公開日 2021/09/07 06:30
MOONアンプ導入記 -DYNAUDIO至高の宝石“サファイア”、究極の相棒を求めて-
【特別企画】惚れ込んだスピーカーをもっと輝かせるために
ネットオーディオの第一人者であり、DYNAUDIO愛用者としても知られる逆木 一氏は、昨年、自宅試聴システムにMOONのセパレートアンプ「740P/860A v2」を導入した。なぜ逆木氏はDYNAUDIO30周年モデルである「Sapphire」の相棒にMOONを選んだのか、その理由を語ってもらおう。
■Sapphireの実力を引き出すアンプを求めて
筆者がMOON(ムーン)のプリアンプ「740P」とパワーアンプ「860A v2」を導入してからおよそ1年。今回はその導入記を書く機会を得たので、ブランドや製品との出会いから、筆者のシステムにおける活用と所感まで、心の赴くままに紹介していきたい。
まず前提として、おそらく多くのオーディオファンがそうであるように、筆者も「スピーカーをより良く鳴らしたい」という欲求がある。特に筆者の場合、9年以上前に念願かなってDYNAUDIOのSapphire(サファイア)を手に入れて以来、「オーディオシステムの主役はスピーカーである」という意識が強く、アンプに求めるのはまさに「Sapphireの実力を引き出す」こと、その一点だった。740Pと860A v2のペアは、Sapphireと組み合わせという点では4代目のアンプになる。
MOONとはカナダのオーディオメーカーであるSIMAUDIOのブランドである。存在自体は10年ほど前から知っていたが、「誠実な製品づくりを続けているメーカーなんだな」と思う程度で、その時点ではさほど気になるブランドではなかった。時が経ち、海外のさまざまなオーディオショウにおいてDYNAUDIOのスピーカーとMOONのアンプがまるで純正ペアのごとく組み合わせられていることを知る。
2018年にミュンヘンのハイエンドショウで、DYNAUDIOの新たなフラグシップであるConfidenceシリーズがお披露目された時も、使用されているアンプはやはりMOON製品だった。アンプとしての実力やスピーカーとの相性の良さは当然として、製品やブランドに対してよほどの信頼がなければ、決してこのような扱いにはなるまい。先述のとおり、筆者がアンプに求めるのはまさにDYNAUDIOのスピーカー/Sapphireの実力を引き出すことなので、MOONのアンプは俄然気になる存在になっていった。
その後、Evolutionシリーズのパワーアンプが860A v2にモデルチェンジしたタイミングで740Pとのペアで自宅試聴を行い、Sapphireを導入した時以来の巨大な衝撃を受け、筆者のアンプ遍歴に終止符を打つ覚悟で導入を決めたという流れである。
■5cm厚の無垢木材をパワーアンプ専用のボードに
導入に際し、740Pはオリジナルのカバ集成材ラックの最下段(もともとプリアンプの導入を見越して空けていたスペース)に設置し、860A v2には40kgという重量をしっかり支えるべく、厚さ5cmのハードメイプル無垢材のボードを用意した。ちなみになぜハードメイプルを選んだかというと、恥ずかしながらなんとも単純な話で、MOONがカナダのブランドだから、である。
ちなみにMOONのEvolutionシリーズの製品は共通してねじ込み式のコーンスパイクを採用しているのだが、この部分はやろうと思えば交換も可能なようだ。860A v2の脚部については重量に対していささか物足りなさを感じるので、将来的に他社製インシュレーターの使用も検討したい。
なお、なるべくスピーカーの間に物を置きたくないこと、ファイル再生を追求する過程でいろいろと機器が増えてしまったことから、筆者のシステムは部屋の前方にパワーアンプとスピーカー、後方にプリアンプまでの上流機器を置き、前後を長尺のケーブルで繋ぐという構成にしている。Sapphireと並べてもなお、860A v2はその存在感においてまったく見劣りしないのは流石である。
740Pと860A v2の音質的な特徴はひと言で言えば「ニュートラル」ということになるのだろう。Sapphireから出てくる音は熱いとか冷たいとか、押し出しが強いとか艶があるとか、そういったアンプの特色ともいうべきものはほとんど意識させず、「ただ音楽がある」という印象を受ける。空間は透明かつ広大、音楽のごく細部にいたるまで描写の精密さが維持され、部屋全体を膨大な情報量で満たす。特筆すべきはダイナミックレンジの広さで、音楽の展開に必要とされるエネルギーが俊敏に、かつ底知れない余裕をもって供給され、繊細さと豪胆さがさも当然のように両立する。
つまるところ、740Pと860A v2のペアは、「スピーカーを駆動する」というアンプの本懐において純粋に、著しく高性能なのだ。かといって、再生音はオーディオ的な凄味ばかりが強調されることもなく、あくまでも音楽をいい音で聴く、オーディオの根源的な喜びが満ちている。徹底して磨き抜かれたアンプとしての高い性能と、音楽を聴いた際のこのうえない充実感を同時に、完璧に備えているのである。
筆者はSapphireのほかに、「もうひとつのレファレンス」として、同じくカナダのスピーカーメーカーであるParadigmのブックシェルフスピーカーPersona Bを使用している。全帯域を純ベリリウム・ドライバーが担うPersona Bは真に無色透明な再生音を身上とするスピーカーであり、740P/860A v2との組み合わせはその傾向がさらに研ぎ澄まされ、透徹した空間表現、微塵の曖昧さもない精緻な描写など、現代オーディオのひとつの極致とさえ思える。カナダのオーディオブランド、おそるべしである。
■ホームシアターにおける銃撃や爆発といった瞬発力でも満足度が高い
筆者のシステムはピュアオーディオとホームシアターを両立させており、「映像音響の再生」という点も述べておきたい。映像音響では一般的な音楽とは一線を画した強烈な低音や、銃撃や爆発といった瞬間的な大音量が収録されていることがままあり、そうした効果音を再生するために、アンプの側にも高い能力が必要となる。860A v2はそのシビアな要求にも完璧に応えており、微小な効果音の緻密な描写、時として狂暴ですらある音の瞬発力、極大スケールのスペクタクルといった要素をたやすく同居させている。
使っている機器の価格からして筆者のシステムは多分に「フロント一点豪華主義」といえるが、実際の映像音響においてフロントが最も重要であることは確かであり、その強化は体験の向上に直結する。事実、860A v2の導入により、筆者宅のシアターサウンドはかつてなく充実したものとなった。
■惚れ込んだスピーカーのポテンシャルを、アンプが引き出してくれた
ひとつ白状すると、近年はDYNAUDIOの新ConfidenceシリーズやParadigmのPersonaシリーズなど、最新世代のハイエンドスピーカーを聴く機会が数多くあり、その結果、筆者のSapphireにある種の限界を感じ始めていた。しかし、MOONアンプの導入によって、それはまったくの思い違いだったことが分かった。自分が惚れ込んだスピーカーから、想像もできなかったほど素晴らしい音が流れ出す。これこそ、アンプの導入で得られる最大の喜びではないだろうか。
「スピーカーの実力をどれだけ引き出せるか」という点において、アンプの重要性はいまさら語るまでもない。組み合わせるアンプによって、スピーカーから出てくる音が一変する。筆者自身、幾度となく味わってきた経験だ。その度にそのたびに、オーディオの面白さや奥深さを実感し、自分の好きな音楽や映画が別物のような表情を見せる様に心を動かしてきた。それを踏まえてもなお、740Pと860A v2を導入し、その音に触れた時ほど、アンプの重要性を実感したことはなかった。語るまでもないオーディオの基本を、改めて、心の底から、MOONのセパレートアンプが再確認させてくれたことは事実である。
筆者のアンプ遍歴は、学生時代、勇気を振り絞っておよそ3万円のプリメインアンプを買うところから始まった。それからおよそ15年、ひたすらオーディオを愛し、楽しみ、MOONの740Pと860A v2という、当時からすれば内容的にも金額的にも想像すらできなかったアンプを導入するに至った。我ながら、ずいぶんと恐ろしいところまでやってきてしまったものだと思う。それでも、後悔はない。心から惚れ込んだスピーカーと、そのスピーカーを十全に鳴らすアンプ。満足だ。
(提供:DYNAUDIO JAPAN)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.182』からの転載です
■Sapphireの実力を引き出すアンプを求めて
筆者がMOON(ムーン)のプリアンプ「740P」とパワーアンプ「860A v2」を導入してからおよそ1年。今回はその導入記を書く機会を得たので、ブランドや製品との出会いから、筆者のシステムにおける活用と所感まで、心の赴くままに紹介していきたい。
まず前提として、おそらく多くのオーディオファンがそうであるように、筆者も「スピーカーをより良く鳴らしたい」という欲求がある。特に筆者の場合、9年以上前に念願かなってDYNAUDIOのSapphire(サファイア)を手に入れて以来、「オーディオシステムの主役はスピーカーである」という意識が強く、アンプに求めるのはまさに「Sapphireの実力を引き出す」こと、その一点だった。740Pと860A v2のペアは、Sapphireと組み合わせという点では4代目のアンプになる。
MOONとはカナダのオーディオメーカーであるSIMAUDIOのブランドである。存在自体は10年ほど前から知っていたが、「誠実な製品づくりを続けているメーカーなんだな」と思う程度で、その時点ではさほど気になるブランドではなかった。時が経ち、海外のさまざまなオーディオショウにおいてDYNAUDIOのスピーカーとMOONのアンプがまるで純正ペアのごとく組み合わせられていることを知る。
2018年にミュンヘンのハイエンドショウで、DYNAUDIOの新たなフラグシップであるConfidenceシリーズがお披露目された時も、使用されているアンプはやはりMOON製品だった。アンプとしての実力やスピーカーとの相性の良さは当然として、製品やブランドに対してよほどの信頼がなければ、決してこのような扱いにはなるまい。先述のとおり、筆者がアンプに求めるのはまさにDYNAUDIOのスピーカー/Sapphireの実力を引き出すことなので、MOONのアンプは俄然気になる存在になっていった。
その後、Evolutionシリーズのパワーアンプが860A v2にモデルチェンジしたタイミングで740Pとのペアで自宅試聴を行い、Sapphireを導入した時以来の巨大な衝撃を受け、筆者のアンプ遍歴に終止符を打つ覚悟で導入を決めたという流れである。
■5cm厚の無垢木材をパワーアンプ専用のボードに
導入に際し、740Pはオリジナルのカバ集成材ラックの最下段(もともとプリアンプの導入を見越して空けていたスペース)に設置し、860A v2には40kgという重量をしっかり支えるべく、厚さ5cmのハードメイプル無垢材のボードを用意した。ちなみになぜハードメイプルを選んだかというと、恥ずかしながらなんとも単純な話で、MOONがカナダのブランドだから、である。
ちなみにMOONのEvolutionシリーズの製品は共通してねじ込み式のコーンスパイクを採用しているのだが、この部分はやろうと思えば交換も可能なようだ。860A v2の脚部については重量に対していささか物足りなさを感じるので、将来的に他社製インシュレーターの使用も検討したい。
なお、なるべくスピーカーの間に物を置きたくないこと、ファイル再生を追求する過程でいろいろと機器が増えてしまったことから、筆者のシステムは部屋の前方にパワーアンプとスピーカー、後方にプリアンプまでの上流機器を置き、前後を長尺のケーブルで繋ぐという構成にしている。Sapphireと並べてもなお、860A v2はその存在感においてまったく見劣りしないのは流石である。
740Pと860A v2の音質的な特徴はひと言で言えば「ニュートラル」ということになるのだろう。Sapphireから出てくる音は熱いとか冷たいとか、押し出しが強いとか艶があるとか、そういったアンプの特色ともいうべきものはほとんど意識させず、「ただ音楽がある」という印象を受ける。空間は透明かつ広大、音楽のごく細部にいたるまで描写の精密さが維持され、部屋全体を膨大な情報量で満たす。特筆すべきはダイナミックレンジの広さで、音楽の展開に必要とされるエネルギーが俊敏に、かつ底知れない余裕をもって供給され、繊細さと豪胆さがさも当然のように両立する。
つまるところ、740Pと860A v2のペアは、「スピーカーを駆動する」というアンプの本懐において純粋に、著しく高性能なのだ。かといって、再生音はオーディオ的な凄味ばかりが強調されることもなく、あくまでも音楽をいい音で聴く、オーディオの根源的な喜びが満ちている。徹底して磨き抜かれたアンプとしての高い性能と、音楽を聴いた際のこのうえない充実感を同時に、完璧に備えているのである。
筆者はSapphireのほかに、「もうひとつのレファレンス」として、同じくカナダのスピーカーメーカーであるParadigmのブックシェルフスピーカーPersona Bを使用している。全帯域を純ベリリウム・ドライバーが担うPersona Bは真に無色透明な再生音を身上とするスピーカーであり、740P/860A v2との組み合わせはその傾向がさらに研ぎ澄まされ、透徹した空間表現、微塵の曖昧さもない精緻な描写など、現代オーディオのひとつの極致とさえ思える。カナダのオーディオブランド、おそるべしである。
■ホームシアターにおける銃撃や爆発といった瞬発力でも満足度が高い
筆者のシステムはピュアオーディオとホームシアターを両立させており、「映像音響の再生」という点も述べておきたい。映像音響では一般的な音楽とは一線を画した強烈な低音や、銃撃や爆発といった瞬間的な大音量が収録されていることがままあり、そうした効果音を再生するために、アンプの側にも高い能力が必要となる。860A v2はそのシビアな要求にも完璧に応えており、微小な効果音の緻密な描写、時として狂暴ですらある音の瞬発力、極大スケールのスペクタクルといった要素をたやすく同居させている。
使っている機器の価格からして筆者のシステムは多分に「フロント一点豪華主義」といえるが、実際の映像音響においてフロントが最も重要であることは確かであり、その強化は体験の向上に直結する。事実、860A v2の導入により、筆者宅のシアターサウンドはかつてなく充実したものとなった。
■惚れ込んだスピーカーのポテンシャルを、アンプが引き出してくれた
ひとつ白状すると、近年はDYNAUDIOの新ConfidenceシリーズやParadigmのPersonaシリーズなど、最新世代のハイエンドスピーカーを聴く機会が数多くあり、その結果、筆者のSapphireにある種の限界を感じ始めていた。しかし、MOONアンプの導入によって、それはまったくの思い違いだったことが分かった。自分が惚れ込んだスピーカーから、想像もできなかったほど素晴らしい音が流れ出す。これこそ、アンプの導入で得られる最大の喜びではないだろうか。
「スピーカーの実力をどれだけ引き出せるか」という点において、アンプの重要性はいまさら語るまでもない。組み合わせるアンプによって、スピーカーから出てくる音が一変する。筆者自身、幾度となく味わってきた経験だ。その度にそのたびに、オーディオの面白さや奥深さを実感し、自分の好きな音楽や映画が別物のような表情を見せる様に心を動かしてきた。それを踏まえてもなお、740Pと860A v2を導入し、その音に触れた時ほど、アンプの重要性を実感したことはなかった。語るまでもないオーディオの基本を、改めて、心の底から、MOONのセパレートアンプが再確認させてくれたことは事実である。
筆者のアンプ遍歴は、学生時代、勇気を振り絞っておよそ3万円のプリメインアンプを買うところから始まった。それからおよそ15年、ひたすらオーディオを愛し、楽しみ、MOONの740Pと860A v2という、当時からすれば内容的にも金額的にも想像すらできなかったアンプを導入するに至った。我ながら、ずいぶんと恐ろしいところまでやってきてしまったものだと思う。それでも、後悔はない。心から惚れ込んだスピーカーと、そのスピーカーを十全に鳴らすアンプ。満足だ。
(提供:DYNAUDIO JAPAN)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.182』からの転載です