公開日 2023/12/07 12:30
学生コンテスト・プロ録の授賞式も
12/6「音の日」イベントが開催。音の匠・細井裕司氏が「軟骨伝導の可能性」を特別講演
編集部:杉山康介
一般社団法人日本オーディオ協会は、12月6日の「音の日」にちなんだイベントを都内にて開催した。
1877年12月6日にトーマス・エジソンが蓄音機を完成させたことから、オーディオの誕生日として定められた「音の日」。日本オーディオ協会では毎年この日に「ReC♪ST 学生の制作する音楽録音作品コンテスト」の表彰式と、音の匠の顕彰式を行なっており、また昨年からは、一般社団法人音楽スタジオ協会が主催する日本プロ音楽録音賞の授賞式も併せて行われている。
式に先立ち、日本オーディオ協会の会長を務める小川理子氏は「ReC♪STは今年で9回目、日本プロ音楽録音賞は29回目、音の匠は23回目と、今まで積み上げてきたことが1歩ずつ形になって、音楽・オーディオの世界に彩りを与えてきた。ここには2、3世代は年齢が違う方たちが集うようになって、多様性の時代である今にふさわしい音の日ができていると思う」と挨拶。
また音楽スタジオ協会の会長を務める高田英男氏は「録音スタジオはデジタル技術の進化が目覚ましく、AIがリクエスト通りに制作物を修正してくれたりと、我々アナログ世代では信じられないことが起きている。若い方にはどんどん新しいことにチャレンジして音楽を作っていただきたい。ただひとつ、感性はマイクの選び方や立て方、アンプの使い方など、基礎の積み上げで磨かれると思っているので、学校などで学んでいることに真剣に向き合って、基礎技術を磨いていただきたい」とエールを送った。
若い世代のクリエイティブな活動を応援する目的で実施される「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」。今回、若い世代からの募集で愛称の「ReC♪ST(レックスタ)」を決めたとのことで、41作品の応募の中から、東京藝術大学の松村道知さんの作品「The Ocean Horde」(27.2ch 48kHz/24bit)が最優秀賞に選ばれた。
審査員代表として、九州大学大学院 芸術工学研究員 河原一彦氏が「人工的でない爽やかな包まれ感。丁寧に作られた印象で、最優秀賞にふさわしい作品だ」と講評。村松さんも「元々は自身が作っている海のゲームの音楽で、それを考えてミックスなど行ったので、最優秀賞を受賞できて嬉しい」と喜びを口にした。
また優秀企画制作賞には東京藝術大学の佐藤匡介さん、名古屋芸術大学の中村颯汰さん、優秀録音技術賞には洗足学園音楽大学の青山莉子さん、日本工学院専門学校の着崎大河さん、尚美学園大学の嶺李歌さん、奨励賞にはHAL東京の山田悠真さんが選出された。
河原氏は一人ひとりの講評を行なったうえで、全体的に「マルチチャンネル作品が増えていて、今後の録音制作の主流になっていくのかと思った。その一方で2chステレオも聴き応えある作品が多く、皆さんのご活躍で日本音楽が盛り上がっていくことを期待したい」と次世代へのメッセージを送った。
続いて日本プロ音楽録音賞(プロ録)の授賞式が実施。音楽スタジオ協会会長の高田氏は、ReC♪STとプロ録の授賞式を同じ会場で行うことで業界全体を盛り上げようという動きに感謝を述べつつ、「現在、音楽ビジネスはストリーミングが中核になりレコードもプレスが間に合わない状態、さらに立体音響が配信されスマホで体験できたりと、音楽ビジネスが大きく変化している。プロ録も技術の継承という部分は変わることなく、柔軟に進めていきたい」と語る。
また、経済産業省 商務情報制作局 コンテンツ産業課 課長補佐の腰田将也氏は「エジソンの蓄音機に始まり現在に至るまで、録音再生技術は飛躍的な進化を遂げてきた。今はストリーミングが主流だがロスレスやイマーシブなどのハイエンドソースも増え、またAIの活用など、コンテンツ産業を取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。我が国のコンテンツ産業には注目が集まっており、こういった賞は広く音楽文化の発展に不可欠なものだと思っている」と期待を述べた。
今回のプロ録ではBest Sound部門の「クラシック、ジャズ、フュージョン」と「ポップス、歌謡曲」、Super Master Sound部門、Immersive部門、アナログディスク部門など計8つの区分で顕彰が行われた。
優秀賞の一覧についてはプロ録サイトを確認いただきたいが、中でも高い評価を集めていたのが、石川さゆりの歌手活動50周年記念アルバム「Transcend」だ。アナログディスク部門に加え、データをラッカー盤にカッティングし、再生した音源をマスターとして制作したCDがBest Sound部門、SACDがSuper Master Sound部門で優秀賞に選ばれた。
また、Immersive部門では男性ダンスボーカルユニット・BE:FIRSTの4thシングル「Mainstream」より「SOS」の360 Reality Audio版、teaの「Beautiful Dreamer」360 Rreality Audio版が選出。特にBE:FIRSTについて高田氏は「音楽とサウンドが一体となっている、そんな感性の凄さや、新しい世代のエンジニアの活躍を感じた」と講評した。
最後には今年の音の匠として選ばれた、奈良県立医科大学学長の細井裕司氏の顕彰式が執り行われた。細井氏は空気伝導、骨伝導に続く“第3の聞こえ”「軟骨伝導」の発見者であり、かつ普及に尽力していることから、研究内容と社会貢献性を鑑みて選出に至ったという。
細井氏は「2004年の発見以来、今では世界で40の論文が発表されているが、製品として世に出なければ社会貢献できない」としたうえで、軟骨伝導の特別講演を実施。
人間は内耳の蝸牛管で音声情報を受容して“音を聞いて”おり、空気伝導の場合は外耳道から入った音が鼓膜を伝い、骨伝導の場合は頭骨を伝って蝸牛管に受容される。一方、軟骨伝導は機器を外耳道軟骨に当てて振動させる、つまり軟骨を振動板として外耳道内に音を生成し、鼓膜から蝸牛管に送る仕組みなのだそう。
軟骨伝導イヤホンは耳の穴に押し込む必要がないため耳垢が付かず、かつ音の出口をはじめとした穴や凹凸がないことから汚れても清拭しやすく、従来のイヤホンよりも清潔で「耳の健康」を守れるという。
また構造的に耳穴を塞がず、音漏れも少ないため、ながら聴きイヤホンや補聴器・集音器にも使えるとアピール。従来のイヤホンや骨伝導ヘッドホンでは不可能な「水中でのステレオリスニング」も可能なほか、軟骨伝導で耳のツボを刺激できるとして、東洋医学での応用研究なども行われているとのこと。
こうした特徴から「スマホからウェアラブル端末、スマートグラス、インカムなど、軟骨伝導には巨大マーケットが存在する」と細井氏はアピール。近年では金融機関や役所、病院などの窓口で、耳の遠い高齢者に向けた窓口用軟骨伝道イヤホンの普及も進んでいるが、コンシューマー向けでは2022年にオーディオテクニカが発売した「ATH-CC500BT」くらいしか存在しないことから、「ぜひメーカーの皆さまに、軟骨伝導の製品を日本から出してほしい」と語った。
■学生コンテスト最優秀賞は「27.2ch作品」。空間オーディオ作品の増加から感じる次世代
1877年12月6日にトーマス・エジソンが蓄音機を完成させたことから、オーディオの誕生日として定められた「音の日」。日本オーディオ協会では毎年この日に「ReC♪ST 学生の制作する音楽録音作品コンテスト」の表彰式と、音の匠の顕彰式を行なっており、また昨年からは、一般社団法人音楽スタジオ協会が主催する日本プロ音楽録音賞の授賞式も併せて行われている。
式に先立ち、日本オーディオ協会の会長を務める小川理子氏は「ReC♪STは今年で9回目、日本プロ音楽録音賞は29回目、音の匠は23回目と、今まで積み上げてきたことが1歩ずつ形になって、音楽・オーディオの世界に彩りを与えてきた。ここには2、3世代は年齢が違う方たちが集うようになって、多様性の時代である今にふさわしい音の日ができていると思う」と挨拶。
また音楽スタジオ協会の会長を務める高田英男氏は「録音スタジオはデジタル技術の進化が目覚ましく、AIがリクエスト通りに制作物を修正してくれたりと、我々アナログ世代では信じられないことが起きている。若い方にはどんどん新しいことにチャレンジして音楽を作っていただきたい。ただひとつ、感性はマイクの選び方や立て方、アンプの使い方など、基礎の積み上げで磨かれると思っているので、学校などで学んでいることに真剣に向き合って、基礎技術を磨いていただきたい」とエールを送った。
若い世代のクリエイティブな活動を応援する目的で実施される「学生の制作する音楽録音作品コンテスト」。今回、若い世代からの募集で愛称の「ReC♪ST(レックスタ)」を決めたとのことで、41作品の応募の中から、東京藝術大学の松村道知さんの作品「The Ocean Horde」(27.2ch 48kHz/24bit)が最優秀賞に選ばれた。
審査員代表として、九州大学大学院 芸術工学研究員 河原一彦氏が「人工的でない爽やかな包まれ感。丁寧に作られた印象で、最優秀賞にふさわしい作品だ」と講評。村松さんも「元々は自身が作っている海のゲームの音楽で、それを考えてミックスなど行ったので、最優秀賞を受賞できて嬉しい」と喜びを口にした。
また優秀企画制作賞には東京藝術大学の佐藤匡介さん、名古屋芸術大学の中村颯汰さん、優秀録音技術賞には洗足学園音楽大学の青山莉子さん、日本工学院専門学校の着崎大河さん、尚美学園大学の嶺李歌さん、奨励賞にはHAL東京の山田悠真さんが選出された。
河原氏は一人ひとりの講評を行なったうえで、全体的に「マルチチャンネル作品が増えていて、今後の録音制作の主流になっていくのかと思った。その一方で2chステレオも聴き応えある作品が多く、皆さんのご活躍で日本音楽が盛り上がっていくことを期待したい」と次世代へのメッセージを送った。
■「プロ録」石原さゆりが高評価。BE:FIRSTの空間オーディオも授賞
続いて日本プロ音楽録音賞(プロ録)の授賞式が実施。音楽スタジオ協会会長の高田氏は、ReC♪STとプロ録の授賞式を同じ会場で行うことで業界全体を盛り上げようという動きに感謝を述べつつ、「現在、音楽ビジネスはストリーミングが中核になりレコードもプレスが間に合わない状態、さらに立体音響が配信されスマホで体験できたりと、音楽ビジネスが大きく変化している。プロ録も技術の継承という部分は変わることなく、柔軟に進めていきたい」と語る。
また、経済産業省 商務情報制作局 コンテンツ産業課 課長補佐の腰田将也氏は「エジソンの蓄音機に始まり現在に至るまで、録音再生技術は飛躍的な進化を遂げてきた。今はストリーミングが主流だがロスレスやイマーシブなどのハイエンドソースも増え、またAIの活用など、コンテンツ産業を取り巻く環境は目まぐるしく変わっている。我が国のコンテンツ産業には注目が集まっており、こういった賞は広く音楽文化の発展に不可欠なものだと思っている」と期待を述べた。
今回のプロ録ではBest Sound部門の「クラシック、ジャズ、フュージョン」と「ポップス、歌謡曲」、Super Master Sound部門、Immersive部門、アナログディスク部門など計8つの区分で顕彰が行われた。
優秀賞の一覧についてはプロ録サイトを確認いただきたいが、中でも高い評価を集めていたのが、石川さゆりの歌手活動50周年記念アルバム「Transcend」だ。アナログディスク部門に加え、データをラッカー盤にカッティングし、再生した音源をマスターとして制作したCDがBest Sound部門、SACDがSuper Master Sound部門で優秀賞に選ばれた。
また、Immersive部門では男性ダンスボーカルユニット・BE:FIRSTの4thシングル「Mainstream」より「SOS」の360 Reality Audio版、teaの「Beautiful Dreamer」360 Rreality Audio版が選出。特にBE:FIRSTについて高田氏は「音楽とサウンドが一体となっている、そんな感性の凄さや、新しい世代のエンジニアの活躍を感じた」と講評した。
■「軟骨伝導は巨大マーケット」発見者・細井氏が特別公演
最後には今年の音の匠として選ばれた、奈良県立医科大学学長の細井裕司氏の顕彰式が執り行われた。細井氏は空気伝導、骨伝導に続く“第3の聞こえ”「軟骨伝導」の発見者であり、かつ普及に尽力していることから、研究内容と社会貢献性を鑑みて選出に至ったという。
細井氏は「2004年の発見以来、今では世界で40の論文が発表されているが、製品として世に出なければ社会貢献できない」としたうえで、軟骨伝導の特別講演を実施。
人間は内耳の蝸牛管で音声情報を受容して“音を聞いて”おり、空気伝導の場合は外耳道から入った音が鼓膜を伝い、骨伝導の場合は頭骨を伝って蝸牛管に受容される。一方、軟骨伝導は機器を外耳道軟骨に当てて振動させる、つまり軟骨を振動板として外耳道内に音を生成し、鼓膜から蝸牛管に送る仕組みなのだそう。
軟骨伝導イヤホンは耳の穴に押し込む必要がないため耳垢が付かず、かつ音の出口をはじめとした穴や凹凸がないことから汚れても清拭しやすく、従来のイヤホンよりも清潔で「耳の健康」を守れるという。
また構造的に耳穴を塞がず、音漏れも少ないため、ながら聴きイヤホンや補聴器・集音器にも使えるとアピール。従来のイヤホンや骨伝導ヘッドホンでは不可能な「水中でのステレオリスニング」も可能なほか、軟骨伝導で耳のツボを刺激できるとして、東洋医学での応用研究なども行われているとのこと。
こうした特徴から「スマホからウェアラブル端末、スマートグラス、インカムなど、軟骨伝導には巨大マーケットが存在する」と細井氏はアピール。近年では金融機関や役所、病院などの窓口で、耳の遠い高齢者に向けた窓口用軟骨伝道イヤホンの普及も進んでいるが、コンシューマー向けでは2022年にオーディオテクニカが発売した「ATH-CC500BT」くらいしか存在しないことから、「ぜひメーカーの皆さまに、軟骨伝導の製品を日本から出してほしい」と語った。
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