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公開日 2023/10/31 19:38
11月3日(金・祝)公開
ZOZOマリンでゴジラが咆哮? 実在感を突き詰めた『ゴジラ-1.0』、ドルビーアトモス音響制作の裏側を訊く
編集部:松永達矢
ドルビージャパンは本日10月31日、ドルビーシネマ上映作品として制作された『ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)』について、山崎貴監督(監督・脚本・VFX)・井上奈津子氏(音響効果)を招いた特別取材会を実施した。
本稿では、本作の音響効果を務めた井上奈津子氏による“ドルビーアトモス”制作についての内容を中心に構成。記事内に作品に関するネタバレは無いため、公開を心待ちにしている読者の方も本記事を踏まえた上で作品を楽しんでいただければ幸いだ。
>>山崎貴監督によるゴジラ-1.0ドルビーシネマ版制作秘話はこちらから<<
山崎監督にとっても『ゴジラ-1.0』が初のドルビーシネマ作品であったように、音響効果の井上氏も今作で初めてドルビーアトモスフォーマットに携わったとのこと。作品内では台詞と音楽以外の全ての音周りを担当した。
今作はネイティブのアトモス音響作品ではなく、東宝スタジオで7.1chダビングの後、東映スタジオでアトモスへのアップミックスを敢行。最初にスタジオで音を聞いた時は、7.1chと比較して「表現の広がりの幅はそこまで大きくないだろう」と思っていたそうだが、アトモスの音を聞いた瞬間に「全然違う世界があった」と気付かされたという。
音声に位置情報を持たせたオブジェクトオーディオによってもたらされる音の移動感より、トップスピーカーを用いることによる“空間の拡がりや抜け感”に「言葉で表せないほど感動した」と大絶賛。
アトモス音響の効果については、山崎監督も「音像を上に持っていくことで、ゴジラが吠えている表現がより明確に際立つ」と語っている。音を縦に振ることができるドルビーアトモス音響は「怪獣映画に向いている」と強調する。トレーラーで出ていない部分についても「ネタバレになるから言えない要素」と自らを制した上で、「『アトモス!』という感じの演出に仕上がっています」とドルビーアトモスの効果を十分に活かした演出がされていることをアピールした。
「7.1chからのアップミックスにおいて、高さ方向の演出を追加する上で難しかった部分は」との質問に、「難しさ、というよりもチーム全員で楽しく作業ができた」とポジティブな姿勢を強調。しかし、チームのみで何日もかけてアップミックス作業を行った後、監督とプロデューサーに自信満々でチェックを出すと、あまり芳しく無い返事が返ってきたこともあったという。
井上氏は「東宝で行った7.1chのミックスバランスに囚われていた」と振り返り、当初は「7.1chのミックスバランスを崩さずにアトモスの楽しさを付与していこう」という方針でサウンドデザインを行っていたという。それに対して山崎監督から「アトモスはアトモスで」というオーダーが入って再度調整。作品が目指す音響の指針を守りながら、ドルビーアトモスオリジナルのバランスに落とし込み、より体感型な音響に仕上がったと自信を覗かせた。
これについて山崎監督は「せっかくなので」というところも込みでディレクションを行ったとコメント。「スペクタクルなシーンは別物に。“エグいくらいのアトモス感”を体験してほしい」と付け加えた。さらに「画と音が相まったスペクタクルなシーンだと、スクリーンの中に入り込んだ感覚を味わえる。通常上映でも味わえるのだが、ドルビーシネマでの体験が最高潮」とアピールした。
作業行程的にはアップミックスという形になるのだが、バラ素材を使うなど従来よりもアトモスで作業できる範囲を広げた結果、山崎監督曰く「ネイティブアトモスとまではいかないが半々」という本作の音響。なお、井上氏の携わっていない劇伴収録の段でもアトモス化を見越してトップチャンネル用のマイキングを行っていたとのこと。
本作のドルビーシネマ化は完成が見えてきた段階で決定したとのこと。マイク配置についてもやるか否かという意見が交わされたとのことだが、「やると思います。ゴジラですから」といったようなやり取りが交わされたことも紹介。このように音響チームが一丸となってアトモスに向けて準備してきた経験を生かし、井上氏は「ネイティブアトモス作品をやってみたい」と言葉を結んだ。
音響チームのこぼれ話として、ゴジラ-1.0に登場するゴジラの鳴き声は初代のものを使うことが方針として決まっていたと山崎監督。それに対して井上氏は“国宝みたいな声を現代の音響システムで鳴らし切る”ことを第一に、声を崩さないように様々な試行錯誤を行ったとのこと。
最終的には“響きが足りない”ことから、井上氏が以前からトライしてみたかったという「外で実際に音を鳴らして反響を収録した素材を映画に使う」という大規模な録音にチャレンジ。「巨大なスピーカー」「広い場所」「天井がない」「少々の傾斜と反射がある」…、そんな場所は「ZOZOマリンスタジアムしかない」と電光掲示板裏のいちばん大きなスピーカーからゴジラの鳴き声を鳴らして収録を敢行。思わず「そこに(ゴジラが)居る!」と感動したという。
これについて山崎監督も「ゴジラを目の当たりにした人はこの音を聴くのか」と思わず震えたという。収録も“マイクの千手観音”みたいな状況で、どの方向にも録音部隊を配置。「日本の録音部が全員集まったくらい。球場中にマイクが並んだんじゃないか」と振り返った。
最後に、ドルビーの技術を使用して制作された本作について井上氏は「ドルビーシネマには無限の可能性がある。この作品のためだけにサウンドデザインを構築したので、劇場でぜひ体感してほしい。全ての音の要素がアトモスのためにミックスされたものなので、他のフォーマットとの違いを楽しんでほしい」と訴えた。
記者も取材を通じて前代未聞の「ゴジラ咆哮録音」が行われた本作のサウンドデザインを、文字通り“全身で浴びるなら”ドルビーアトモス館、ないしはドルビーシネマ一択だと強く感じた。映画『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金・祝)より全国東宝系にてロードショー。7年ぶりの実写長編ゴジラ作品の上映まで、指折り数えて楽しみにしたい。
(C)2023 TOHO CO., LTD.
本稿では、本作の音響効果を務めた井上奈津子氏による“ドルビーアトモス”制作についての内容を中心に構成。記事内に作品に関するネタバレは無いため、公開を心待ちにしている読者の方も本記事を踏まえた上で作品を楽しんでいただければ幸いだ。
■“エグいくらいのアトモス感”。アップミックスに終わらない『ゴジラ-1.0』の音作り
山崎監督にとっても『ゴジラ-1.0』が初のドルビーシネマ作品であったように、音響効果の井上氏も今作で初めてドルビーアトモスフォーマットに携わったとのこと。作品内では台詞と音楽以外の全ての音周りを担当した。
今作はネイティブのアトモス音響作品ではなく、東宝スタジオで7.1chダビングの後、東映スタジオでアトモスへのアップミックスを敢行。最初にスタジオで音を聞いた時は、7.1chと比較して「表現の広がりの幅はそこまで大きくないだろう」と思っていたそうだが、アトモスの音を聞いた瞬間に「全然違う世界があった」と気付かされたという。
音声に位置情報を持たせたオブジェクトオーディオによってもたらされる音の移動感より、トップスピーカーを用いることによる“空間の拡がりや抜け感”に「言葉で表せないほど感動した」と大絶賛。
アトモス音響の効果については、山崎監督も「音像を上に持っていくことで、ゴジラが吠えている表現がより明確に際立つ」と語っている。音を縦に振ることができるドルビーアトモス音響は「怪獣映画に向いている」と強調する。トレーラーで出ていない部分についても「ネタバレになるから言えない要素」と自らを制した上で、「『アトモス!』という感じの演出に仕上がっています」とドルビーアトモスの効果を十分に活かした演出がされていることをアピールした。
「7.1chからのアップミックスにおいて、高さ方向の演出を追加する上で難しかった部分は」との質問に、「難しさ、というよりもチーム全員で楽しく作業ができた」とポジティブな姿勢を強調。しかし、チームのみで何日もかけてアップミックス作業を行った後、監督とプロデューサーに自信満々でチェックを出すと、あまり芳しく無い返事が返ってきたこともあったという。
井上氏は「東宝で行った7.1chのミックスバランスに囚われていた」と振り返り、当初は「7.1chのミックスバランスを崩さずにアトモスの楽しさを付与していこう」という方針でサウンドデザインを行っていたという。それに対して山崎監督から「アトモスはアトモスで」というオーダーが入って再度調整。作品が目指す音響の指針を守りながら、ドルビーアトモスオリジナルのバランスに落とし込み、より体感型な音響に仕上がったと自信を覗かせた。
これについて山崎監督は「せっかくなので」というところも込みでディレクションを行ったとコメント。「スペクタクルなシーンは別物に。“エグいくらいのアトモス感”を体験してほしい」と付け加えた。さらに「画と音が相まったスペクタクルなシーンだと、スクリーンの中に入り込んだ感覚を味わえる。通常上映でも味わえるのだが、ドルビーシネマでの体験が最高潮」とアピールした。
作業行程的にはアップミックスという形になるのだが、バラ素材を使うなど従来よりもアトモスで作業できる範囲を広げた結果、山崎監督曰く「ネイティブアトモスとまではいかないが半々」という本作の音響。なお、井上氏の携わっていない劇伴収録の段でもアトモス化を見越してトップチャンネル用のマイキングを行っていたとのこと。
本作のドルビーシネマ化は完成が見えてきた段階で決定したとのこと。マイク配置についてもやるか否かという意見が交わされたとのことだが、「やると思います。ゴジラですから」といったようなやり取りが交わされたことも紹介。このように音響チームが一丸となってアトモスに向けて準備してきた経験を生かし、井上氏は「ネイティブアトモス作品をやってみたい」と言葉を結んだ。
■スタジアムに響くゴジラの咆哮。存在感マシマシなこだわりの収録
音響チームのこぼれ話として、ゴジラ-1.0に登場するゴジラの鳴き声は初代のものを使うことが方針として決まっていたと山崎監督。それに対して井上氏は“国宝みたいな声を現代の音響システムで鳴らし切る”ことを第一に、声を崩さないように様々な試行錯誤を行ったとのこと。
最終的には“響きが足りない”ことから、井上氏が以前からトライしてみたかったという「外で実際に音を鳴らして反響を収録した素材を映画に使う」という大規模な録音にチャレンジ。「巨大なスピーカー」「広い場所」「天井がない」「少々の傾斜と反射がある」…、そんな場所は「ZOZOマリンスタジアムしかない」と電光掲示板裏のいちばん大きなスピーカーからゴジラの鳴き声を鳴らして収録を敢行。思わず「そこに(ゴジラが)居る!」と感動したという。
これについて山崎監督も「ゴジラを目の当たりにした人はこの音を聴くのか」と思わず震えたという。収録も“マイクの千手観音”みたいな状況で、どの方向にも録音部隊を配置。「日本の録音部が全員集まったくらい。球場中にマイクが並んだんじゃないか」と振り返った。
最後に、ドルビーの技術を使用して制作された本作について井上氏は「ドルビーシネマには無限の可能性がある。この作品のためだけにサウンドデザインを構築したので、劇場でぜひ体感してほしい。全ての音の要素がアトモスのためにミックスされたものなので、他のフォーマットとの違いを楽しんでほしい」と訴えた。
記者も取材を通じて前代未聞の「ゴジラ咆哮録音」が行われた本作のサウンドデザインを、文字通り“全身で浴びるなら”ドルビーアトモス館、ないしはドルビーシネマ一択だと強く感じた。映画『ゴジラ-1.0』は2023年11月3日(金・祝)より全国東宝系にてロードショー。7年ぶりの実写長編ゴジラ作品の上映まで、指折り数えて楽しみにしたい。
(C)2023 TOHO CO., LTD.