公開日 2023/05/02 06:30
「ポタフェス」の成長を担った“イヤホン王子”が社長に
【インタビュー】「e☆イヤホン」の(株)タイムマシン 新社長 岡田卓也氏のさらなるチャレンジとは
PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
2007年に創業、大阪、東京・秋葉原、名古屋、仙台の各地の店舗に加え、Web通販でイヤホン・ヘッドホンの専門店e☆イヤホンを展開する株式会社タイムマシン。このほど、創業者であり代表取締役の大井裕信氏に次いで、岡田卓也氏が新たに取締役社長に就任した。かねてからe☆イヤホンの名物スタッフとしてテレビ出演も果たし、“イヤホン王子”の異名も持つ活躍ぶりも知られた岡田氏。就任に際してのインタビュー取材にて、これまでの歩みをあらためて振り返っていただくとともに、新たな立場となっての心境や意気込みを語っていただいた。
株式会社タイムマシン
取締役社長
岡田卓也氏
プロフィール/1988年生。2010年アルバイトスタッフとしてe☆イヤホン勤務。2011年株式会社タイムマシン入社。2013年PR担当就任。2015年執行役員就任。2021年取締役就任。2023年4月取締役社長就任。
―― このたびの新社長ご就任、誠におめでとうございます。この機会に岡田さんのこれまでのあゆみと現在、そしてこれからについて聞いて参りたいと思います。まずご経歴を紹介くださいますか。
岡田 ありがとうございます。ちょっと緊張しますね……。僕は以前、アルバイトとして2010年10月にe☆イヤホンに入社したんです。大学時代からイヤホンが好きでしたし、資格の勉強をするのが趣味でもあって、会計士になるために大阪で勉強していた頃でした。
ちょうどその頃SHUREのSE535が出て、店でものすごく売れたのを目の当たりにし、イヤホンの世界はすごいなと思いました。そして2011年に会社が秋葉原に出店する際、準備を進めている時に東日本大震災が起きて数ヶ月延期になりました。そんな中、会社にもお金がない状態にもかかわらず、大井たち上層部が強く希望して被災者の方々に寄付をしたんですね。そこに温かさを感じて僕は心を決め、タイムマシンの社員になったんです。
―― 岡田さんにとって、当時社長であった大井さんはどんな印象でしたか。
岡田 当時の大井はアフロヘアでしたし、どんな人なんだろうと最初は思いましたよ。でも中身はしっかりしていて、シャイで、ビジネスが本当に好きなんですよね。そんな大井に、僕は面白いと思ってもらえたようで、ずっと可愛がってもらってきたと思います。
会社の中で新しいことに挑戦する時は、僕自身も常々やりたいと言っていますが、だいたい大井が僕に出番を回してくれたんです。最初の大きな仕事は、2012年に秋葉原で行った初めてのイベント「ポタフェス」の立ち上げでした。
―― 「ポタフェス」はイヤホン、ヘッドホンのイベントとして当初から話題でしたね。最初に大阪で、そして秋葉原で行われて、そこから回を重ねるごとに規模が大きくなっていきました。
岡田 最初の大阪開催は、移転したばかりの大阪本店の店内でしたが、あの時は試聴会というイメージで、ご来場者数も300人程度とまだ小規模でした。その後の秋葉原での展開は、まさに僕がさせてもらったんです。
会場はベルサール秋葉原の2F、最初はワンフロアでしたけれど、とにかくすごく大変でした。僕もイベントのやり方はわからないし、当時はメーカーさんとのお取引も今ほどなくて。それに秋葉原のお店もまだ軌道に乗る前だったものですから。
そんな中でなんとか実現させたイベントが、2000人もの方に来ていただけたんですね。それが自分の中で、大きな成功体験になりました。関係したスタッフも忙しくて大変だったと思いますけど、皆いい顔をしていたんです。たくさんの方に来ていただいて、お客様にも出展メーカーの方にも喜んでいただいて、そしてスタッフにも楽しかったと言ってもらえ、お店の売り上げも上がりました。皆が幸せになれるイベントができたことは、自分の中で本当にいい体験でした。
そこからは、イベントを中心に活動していきます。とにかくたくさんの人を呼びたい、新しいことをやりたい、大井をびっくりさせたい、そんな一心でした。新しい要素を必ず毎回入れる、ということでフロアを増やしたり、ライブをやったり。カーオーディオの導入、飲食などいろいろと挑戦してきました。そして回を重ねるごとにご来場者数も、ご協力メーカーさんも増えていき、メディアの方にもたくさん来ていただけるようになりました。おかげさまで最初の「ポタフェス」開催の翌月から、お店のお客様も一気に増え、そこから秋葉原店が軌道に乗り、会社の急成長ともリンクすることになりました。
お客様が製品を試聴する、体験する、これはとても大事なことで、当社のビジネスモデルの一番大事な根幹にあるものです。それをいかに多くの方に広げていけるかに常に注力していますし、「ポタフェス」はそのための大きな手段なんです。
―― 岡田さんはPRのお仕事もなさって、テレビにもよく出演されていました。
岡田 「ポタフェス」以降はPRの担当です。テレビは2014年の7月、TBSの「マツコの知らない世界」に出演させていただいたのが最初ですが、これも僕の中では大きな出来事でした。当時大井から動画を月に100本上げろと言われて僕が撮った動画を「マツコの知らない世界」のプロデューサーさんが見て、オファーをくださったんですね。
テレビに出演したら、やはりすごく反響があって、店に注文が殺到して僕自身が一番びっくりしました。そこからメディア関連のお仕事もいただくようになり、僕としてもイヤホンの魅力をちゃんとお伝えしたい思いでやらせていただいてきました。“イヤホン王子”と名付けていただいたのもその頃ですね。
―― “イヤホン王子”の今後の活動が気になりますが、どうされますか?
岡田 僕の立場も変わりましたし、PRを行うスタッフも増えてきたので、もう継承します。僕と同じ長野県出身の22歳で入ったスタッフがいますから、彼を新たな王子にしたいなと思っています。
―― PR以外にもいろいろなさっておられましたね。
岡田 イベント活動では、社内の部署を超える場面がどんどん出てきますから、僕自身もそこでいろいろな経験をさせていただきました。PRをメインに行いながらも、一方で営業を見て、仕入れを見て、それでいつの間にか社内の色々な部署で仕事をするようになりました。その後27歳で執行役員を拝命した時にはPRをはずれまして、全店舗のEC統括の立場も経験しています。
そこからは基本的に会社のすべてを見ています。色々な部署に行き、業務の改善を行い、複数の部署の連携を進め、新しいものをつくり、といった感じです。イベントでの経験がすごく役に立ちました。
―― 今のお立場になるといったお話は、いつ頃からお聞きだったのでしょうか。
岡田 3年前、僕が32歳で役員を拝命した頃でしょうか。大井が「50歳になったら会社を引き継ぎたいなぁ」と漏らしたことがあり、しばらくして「次はお前だと思ってんねん」と言われ、そこから親会社への月次報告などに大井と僕の2人で行くようになりました。
そこから徐々に引き継ぎがあった感じで、経営に必要なお金のこともそこから覚えてきました。ここ1年はお前だけでやれと言われて、基本的に僕が決定権をもって会社のことをやってきましたから、社長になって突然業務が変わったという感じはないですね。
―― 岡田さんや各取締役の方々に、役割の分担などはあるのでしょうか。
岡田 大井は1人でなんでもできる人間ですが、僕はe☆イヤホンの生え抜きで分からないこともたくさんあります。特に会社のバックヤードにはスペシャリストが必要だと思い、外部も含めて新しい方に加わってもらいました。会計に強いCFO、マーケティングに強いCMO、それからもともと弊社にいる先輩の麻彰宏にはシステムを担当してもらい、営業は僕が見る体制です。役割を分担することで、僕自身も会社の舵取りに力を注げます。すでに昨年からそんな体制ができていて、昨年過去最高益を上げることができました。
メンバーは、仕事や親会社の関連などでご縁のできた人たちです。タイムマシンという会社のもつ可能性や目指す未来、やりたいこと、そしてここでどんなことをしてもらいたいか、時間をかけて丁寧に説明し、お互いに共感と信頼感をもっています。
大井が1人で引っ張ってきた会社が、みんなで回していくスタイルに変わったということかもしれませんね。大井自身は今、若手の育成に力を入れています。イヤホンとは、ビジネスとは、というテーマで積極的に教育の場をもってくれています。そうやって一歩ひいたところで、バランスを保ってくれている感じです。
―― 信頼するメンバーとともに仕事して、任せるというのは理想的ですね。
岡田 人に仕事を任せるのは、難しいことでもありますよね。プレーヤーからマネージャーになる時、よくそういう壁にぶつかります。僕自身は23歳で店長を拝命しましたが、当時は大阪の店を見ながら秋葉原を週3日間手伝えと大井に言われていて、早めに限界を感じました。そんな時に、任せておける環境を作っておかないと、自分の結果も出せなくなりますよね。そのためにも、1人でなにもかもやろうとするより、いろんな人と関わって仕事を進めるのがいいと思っています。
今はPRのスタッフがポタフェスの運営も行い、新しい体制でやっていますが、これまで僕がやっていなかったことに若い子たちがどんどん着手して結果を出しています。そういうのを見ると僕も嬉しいですよね。僕がこれまでいろいろなことにチャレンジさせていただき、失敗もしながらやってきたところを目の前で見てきて、若い子たちも行動しやすくなっているんじゃないかと思います。
―― ではあらためて、社長に就任されての抱負、今後のお仕事に対する思いをお聞かせください。
岡田 タイムマシンという会社のビジネスの肝は、お客様の体験です。WEBにレビューを載せるのも、体験を共有していただくため。何事も体験を提供するところを目指し、それを共通意識として、その一歩を踏み出していただくきっかけづくりを全力でやっていきます。事業展開はイヤホン・ヘッドホンから大きくはずれることはなく、むしろ追求したいですね。
体験の場をもっと広げていくために、メディアの部分や動画を含めたプロモーションを強化したいです。まずはいいものを知っていただきたいですね。味と一緒で、一度いいものを知ると元には戻れないと思うので。とにかくもっともっと新しいことにチャレンジしていきたい。そしてオーディオとは違う、ゲームやリモート会議のように昨今増えている、いろいろなイヤホンの使われ方にアプローチする仕掛けに着手したいです。
直近で言いますと、この3月に秋葉原に、本館とは別にゲーミング関連に特化した「ゲーミングAKIBA」をオープンしました。ゲームファンのお客様の年齢層である若い人が入りやすいようにと、秋葉原本館と別店舗にしました。会社としてゲームに本気で取り組むメッセージを、社内外に強くアピールする意味もあります。
またタイムマシンのサービスは、お客様のお困りごと解決のために存在するものと考えます。たとえば、海外の商品が欲しいけれど入手する手段がないといったお声に対応して行った結果、輸入事業が立ち上がりましたし、製品が壊れてメーカー対応もなく困っているお声に対して、修理のサービスが始まりました。海外でつくるイヤーモニターは納期に時間がかかるので、カスタムイヤピースに着手し、大阪にあった会社を御徒町にもってきて、クオリティを落とさず納期を短縮させました。
お客様にどんなお困りごとがあるかは、スタッフから上がってくるんです。アルバイトの子も直接、僕に報告してくる風通しのよさは強みですね。そういった雰囲気はずっと守っていきたいです。今後はたとえば、音が聞こえづらくなったという方たちにご提供できることもあると思います。現在もリスニングラボさんという補聴器専門店さんと提携していますが、イヤホンから補聴器までカバーし、耳や聞こえ全般のことを守備範囲にする、といった会社でありたいです。
―― スタッフの方々との風通しがよいということですが、皆さん商材に詳しく、接客も丁寧ですよね。店頭やWEB上で、POPやレビューなどどんどん発信していますし、教育などはどのように行っているのでしょうか。
岡田 現在、会社の従業員数は、アルバイトを含めて190人くらい、役員を入れると200人くらいです。その6〜7割ほどが店頭やECでお客様向けの仕事を行っています。外見はかなり個性的ですけど、皆真面目な子たちです。当社は昔から髪型自由、服装自由、ネイルOK、ヒゲOKで、そこに惹かれて入ってきてくれる子も多いんです。
教育については、あまり意識していません。自主性を活かして、まずはやってみようと言うと、皆どんどん動いてくれます。人は興味のあることに頑張れますし、やってみたいことを追求すると組織の垣根を超えることも多く、会社のことをいろいろな角度から見られるようになります。
レビューは今やe☆イヤホンの文化で、皆が自主的にやっているんです。イヤホンやヘッドホンが好きで、お客様に喜んでいただくことが嬉しいんですね。お客様にとってわかりづらいかな、と気づくと、誰に指示されることもなく自主的にPOPやレビューの作成に動く感じです。
皆商品をよく聴き込んでいて、メーカーさんの勉強会に参加したり、店頭で詳しいお客様に教わったりすることもあって知識がどんどん蓄積されます。日々勉強になって、モチベーションをもって取り組んでくれています。ただ仕事に来ているというのではなく、自ら喜びをみつけて働いている子がとても多いんです。
―― イヤホン、ヘッドホン販売の手応えについてもお聞きします。昨今の状況はいかがですか。
岡田 コロナ禍以前、e☆イヤホンでは、店頭販売が50%・ECでの販売が50%。理想的といえる状況でした。それがコロナ禍以降は店頭15%・EC85%という状況になりました。するとどうしても他のECサービスの動向を意識せざるを得なくなり、店頭でのお客様の体験の機会も減り、e☆イヤホンらしい展開がやりにくくなってしまう懸念もありました。
コロナ禍が落ち着いた今では、だいたい店頭55%・EC45%くらいの水準になってきて、特にここ1年間で店頭にかなりのお客様が戻ってきました。コロナ禍でイヤホンを使う人も圧倒的に増えましたし、またテレワークやゲームといった使うシーンも増えたことが大きいですね。体験を武器とするe☆イヤホンとしては、やはり店頭の割合が大きい方がいいわけです。
けれどもオンラインショッピングにも、まだ可能性があると思います。キーになるのは動画で、その存在感はこれからますます高まると思います。当社の動画発信についてもすごく強化しましたし、動画を見てお店やECサイトに来てくださる方もとても多いです。求人でも動画をみて応募してくれる方が多くて、影響の大きさを感じます。2020年10月からはオンラインイベントの「eフェス」を始めていて、Youtubeの「e☆イヤホンチャンネル」で注目製品をご紹介するコンテンツで、2日間あるいは3日間かけて生放送を行いましたが、非常に好評でした。
―― イヤホン、ヘッドホン市場の今後についてはどうご覧になるでしょうか。
岡田 オーディオとしてのイヤホンは頭打ちになるかとも思いましたが、有線イヤホンはまだまだ人気が高まっていますし、アンプの人気も復活しています。完全ワイヤレスは、関連アクセサリーも少なく、そこから先に誘導しにくいところはありますが、ゲームなどオーディオとは違う切り口でも、まだまだ伸び代があると思います。
ただ、そういった色々なシーンに対するアプローチはまだまだできていないと感じています。使い方の提案や、製品そのものを知ってもらう働きかけがまだ弱く、業界としてできることがもっとあると思います。
イヤホンを使う人は本当に増えましたが、もう1歩いいものに手を伸ばしていただけるにはどうしたらいいか。それはここから先が勝負だと思いますし、気づいていただくきっかけをつくっていくアクションが業界全体で必要かと思います。僕たちももっともっと、いろいろな仕掛けをつくっていきたいですね。
―― 今後のご活躍も楽しみです。有難うございました。
株式会社タイムマシン
取締役社長
岡田卓也氏
プロフィール/1988年生。2010年アルバイトスタッフとしてe☆イヤホン勤務。2011年株式会社タイムマシン入社。2013年PR担当就任。2015年執行役員就任。2021年取締役就任。2023年4月取締役社長就任。
■大イベントに成長した「ポタフェス」を担い、組織の枠を超えて得た多くの体験を日頃の活動に活かす
―― このたびの新社長ご就任、誠におめでとうございます。この機会に岡田さんのこれまでのあゆみと現在、そしてこれからについて聞いて参りたいと思います。まずご経歴を紹介くださいますか。
岡田 ありがとうございます。ちょっと緊張しますね……。僕は以前、アルバイトとして2010年10月にe☆イヤホンに入社したんです。大学時代からイヤホンが好きでしたし、資格の勉強をするのが趣味でもあって、会計士になるために大阪で勉強していた頃でした。
ちょうどその頃SHUREのSE535が出て、店でものすごく売れたのを目の当たりにし、イヤホンの世界はすごいなと思いました。そして2011年に会社が秋葉原に出店する際、準備を進めている時に東日本大震災が起きて数ヶ月延期になりました。そんな中、会社にもお金がない状態にもかかわらず、大井たち上層部が強く希望して被災者の方々に寄付をしたんですね。そこに温かさを感じて僕は心を決め、タイムマシンの社員になったんです。
―― 岡田さんにとって、当時社長であった大井さんはどんな印象でしたか。
岡田 当時の大井はアフロヘアでしたし、どんな人なんだろうと最初は思いましたよ。でも中身はしっかりしていて、シャイで、ビジネスが本当に好きなんですよね。そんな大井に、僕は面白いと思ってもらえたようで、ずっと可愛がってもらってきたと思います。
会社の中で新しいことに挑戦する時は、僕自身も常々やりたいと言っていますが、だいたい大井が僕に出番を回してくれたんです。最初の大きな仕事は、2012年に秋葉原で行った初めてのイベント「ポタフェス」の立ち上げでした。
―― 「ポタフェス」はイヤホン、ヘッドホンのイベントとして当初から話題でしたね。最初に大阪で、そして秋葉原で行われて、そこから回を重ねるごとに規模が大きくなっていきました。
岡田 最初の大阪開催は、移転したばかりの大阪本店の店内でしたが、あの時は試聴会というイメージで、ご来場者数も300人程度とまだ小規模でした。その後の秋葉原での展開は、まさに僕がさせてもらったんです。
会場はベルサール秋葉原の2F、最初はワンフロアでしたけれど、とにかくすごく大変でした。僕もイベントのやり方はわからないし、当時はメーカーさんとのお取引も今ほどなくて。それに秋葉原のお店もまだ軌道に乗る前だったものですから。
そんな中でなんとか実現させたイベントが、2000人もの方に来ていただけたんですね。それが自分の中で、大きな成功体験になりました。関係したスタッフも忙しくて大変だったと思いますけど、皆いい顔をしていたんです。たくさんの方に来ていただいて、お客様にも出展メーカーの方にも喜んでいただいて、そしてスタッフにも楽しかったと言ってもらえ、お店の売り上げも上がりました。皆が幸せになれるイベントができたことは、自分の中で本当にいい体験でした。
そこからは、イベントを中心に活動していきます。とにかくたくさんの人を呼びたい、新しいことをやりたい、大井をびっくりさせたい、そんな一心でした。新しい要素を必ず毎回入れる、ということでフロアを増やしたり、ライブをやったり。カーオーディオの導入、飲食などいろいろと挑戦してきました。そして回を重ねるごとにご来場者数も、ご協力メーカーさんも増えていき、メディアの方にもたくさん来ていただけるようになりました。おかげさまで最初の「ポタフェス」開催の翌月から、お店のお客様も一気に増え、そこから秋葉原店が軌道に乗り、会社の急成長ともリンクすることになりました。
お客様が製品を試聴する、体験する、これはとても大事なことで、当社のビジネスモデルの一番大事な根幹にあるものです。それをいかに多くの方に広げていけるかに常に注力していますし、「ポタフェス」はそのための大きな手段なんです。
―― 岡田さんはPRのお仕事もなさって、テレビにもよく出演されていました。
岡田 「ポタフェス」以降はPRの担当です。テレビは2014年の7月、TBSの「マツコの知らない世界」に出演させていただいたのが最初ですが、これも僕の中では大きな出来事でした。当時大井から動画を月に100本上げろと言われて僕が撮った動画を「マツコの知らない世界」のプロデューサーさんが見て、オファーをくださったんですね。
テレビに出演したら、やはりすごく反響があって、店に注文が殺到して僕自身が一番びっくりしました。そこからメディア関連のお仕事もいただくようになり、僕としてもイヤホンの魅力をちゃんとお伝えしたい思いでやらせていただいてきました。“イヤホン王子”と名付けていただいたのもその頃ですね。
―― “イヤホン王子”の今後の活動が気になりますが、どうされますか?
岡田 僕の立場も変わりましたし、PRを行うスタッフも増えてきたので、もう継承します。僕と同じ長野県出身の22歳で入ったスタッフがいますから、彼を新たな王子にしたいなと思っています。
―― PR以外にもいろいろなさっておられましたね。
岡田 イベント活動では、社内の部署を超える場面がどんどん出てきますから、僕自身もそこでいろいろな経験をさせていただきました。PRをメインに行いながらも、一方で営業を見て、仕入れを見て、それでいつの間にか社内の色々な部署で仕事をするようになりました。その後27歳で執行役員を拝命した時にはPRをはずれまして、全店舗のEC統括の立場も経験しています。
そこからは基本的に会社のすべてを見ています。色々な部署に行き、業務の改善を行い、複数の部署の連携を進め、新しいものをつくり、といった感じです。イベントでの経験がすごく役に立ちました。
■信頼するメンバーと力を合わせて会社運営を推進、さまざまなチャレンジで事業の幅を広げていく
―― 今のお立場になるといったお話は、いつ頃からお聞きだったのでしょうか。
岡田 3年前、僕が32歳で役員を拝命した頃でしょうか。大井が「50歳になったら会社を引き継ぎたいなぁ」と漏らしたことがあり、しばらくして「次はお前だと思ってんねん」と言われ、そこから親会社への月次報告などに大井と僕の2人で行くようになりました。
そこから徐々に引き継ぎがあった感じで、経営に必要なお金のこともそこから覚えてきました。ここ1年はお前だけでやれと言われて、基本的に僕が決定権をもって会社のことをやってきましたから、社長になって突然業務が変わったという感じはないですね。
―― 岡田さんや各取締役の方々に、役割の分担などはあるのでしょうか。
岡田 大井は1人でなんでもできる人間ですが、僕はe☆イヤホンの生え抜きで分からないこともたくさんあります。特に会社のバックヤードにはスペシャリストが必要だと思い、外部も含めて新しい方に加わってもらいました。会計に強いCFO、マーケティングに強いCMO、それからもともと弊社にいる先輩の麻彰宏にはシステムを担当してもらい、営業は僕が見る体制です。役割を分担することで、僕自身も会社の舵取りに力を注げます。すでに昨年からそんな体制ができていて、昨年過去最高益を上げることができました。
メンバーは、仕事や親会社の関連などでご縁のできた人たちです。タイムマシンという会社のもつ可能性や目指す未来、やりたいこと、そしてここでどんなことをしてもらいたいか、時間をかけて丁寧に説明し、お互いに共感と信頼感をもっています。
大井が1人で引っ張ってきた会社が、みんなで回していくスタイルに変わったということかもしれませんね。大井自身は今、若手の育成に力を入れています。イヤホンとは、ビジネスとは、というテーマで積極的に教育の場をもってくれています。そうやって一歩ひいたところで、バランスを保ってくれている感じです。
―― 信頼するメンバーとともに仕事して、任せるというのは理想的ですね。
岡田 人に仕事を任せるのは、難しいことでもありますよね。プレーヤーからマネージャーになる時、よくそういう壁にぶつかります。僕自身は23歳で店長を拝命しましたが、当時は大阪の店を見ながら秋葉原を週3日間手伝えと大井に言われていて、早めに限界を感じました。そんな時に、任せておける環境を作っておかないと、自分の結果も出せなくなりますよね。そのためにも、1人でなにもかもやろうとするより、いろんな人と関わって仕事を進めるのがいいと思っています。
今はPRのスタッフがポタフェスの運営も行い、新しい体制でやっていますが、これまで僕がやっていなかったことに若い子たちがどんどん着手して結果を出しています。そういうのを見ると僕も嬉しいですよね。僕がこれまでいろいろなことにチャレンジさせていただき、失敗もしながらやってきたところを目の前で見てきて、若い子たちも行動しやすくなっているんじゃないかと思います。
―― ではあらためて、社長に就任されての抱負、今後のお仕事に対する思いをお聞かせください。
岡田 タイムマシンという会社のビジネスの肝は、お客様の体験です。WEBにレビューを載せるのも、体験を共有していただくため。何事も体験を提供するところを目指し、それを共通意識として、その一歩を踏み出していただくきっかけづくりを全力でやっていきます。事業展開はイヤホン・ヘッドホンから大きくはずれることはなく、むしろ追求したいですね。
体験の場をもっと広げていくために、メディアの部分や動画を含めたプロモーションを強化したいです。まずはいいものを知っていただきたいですね。味と一緒で、一度いいものを知ると元には戻れないと思うので。とにかくもっともっと新しいことにチャレンジしていきたい。そしてオーディオとは違う、ゲームやリモート会議のように昨今増えている、いろいろなイヤホンの使われ方にアプローチする仕掛けに着手したいです。
直近で言いますと、この3月に秋葉原に、本館とは別にゲーミング関連に特化した「ゲーミングAKIBA」をオープンしました。ゲームファンのお客様の年齢層である若い人が入りやすいようにと、秋葉原本館と別店舗にしました。会社としてゲームに本気で取り組むメッセージを、社内外に強くアピールする意味もあります。
またタイムマシンのサービスは、お客様のお困りごと解決のために存在するものと考えます。たとえば、海外の商品が欲しいけれど入手する手段がないといったお声に対応して行った結果、輸入事業が立ち上がりましたし、製品が壊れてメーカー対応もなく困っているお声に対して、修理のサービスが始まりました。海外でつくるイヤーモニターは納期に時間がかかるので、カスタムイヤピースに着手し、大阪にあった会社を御徒町にもってきて、クオリティを落とさず納期を短縮させました。
お客様にどんなお困りごとがあるかは、スタッフから上がってくるんです。アルバイトの子も直接、僕に報告してくる風通しのよさは強みですね。そういった雰囲気はずっと守っていきたいです。今後はたとえば、音が聞こえづらくなったという方たちにご提供できることもあると思います。現在もリスニングラボさんという補聴器専門店さんと提携していますが、イヤホンから補聴器までカバーし、耳や聞こえ全般のことを守備範囲にする、といった会社でありたいです。
■イヤホンの使用シーンが増えてチャンスは広がる。お客様の次の一歩を後押しする仕掛けをつくっていく
―― スタッフの方々との風通しがよいということですが、皆さん商材に詳しく、接客も丁寧ですよね。店頭やWEB上で、POPやレビューなどどんどん発信していますし、教育などはどのように行っているのでしょうか。
岡田 現在、会社の従業員数は、アルバイトを含めて190人くらい、役員を入れると200人くらいです。その6〜7割ほどが店頭やECでお客様向けの仕事を行っています。外見はかなり個性的ですけど、皆真面目な子たちです。当社は昔から髪型自由、服装自由、ネイルOK、ヒゲOKで、そこに惹かれて入ってきてくれる子も多いんです。
教育については、あまり意識していません。自主性を活かして、まずはやってみようと言うと、皆どんどん動いてくれます。人は興味のあることに頑張れますし、やってみたいことを追求すると組織の垣根を超えることも多く、会社のことをいろいろな角度から見られるようになります。
レビューは今やe☆イヤホンの文化で、皆が自主的にやっているんです。イヤホンやヘッドホンが好きで、お客様に喜んでいただくことが嬉しいんですね。お客様にとってわかりづらいかな、と気づくと、誰に指示されることもなく自主的にPOPやレビューの作成に動く感じです。
皆商品をよく聴き込んでいて、メーカーさんの勉強会に参加したり、店頭で詳しいお客様に教わったりすることもあって知識がどんどん蓄積されます。日々勉強になって、モチベーションをもって取り組んでくれています。ただ仕事に来ているというのではなく、自ら喜びをみつけて働いている子がとても多いんです。
―― イヤホン、ヘッドホン販売の手応えについてもお聞きします。昨今の状況はいかがですか。
岡田 コロナ禍以前、e☆イヤホンでは、店頭販売が50%・ECでの販売が50%。理想的といえる状況でした。それがコロナ禍以降は店頭15%・EC85%という状況になりました。するとどうしても他のECサービスの動向を意識せざるを得なくなり、店頭でのお客様の体験の機会も減り、e☆イヤホンらしい展開がやりにくくなってしまう懸念もありました。
コロナ禍が落ち着いた今では、だいたい店頭55%・EC45%くらいの水準になってきて、特にここ1年間で店頭にかなりのお客様が戻ってきました。コロナ禍でイヤホンを使う人も圧倒的に増えましたし、またテレワークやゲームといった使うシーンも増えたことが大きいですね。体験を武器とするe☆イヤホンとしては、やはり店頭の割合が大きい方がいいわけです。
けれどもオンラインショッピングにも、まだ可能性があると思います。キーになるのは動画で、その存在感はこれからますます高まると思います。当社の動画発信についてもすごく強化しましたし、動画を見てお店やECサイトに来てくださる方もとても多いです。求人でも動画をみて応募してくれる方が多くて、影響の大きさを感じます。2020年10月からはオンラインイベントの「eフェス」を始めていて、Youtubeの「e☆イヤホンチャンネル」で注目製品をご紹介するコンテンツで、2日間あるいは3日間かけて生放送を行いましたが、非常に好評でした。
―― イヤホン、ヘッドホン市場の今後についてはどうご覧になるでしょうか。
岡田 オーディオとしてのイヤホンは頭打ちになるかとも思いましたが、有線イヤホンはまだまだ人気が高まっていますし、アンプの人気も復活しています。完全ワイヤレスは、関連アクセサリーも少なく、そこから先に誘導しにくいところはありますが、ゲームなどオーディオとは違う切り口でも、まだまだ伸び代があると思います。
ただ、そういった色々なシーンに対するアプローチはまだまだできていないと感じています。使い方の提案や、製品そのものを知ってもらう働きかけがまだ弱く、業界としてできることがもっとあると思います。
イヤホンを使う人は本当に増えましたが、もう1歩いいものに手を伸ばしていただけるにはどうしたらいいか。それはここから先が勝負だと思いますし、気づいていただくきっかけをつくっていくアクションが業界全体で必要かと思います。僕たちももっともっと、いろいろな仕掛けをつくっていきたいですね。
―― 今後のご活躍も楽しみです。有難うございました。