公開日 2021/05/29 06:45
ドイツ気鋭のカートリッジブランド“TEDESKA”。楽器を思わせる美しさと緻密なテクノロジーに感激
<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
■ドイツのカートリッジブランド「TEDESKA」に大注目!
皆さま、お元気でしょうか。私は最近、仕事の合間を見て機器の清掃メンテナンスを始めました。これが結構大変で、入出力の接点クリーニングだけではなく、機器のリアパネルやケーブル、そしてラックの清掃まで行っています。dCS Vivaldiのデジタルプレイバックシステムになると多数のケーブルを使っているので、3時間もかかってしまいました。ですが、メンテナンスを終え再生すると、音がスカーっと抜けた瑞々しい音になりますね。
さて、今回の製品レビューの話に移ります。近年気がかりのカートリッジ・ブランドがあります。それは、ドイツ・ベルリンの新進カートリッジブランド「TEDESKA(テデスカ)」です。そのモデルラインから、今回はLacoteシリーズのステレオMCカートリッジ「DST201uc」を紹介します。
まずこのブランドについて説明しておきましょう。創業者はHyun Lee(ヒュン・リー)氏です。彼はもともとクラシックギターの技をさらに磨き上げるために、1994年にドイツに来たそうで、特にJ.S.バッハを心から尊敬し、ドイツでバッハの書籍や研究資料に深く目を通し、さらなる奏力を身につけたそうです。
一方で、熱狂的なレコード愛好家であったために、独学でカートリッジ技術の研究を行い、やがてEMTの修理工房まで構えてしまいました。そしてついに、納得のゆく独自のカートリッジ技術を開発し、2015年に自らのブランドを立ち上げたのです。
現在のモデルラインを見てまず感激することは、その美しさです。それぞれのカートリッジは、いずれもグラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)という木材のボディを纏っていて、あたかもミニチュアの楽器のような佇まいを感じさせてくれます。この木材はクラリネットにも使われるそうで、水や汗にも強く、レコードと同様に長く愛用できるようにとの想いを込めて使ったそうです。
また、カートリッジのフロントには、小さな円形の貝殻象嵌がデザインされています。これは、ヴァイオリンの弓の指があたるところを「Bow frog(カエルの弓)」と言い、これをモチーフにして組み込んだそうです。小さなネジ一つにいたるまで、ヒュン・リー氏自身の手で組みつけて製作しています。
ステレオカートリッジでは、5シリーズあり、「Classic」「Cedar model」「Progressive」「Lacote」「Air Cored Coil(空芯型)」に分けられ、そのほかに前述の「Monaural(モノラル)」も製作しています。工房で顕微鏡を使っている製作中の姿を写真で見ると、あたかもスイスの精密なタイム・ピースを創り上げているのと同じイメージがします。
私は、2018年にProgressiveシリーズのMCカートリッジ「DST201ub」(2019年analog Grand Prix受賞)を試聴しましたが、その時、楽器や声の音が生音に近い印象を受けました。特に音の立ち上がり(アタック感)が強調されず、弱音から強音まで素直に立ち上がります。しかも情報量が多いので、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」を再生すると、木質感を極めるかのような、彫の深い豊潤な響きが堪能できました。私が特に気にかけている繊細さや柔らかさもよく引き出され、情報量の多さやダイナミックレンジの広さも感じました。
カタログを詳細に読むと、シリーズによってカンチレバーやマグネットの種類を変え、生の楽器や声との比較を相当行った上で、響きの違いを創り込んでいることも窺えました。前述のグラナディラという木材のボディは、単に弦楽器をイメージするデザイン性だけではなく、カートリッジの発電機構に伝わる微細振動を低減させることに貢献し、軽量化できることも理解できました。
■ストレスフリーに動くカンチレバーが微細音まで徹底してトレース
さて、本題の「DST201uc」を紹介します。ボロン・カンチレバーを使用し、コイル線には6N銅線が使用されています。磁気回路にはネオジウム磁石を採用しています。これだけですと、現代の他のカートリッジと類似していると思われますよね。しかし、カンチレバーが違うのです。
驚くほどに極細で、根元にアルミスリーブを使用し貫通させています。音質は後述しますが、実際に適正針厚1.8gをかけ、レコードに針を落としても、このカンチレバーの仕様により肉眼では「たわみ」や「しなり」は確認できず、一直線をキープしています。
これは何を意味するかというと、再生中も微細な動きはあるものの、磁気回路のど真ん中で均一かつ強力な磁界に位置することができ、ストレスフリーにカンチレバーが動くことができます。音溝から徹底して微細音までもトレースできるということです。全体重量を7.4gと軽量化を図り、針圧も下げたと考えられます。
諸特性も紹介しておきます。再生帯域は20Hzから35kHz。内部インピーダンスと出力電圧は、10Ω/0.4mV。セパレーションは、27dB/1kHz以下。重量は7.4g。適正針圧は1.8g。比較的軽量で、多くのMCフォノイコライザーに対応しますね。ちなみにProgressiveシリーズの「DST201ub」はサマリウムコバルト磁石を使用し、重量は8.7g。諸特性は同等ですが、こちらはより磁力を強化し、軽量化されています。この違いにより巧みに音のテイストを変えていると思われます。
試聴は1階のリスニングルームで行いました。プレーヤーは、ヤマハのDD方式「GT-2000L」です。慣性力は極めて高く、ハウリングは皆無でS/Nも良好なので、リファレンスとして長年信頼をおいています。昨年にはアキュフェーズのフォノイコライザー「C-47」やプリアンプ「C-3900」も加わったので、ダイナミックレンジと解像度が高まり、使用するカートリッジの音質がより一層判断しやすくなりました。パワーアンプも同社のA級「A-75」で、スピーカーはB&W「802 D3」です。
まず、チョン・キョンファのアナログ録音の名盤「J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータNo.2、ソナタNo.3」(DECCA SXL6721)を再生しました。ここで、思わず感激したことは、前述の「DST201ub」でも体験することができた情報量の多さです。胴の響きは実に濃厚で、微細な余韻が空間に見事に広がります。弦を一度に2、3本弾く重音や旋律を紡いでゆくアーティキュレーションは、高解像度特性により、演奏の臨場感を鮮明にしてくれます。これは、前述のカンチレバーと強力な磁気回路の効果と言えますし、空芯コイルではないかと思うほどの透明度や音離れの良さも感じてしまいました。また、極めてスクラッチノイズが少ないことも特徴と言えます。
なお、「C-47」では、ゲイン64dB、負荷インピーダンス200Ωが、高域に開放感があり、ナチュラルな音質ですが、100Ω、30Ωへと下げると、中低域に濃厚さが加わります。おそらく、クラシック愛好家はこの音質に惚れ込むことでしょう。
皆さま、お元気でしょうか。私は最近、仕事の合間を見て機器の清掃メンテナンスを始めました。これが結構大変で、入出力の接点クリーニングだけではなく、機器のリアパネルやケーブル、そしてラックの清掃まで行っています。dCS Vivaldiのデジタルプレイバックシステムになると多数のケーブルを使っているので、3時間もかかってしまいました。ですが、メンテナンスを終え再生すると、音がスカーっと抜けた瑞々しい音になりますね。
さて、今回の製品レビューの話に移ります。近年気がかりのカートリッジ・ブランドがあります。それは、ドイツ・ベルリンの新進カートリッジブランド「TEDESKA(テデスカ)」です。そのモデルラインから、今回はLacoteシリーズのステレオMCカートリッジ「DST201uc」を紹介します。
まずこのブランドについて説明しておきましょう。創業者はHyun Lee(ヒュン・リー)氏です。彼はもともとクラシックギターの技をさらに磨き上げるために、1994年にドイツに来たそうで、特にJ.S.バッハを心から尊敬し、ドイツでバッハの書籍や研究資料に深く目を通し、さらなる奏力を身につけたそうです。
一方で、熱狂的なレコード愛好家であったために、独学でカートリッジ技術の研究を行い、やがてEMTの修理工房まで構えてしまいました。そしてついに、納得のゆく独自のカートリッジ技術を開発し、2015年に自らのブランドを立ち上げたのです。
現在のモデルラインを見てまず感激することは、その美しさです。それぞれのカートリッジは、いずれもグラナディラ(アフリカン・ブラックウッド)という木材のボディを纏っていて、あたかもミニチュアの楽器のような佇まいを感じさせてくれます。この木材はクラリネットにも使われるそうで、水や汗にも強く、レコードと同様に長く愛用できるようにとの想いを込めて使ったそうです。
また、カートリッジのフロントには、小さな円形の貝殻象嵌がデザインされています。これは、ヴァイオリンの弓の指があたるところを「Bow frog(カエルの弓)」と言い、これをモチーフにして組み込んだそうです。小さなネジ一つにいたるまで、ヒュン・リー氏自身の手で組みつけて製作しています。
ステレオカートリッジでは、5シリーズあり、「Classic」「Cedar model」「Progressive」「Lacote」「Air Cored Coil(空芯型)」に分けられ、そのほかに前述の「Monaural(モノラル)」も製作しています。工房で顕微鏡を使っている製作中の姿を写真で見ると、あたかもスイスの精密なタイム・ピースを創り上げているのと同じイメージがします。
私は、2018年にProgressiveシリーズのMCカートリッジ「DST201ub」(2019年analog Grand Prix受賞)を試聴しましたが、その時、楽器や声の音が生音に近い印象を受けました。特に音の立ち上がり(アタック感)が強調されず、弱音から強音まで素直に立ち上がります。しかも情報量が多いので、バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」を再生すると、木質感を極めるかのような、彫の深い豊潤な響きが堪能できました。私が特に気にかけている繊細さや柔らかさもよく引き出され、情報量の多さやダイナミックレンジの広さも感じました。
カタログを詳細に読むと、シリーズによってカンチレバーやマグネットの種類を変え、生の楽器や声との比較を相当行った上で、響きの違いを創り込んでいることも窺えました。前述のグラナディラという木材のボディは、単に弦楽器をイメージするデザイン性だけではなく、カートリッジの発電機構に伝わる微細振動を低減させることに貢献し、軽量化できることも理解できました。
■ストレスフリーに動くカンチレバーが微細音まで徹底してトレース
さて、本題の「DST201uc」を紹介します。ボロン・カンチレバーを使用し、コイル線には6N銅線が使用されています。磁気回路にはネオジウム磁石を採用しています。これだけですと、現代の他のカートリッジと類似していると思われますよね。しかし、カンチレバーが違うのです。
驚くほどに極細で、根元にアルミスリーブを使用し貫通させています。音質は後述しますが、実際に適正針厚1.8gをかけ、レコードに針を落としても、このカンチレバーの仕様により肉眼では「たわみ」や「しなり」は確認できず、一直線をキープしています。
これは何を意味するかというと、再生中も微細な動きはあるものの、磁気回路のど真ん中で均一かつ強力な磁界に位置することができ、ストレスフリーにカンチレバーが動くことができます。音溝から徹底して微細音までもトレースできるということです。全体重量を7.4gと軽量化を図り、針圧も下げたと考えられます。
諸特性も紹介しておきます。再生帯域は20Hzから35kHz。内部インピーダンスと出力電圧は、10Ω/0.4mV。セパレーションは、27dB/1kHz以下。重量は7.4g。適正針圧は1.8g。比較的軽量で、多くのMCフォノイコライザーに対応しますね。ちなみにProgressiveシリーズの「DST201ub」はサマリウムコバルト磁石を使用し、重量は8.7g。諸特性は同等ですが、こちらはより磁力を強化し、軽量化されています。この違いにより巧みに音のテイストを変えていると思われます。
試聴は1階のリスニングルームで行いました。プレーヤーは、ヤマハのDD方式「GT-2000L」です。慣性力は極めて高く、ハウリングは皆無でS/Nも良好なので、リファレンスとして長年信頼をおいています。昨年にはアキュフェーズのフォノイコライザー「C-47」やプリアンプ「C-3900」も加わったので、ダイナミックレンジと解像度が高まり、使用するカートリッジの音質がより一層判断しやすくなりました。パワーアンプも同社のA級「A-75」で、スピーカーはB&W「802 D3」です。
まず、チョン・キョンファのアナログ録音の名盤「J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータNo.2、ソナタNo.3」(DECCA SXL6721)を再生しました。ここで、思わず感激したことは、前述の「DST201ub」でも体験することができた情報量の多さです。胴の響きは実に濃厚で、微細な余韻が空間に見事に広がります。弦を一度に2、3本弾く重音や旋律を紡いでゆくアーティキュレーションは、高解像度特性により、演奏の臨場感を鮮明にしてくれます。これは、前述のカンチレバーと強力な磁気回路の効果と言えますし、空芯コイルではないかと思うほどの透明度や音離れの良さも感じてしまいました。また、極めてスクラッチノイズが少ないことも特徴と言えます。
なお、「C-47」では、ゲイン64dB、負荷インピーダンス200Ωが、高域に開放感があり、ナチュラルな音質ですが、100Ω、30Ωへと下げると、中低域に濃厚さが加わります。おそらく、クラシック愛好家はこの音質に惚れ込むことでしょう。