公開日 2016/03/28 11:00
【レビュー】感性に訴えるCHORD「DAVE」のサウンド。独自技術とその効果を分析する
【連載】角田郁雄のオーディオSUPREME
CHORDの新たな旗艦DAC「DAVE」は、いまハイエンドオーディオの世界で最も注目を集めているコンポーネントのひとつだ。DAVEに込められた技術、そしてそのサウンドを角田郁雄氏に、大きく踏み込んで分析。なぜ、DAVEのサウンドは人の感性に訴えるのだろうか?
INDEX
私とコードとの出会い
CDを格別に高次元で再生できることも魅力
魅力的なデジタル処理部。WTAフィルターとパルスアレーDACの仕組み
驚くべきD/A変換特性
DAVEによるハイレゾ再生
終わりに
■私とコードとの出会い
30年ほど前のこと。私はレコード再生からは程遠い、響きが削がれたようなCDの硬い音、平面的な音が好きになれなかった。その後どんどん音質が向上していく国産モデルをいくつか買い変えながら、自分なりにCDを楽しんできた。
そして過日のこと、今から15年前だったであろうか。東京インターナショナルオーディオショウで、衝撃的なCDの音を聴いた。それはCHORDのCDトランスポート「Blu」とDAC「DAC64Mk2」の組み合わせだった。澄み切った広い空間に奏者、歌い手が生々しく再現され、とてもCDとは思えない繊細さと豊かな倍音を空間に放っていた。中低域もめっぽう力強く、ベースのゴリっとした質感や、チェロの木質感たっぷりの響きを解像感高く表現してくれた。それを聴いた後、私はCHORDの音への想いが募り、DAC64Mk2を購入することになった。半年後、CDトランスポートの「Coda」も導入した。
CHORDは、卓越したアルゴリズムをDSPの処理能力を上回るFPGAに投入し、2,000倍を超えるオーバーンプリングを「WTAフィルター」で実行。ディスクリート構成の抵抗ラダー型DAC「パルスアレイDAC」で変換する。同社DACの技術的な特徴だ。これにより音の滑らかさ、空間の広がりと奥行き、微小レベルの音の再現性を高め、CDから躍動感に溢れた音楽を再現する。
その後、FPGAのタップ数を拡大して演算処理能力を高めた「QBD76HDSD」へと切り替え、ハイレゾとCD再生を楽しんできた。処理能力と演算能力が向上したので空間性がさらに向上し、より緻密な音像が描写される。CDにおいて深い陰影までが再現された。DAC64mk2では3個搭載されていたFPGAの数は1個になり、回路も入力から出力まで最短距離になった。
さらにドラマティックな進化が現実のものとなったのが、「Hugo」と「HugoTT」であり、昨年秋に登場した「Mojo」だ。ザイリンクス社の新世代FPGA「Artix7」の出現により、DAC/モバイルヘッドホンアンプのMojoでは、省電力化が可能となった結果、内蔵バッテリーで楽々と11.2MHz DSDや768kHz/32bit DXDが再生できる。今やヘッドホンファイルのスター的存在となった。
Mojoと並ぶかのように、昨年9月の東京インターナショナルオーディオショウでは、オーディオファイル向けの旗艦DAC/プリアンプ「DAVE」が登場した。その姿は、コラール・シリーズのサイズを踏襲し、中央にはCHORD独特の円形レンズを配置。サンプルレート・音量・DSD/PCMフィルター・位相などが表示される。右の4つのスイッチで、入力セレクトや各種モードなどが選択できる。そのスイッチの中央にあるステンレス・ノブでは音量調整が可能だ。今回から、ハイカレント型の駆動力の高いヘッドホンアンプも搭載された。この精密感に溢れた美しいデザインは、CHORDならではのものだ。
昨年、早々にプロトタイプを聴いたが、QBD76のユーザーでありながらも、その大幅な進化に驚嘆した。さらに今回、自宅のシステムでも試聴して、改めてその性能に驚かされた。
■DAVEは、CDを格別に高次元で再生することも魅力
DAVEにおいて感動すら覚えるのが、まずCDの音の良さだ。今まで自宅ではQBD76HDSDを用いて、ハイレゾ再生だけではなくCD再生も追求してきたのだが、DAVEはその音を遥かに超えてしまった。ハイレゾにあまり関心がなくCD再生を大切にする読者、CD再生のクォリティを進化させたい方には、まずDAVEのCDの音を聴いて欲しい。
フィリップスの往年の名盤、内田光子によるモーツァルトのピアノソナタやピアノ協奏曲をまず再生したが、ピアノの倍音は、従来以上にハイレゾに迫る豊かさで、輝きに満ち、微細な響きが空間に舞う。弦楽パートや木管楽器の豊潤な響きも、色濃く再現される。
ドイツ・グラモフォンのバースタインによるマーラー交響曲第2番は、冒頭から弦楽の左右の響きの対比が鮮やかで、その響きがホールの天井や壁面で反射する様子まで緻密に再現される。終楽章の女性ソリストと合唱の声は、オーケストラの響きと融け合い圧巻! ホールの広がりと奥行きの再現も素晴らしい。部屋の照明を消すと、CDかハイレゾかと言うより、その臨場感に溢れた音ゆえに、もはや演奏会に出席しているような感覚になる。
ブルーノート、コロンビアのマイルス・デイビス、ECMのキース・ジャレットのトリオなどジャズアルバムを次々と再生すると、古い音源なのに、録音した瞬間に居合わせたような気分を覚える。ぜひ、愛用のディスクプレーヤーのデジタルアウトを、DAVEに接続して聴いて欲しい。きっと聴き慣れたCDから、躍動感に満ちたリアルで素晴らしい演奏を体験できるはずだ。プレーヤーをアップグレードできるDACの候補として、気になる存在になることだろう。
試聴のキーポイントは、「広い空間と奥行きの再現性」「奏者、歌い手の微妙な動きや声使い」「楽器や声の倍音(響き)の豊富さ」「深みのある弱音表現」だ。こうした表現を含む、楽器数が少ない穏やかなCDを再生すれば、普段とは次元の異なる格別の音楽表現が体験できるはずだ。今まで気付かなかった微細な付帯音や演奏表現に驚くことだろう。
INDEX
私とコードとの出会い
CDを格別に高次元で再生できることも魅力
魅力的なデジタル処理部。WTAフィルターとパルスアレーDACの仕組み
驚くべきD/A変換特性
DAVEによるハイレゾ再生
終わりに
■私とコードとの出会い
30年ほど前のこと。私はレコード再生からは程遠い、響きが削がれたようなCDの硬い音、平面的な音が好きになれなかった。その後どんどん音質が向上していく国産モデルをいくつか買い変えながら、自分なりにCDを楽しんできた。
そして過日のこと、今から15年前だったであろうか。東京インターナショナルオーディオショウで、衝撃的なCDの音を聴いた。それはCHORDのCDトランスポート「Blu」とDAC「DAC64Mk2」の組み合わせだった。澄み切った広い空間に奏者、歌い手が生々しく再現され、とてもCDとは思えない繊細さと豊かな倍音を空間に放っていた。中低域もめっぽう力強く、ベースのゴリっとした質感や、チェロの木質感たっぷりの響きを解像感高く表現してくれた。それを聴いた後、私はCHORDの音への想いが募り、DAC64Mk2を購入することになった。半年後、CDトランスポートの「Coda」も導入した。
CHORDは、卓越したアルゴリズムをDSPの処理能力を上回るFPGAに投入し、2,000倍を超えるオーバーンプリングを「WTAフィルター」で実行。ディスクリート構成の抵抗ラダー型DAC「パルスアレイDAC」で変換する。同社DACの技術的な特徴だ。これにより音の滑らかさ、空間の広がりと奥行き、微小レベルの音の再現性を高め、CDから躍動感に溢れた音楽を再現する。
その後、FPGAのタップ数を拡大して演算処理能力を高めた「QBD76HDSD」へと切り替え、ハイレゾとCD再生を楽しんできた。処理能力と演算能力が向上したので空間性がさらに向上し、より緻密な音像が描写される。CDにおいて深い陰影までが再現された。DAC64mk2では3個搭載されていたFPGAの数は1個になり、回路も入力から出力まで最短距離になった。
さらにドラマティックな進化が現実のものとなったのが、「Hugo」と「HugoTT」であり、昨年秋に登場した「Mojo」だ。ザイリンクス社の新世代FPGA「Artix7」の出現により、DAC/モバイルヘッドホンアンプのMojoでは、省電力化が可能となった結果、内蔵バッテリーで楽々と11.2MHz DSDや768kHz/32bit DXDが再生できる。今やヘッドホンファイルのスター的存在となった。
Mojoと並ぶかのように、昨年9月の東京インターナショナルオーディオショウでは、オーディオファイル向けの旗艦DAC/プリアンプ「DAVE」が登場した。その姿は、コラール・シリーズのサイズを踏襲し、中央にはCHORD独特の円形レンズを配置。サンプルレート・音量・DSD/PCMフィルター・位相などが表示される。右の4つのスイッチで、入力セレクトや各種モードなどが選択できる。そのスイッチの中央にあるステンレス・ノブでは音量調整が可能だ。今回から、ハイカレント型の駆動力の高いヘッドホンアンプも搭載された。この精密感に溢れた美しいデザインは、CHORDならではのものだ。
昨年、早々にプロトタイプを聴いたが、QBD76のユーザーでありながらも、その大幅な進化に驚嘆した。さらに今回、自宅のシステムでも試聴して、改めてその性能に驚かされた。
■DAVEは、CDを格別に高次元で再生することも魅力
DAVEにおいて感動すら覚えるのが、まずCDの音の良さだ。今まで自宅ではQBD76HDSDを用いて、ハイレゾ再生だけではなくCD再生も追求してきたのだが、DAVEはその音を遥かに超えてしまった。ハイレゾにあまり関心がなくCD再生を大切にする読者、CD再生のクォリティを進化させたい方には、まずDAVEのCDの音を聴いて欲しい。
フィリップスの往年の名盤、内田光子によるモーツァルトのピアノソナタやピアノ協奏曲をまず再生したが、ピアノの倍音は、従来以上にハイレゾに迫る豊かさで、輝きに満ち、微細な響きが空間に舞う。弦楽パートや木管楽器の豊潤な響きも、色濃く再現される。
ドイツ・グラモフォンのバースタインによるマーラー交響曲第2番は、冒頭から弦楽の左右の響きの対比が鮮やかで、その響きがホールの天井や壁面で反射する様子まで緻密に再現される。終楽章の女性ソリストと合唱の声は、オーケストラの響きと融け合い圧巻! ホールの広がりと奥行きの再現も素晴らしい。部屋の照明を消すと、CDかハイレゾかと言うより、その臨場感に溢れた音ゆえに、もはや演奏会に出席しているような感覚になる。
ブルーノート、コロンビアのマイルス・デイビス、ECMのキース・ジャレットのトリオなどジャズアルバムを次々と再生すると、古い音源なのに、録音した瞬間に居合わせたような気分を覚える。ぜひ、愛用のディスクプレーヤーのデジタルアウトを、DAVEに接続して聴いて欲しい。きっと聴き慣れたCDから、躍動感に満ちたリアルで素晴らしい演奏を体験できるはずだ。プレーヤーをアップグレードできるDACの候補として、気になる存在になることだろう。
試聴のキーポイントは、「広い空間と奥行きの再現性」「奏者、歌い手の微妙な動きや声使い」「楽器や声の倍音(響き)の豊富さ」「深みのある弱音表現」だ。こうした表現を含む、楽器数が少ない穏やかなCDを再生すれば、普段とは次元の異なる格別の音楽表現が体験できるはずだ。今まで気付かなかった微細な付帯音や演奏表現に驚くことだろう。
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