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公開日 2020/04/25 11:45
シカゴの自宅で撮影
<ヘッドフォン祭>Shureの新イヤホン「AONIC 3/4/5」開発者が語る誕生秘話
編集部:風間雄介
フジヤエービックは、「春のヘッドフォン祭2020 ONLINE」を4月25日(土)10時50分頃から19時頃まで開催している。
中野サンプラザで毎回行っているリアルイベントが新型コロナウイルス感染拡大予防のため中止となったことを受け、YouTube Live、およびTwitterのPeriscopeで配信を行っている。
トップバッターとなったShureは、昨日発表され、本日発売となる新イヤホン「AONIC 3」「AONIC 4」「AONIC 5」3機種についてくわしく紹介した。
それぞれ、AONIC 3は「シュア製品の中で最も小型」というシングルBAドライバー搭載イヤホン、AONIC 4は同社初となる1DD+1BAのハイブリッド型イヤホン、AONIC 5はSE535を発展させた3BAイヤホンとなる。スペックなどはニュース記事を参照されたい。価格はすべてオープンだが、AONIC3は税抜19,800円前後、4は税抜32,800円前後、5は税抜54,800円前後での実売が予想される。
今回のプレゼンテーションでは、米Shureが今回のヘッドフォン祭のために撮り下ろしたビデオが流され、同社の歩みや、これまでのイヤホンの歴史が語られた。これが今回の新製品にもつながっているため、この部分も省略せずにお伝えしていこう。
■プレミアムイヤホン市場を築き上げた数々の名機
ビデオの冒頭、グローバル・プロダクトマネジメント部シニアカテゴリー・ディレクターのマット・エングストローム氏が登場した。
エングストローム氏は、シカゴにある自宅の地下室で動画を撮影していると説明。「通常であれば、お花見が終わった時期に東京のヘッドホン祭に訪れているが、今年は行けない。残念だが、代わりにビデオレターをお届けする」と述べた。
同氏はまた、今回Shureが発表した新イヤホン「AONIC」に至るまでの、これまでのイヤホン開発の歴史についてくわしく語った。
「2020年4月25日は、Shure創立95周年にあたるアニバーサリーイヤー。Shureは1925年、創立者のシュア氏がラジオパーツの販売を専門に行う会社として創業した」と同氏は語りだした。
「Shureは創業時から人々に『音』を提供してきた。それは今も変わらず、これまでも数々の素晴らしい製品を送り届けてきた。先輩たちが素晴らしい製品を作り上げ、オーディオ業界の礎を築き上げた。我々も先人の思いを受け継いで、今後も人々が使って、喜んでもらえる製品を作り続ける責任がある。人々が敬意を払ってくれる、歴史に残る製品を作りたい」(エングストローム氏)。
エングストローム氏によると、Shureにとってイヤホンはとても重要な部門なのだという。イヤホン部門は1995年、PSMインイヤーモニターシステムを開発する部門としてスタートした。イヤホンはインイヤーモニターに不可欠なもので、安定性や遮音性・音質・耐久性が問われると、同氏は改めてアピールした。
そして、1997年に誕生したShure最初のイヤホンが「E1」だ。「正直、見た目はあまりスタイリッシュではないが、初めてこのイヤホンを使ったとき、私は驚いた。目玉が飛び出た。実際の音よりずっと大きく出ている感じがした。耳栓のように外部音を遮断しているので、小音量でもよく聞こえる。実際に、プロのアーティストだけでなく、一般の人たちからもこのイヤホンを欲しい、という声が上がった」と同氏。
人々は主にCDでそのサウンドを楽しんでいたが、そのうち、もっと周波数レンジを広げて欲しいという要望が出てきたという。そこで2000年に、Shure初のユニバーサル型デュアルドライバーイヤホン「E5」(別名E5C)を発表。サブウーファーとトゥイーターの2基を搭載したことで効率化を果たし、より出力を高められた。
これらの経験から、プレミアムイヤホンは今後伸びるとエングストローム氏は確信。「次にE2Cというイヤホンの開発に携わった。これがShure初の一般消費者向けイヤホンで、2002年に登場した。99ドルで、シングルダイナミックドライバーを搭載していた。高い遮音性を持ちながらコスパも高いモデルとして人気を博した」。
その後、2005年に「E4C」というモデルを登場させた。BAドライバーを備え、初めてリアベントを用いた。これでエアフローが改善し、低域応答性が向上。さらにステンレスを用いたルックスも人気に拍車を掛けたという。
そして次に登場したのが、初のトリプルドライバー搭載イヤホン「E500PTH」。この製品はその後SE530と名前を変えた。この製品を開発する際に、エンジニアとしてショーン・サリバン氏が加わり、エングストローム氏とともにオーディオチューニングを行ったという。この製品によって、Shureはプレミアムイヤホン市場で確固たる地位を築いたとエングストローム氏は振り返った。
■「ようやくアップデートのタイミングが来た」
ここからは、リスニング製品部門のディレクターであるショーン・サリバン氏が、Shure製品の歴史を語っていった。
サリバン氏も、「東京にいけなくて残念だが、今はこのような状況。日本のみなさんと音響業界にいる方々の健康を祈っている」とコメントした。
同氏がShureに勤めはじめてから14年、その大半の年月をイヤホン開発に注いできたという。
「SE215、SE315、SE425、SE535、SE846、KSE1200、KSE1500などを含め、毎回新製品が出るたびに日本で発表してこれたことをうれしく思う」(サリバン氏)。
サリバン氏は、「我々のコア製品であるSE315、SE425、SE535は過去数年間、一度もアップデートされてこなかった」とし、その理由について「単純にこれらのイヤホンは、音質が昔と変わらず今も最高だから」と説明した。
「アメリカのことわざで『壊れていないものを直すな』という言葉がある。この言葉通り、これらの素晴らしいイヤホンに手を加えなかった」(サリバン氏)。
Shureでは、製品の品質を高く維持するため、新製品開発に長い歳月を費やす。イヤホン設計には細心の注意を払って行っているので、新製品開発に2-3年、時には8年もかかる時があるという。そのため特別な理由が無い限り、めったに既存イヤホンをアップデートしたりはしない、とのこと。「だが今回、ようやくそのときが訪れた」とサリバン氏は力強く宣言した。
■「E4C」のアップデートバージョン「AONIC 3」
AONIC 3は、エングストローム氏がかつて開発した「E4C」のアップデートバージョンという位置づけのモデル。AONIC 3の紹介もエングストローム氏が行った。
「E4Cの製造がストップした時、お客様から『買いたかったのに買えなかった』という声をたくさんいただいた。その後も復活させて欲しい、というリクエストを多くいただいた」とエングストローム氏。
「だが15年も前のものを、そのまま復活させるのは難しい。とはいえ、私やショーン、そして同僚たちの多くは、E4Cの魂を再び呼び戻したいと強く願っていた」という。その思いが今回の開発につながったとのこと。
開発にあたって注力したのは、従来の「E4C」に着脱式機能を加えること。リケーブルによって音質や外観を変えたりすることができるだけでなく、BT2やRMCE完全ワイヤレス・アダプターにも取り付けることができる。
「E4Cの重厚で綿密にバランスが取れたサウンドを保ちつつ、大きな耳でも小さな耳でも外れない快適なフィット性と安定性を実現した」とエングストローム氏は説明を続けた。
最後に同氏は「現在の社会状況では、実際の製品を試すことは難しいかもしれないが、いずれ事態が落ち着いたら、実際にこの素晴らしい製品を試していただきたい」とコメントした。
■Shure初のハイブリッド機「AONIC 4」
AONIC 4については、サリバン氏がプレゼンした。AONIC 4には、新たに「デュアルドライバー・ハイブリッドエンジン」が搭載された。Shure初のハイブリッドドライバーで、ダイナミックドライバーが低域をカバーし、BAドライバーが中高域をカバーするという構成だ。
AONIC 4の装着性における機構デザインは、他のShure製品と同様。つまり、いわゆる「Shure掛け」が行える。
そしてAONIC 4には着脱式機能があり、MMCXコネクターも搭載されているので、MMCXのケーブルやワイヤレスアダプターと互換性がある。これはAONIC 3と同様だ。またAONIC 4はホワイトとブラックの2種類から選ぶことができる。
ハイブリッド・ドライバーという構成は、Shureがこれまで手がけたことがない。「周りから、いままでなぜやらなかったのか?と聞かれたほどだ」とサリバン氏は苦笑する。その理由は単純で、「正確に機能させるのが難しかったから」だという。
「ダイナミックドライバーとBAドライバーは、それぞれ違った電気特性と力学特性を持っているため、音源からの信号レベルによって反応が変わってしまう」(サリバン氏)。
ここで、AONIC 4の開発秘話が披露された。サリバン氏はまず最初に、Shure音響部門のベテランエンジニアであるペリー・シンガリス氏に、AONIC 4の元となるハイブリッドデザインを設計して欲しいと依頼したという。数週間後にできた試作品第一弾を受け取って試したところ、「正直、音質は最悪だった」とサリバン氏は語る。
だがサリバン氏は、「長年の経験から、試作品一発目から最高のものが作れることは滅多に無いとわかっていた」。とても粘り強いエンジニアとして知られるペリー氏は、その後試行錯誤を繰り返し、数ヶ月後に再び、試作品を数通り持って来てくれたとのこと。だがこの時点でもサリバン氏曰く、「前回より向上してはいたが、それでもやはり音質は悪かった」という。
こういったやりとりを何回か繰り返すうち、サリバン氏は「もしかするとハイブリッドデザインは、Shureの音質基準を満たさないのかもしれない、と思うようになった」と打ち明ける。
そして、さらに数ヶ月後。ある日、サリバン氏が急いで会議室に向かう途中、ペリー氏のデスクの前を通りかかると、ペリー氏は何気なく、新しい試作品を渡してきたという。
そのイヤホンをさっそく装着し、会議室に向かったサリバン氏。会議室に着く頃には、そのイヤホンが奏でる音に、すっかり魅了されていたという。会議が始まってもイヤホンを外せず、会議室の奥の席で、ひたすらその音に聴き入ったと語る。「それくらい新しいイヤホンに夢中だった」。
このときのイヤホンが、その後AONIC 4となる試作第一号だった。「このようなときが、『Shureで働いていて良かったな』と思える瞬間。世界最高峰の音響工学部門がいてくれるのは最高だ」とサリバン氏。
この試作機を元にブラッシュアップを続け、AONIC 4が完成した。「リッチな低域と洗練された中域、伸びのある高域が見事に溶け合っている」と、その音質傾向について説明した。
■SE535をさらに進化させた「AONIC 5」
そしてサリバン氏は、次の製品の紹介に移った。AONIC 5だ。数年前、開発部門のディレクターに昇進し、自らのチームを率いることになったサリバン氏。「私も昔、マットからイヤホン開発のバトンを受け取った。今度は私が自分のチームメンバーにバトンを渡す番だ」と延べ、製品の詳細については、Shureの若手エンジニアであるスティーブ・メリック氏が紹介した。
グローバル・リスニングプロダクト部・スペシャリストのスティーブ・メリック氏は、Shure製品が溢れる自宅のホームスタジオからビデオに参加した。
メリック氏はAONIC 5について、「SE535からインスピレーションを受けて、SE535をさらに進化させ、新たな機能を付けたイヤホン」と紹介した。
その新しい機能の一つが、SE846のようにノズルが着脱式になっており、自分好みの音にカスタマイズできることだ。
「開発のプロセスでは、抵抗値やダンパーの位置を変更したりしながら試行錯誤を繰り返した」という。最終的に、3つの違った特徴的なサウンドを生み出すことに成功したとのこと。
バランスノズルは、その名の通り、自然でクリーンなSE535と同様のサウンドを提供する。ブライトノズルは、1kHzより少し上の帯域に2dBほどのエネルギーがあり、これによって高域のエネルギーを高め、赤い「SE535 スペシャルエディション」のような音質を作り上げたという。
ウォームフィルターについては、メリック氏は「言葉にするのは難しい」としながら、これが個人的には一番気に入っているとのこと。具体的には、800Hzから5kHzの帯域を自然に鳴らす工夫をしているという。さらにこのフィルターは8kHz以上の帯域も広げ、これが空間表現や低域部分の明瞭化に寄与するという。
当然ながら本機もMMCXコネクタでケーブルを交換でき、完全ワイヤレス・アダプターを併用することも可能。コンパクトなケースも同梱する。
今回、Shureイヤホンの中核となるラインナップが一挙に発表された。その開発には膨大な時間と手間、そして同社の誇る才能が惜しみなく注がれていることが、シカゴから届いたビデオで改めて理解できた。
ビデオメッセージを受け、司会を務めるフジヤエービックの根本氏は「個人的に一番推したいのがAONIC 4」とコメント。「初めてのハイブリッドドライバーをShureがどう仕上げたか、状況が落ち着いたらぜひ実際に聴いてみてほしい」とアピールした。
中野サンプラザで毎回行っているリアルイベントが新型コロナウイルス感染拡大予防のため中止となったことを受け、YouTube Live、およびTwitterのPeriscopeで配信を行っている。
トップバッターとなったShureは、昨日発表され、本日発売となる新イヤホン「AONIC 3」「AONIC 4」「AONIC 5」3機種についてくわしく紹介した。
それぞれ、AONIC 3は「シュア製品の中で最も小型」というシングルBAドライバー搭載イヤホン、AONIC 4は同社初となる1DD+1BAのハイブリッド型イヤホン、AONIC 5はSE535を発展させた3BAイヤホンとなる。スペックなどはニュース記事を参照されたい。価格はすべてオープンだが、AONIC3は税抜19,800円前後、4は税抜32,800円前後、5は税抜54,800円前後での実売が予想される。
今回のプレゼンテーションでは、米Shureが今回のヘッドフォン祭のために撮り下ろしたビデオが流され、同社の歩みや、これまでのイヤホンの歴史が語られた。これが今回の新製品にもつながっているため、この部分も省略せずにお伝えしていこう。
■プレミアムイヤホン市場を築き上げた数々の名機
ビデオの冒頭、グローバル・プロダクトマネジメント部シニアカテゴリー・ディレクターのマット・エングストローム氏が登場した。
エングストローム氏は、シカゴにある自宅の地下室で動画を撮影していると説明。「通常であれば、お花見が終わった時期に東京のヘッドホン祭に訪れているが、今年は行けない。残念だが、代わりにビデオレターをお届けする」と述べた。
同氏はまた、今回Shureが発表した新イヤホン「AONIC」に至るまでの、これまでのイヤホン開発の歴史についてくわしく語った。
「2020年4月25日は、Shure創立95周年にあたるアニバーサリーイヤー。Shureは1925年、創立者のシュア氏がラジオパーツの販売を専門に行う会社として創業した」と同氏は語りだした。
「Shureは創業時から人々に『音』を提供してきた。それは今も変わらず、これまでも数々の素晴らしい製品を送り届けてきた。先輩たちが素晴らしい製品を作り上げ、オーディオ業界の礎を築き上げた。我々も先人の思いを受け継いで、今後も人々が使って、喜んでもらえる製品を作り続ける責任がある。人々が敬意を払ってくれる、歴史に残る製品を作りたい」(エングストローム氏)。
エングストローム氏によると、Shureにとってイヤホンはとても重要な部門なのだという。イヤホン部門は1995年、PSMインイヤーモニターシステムを開発する部門としてスタートした。イヤホンはインイヤーモニターに不可欠なもので、安定性や遮音性・音質・耐久性が問われると、同氏は改めてアピールした。
そして、1997年に誕生したShure最初のイヤホンが「E1」だ。「正直、見た目はあまりスタイリッシュではないが、初めてこのイヤホンを使ったとき、私は驚いた。目玉が飛び出た。実際の音よりずっと大きく出ている感じがした。耳栓のように外部音を遮断しているので、小音量でもよく聞こえる。実際に、プロのアーティストだけでなく、一般の人たちからもこのイヤホンを欲しい、という声が上がった」と同氏。
人々は主にCDでそのサウンドを楽しんでいたが、そのうち、もっと周波数レンジを広げて欲しいという要望が出てきたという。そこで2000年に、Shure初のユニバーサル型デュアルドライバーイヤホン「E5」(別名E5C)を発表。サブウーファーとトゥイーターの2基を搭載したことで効率化を果たし、より出力を高められた。
これらの経験から、プレミアムイヤホンは今後伸びるとエングストローム氏は確信。「次にE2Cというイヤホンの開発に携わった。これがShure初の一般消費者向けイヤホンで、2002年に登場した。99ドルで、シングルダイナミックドライバーを搭載していた。高い遮音性を持ちながらコスパも高いモデルとして人気を博した」。
その後、2005年に「E4C」というモデルを登場させた。BAドライバーを備え、初めてリアベントを用いた。これでエアフローが改善し、低域応答性が向上。さらにステンレスを用いたルックスも人気に拍車を掛けたという。
そして次に登場したのが、初のトリプルドライバー搭載イヤホン「E500PTH」。この製品はその後SE530と名前を変えた。この製品を開発する際に、エンジニアとしてショーン・サリバン氏が加わり、エングストローム氏とともにオーディオチューニングを行ったという。この製品によって、Shureはプレミアムイヤホン市場で確固たる地位を築いたとエングストローム氏は振り返った。
■「ようやくアップデートのタイミングが来た」
ここからは、リスニング製品部門のディレクターであるショーン・サリバン氏が、Shure製品の歴史を語っていった。
サリバン氏も、「東京にいけなくて残念だが、今はこのような状況。日本のみなさんと音響業界にいる方々の健康を祈っている」とコメントした。
同氏がShureに勤めはじめてから14年、その大半の年月をイヤホン開発に注いできたという。
「SE215、SE315、SE425、SE535、SE846、KSE1200、KSE1500などを含め、毎回新製品が出るたびに日本で発表してこれたことをうれしく思う」(サリバン氏)。
サリバン氏は、「我々のコア製品であるSE315、SE425、SE535は過去数年間、一度もアップデートされてこなかった」とし、その理由について「単純にこれらのイヤホンは、音質が昔と変わらず今も最高だから」と説明した。
「アメリカのことわざで『壊れていないものを直すな』という言葉がある。この言葉通り、これらの素晴らしいイヤホンに手を加えなかった」(サリバン氏)。
Shureでは、製品の品質を高く維持するため、新製品開発に長い歳月を費やす。イヤホン設計には細心の注意を払って行っているので、新製品開発に2-3年、時には8年もかかる時があるという。そのため特別な理由が無い限り、めったに既存イヤホンをアップデートしたりはしない、とのこと。「だが今回、ようやくそのときが訪れた」とサリバン氏は力強く宣言した。
■「E4C」のアップデートバージョン「AONIC 3」
AONIC 3は、エングストローム氏がかつて開発した「E4C」のアップデートバージョンという位置づけのモデル。AONIC 3の紹介もエングストローム氏が行った。
「E4Cの製造がストップした時、お客様から『買いたかったのに買えなかった』という声をたくさんいただいた。その後も復活させて欲しい、というリクエストを多くいただいた」とエングストローム氏。
「だが15年も前のものを、そのまま復活させるのは難しい。とはいえ、私やショーン、そして同僚たちの多くは、E4Cの魂を再び呼び戻したいと強く願っていた」という。その思いが今回の開発につながったとのこと。
開発にあたって注力したのは、従来の「E4C」に着脱式機能を加えること。リケーブルによって音質や外観を変えたりすることができるだけでなく、BT2やRMCE完全ワイヤレス・アダプターにも取り付けることができる。
「E4Cの重厚で綿密にバランスが取れたサウンドを保ちつつ、大きな耳でも小さな耳でも外れない快適なフィット性と安定性を実現した」とエングストローム氏は説明を続けた。
最後に同氏は「現在の社会状況では、実際の製品を試すことは難しいかもしれないが、いずれ事態が落ち着いたら、実際にこの素晴らしい製品を試していただきたい」とコメントした。
■Shure初のハイブリッド機「AONIC 4」
AONIC 4については、サリバン氏がプレゼンした。AONIC 4には、新たに「デュアルドライバー・ハイブリッドエンジン」が搭載された。Shure初のハイブリッドドライバーで、ダイナミックドライバーが低域をカバーし、BAドライバーが中高域をカバーするという構成だ。
AONIC 4の装着性における機構デザインは、他のShure製品と同様。つまり、いわゆる「Shure掛け」が行える。
そしてAONIC 4には着脱式機能があり、MMCXコネクターも搭載されているので、MMCXのケーブルやワイヤレスアダプターと互換性がある。これはAONIC 3と同様だ。またAONIC 4はホワイトとブラックの2種類から選ぶことができる。
ハイブリッド・ドライバーという構成は、Shureがこれまで手がけたことがない。「周りから、いままでなぜやらなかったのか?と聞かれたほどだ」とサリバン氏は苦笑する。その理由は単純で、「正確に機能させるのが難しかったから」だという。
「ダイナミックドライバーとBAドライバーは、それぞれ違った電気特性と力学特性を持っているため、音源からの信号レベルによって反応が変わってしまう」(サリバン氏)。
ここで、AONIC 4の開発秘話が披露された。サリバン氏はまず最初に、Shure音響部門のベテランエンジニアであるペリー・シンガリス氏に、AONIC 4の元となるハイブリッドデザインを設計して欲しいと依頼したという。数週間後にできた試作品第一弾を受け取って試したところ、「正直、音質は最悪だった」とサリバン氏は語る。
だがサリバン氏は、「長年の経験から、試作品一発目から最高のものが作れることは滅多に無いとわかっていた」。とても粘り強いエンジニアとして知られるペリー氏は、その後試行錯誤を繰り返し、数ヶ月後に再び、試作品を数通り持って来てくれたとのこと。だがこの時点でもサリバン氏曰く、「前回より向上してはいたが、それでもやはり音質は悪かった」という。
こういったやりとりを何回か繰り返すうち、サリバン氏は「もしかするとハイブリッドデザインは、Shureの音質基準を満たさないのかもしれない、と思うようになった」と打ち明ける。
そして、さらに数ヶ月後。ある日、サリバン氏が急いで会議室に向かう途中、ペリー氏のデスクの前を通りかかると、ペリー氏は何気なく、新しい試作品を渡してきたという。
そのイヤホンをさっそく装着し、会議室に向かったサリバン氏。会議室に着く頃には、そのイヤホンが奏でる音に、すっかり魅了されていたという。会議が始まってもイヤホンを外せず、会議室の奥の席で、ひたすらその音に聴き入ったと語る。「それくらい新しいイヤホンに夢中だった」。
このときのイヤホンが、その後AONIC 4となる試作第一号だった。「このようなときが、『Shureで働いていて良かったな』と思える瞬間。世界最高峰の音響工学部門がいてくれるのは最高だ」とサリバン氏。
この試作機を元にブラッシュアップを続け、AONIC 4が完成した。「リッチな低域と洗練された中域、伸びのある高域が見事に溶け合っている」と、その音質傾向について説明した。
■SE535をさらに進化させた「AONIC 5」
そしてサリバン氏は、次の製品の紹介に移った。AONIC 5だ。数年前、開発部門のディレクターに昇進し、自らのチームを率いることになったサリバン氏。「私も昔、マットからイヤホン開発のバトンを受け取った。今度は私が自分のチームメンバーにバトンを渡す番だ」と延べ、製品の詳細については、Shureの若手エンジニアであるスティーブ・メリック氏が紹介した。
グローバル・リスニングプロダクト部・スペシャリストのスティーブ・メリック氏は、Shure製品が溢れる自宅のホームスタジオからビデオに参加した。
メリック氏はAONIC 5について、「SE535からインスピレーションを受けて、SE535をさらに進化させ、新たな機能を付けたイヤホン」と紹介した。
その新しい機能の一つが、SE846のようにノズルが着脱式になっており、自分好みの音にカスタマイズできることだ。
「開発のプロセスでは、抵抗値やダンパーの位置を変更したりしながら試行錯誤を繰り返した」という。最終的に、3つの違った特徴的なサウンドを生み出すことに成功したとのこと。
バランスノズルは、その名の通り、自然でクリーンなSE535と同様のサウンドを提供する。ブライトノズルは、1kHzより少し上の帯域に2dBほどのエネルギーがあり、これによって高域のエネルギーを高め、赤い「SE535 スペシャルエディション」のような音質を作り上げたという。
ウォームフィルターについては、メリック氏は「言葉にするのは難しい」としながら、これが個人的には一番気に入っているとのこと。具体的には、800Hzから5kHzの帯域を自然に鳴らす工夫をしているという。さらにこのフィルターは8kHz以上の帯域も広げ、これが空間表現や低域部分の明瞭化に寄与するという。
当然ながら本機もMMCXコネクタでケーブルを交換でき、完全ワイヤレス・アダプターを併用することも可能。コンパクトなケースも同梱する。
今回、Shureイヤホンの中核となるラインナップが一挙に発表された。その開発には膨大な時間と手間、そして同社の誇る才能が惜しみなく注がれていることが、シカゴから届いたビデオで改めて理解できた。
ビデオメッセージを受け、司会を務めるフジヤエービックの根本氏は「個人的に一番推したいのがAONIC 4」とコメント。「初めてのハイブリッドドライバーをShureがどう仕上げたか、状況が落ち着いたらぜひ実際に聴いてみてほしい」とアピールした。
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