公開日 2016/11/17 16:01
GIGA MUSIC独占先行配信!歌手・堺 正章の歌声と魅力が詰まった「サウンド・ナウ!」がハイレゾで甦る
連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
音楽配信サイト「GIGA MUSIC」にて、名門・日本コロムビアが擁する選りすぐりの未ハイレゾ化音源が、続々とハイレゾで登場している。しかも独占先行配信。既に様々なアーティストの音源が配信中で、今後も多彩なラインナップが予定されている。
Phile-webではこのハイレゾ音源を連続レビューする企画を展開している。リリース当時のエピソードや、ハイレゾになったからこそ注目したい聴きどころをたっぷりとご紹介したい。
サウンド・ナウ! / 堺 正章
96kHz/24bit FLAC
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堺 正章の歌唱力と魅力が存分に味わえる名盤がハイレゾで登場
この人の名を聞いて大抵は後年のテレビ司会者か俳優の姿を思い浮かべるのではないか。堺 正章。GSきっての人気バンド、ザ・スパイダースのメンバーで女の子のアイドル「マチャアキ」だ。
ザ・スパイダースには忘れ難い記憶がある。ポップスを聴き始めた中学生の頃、筆者はご多分に漏れず、FEN(現:AFN。在日米軍極東放送)の音楽番組の熱心なリスナーだった。ビルボードやキャッシュボックスの最新ヒットやジャズが一年中流れていたが、ある土曜日の昼下がり、米人のDJが“Japanese nice new song.”と紹介して突然流れたのが、ザ・スパイダースの新曲「あの時君は若かった」。
今では別に不思議でないが日本のポップスがアメリカの放送で取り上げられるのは、当時は画期的というか衝撃的事件だった。誇らしいような、何ともいえない嬉しさがこみ上げたことを今も覚えている。つまり、ザ・スパイダースは、バタ臭いポップスフィーリングという点でGS中最右翼の存在だったのだ。
堺 正章と井上 順の二人がツートップでリードヴォーカルを務める。陽気でひょうきんでコミカルな三枚目の堺「マチャアキ」に対し、人懐っこい笑顔が可愛い二枚目、井上「順ちゃん」とキャラクターが対照的。それに加えてムッシューこととぼけた味のかまやつひろしがバックに控えバンド内のキャラクターの演じ分けが出来ていた。
ソロ歌手に転じてからもそう。堺は明るく楽しいが奥にこつんとした芯を感じさせる実直な若者の心を歌う。一方の井上はノンシャランだが、どこか哀愁を感じさせるナイーブな歌の主人公。かまやつひろしという人はミュージシャンの立場をつねに貫いた人だ。歌って踊って芝居ができてメンバーの「単品売り」が出来るという点でザ・スパイダースと平成のSMAPは似ている。
ちなみにザ・スパイダースのリーダーはAKBメンバー結婚騒動で週刊誌を賑わした田辺エージェンシー社長の田邊昭知氏だ。先見の明、さすがである。もしかして、ザ・スパイダース自体が小規模芸能プロだったのかも。
今回、フェイス・ワンダワークスから堺 正章の名盤「サウンド・ナウ!」(1972年)が配信開始された。シングルヒットの寄せ集めでなく、堺がソロ歌手としてヒットを連発していた時期の代表作。しかも、96KHz/24bitのハイレゾリマスターだ。それでは、LP→CD→ハイレゾ配信と脱皮を重ねた名盤をハイレゾで聴いてみよう。
レギュラーレコーディングアルバムの本作は前年の大ヒット曲「さらば恋人」を含まない、全12曲中10曲が書き下ろしのオリジナルアルバムだ。シングルヒットに頼らない企画の姿勢から日本コロムビアの自信の程、堺がいかに多くのファンを持っていたかが分かろうというものだ。収録の12曲全てを筒美京平が作曲、名パートナー橋本 淳の他、阿久 悠、千家和也ら作詞陣に一流所をずらり揃える。
全曲を聴くと、先に紹介した堺 正章のキャラクターに密着した歌の世界が造型されている。それは、道化役になって恋人や周辺をもり立て励ましてくれる友人だったり、喪失の悲しみを内側に持っていても決して外に出さない青年だったり、オチャラけているが芯は実直なしっかり者でこの男なら一生を共に出来るかも、と女性に思わせる男だったりする。
一言で言うとテーマは「包容力」。歌謡曲のアルバムだが連作小説のような一種のトータルアルバム。それも堺 正章の歌の実力あってだ。決して美声でないが倍音の乗った明るく伸びのある声は声量豊かで抑揚に富み、歌詞からドラマ性を引き出す力と表情がある。ザ・スパイダース時代には1日何ステージもこなしていたに違いない。ライブで鍛えられた強い喉だ。GS時代の人気は伊達ではない。ハイレゾで聴いてこの人の歌唱力を実感した次第だ。
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