公開日 2023/02/24 11:50
BluetoothやWi-Fi等を活用したワイヤレスによるオーディオ伝送の発展に伴い、これまでは帯域の問題で難しかった“クオリティ”の課題を追求する試みが各所でスタートしてきている。
Bluetoothでは、aptX Adaptiveなどハイレゾ相当の伝送が行えるコーデックが注目されているが、一方でWi-Fiを活用した取り組みとして、「WiSA」(ワイサ)という規格が、ハイファイオーディオを中心に対応機器を増やしてきている。ここでは、WiSA Technologies社のヴァイス・プレジデントである竹原茂昭氏に、WiSAの高音質へのアプローチについて教えてもらった。
WiSAは、日本では2021年にオンキヨーがクラウドファンディングとしてスタートしたサラウンドシステム「SOUND SPHERE」にも搭載されている。「SOUND SPHERE」は、コンパクトなアクティブスピーカー5台(センターチャンネル含む)とサブウーファーで構成され、スピーカーは電源ケーブルを繋ぐだけ。アンプとスピーカーをスピーカーケーブルで接続する必要なくワイヤレスでマルチチャンネルを構築できるということで、1800人を超える支援が集まった。立体音響に対応するコンテンツが増えてきている中で、なるべく手軽にサラウンドシステムを構築したい、という需要が非常に高まっていることを示した製品であった。
また実は、KEF「LS60 Wireless」とJBL「4305P」について、左右をワイヤレスで伝送する際の規格にもWiSAが使われている(左右は有線でも接続できる)。さらに昨年のミュンヘン・ハイエンドで発表されたDYNAUDIOのアクティブスピーカー「FOCUS」シリーズもWiSAを活用している。いずれも老舗のスピーカーブランドが送り出す本格的なネットワーク&アクティブスピーカーであり、WiSAはハイファイオーディオの世界でも十分通用するテクノロジーとして注目されているのだ。
WiSAは、2013年のCESで発表されたワイヤレスによるオーディオ伝送の規格。シャープ、オンキヨー、パイオニア、クリプシュ、ポークオーディオなど全12社が賛同してスタートした。2023年現在、60社を超えるオーディオブランドに採用されている。
送り出し機器側に「Transmit Module」、受け側機器に「Receive Module」というモジュールが用意されており、これらを機器に組み込むことでワイヤレス伝送が実現できる。
例えばDYNAUDIOの「FOCUS」ならば、マスタースピーカーにTransmit Module、セカンダリスピーカーにReceive Moduleが組み込まれており、アプリでそれぞれの設定が行える。
他の活用事例としては、バング&オルフセンのサウンドバー「BEOSOUND THEATRE」にTransmit Moduleが組み込まれており、同社製の他のスピーカーにReceive Moduleが内蔵されている。フロントは「BEOSOUND THEATRE」、リアチャンネルに他のスピーカーを使うといった使用方法が可能なのだ。
WiSAの安定伝送を支える特徴のひとつは、5GHz帯の帯域を使っていることにある。5GHz帯は4つのサブバンドにわかれており、「U-NII-1」「U-NII-2」「U-NII-2E」「U-NII-3」の全24チャンネルが用意されている。ただし、国やエリアによっては軍事・気象レーダーが優先され利用できない帯域もあり、たとえば日本では「U-NII-3」の5チャンネル分は利用できない。WiSAでは、Transmit Moduleが残りの19チャンネルから常に空いている帯域を探し接続することで、安定した伝送が実現できるのだという。
5GHz帯は電子レンジなどの干渉を受けやすい2.4GHz帯に比べて通信が安定していると言われる。一方で距離や障害物に対しては弱く、たとえば隣の部屋などにワイヤレスで飛ばす場合には弱点となる。しかし、オーディオユースならばスピーカーは同一ルーム内、また近距離に置かれることが想定されるため、問題にはなりにくい。
現在のWiSAの規格では、96kHz/24bitまでの音源を8ch分、無圧縮で送り出すことができる。またレイテンシーの問題に関しても、2.6msまたは5.2msに固定されており、ほとんど人の耳では感じられないレベルにまで抑え込まれているという。
昨今、NetflixやDisney+などの映像配信はもちろん、Amazon Music、TIDALなどでも空間オーディオ対応のコンテンツが爆発的に数を増してきている。WiSAを活用することで、そういった立体音響コンテンツをシンプルなセッティングで楽しむことができる可能性が広がる。
なお、スピーカーは各社出揃ってきているが、送り出し機器側の対応はまだ少ない。そこで、WiSAは「SOUNDSEND」という小型のトランスミッターを用意している。「SOUND SPHERE」にも同梱されていた手のひらサイズの送信機で、先述のTransmit Moduleが内蔵されている。SOUNDSENDはeARCに対応するHDMI入力端子を搭載しており、テレビとSound SendをHDMIケーブルで接続することで、映像/音声配信サービスの音をワイヤレススピーカーに飛ばすことができるのだ。チャンネル数などは、iOS/Androidのアプリから簡単に設定できる。
HDMIはeARC対応になったことによって、Dolby TrueHDやDolby Atmos、DTS Master Audioといったマルチチャンネル音源をHDMIケーブル1本で伝送できるようになった。昨今のテレビやプロジェクター等はeARC対応がほとんどとなっており、マルチチャンネルを構築しやすい環境が整ってきているのだ。
WiSAのデモンストレーションルームで、実際にそのサウンドを体験させてもらった。8畳程度のごくごく一般的な家庭の部屋に、手のひらに乗るくらいのコンパクトなPlatin Audioのアクティブスピーカー(※国内未導入)で5.1.2chのシステムを構成。フロントがイネーブルドスピーカーとなっており天井方向のサウンドも再生できる。送り出しは先述の「SOUNDSEND」を使用し、ソニーの4Kテレビと接続している。
『ボヘミアン・ラプソディ』の最後のライブエイドのシーンでは、スタジアムの歓声が文字通り身体を包み込むようで、会場の熱気がそのまま全身を満たしてくれる。またカメラの動きに合わせて、歓声の聴こえ方やステージの音にも微妙に変化をつけられていることもよく見えてくる。『トップガン・マーヴェリック』では、戦闘機の動きがそのままリアルに伝わってくるし、『フォードvsフェラーリ』の爆音、レース場を走り回るそのスピード感はまさに耳元を風が駆け抜けるよう。音のつながりも自然で、遅延などもまったく感じられない。
さらに大型のクリプシュのアクティブスピーカー(※国内未導入)でも体験したが、さらなる広がり感と洗練された音が飛び出してきて、スピーカーの個性もしっかり引き出してくれる。
竹原さんに、WiSAの今後のロードマップも教えてもらった。まずは「WiSA E」という次世代規格では、現在8chまでの対応を10chに増やすこと、また192kHz/24bitまでの対応を実現することも計画しているという。またWiSAをさらに普及させるために、より低価格でWiSAを組み込むことができる「WiSA DS」の準備も進んでおり、2.4GHz帯を使用し48kHz/24bit・最大4.1chまでの対応を予定している。
現在は欧米メーカーを中心に展開が進むWiSAだが、日本を含む世界各国から引き合いが来ているという。かつては「ワイヤレスはクオリティに劣る」と考えられてきた側面もあったが、技術の発展はその壁を確実に乗り越えてきている。利便性と高音質を高度に両立できる取り組みには今後も期待したい。
将来的に192kHz/24bit・10chまでの伝送を想定
ハイファイオーディオでも活用広がるワイヤレス規格「WiSA」。高音質へのアプローチを訊く
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈老舗ハイファイスピーカーブランドにも採用されるワイヤレス伝送の規格
BluetoothやWi-Fi等を活用したワイヤレスによるオーディオ伝送の発展に伴い、これまでは帯域の問題で難しかった“クオリティ”の課題を追求する試みが各所でスタートしてきている。
Bluetoothでは、aptX Adaptiveなどハイレゾ相当の伝送が行えるコーデックが注目されているが、一方でWi-Fiを活用した取り組みとして、「WiSA」(ワイサ)という規格が、ハイファイオーディオを中心に対応機器を増やしてきている。ここでは、WiSA Technologies社のヴァイス・プレジデントである竹原茂昭氏に、WiSAの高音質へのアプローチについて教えてもらった。
WiSAは、日本では2021年にオンキヨーがクラウドファンディングとしてスタートしたサラウンドシステム「SOUND SPHERE」にも搭載されている。「SOUND SPHERE」は、コンパクトなアクティブスピーカー5台(センターチャンネル含む)とサブウーファーで構成され、スピーカーは電源ケーブルを繋ぐだけ。アンプとスピーカーをスピーカーケーブルで接続する必要なくワイヤレスでマルチチャンネルを構築できるということで、1800人を超える支援が集まった。立体音響に対応するコンテンツが増えてきている中で、なるべく手軽にサラウンドシステムを構築したい、という需要が非常に高まっていることを示した製品であった。
また実は、KEF「LS60 Wireless」とJBL「4305P」について、左右をワイヤレスで伝送する際の規格にもWiSAが使われている(左右は有線でも接続できる)。さらに昨年のミュンヘン・ハイエンドで発表されたDYNAUDIOのアクティブスピーカー「FOCUS」シリーズもWiSAを活用している。いずれも老舗のスピーカーブランドが送り出す本格的なネットワーク&アクティブスピーカーであり、WiSAはハイファイオーディオの世界でも十分通用するテクノロジーとして注目されているのだ。
5GHzの帯域を活用、送信/受信モジュールを用意することで安定伝送を実現
WiSAは、2013年のCESで発表されたワイヤレスによるオーディオ伝送の規格。シャープ、オンキヨー、パイオニア、クリプシュ、ポークオーディオなど全12社が賛同してスタートした。2023年現在、60社を超えるオーディオブランドに採用されている。
送り出し機器側に「Transmit Module」、受け側機器に「Receive Module」というモジュールが用意されており、これらを機器に組み込むことでワイヤレス伝送が実現できる。
例えばDYNAUDIOの「FOCUS」ならば、マスタースピーカーにTransmit Module、セカンダリスピーカーにReceive Moduleが組み込まれており、アプリでそれぞれの設定が行える。
他の活用事例としては、バング&オルフセンのサウンドバー「BEOSOUND THEATRE」にTransmit Moduleが組み込まれており、同社製の他のスピーカーにReceive Moduleが内蔵されている。フロントは「BEOSOUND THEATRE」、リアチャンネルに他のスピーカーを使うといった使用方法が可能なのだ。
WiSAの安定伝送を支える特徴のひとつは、5GHz帯の帯域を使っていることにある。5GHz帯は4つのサブバンドにわかれており、「U-NII-1」「U-NII-2」「U-NII-2E」「U-NII-3」の全24チャンネルが用意されている。ただし、国やエリアによっては軍事・気象レーダーが優先され利用できない帯域もあり、たとえば日本では「U-NII-3」の5チャンネル分は利用できない。WiSAでは、Transmit Moduleが残りの19チャンネルから常に空いている帯域を探し接続することで、安定した伝送が実現できるのだという。
5GHz帯は電子レンジなどの干渉を受けやすい2.4GHz帯に比べて通信が安定していると言われる。一方で距離や障害物に対しては弱く、たとえば隣の部屋などにワイヤレスで飛ばす場合には弱点となる。しかし、オーディオユースならばスピーカーは同一ルーム内、また近距離に置かれることが想定されるため、問題にはなりにくい。
現在のWiSAの規格では、96kHz/24bitまでの音源を8ch分、無圧縮で送り出すことができる。またレイテンシーの問題に関しても、2.6msまたは5.2msに固定されており、ほとんど人の耳では感じられないレベルにまで抑え込まれているという。
eARC対応のHDMI対応機が増え、手軽にマルチチャンネルを構築できる
昨今、NetflixやDisney+などの映像配信はもちろん、Amazon Music、TIDALなどでも空間オーディオ対応のコンテンツが爆発的に数を増してきている。WiSAを活用することで、そういった立体音響コンテンツをシンプルなセッティングで楽しむことができる可能性が広がる。
なお、スピーカーは各社出揃ってきているが、送り出し機器側の対応はまだ少ない。そこで、WiSAは「SOUNDSEND」という小型のトランスミッターを用意している。「SOUND SPHERE」にも同梱されていた手のひらサイズの送信機で、先述のTransmit Moduleが内蔵されている。SOUNDSENDはeARCに対応するHDMI入力端子を搭載しており、テレビとSound SendをHDMIケーブルで接続することで、映像/音声配信サービスの音をワイヤレススピーカーに飛ばすことができるのだ。チャンネル数などは、iOS/Androidのアプリから簡単に設定できる。
HDMIはeARC対応になったことによって、Dolby TrueHDやDolby Atmos、DTS Master Audioといったマルチチャンネル音源をHDMIケーブル1本で伝送できるようになった。昨今のテレビやプロジェクター等はeARC対応がほとんどとなっており、マルチチャンネルを構築しやすい環境が整ってきているのだ。
WiSAのデモルームで5.1.2chのマルチ構成を体験
WiSAのデモンストレーションルームで、実際にそのサウンドを体験させてもらった。8畳程度のごくごく一般的な家庭の部屋に、手のひらに乗るくらいのコンパクトなPlatin Audioのアクティブスピーカー(※国内未導入)で5.1.2chのシステムを構成。フロントがイネーブルドスピーカーとなっており天井方向のサウンドも再生できる。送り出しは先述の「SOUNDSEND」を使用し、ソニーの4Kテレビと接続している。
『ボヘミアン・ラプソディ』の最後のライブエイドのシーンでは、スタジアムの歓声が文字通り身体を包み込むようで、会場の熱気がそのまま全身を満たしてくれる。またカメラの動きに合わせて、歓声の聴こえ方やステージの音にも微妙に変化をつけられていることもよく見えてくる。『トップガン・マーヴェリック』では、戦闘機の動きがそのままリアルに伝わってくるし、『フォードvsフェラーリ』の爆音、レース場を走り回るそのスピード感はまさに耳元を風が駆け抜けるよう。音のつながりも自然で、遅延などもまったく感じられない。
さらに大型のクリプシュのアクティブスピーカー(※国内未導入)でも体験したが、さらなる広がり感と洗練された音が飛び出してきて、スピーカーの個性もしっかり引き出してくれる。
竹原さんに、WiSAの今後のロードマップも教えてもらった。まずは「WiSA E」という次世代規格では、現在8chまでの対応を10chに増やすこと、また192kHz/24bitまでの対応を実現することも計画しているという。またWiSAをさらに普及させるために、より低価格でWiSAを組み込むことができる「WiSA DS」の準備も進んでおり、2.4GHz帯を使用し48kHz/24bit・最大4.1chまでの対応を予定している。
現在は欧米メーカーを中心に展開が進むWiSAだが、日本を含む世界各国から引き合いが来ているという。かつては「ワイヤレスはクオリティに劣る」と考えられてきた側面もあったが、技術の発展はその壁を確実に乗り越えてきている。利便性と高音質を高度に両立できる取り組みには今後も期待したい。