公開日 2022/04/14 06:30
サムスン「Galaxy」発表会で見えた戦略の変化。2つの「意外」とその理由
【連載】佐野正弘のITインサイト 第2回
4月7日、サムスン電子ジャパンは、同社の「Galaxy」ブランドのスマートフォンなど新製品を発表しましたが、その内容はかなり意外なものでした。同社の日本向け戦略にどのような変化が起きているのかを確認したいと思います。
■Galaxyの新製品発表で感じた、2つの「意外」
Galaxyシリーズのスマートフォンといえば、これまで日本では主としてNTTドコモやKDDIなどの携帯大手から販売され、そのラインアップも最新技術を詰め込んだハイエンドモデルが中心、という認識の人が多いかと思います。
確かに今回発表された新製品でも、中心に据えられていたのは携帯大手から販売されるフラッグシップモデルの「Galaxy S22」シリーズで、中でも力を入れてアピールされていたのは最上位モデルの「Galaxy S22 Ultra 5G」でした。
Galaxy S22 Ultraは6.6インチの大画面ディスプレイと最大100倍ズームに対応した4つのカメラに加え、かつての「Galaxy Note」シリーズのように、独自のペン「Sペン」が内蔵できる機構を備えたのが大きな特徴。Galaxy Noteシリーズの特徴を取り込みながらも、スタンダードなスマートフォンとしての進化に力を注いだモデルに仕上がっており、発表会でも注目を集めていたことは確かです。
ですが前機種の「Galaxy S21 Ultra 5G」が日本で投入されていることを考えれば、Galaxy S22 Ultra 5Gの投入に、意外性はそれほどありません。
では何が意外だったのかといいますと、1つは「SIMフリー」、つまり家電量販店やECサイトなどで販売されるオープン市場に向けたスマートフォン「Galaxy M23 5G」の投入を発表したことです。
このモデルはもともとインドなどの新興国で販売されていたもので、国内におけるAmazon.co.jpでの販売価格は4万975円と比較的安め。ですが6.6インチの大画面と5,000mAhのバッテリー、5,000万画素の解像度を持つカメラなど3つのカメラ、そしてミドルクラスとしては上位のチップセット「Snapdragon 750G」を搭載するなど性能は充実しており、コストパフォーマンスに重点を置いたモデルであることが分かります。
実は日本において、サムスン電子がオープン市場向けスマートフォンを投入するのは初めてのこと(数量限定の特別モデルなどを除く)。既に競合他社は何らかの形でオープン市場向けモデルを販売していることから、意外にもサムスン電子がオープン市場に参入したのは、最後発でもあるわけです。
そしてもう1つ意外だったのは、約7年ぶりにタブレットの「Galaxy Tab S8」シリーズ2機種を日本市場に投入すると発表したことです。販売されるのは「Galaxy Tab S8+」「Galaxy Tab S8 Ultra」の2機種で、いずれもGalaxy S22シリーズと同じチップセットを搭載するなど性能は非常に高いのですが、そのぶん値段も高く、Amazon.co.jpにおけるGalaxy Tab S8+の価格は11万5500円となっています。
一連の製品を見ると、サムスン電子が急速にオープン市場に力を入れてきていることは分かるのですが、投入された製品がミドルクラスのスマートフォンと、ハイエンドのタブレットということには、一貫性がないようにも感じてしまいます。では一体、両製品をオープン市場向けに投入したねらいはどこにあるのでしょうか。
■オープン市場に向けて市場投入したねらいとは
サムスン電子ジャパンのCMOである小林謙一氏は、Galaxy M23 5Gの投入に関して、「市場と顧客のニーズの変化」を挙げています。
従来スマートフォンは通信回線とセットで購入・契約するものでしたが、政府が2019年の電気通信事業法改正で通信契約と端末販売の完全分離を義務化したことを契機として、利用者の購入の仕方も多様化してきており、オープン市場を求める顧客のニーズが増えてきたことから「もう出さないといけない」と判断したとのことです。
その第1弾としてミドルクラスのGalaxy M23 5Gを選んだことにも、法改正が大きく影響したといえるでしょう。
政府が一連の法改正などを打ち出し、ここ数年のうちにスマートフォンの大幅値引きに非常に厳しい規制を敷いたことからフラッグシップモデルの販売が振るわなくなり、販売の主力は低価格のミドルクラスへと移っています。とりわけオープン市場では価格競争力が求められるだけに、コストパフォーマンス重視のGalaxy M23 5Gが選ばれたと考えられるわけです。
では、Galaxy Tab S8シリーズを投入した理由はどこにあるのでしょうか。小林氏はその理由について「エコシステム」を挙げています。サムスン電子は日本でスマートフォンの販売に集中してきた印象がありますが、実はウェアラブルの「Galaxy Watch」や、ワイヤレスイヤホンの「Galaxy Buds」なども同時に展開しています。
それに加えて海外では、タブレットの「Galaxy Tab」やノートパソコンの「Galaxy Book」など、Galaxyブランドの製品をより多く展開し、スマートフォンを軸としたエコシステムの構築を進めて、ユーザーの継続的な製品購入へとつなげているのです。今回再びタブレットの投入に至ったのには、そうしたエコシステムの展開を日本でも展開したい狙いが強いといえるでしょう。
■日本では「狭く深く」を重要視
ただそこで課題になってくるのは、日本における同社のシェアです。サムスン電子は世界的に見ればスマートフォンの最大手ですが、日本では半数以上のシェアを持つアップルが圧倒的に強く、「iPhone」を軸に「iPad」や「Apple Watch」、「Mac」など他のハードウェア販売に結びつけるエコシステムを構築しています。
一方で、日本のスマートフォン市場におけるサムスン電子のシェアは、各種調査を見る限りでは3〜4番手といったところ。アップルには大きく水を空けられているため、同様のエコシステムを展開してもターゲットとなるユーザー数が少なく、アップルのようには販売を広げられないのが難点です。
そこでサムスン電子では、高額なフラッグシップモデルを購入してくれる、少数ながらも熱心なユーザーを対象に、高額かつ高付加価値の製品を販売して利益を高めることを狙おうとしているのではないかと考えられます。
実際に小林氏によると、元々国内向けにGalaxy Tab S8 Ultraを投入する予定はなかったそうですが、熱心なファンが参加するオンラインでのユーザーイベントで、Galaxy Tab S8 Ultraを求める声が非常に多かったことから、急遽販売を決めたと語っており、“狭く深く”の戦略を取ろうとしていることがうかがえます。
そして同社がオープン市場を活用したエコシステム展開の本格化に至ったのも、やはり一連の法改正によるスマートフォン値引き規制が直撃し、携帯電話会社に依存した販売に限界が見えてきたからでしょう。
それだけに今後は、いかに携帯電話会社主体のビジネスから自立を図り、自社単独での販売を拡大できるかが、サムスン電子の日本戦略にとって重要になってきそうです。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。
■Galaxyの新製品発表で感じた、2つの「意外」
Galaxyシリーズのスマートフォンといえば、これまで日本では主としてNTTドコモやKDDIなどの携帯大手から販売され、そのラインアップも最新技術を詰め込んだハイエンドモデルが中心、という認識の人が多いかと思います。
確かに今回発表された新製品でも、中心に据えられていたのは携帯大手から販売されるフラッグシップモデルの「Galaxy S22」シリーズで、中でも力を入れてアピールされていたのは最上位モデルの「Galaxy S22 Ultra 5G」でした。
Galaxy S22 Ultraは6.6インチの大画面ディスプレイと最大100倍ズームに対応した4つのカメラに加え、かつての「Galaxy Note」シリーズのように、独自のペン「Sペン」が内蔵できる機構を備えたのが大きな特徴。Galaxy Noteシリーズの特徴を取り込みながらも、スタンダードなスマートフォンとしての進化に力を注いだモデルに仕上がっており、発表会でも注目を集めていたことは確かです。
ですが前機種の「Galaxy S21 Ultra 5G」が日本で投入されていることを考えれば、Galaxy S22 Ultra 5Gの投入に、意外性はそれほどありません。
では何が意外だったのかといいますと、1つは「SIMフリー」、つまり家電量販店やECサイトなどで販売されるオープン市場に向けたスマートフォン「Galaxy M23 5G」の投入を発表したことです。
このモデルはもともとインドなどの新興国で販売されていたもので、国内におけるAmazon.co.jpでの販売価格は4万975円と比較的安め。ですが6.6インチの大画面と5,000mAhのバッテリー、5,000万画素の解像度を持つカメラなど3つのカメラ、そしてミドルクラスとしては上位のチップセット「Snapdragon 750G」を搭載するなど性能は充実しており、コストパフォーマンスに重点を置いたモデルであることが分かります。
実は日本において、サムスン電子がオープン市場向けスマートフォンを投入するのは初めてのこと(数量限定の特別モデルなどを除く)。既に競合他社は何らかの形でオープン市場向けモデルを販売していることから、意外にもサムスン電子がオープン市場に参入したのは、最後発でもあるわけです。
そしてもう1つ意外だったのは、約7年ぶりにタブレットの「Galaxy Tab S8」シリーズ2機種を日本市場に投入すると発表したことです。販売されるのは「Galaxy Tab S8+」「Galaxy Tab S8 Ultra」の2機種で、いずれもGalaxy S22シリーズと同じチップセットを搭載するなど性能は非常に高いのですが、そのぶん値段も高く、Amazon.co.jpにおけるGalaxy Tab S8+の価格は11万5500円となっています。
一連の製品を見ると、サムスン電子が急速にオープン市場に力を入れてきていることは分かるのですが、投入された製品がミドルクラスのスマートフォンと、ハイエンドのタブレットということには、一貫性がないようにも感じてしまいます。では一体、両製品をオープン市場向けに投入したねらいはどこにあるのでしょうか。
■オープン市場に向けて市場投入したねらいとは
サムスン電子ジャパンのCMOである小林謙一氏は、Galaxy M23 5Gの投入に関して、「市場と顧客のニーズの変化」を挙げています。
従来スマートフォンは通信回線とセットで購入・契約するものでしたが、政府が2019年の電気通信事業法改正で通信契約と端末販売の完全分離を義務化したことを契機として、利用者の購入の仕方も多様化してきており、オープン市場を求める顧客のニーズが増えてきたことから「もう出さないといけない」と判断したとのことです。
その第1弾としてミドルクラスのGalaxy M23 5Gを選んだことにも、法改正が大きく影響したといえるでしょう。
政府が一連の法改正などを打ち出し、ここ数年のうちにスマートフォンの大幅値引きに非常に厳しい規制を敷いたことからフラッグシップモデルの販売が振るわなくなり、販売の主力は低価格のミドルクラスへと移っています。とりわけオープン市場では価格競争力が求められるだけに、コストパフォーマンス重視のGalaxy M23 5Gが選ばれたと考えられるわけです。
では、Galaxy Tab S8シリーズを投入した理由はどこにあるのでしょうか。小林氏はその理由について「エコシステム」を挙げています。サムスン電子は日本でスマートフォンの販売に集中してきた印象がありますが、実はウェアラブルの「Galaxy Watch」や、ワイヤレスイヤホンの「Galaxy Buds」なども同時に展開しています。
それに加えて海外では、タブレットの「Galaxy Tab」やノートパソコンの「Galaxy Book」など、Galaxyブランドの製品をより多く展開し、スマートフォンを軸としたエコシステムの構築を進めて、ユーザーの継続的な製品購入へとつなげているのです。今回再びタブレットの投入に至ったのには、そうしたエコシステムの展開を日本でも展開したい狙いが強いといえるでしょう。
■日本では「狭く深く」を重要視
ただそこで課題になってくるのは、日本における同社のシェアです。サムスン電子は世界的に見ればスマートフォンの最大手ですが、日本では半数以上のシェアを持つアップルが圧倒的に強く、「iPhone」を軸に「iPad」や「Apple Watch」、「Mac」など他のハードウェア販売に結びつけるエコシステムを構築しています。
一方で、日本のスマートフォン市場におけるサムスン電子のシェアは、各種調査を見る限りでは3〜4番手といったところ。アップルには大きく水を空けられているため、同様のエコシステムを展開してもターゲットとなるユーザー数が少なく、アップルのようには販売を広げられないのが難点です。
そこでサムスン電子では、高額なフラッグシップモデルを購入してくれる、少数ながらも熱心なユーザーを対象に、高額かつ高付加価値の製品を販売して利益を高めることを狙おうとしているのではないかと考えられます。
実際に小林氏によると、元々国内向けにGalaxy Tab S8 Ultraを投入する予定はなかったそうですが、熱心なファンが参加するオンラインでのユーザーイベントで、Galaxy Tab S8 Ultraを求める声が非常に多かったことから、急遽販売を決めたと語っており、“狭く深く”の戦略を取ろうとしていることがうかがえます。
そして同社がオープン市場を活用したエコシステム展開の本格化に至ったのも、やはり一連の法改正によるスマートフォン値引き規制が直撃し、携帯電話会社に依存した販売に限界が見えてきたからでしょう。
それだけに今後は、いかに携帯電話会社主体のビジネスから自立を図り、自社単独での販売を拡大できるかが、サムスン電子の日本戦略にとって重要になってきそうです。
※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。