公開日 2024/12/16 06:45
CMOドン・マグワイア氏インタビュー
クアルコム幹部が語る「Snapdragon」拡大戦略。カギはPC・スマホの「AI対応」、日本市場を重要視
山本 敦
2024年は最先端の生成AIを搭載するパソコン、スマホの開発競争が急速に激化した。半導体メーカーもまた、デバイス単体でパワフルに「オンデバイスAI」を動かすためには欠かせないSoCを続々と市場に投入している。米クアルコムもその競争の渦中で、カスタムメイドのCPU「Oryon(オライオン)」を載せたAI PC向けSoCである「Snapdragon X」シリーズのラインナップを今年大きく広げた。
米クアルコムから来社したチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)のドン・マグワイア氏が日本の記者を集めて、同社の日本における半導体事業の戦略と来年に向けた展望をグループインタビューの場で語った。
クアルコムは携帯電話の通信技術であるCDMAの実用化に貢献した立役者だ。以降もセルラー通信やWi-Fi、Bluetoothに代表されるワイヤレス通信に関わる最先端の技術開発をリードし続けている。ファイルウェブの読者には、スマホやタブレットなどモバイル端末が採用するSnapdragonシリーズ、あるいはハイグレードなワイヤレスイヤホン・ヘッドホンがこぞって搭載するBluetoothオーディオのチップセットがなじみ深いかもしれない。
現在クアルコムの半導体製品は、オートモーティブやウェアラブル、スマートグラスに産業用IoTデバイスなど様々な領域に展開している。それらは高度な「AI対応」を低消費電力で実現するプラットフォームとしても注目されている。特にいま、クアルコムが注力する分野が「AI PC」を代表するコンピューティングデバイス向けのチップセットだ。
マグワイア氏は「日本はPC市場がとても成熟している。クアルコムのSnapdragonが必ず成功を収めなければならない重要な市場だ」とグループインタビューに集まった記者に向けて切りだした。
海外の市場と比べても、日本のPC市場はハードウェアの仕様やエコシステムに独自性があり、周辺機器のベンダーによる製品やソリューションも成熟している。「Snapdragon Xシリーズを搭載するAI PCによるユーザー体験を、日本のPCメーカーとともにユーザーが使いやすい姿に最適化すること」もマグワイア氏が重要なテーマのひとつとして掲げている。
クアルコムは従前からモバイル向けSnapdragonシリーズのブランド力強化にも邁進してきた。昨今は特に中国市場でその活動に力を入れてきたが、甲斐あってモバイル向けSnapdragonは「認知度がとても高い」とマグワイア氏は胸を張る。モバイルで高めたSnapdragonの認知を足がかりにできることから、直近では中国市場におけるSnapdragon Xシリーズの認知拡大がはかどっているようだ。
デバイスの「AI対応」について、マグワイア氏はPCだけでなくモバイル、特に「Androidのエコシステムへの貢献」についても全力を尽くすとし、「生成AIはモバイル端末のユーザーインターフェースを革新する可能性がある」と述べる。
従来はユーザーが端末を手にしながら音声やタップ操作によるテキスト入力を経て、必要な情報にアクセスしていた。より高度な生成AIモデルに基づくアシスタントが間に介することで、これからはさらに直感的、かつ効率的なAIアシスタントとのインタラクションが可能になるはず。そのようにマグワイア氏は語りながら、生成AIのテクノロジーからモバイル端末のユーザーインターフェース革命が起きる未来の展望を記者に向けて共有した。
マグワイア氏に、日本市場におけるSnapdragonの注力分野を聞いた。従来から特に強いビジネスカテゴリは「スマートフォン」と「オートモーティブ」であるという。Snapdragonを採用する日本のスマートフォンにはシャープのAQUOS、ソニーのXperiaなどがある。そしてクアルコムによるオートモーティブ(あるいはコネクテッドカー)向けのソリューション「Snapdragon Digital Chassis」も注目されている。
今年も10月下旬に開催されたSnapdragon Summitでは、クアルコムによるカスタムメイドの「Oryon」CPUを統合するデジタルコックピット向けの「Snapdragon Cockpit Eliteプラットフォーム」と、先進運転支援システム向けを中心とする「Snapdragon Ride Eliteプラットフォーム」が発表された。それぞれはSnapdragon Digital Chassisのパッケージに含まれており、自動車メーカーが必要とするプラットフォームをパッケージの中から切り分けて採用することも往々にしてある。
その中で、Snapdragon Soundに対応する期待がモバイルとオートモーティブの双方で高まっていることに注目したい。
マグワイア氏いわくSnapdragon Soundには、アーティストの意図を忠実に再現することにこだわってきたクアルコムの誇るオーディオ向けソリューションが統合されている。そのこだわりがモバイル端末で、あるいはオートモーティブや様々な形態のモビリティによって「移動中」にも快適なサウンドを楽しむために「Snapdragon Soundが必要」というユーザーの期待と結び付き、認知と普及の拡大にもつながっているようだ。
そしてもうひとつ、クアルコムが産業用IoTデバイスでの活用を想定したチップセットのトップランナーであることについても触れておこう。
例えばPOS端末からロジスティクス、監視ロボットセンサー、輸送追跡システムや小売ソリューションではサービス インベントリー・マネジメント(在庫管理)など、クアルコムのチップは様々な分野で活躍している。マグワイア氏も「産業用IoT向けのソリューションはこれからクアルコムが最も大きな成長を見込む領域のひとつ。日本の市場にも貢献したい」と語っている。
Snapdragonのブランドネームをより深くコンシューマーの中に浸透させるため、クアルコムはファンコミュニティプログラムである「Snapdragon Insiders」を世界各地で展開している。日本でも2023年3月に発足した本コミュニティは現在6,000人を越える規模に拡大している。マグワイア氏も「日本ではまだInsidersプログラムが始まったばかりだが今後もより大きく育てていきたい」と、その重要性についてインタビューの中で触れた。
またSnapdragonの名前を広く知らしめるための世界規模での活動として、ほかにも英プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドやモータースポーツのメルセデスAMGペトロナスF1チームとのグローバルスポンサーシップ、eスポーツ大会のDreamHackへの協賛など多方面からのアプローチにも尽力している。2025年に向けて、Snapdragonのブランド認知とエンドユーザーとのエンゲージメントを向上する活動によりいっそうの資源を投資することもマグワイア氏は「クアルコムの大事な活動」であるとした。
今年の12月、日本法人であるクアルコムジャパン合同会社の新社長に中山泰方氏が就任した。それまで同社副社長を務めてきた中山氏は「新たな役割に就いても、従前通り豊富な経験と深い市場理解を活かしながら日本のパートナーに新たな価値を提案する役割に尽力したい」とコメントしている。2025年以降もまたSnapdragonの名前を各所で目にする機会が増えそうだ。
米クアルコムから来社したチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)のドン・マグワイア氏が日本の記者を集めて、同社の日本における半導体事業の戦略と来年に向けた展望をグループインタビューの場で語った。
■日本のPC市場は「Snapdragonが必ず成功を収めなければならない重要な市場」
クアルコムは携帯電話の通信技術であるCDMAの実用化に貢献した立役者だ。以降もセルラー通信やWi-Fi、Bluetoothに代表されるワイヤレス通信に関わる最先端の技術開発をリードし続けている。ファイルウェブの読者には、スマホやタブレットなどモバイル端末が採用するSnapdragonシリーズ、あるいはハイグレードなワイヤレスイヤホン・ヘッドホンがこぞって搭載するBluetoothオーディオのチップセットがなじみ深いかもしれない。
現在クアルコムの半導体製品は、オートモーティブやウェアラブル、スマートグラスに産業用IoTデバイスなど様々な領域に展開している。それらは高度な「AI対応」を低消費電力で実現するプラットフォームとしても注目されている。特にいま、クアルコムが注力する分野が「AI PC」を代表するコンピューティングデバイス向けのチップセットだ。
マグワイア氏は「日本はPC市場がとても成熟している。クアルコムのSnapdragonが必ず成功を収めなければならない重要な市場だ」とグループインタビューに集まった記者に向けて切りだした。
海外の市場と比べても、日本のPC市場はハードウェアの仕様やエコシステムに独自性があり、周辺機器のベンダーによる製品やソリューションも成熟している。「Snapdragon Xシリーズを搭載するAI PCによるユーザー体験を、日本のPCメーカーとともにユーザーが使いやすい姿に最適化すること」もマグワイア氏が重要なテーマのひとつとして掲げている。
クアルコムは従前からモバイル向けSnapdragonシリーズのブランド力強化にも邁進してきた。昨今は特に中国市場でその活動に力を入れてきたが、甲斐あってモバイル向けSnapdragonは「認知度がとても高い」とマグワイア氏は胸を張る。モバイルで高めたSnapdragonの認知を足がかりにできることから、直近では中国市場におけるSnapdragon Xシリーズの認知拡大がはかどっているようだ。
デバイスの「AI対応」について、マグワイア氏はPCだけでなくモバイル、特に「Androidのエコシステムへの貢献」についても全力を尽くすとし、「生成AIはモバイル端末のユーザーインターフェースを革新する可能性がある」と述べる。
従来はユーザーが端末を手にしながら音声やタップ操作によるテキスト入力を経て、必要な情報にアクセスしていた。より高度な生成AIモデルに基づくアシスタントが間に介することで、これからはさらに直感的、かつ効率的なAIアシスタントとのインタラクションが可能になるはず。そのようにマグワイア氏は語りながら、生成AIのテクノロジーからモバイル端末のユーザーインターフェース革命が起きる未来の展望を記者に向けて共有した。
■エンターテインメントの価値向上に欠かせないSnapdragon Sound
マグワイア氏に、日本市場におけるSnapdragonの注力分野を聞いた。従来から特に強いビジネスカテゴリは「スマートフォン」と「オートモーティブ」であるという。Snapdragonを採用する日本のスマートフォンにはシャープのAQUOS、ソニーのXperiaなどがある。そしてクアルコムによるオートモーティブ(あるいはコネクテッドカー)向けのソリューション「Snapdragon Digital Chassis」も注目されている。
今年も10月下旬に開催されたSnapdragon Summitでは、クアルコムによるカスタムメイドの「Oryon」CPUを統合するデジタルコックピット向けの「Snapdragon Cockpit Eliteプラットフォーム」と、先進運転支援システム向けを中心とする「Snapdragon Ride Eliteプラットフォーム」が発表された。それぞれはSnapdragon Digital Chassisのパッケージに含まれており、自動車メーカーが必要とするプラットフォームをパッケージの中から切り分けて採用することも往々にしてある。
その中で、Snapdragon Soundに対応する期待がモバイルとオートモーティブの双方で高まっていることに注目したい。
マグワイア氏いわくSnapdragon Soundには、アーティストの意図を忠実に再現することにこだわってきたクアルコムの誇るオーディオ向けソリューションが統合されている。そのこだわりがモバイル端末で、あるいはオートモーティブや様々な形態のモビリティによって「移動中」にも快適なサウンドを楽しむために「Snapdragon Soundが必要」というユーザーの期待と結び付き、認知と普及の拡大にもつながっているようだ。
そしてもうひとつ、クアルコムが産業用IoTデバイスでの活用を想定したチップセットのトップランナーであることについても触れておこう。
例えばPOS端末からロジスティクス、監視ロボットセンサー、輸送追跡システムや小売ソリューションではサービス インベントリー・マネジメント(在庫管理)など、クアルコムのチップは様々な分野で活躍している。マグワイア氏も「産業用IoT向けのソリューションはこれからクアルコムが最も大きな成長を見込む領域のひとつ。日本の市場にも貢献したい」と語っている。
■国内ファンコミュニティの強化にも意欲。日本法人は新社長に中山氏が就任
Snapdragonのブランドネームをより深くコンシューマーの中に浸透させるため、クアルコムはファンコミュニティプログラムである「Snapdragon Insiders」を世界各地で展開している。日本でも2023年3月に発足した本コミュニティは現在6,000人を越える規模に拡大している。マグワイア氏も「日本ではまだInsidersプログラムが始まったばかりだが今後もより大きく育てていきたい」と、その重要性についてインタビューの中で触れた。
またSnapdragonの名前を広く知らしめるための世界規模での活動として、ほかにも英プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドやモータースポーツのメルセデスAMGペトロナスF1チームとのグローバルスポンサーシップ、eスポーツ大会のDreamHackへの協賛など多方面からのアプローチにも尽力している。2025年に向けて、Snapdragonのブランド認知とエンドユーザーとのエンゲージメントを向上する活動によりいっそうの資源を投資することもマグワイア氏は「クアルコムの大事な活動」であるとした。
今年の12月、日本法人であるクアルコムジャパン合同会社の新社長に中山泰方氏が就任した。それまで同社副社長を務めてきた中山氏は「新たな役割に就いても、従前通り豊富な経験と深い市場理解を活かしながら日本のパートナーに新たな価値を提案する役割に尽力したい」とコメントしている。2025年以降もまたSnapdragonの名前を各所で目にする機会が増えそうだ。