公開日 2017/03/27 10:54
コンテクストを理解した多言語対応
【集中連載】現地で見たNetflix “最強” の理由(5)独自の翻訳システムで20カ国以上に配信
山本 敦
山本 敦氏が米Netflixの本社を訪問、Netflixの最新動向やその取り組み、今後の展開についてレポートしていく連続企画。第5回目では、世界20カ国以上でコンテンツを配信するために重要な、多言語へのサポート体制について触れる。
■世界20カ国以上の言語で作品を提供するNetflix独自の翻訳システム
世界190カ国以上でサービスを提供するNetflixでは、英語を母国語とする地域以外でも快適に楽しめるよう、20カ国を超える言語でのコンテンツ配信にも力を入れている。同部門の技術開発をリードするのは、Director,Content Localization & Quality Control, Content OperationsのDennis Sheehan氏、ならびにDirector, Content Partner OperationsのChris Fetner氏だ。
17日に配信がスタートした『アイアン・フィスト』も、封切り当初は22カ国、その後4カ国の言語に対応を広げていく。ポイントになるのは「サブタイトル(字幕)」と「吹き替え」の多言語バージョン製作だ。
言語の翻訳については、Netflixから直接依頼する翻訳のエキスパートのほか、世界各国に散らばる計34社のエージェントとコンタクトを取りながら質の高いコンテンツ製作を目指している。1シリーズ・13作品前後のドラマについては、翻訳を上げてプルーフチェックが完了するまでに平均して約2ヶ月の工程を費やしているという。
字幕翻訳については学術研究者の見識も採り入れながら、独自のスタイルガイドラインを作成している。これを翻訳者やプルーフチェックの管理者に徹底して参照させることで、一貫して品質の高い翻訳を提供するための土台を整備している。
「翻訳者にはなるべくストーリーや作品の世界観を含めたコンテクストを理解したうえでの高いレベルの翻訳を要求しています。そうすることで、エピソードやシーズンごとに翻訳のバラツキが発生しない一貫性のある翻訳を視聴者に提供することができるからです」とSheehan氏。ユーザーインターフェースの部門とも連携を取りながら、フォントの見え方などについても徹底して自然さを追求しているという。
また字幕は役者の台詞まわしにスピードを合わせたり、行を送るタイミングや略語の使い方などにもリアリティを追求している。筆者も最近のNetflixのコンテンツを字幕付きで視聴している際、国内ローンチの頃に比べて翻訳の精度が格段にアップしていると感じていた。
最新作の『アイアン・フィスト』では、スピーディーなストーリー展開をテンポの良い字幕がサポートしている。キャストの今風な言葉づかいについても、スターバックスを“スタバ”と訳したり臨機応変な対応ができている。外国語のバリアを超えて自然と作品の舞台に身を投じるためには、これら翻訳の妙技によるサポートが欠かせない。
吹き替えについても、キャスティングの段階から入念なオーディションを行っているそうだ。役者の台詞に抑揚を持たせたり、リップシンクに気をつかうといった点にもきちんと目を向けている。ただ、日本の映画やテレビの字幕製作が非常にハイレベルであるため、Sheehan氏の説明を聞いていても「やっていて当たり前」のことのように筆者には感じられる。
だがセミナーの後にスタッフに話をうかがったところ、海外では地域によっては、作品に複数の役者が出ていたとしても、吹き替えは一人のキャストが全部やってしまうというケースもあるようだ。また海外映画は「字幕を読むのが面倒」という理由で吹き替えてしまうという地域も少なくない。
字幕版を好んで見るのは意外に日本くらいかもしれないと思っていたが、サービスを提供する地域のユーザーから寄せられる要望を第一に考えながら、字幕や吹き替えといった小道具にも常に磨きをかけるNetflixの姿勢に改めて好感を持つと共に、同社のスケールの大きさを感じた。
Netflixのスケールの大きさを物語るエピソードがもう一つ。同社は翻訳者の質をより高めるために、自社でオンライン版の試験ソフト「HERMES(ハーミス)」を開発してしまったのだ。Fentner氏は「既存の翻訳者のレベルアップだけでなく、新たな翻訳者の才能を発掘するためのツールでもある」とハーミスの位置づけを説明する。
テストの内容はTOEICのように例文から選択する方式と、動画を見て最適な翻訳を筆記する方式のふたつで構成されている。筆者はまだトライしていないが、その難易度はかなり高めだという。誰でも腕試しができるので、我こそはと思う方はHERMES(ハーミス)を訪れてみてはいかがだろうか。
(山本 敦)
■世界20カ国以上の言語で作品を提供するNetflix独自の翻訳システム
世界190カ国以上でサービスを提供するNetflixでは、英語を母国語とする地域以外でも快適に楽しめるよう、20カ国を超える言語でのコンテンツ配信にも力を入れている。同部門の技術開発をリードするのは、Director,Content Localization & Quality Control, Content OperationsのDennis Sheehan氏、ならびにDirector, Content Partner OperationsのChris Fetner氏だ。
17日に配信がスタートした『アイアン・フィスト』も、封切り当初は22カ国、その後4カ国の言語に対応を広げていく。ポイントになるのは「サブタイトル(字幕)」と「吹き替え」の多言語バージョン製作だ。
言語の翻訳については、Netflixから直接依頼する翻訳のエキスパートのほか、世界各国に散らばる計34社のエージェントとコンタクトを取りながら質の高いコンテンツ製作を目指している。1シリーズ・13作品前後のドラマについては、翻訳を上げてプルーフチェックが完了するまでに平均して約2ヶ月の工程を費やしているという。
字幕翻訳については学術研究者の見識も採り入れながら、独自のスタイルガイドラインを作成している。これを翻訳者やプルーフチェックの管理者に徹底して参照させることで、一貫して品質の高い翻訳を提供するための土台を整備している。
「翻訳者にはなるべくストーリーや作品の世界観を含めたコンテクストを理解したうえでの高いレベルの翻訳を要求しています。そうすることで、エピソードやシーズンごとに翻訳のバラツキが発生しない一貫性のある翻訳を視聴者に提供することができるからです」とSheehan氏。ユーザーインターフェースの部門とも連携を取りながら、フォントの見え方などについても徹底して自然さを追求しているという。
また字幕は役者の台詞まわしにスピードを合わせたり、行を送るタイミングや略語の使い方などにもリアリティを追求している。筆者も最近のNetflixのコンテンツを字幕付きで視聴している際、国内ローンチの頃に比べて翻訳の精度が格段にアップしていると感じていた。
最新作の『アイアン・フィスト』では、スピーディーなストーリー展開をテンポの良い字幕がサポートしている。キャストの今風な言葉づかいについても、スターバックスを“スタバ”と訳したり臨機応変な対応ができている。外国語のバリアを超えて自然と作品の舞台に身を投じるためには、これら翻訳の妙技によるサポートが欠かせない。
吹き替えについても、キャスティングの段階から入念なオーディションを行っているそうだ。役者の台詞に抑揚を持たせたり、リップシンクに気をつかうといった点にもきちんと目を向けている。ただ、日本の映画やテレビの字幕製作が非常にハイレベルであるため、Sheehan氏の説明を聞いていても「やっていて当たり前」のことのように筆者には感じられる。
だがセミナーの後にスタッフに話をうかがったところ、海外では地域によっては、作品に複数の役者が出ていたとしても、吹き替えは一人のキャストが全部やってしまうというケースもあるようだ。また海外映画は「字幕を読むのが面倒」という理由で吹き替えてしまうという地域も少なくない。
字幕版を好んで見るのは意外に日本くらいかもしれないと思っていたが、サービスを提供する地域のユーザーから寄せられる要望を第一に考えながら、字幕や吹き替えといった小道具にも常に磨きをかけるNetflixの姿勢に改めて好感を持つと共に、同社のスケールの大きさを感じた。
Netflixのスケールの大きさを物語るエピソードがもう一つ。同社は翻訳者の質をより高めるために、自社でオンライン版の試験ソフト「HERMES(ハーミス)」を開発してしまったのだ。Fentner氏は「既存の翻訳者のレベルアップだけでなく、新たな翻訳者の才能を発掘するためのツールでもある」とハーミスの位置づけを説明する。
テストの内容はTOEICのように例文から選択する方式と、動画を見て最適な翻訳を筆記する方式のふたつで構成されている。筆者はまだトライしていないが、その難易度はかなり高めだという。誰でも腕試しができるので、我こそはと思う方はHERMES(ハーミス)を訪れてみてはいかがだろうか。
(山本 敦)