、カッコ悪いと思われる時代なのだ。
『バーレスク』はそんな変化の時期に製作された映画である。主演はクリスティーナ・アギレラ。本作はショービズをテーマにしたオリジナル脚本のドラマで、歌と音楽が満載の一種の音楽映画だが、ミュージカルではない。
◇ ◇ ◇
筋書きをざっと紹介しておくと、アイオワ州の田舎町でウェイトレスで生計を立てていた娘アリが、ショービズデビューの夢を叶えるべくロサンゼルスにやって来る。お上りさんの彼女がサンセットブールヴァードの街頭で途方に暮れていると、たまたま「バーレスクラウンジ」のネオンが目に入り、興味を引かれて覗いてみると、そこは女達がセクシーな衣装で豪華なショーを繰り広げる、現実離れした夜毎の夢の世界。親切でハンサムなバーテンダーから店の女主人テス(シェール)を紹介され「アタシ、歌もダンスも自信あります!」と売り込むが、鼻も引っかけて貰えない。
それでも給仕係としてちゃっかり店に潜り込むと、最初の偶然が起きる。ダンサーの一人が妊娠して悪阻が酷く、舞台に上がれなくなったのである。オーディションの候補達がみな期待外れで頭を抱えていたテスの前に、すっくと立ったのがウェイトレスのアリ。テスがリクエストしたエルマー・バーンスタインのナンバーを見事に踊りきり、ダンサーの一人としてステージに立ったアリスに第二の偶然が起きる。
クラブの花形ダンサーのニッキ(クリステン・ベル)が酔っぱらって店に現れ、彼女の日頃の増長ぶりに業を煮やしたテスが、アリを代役に抜擢したのだ。
ところがステージに上がったのはいいが、ニッキが役を降ろされた腹いせに本番中にPAの電源を切ってしまう。これではショーは続行出来ない。幕が降りてきたその時、アリが突然ノーマイクで歌い出す。バーレスクラウンジはそれまで、いつも歌はすべて口パク、セクシーな踊りだけを見せていたということである。
アリの咄嗟のパフォーマンスに帰りかけていた客はテーブルに戻り、アリのパワフルな歌に驚き大喝采を送る。バーレスクラウンジは昔日の勢いがなく経営不振で店が人手に渡る寸前だった。小手先の見世物が飽きられていたのである。目から鱗の落ちた思いのテスは、アリの迫力ある歌を売り物にして店を蘇らせることを決意する。
この後、ビジネスに疎いテスの周辺に渦巻く地上げ屋の悪だくみや姐御肌のテスと子供時代に母を失ったアリの心のふれあい、アリを巡る男たちの恋のさやあてなどが盛り込まれ、ハッピーエンドとなる。
◇ ◇ ◇
アギレラとしては満を持しての映画初主演で、アリがバーレスクラウンジのスターになった映画の後半は彼女のコスプレ満載のMTV風の観がある。彼女を売り出す企画であることは相違ないのだが、人々を生の歌の迫力に気付かせ、バーレスクラウンジを立ち直らせる主人公像に、若手実力派シンガーとしてのアギレラの挑戦と、秘めた自信が窺える。この映画は「エクゼキュティブミュージックプロデューサー」でもあるアギレラの決意表明なのだ。さらば口パク、これからは実力で勝負! というわけである。
設定としてはお定まりのアメリカンドリーム物で、かなり他愛のない映画だが、私は最後まで楽しく見ることができた。アギレラという人は小柄だし垢抜けないが、明るく愛嬌のある顔立ちである。彼女の映画初主演のために非常によく考えられた脚本といえよう。
もう一つの映画の柱がテス役のシェール。その年のワースト映画を選出する「ラジー賞」という裏アカデミー賞があって、見事シェールがこの映画で2010年のワースト助演女優賞に輝いた。しかし、歌は素晴らしいの一語に尽きる。はっきり言って、アギレラが歌う全トラックより、シェールの“私は負けない”一曲の魅力が優っている。暗い艶のある唯一無比の深々とした美声を持つ大御所と再認識した次第。ほかにはTVシリーズ『ヴェロニカ・マーズ』の美少女探偵役でスターになったクリステン・ベルが憎まれ役を演じている。TVでのイメージを裏切る、露出の多いセクシーな出で立ちも本作の見所だ。
先日テレビの洋楽番組を見ていたら、ケイティ・ペリー(アメリカのアイドル系ロック歌手)のコンサートの映像が流れてきた。
私の子供がよくカーオーディオでこの人のCDを聴くのでつい見てしまったのだが、歌があまり上手でないことに驚いた。CDで聴く歌は結構良いから、狭いステージでダンスをしながら歌うのにまだ慣れていないのだろう。
ちょっとガッカリしたのだが、その後ふと思った。しばらく前だったら、これは口パクだったろうと。1980〜90年代にポップスのスーパースター達のコンサートがイベント化して、口パクがまかり通るようになったのはご承知の通りだ。
しかし、いまでは音楽事情は大きく変わった。配信の台頭である。
パッケージメディアが強ければ「音楽を聞きたいならCDでどうぞ。ライブはお祭りで別物です」という論理もありうるが、今はそうではない。ライブパフォーマンスの比重がどんどん高まっている。ちなみにケイティ・ペリーも、デビューはインターネットでの楽曲販売であった(2007年)。今やライブにこそアーティストの本分、というか全てがある。だから口パクが許されない、カッコ悪いと思われる時代なのだ。
『バーレスク』はそんな変化の時期に製作された映画である。主演はクリスティーナ・アギレラ。本作はショービズをテーマにしたオリジナル脚本のドラマで、歌と音楽が満載の一種の音楽映画だが、ミュージカルではない。
筋書きをざっと紹介しておくと、アイオワ州の田舎町でウェイトレスで生計を立てていた娘アリが、ショービズデビューの夢を叶えるべくロサンゼルスにやって来る。お上りさんの彼女がサンセットブールヴァードの街頭で途方に暮れていると、たまたま「バーレスクラウンジ」のネオンが目に入り、興味を引かれて覗いてみると、そこは女達がセクシーな衣装で豪華なショーを繰り広げる、現実離れした夜毎の夢の世界。親切でハンサムなバーテンダーから店の女主人テス(シェール)を紹介され「アタシ、歌もダンスも自信あります!」と売り込むが、鼻も引っかけて貰えない。
それでも給仕係としてちゃっかり店に潜り込むと、最初の偶然が起きる。ダンサーの一人が妊娠して悪阻が酷く、舞台に上がれなくなったのである。オーディションの候補達がみな期待外れで頭を抱えていたテスの前に、すっくと立ったのがウェイトレスのアリ。テスがリクエストしたエルマー・バーンスタインのナンバーを見事に踊りきり、ダンサーの一人としてステージに立ったアリスに第二の偶然が起きる。
クラブの花形ダンサーのニッキ(クリステン・ベル)が酔っぱらって店に現れ、彼女の日頃の増長ぶりに業を煮やしたテスが、アリを代役に抜擢したのだ。
ところがステージに上がったのはいいが、ニッキが役を降ろされた腹いせに本番中にPAの電源を切ってしまう。これではショーは続行出来ない。幕が降りてきたその時、アリが突然ノーマイクで歌い出す。バーレスクラウンジはそれまで、いつも歌はすべて口パク、セクシーな踊りだけを見せていたということである。
アリの咄嗟のパフォーマンスに帰りかけていた客はテーブルに戻り、アリのパワフルな歌に驚き大喝采を送る。バーレスクラウンジは昔日の勢いがなく経営不振で店が人手に渡る寸前だった。小手先の見世物が飽きられていたのである。目から鱗の落ちた思いのテスは、アリの迫力ある歌を売り物にして店を蘇らせることを決意する。
この後、ビジネスに疎いテスの周辺に渦巻く地上げ屋の悪だくみや姐御肌のテスと子供時代に母を失ったアリの心のふれあい、アリを巡る男たちの恋のさやあてなどが盛り込まれ、ハッピーエンドとなる。
アギレラとしては満を持しての映画初主演で、アリがバーレスクラウンジのスターになった映画の後半は彼女のコスプレ満載のMTV風の観がある。彼女を売り出す企画であることは相違ないのだが、人々を生の歌の迫力に気付かせ、バーレスクラウンジを立ち直らせる主人公像に、若手実力派シンガーとしてのアギレラの挑戦と、秘めた自信が窺える。この映画は「エクゼキュティブミュージックプロデューサー」でもあるアギレラの決意表明なのだ。さらば口パク、これからは実力で勝負! というわけである。
設定としてはお定まりのアメリカンドリーム物で、かなり他愛のない映画だが、私は最後まで楽しく見ることができた。アギレラという人は小柄だし垢抜けないが、明るく愛嬌のある顔立ちである。彼女の映画初主演のために非常によく考えられた脚本といえよう。
もう一つの映画の柱がテス役のシェール。その年のワースト映画を選出する「ラジー賞」という裏アカデミー賞があって、見事シェールがこの映画で2010年のワースト助演女優賞に輝いた。しかし、歌は素晴らしいの一語に尽きる。はっきり言って、アギレラが歌う全トラックより、シェールの“私は負けない”一曲の魅力が優っている。暗い艶のある唯一無比の深々とした美声を持つ大御所と再認識した次第。ほかにはTVシリーズ『ヴェロニカ・マーズ』の美少女探偵役でスターになったクリステン・ベルが憎まれ役を演じている。TVでのイメージを裏切る、露出の多いセクシーな出で立ちも本作の見所だ。