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公開日 2024/04/04 11:17
【連載】佐野正弘のITインサイト 第102回
「Galaxy S24」で“SIMフリー”大幅強化、サムスンが日本市場に抱く危機感
佐野正弘
4月に入り、夏の商戦期に向けたスマートフォン新機種発表が徐々に始まるシーズンとなったが、その先陣を切ってスマートフォン新機種の投入を発表したのがサムスン電子である。同社は4月3日に、フラグシップモデル「Galaxy S」の2024年モデル「Galaxy S24」シリーズ2機種を、日本市場に向けて発売することを発表した。
Galaxy S24シリーズは、従来力を入れてきたカメラの強化だけでなく、自社独自のAI技術「Galaxy AI」を活用した、新しい機能を数多く搭載しているのが特徴。文字起こしに対応したボイスレコーダーや、音声通話を他の言語に翻訳してくれる「リアルタイム通訳」、さらには撮影した写真のオブジェクトを移動し、その後を生成AI技術で埋める編集機能などを実現している。
その詳細については以前、グローバル版の発表に際して本連載で触れているほか、最上位モデル「Galaxy S24 Ultra」のグローバル版のレビューも実施しているので、そちらを参照頂きたい。グローバル版では、デバイス上でのAIによる日本語の処理があまり得意ではなかったが、同社ではその後日本での発売に向け、日本語のAI処理性能強化にかなり力を入れているとのこと。実際の精度がどの程度高まっているのかどうか、ぜひ発売後に再び試してみたいところだ。
そこで今回は、Galaxy S24の発表で見えたサムスン電子の新たな日本市場戦略を考察をしてみたいと思う。まず、日本向けに投入されるGalaxy S24シリーズだが、Galaxy S24 Ultraとスタンダードモデルの「Galaxy S24」のみとなっており、従来のGalaxy Sシリーズと同様、大画面モデルの「Galaxy S24+」は投入されないようだ。
携帯電話会社向けの販路も、従来通りNTTドコモとKDDI(auブランド)となっている。「Galaxy S23」を販売していた楽天モバイルが外れている点はやや気になるが、それよりむしろ気になるのは、同時に発表されたSIMフリー版、要はオープン市場向けモデルの発売である。
サムスン電子は、今回携帯電話会社向けモデルの発売と同時に、SIMフリー版モデルの発売も発表。Galaxy S24とGalaxy S24 UltraのSIMフリー版を「Samsungオンラインショップ」で4月11日に発売するとしているのだが、その発売日は携帯2社向けモデルの発売日と全く同じ。それゆえ、Galaxy S24シリーズが発売されないソフトバンクや楽天モバイルのユーザーも、SIMフリー版を購入すればNTTドコモやauのユーザーと同じ日に使えてしまうのだ。
このことは、日本市場におけるサムスン電子の戦略が劇的に変わったことを示している。それは従来貫いてきた、携帯2社からのスマートフォン販売に重きを置く方針から、自社独自でのスマートフォン販売も強化していく方針へと戦略を転換したことだ。
実はその兆しは2022年から見られたもので、同年にはサムスン電子として初めて日本のオープン市場に向けたSIMフリースマートフォン「Galaxy M23 5G」の販売を開始。以降も、オープン市場向けモデルの販売を徐々に増やしており、2023年には折り畳みスマートフォンの最新モデル「Galaxy Z Flip5」「Galaxy Z Fold5」のSIMフリー版を販売している。
また2023年には、Samsungオンラインショップを設立すると共に、ブランド戦略も大きく転換。日本における企業ブランドの表記と呼称を「Galaxy」から「Samsung」に変更している。そして今回の新製品で、携帯2社向けモデルとオープン市場向けのSIMフリーモデルの同時販売を実現したことによって、携帯2社だけによらない販路開拓へと明確に踏み出したわけだ。
なぜサムスン電子が、従来の戦略を大きく転換したのかといえば、要因の1つは国内スマートフォン市場の低迷である。2023年には複数の国内メーカーが撤退を表明するなど、日本のスマートフォン市場はとても冷え切っている状況。そこに影響しているのは1つに円安、そしてもう1つは政府によるスマートフォンの値引き規制である。
とりわけ後者の規制は、これまで「1円スマホ」などスマートフォンの大幅値引き施策で顧客を獲得してきた、携帯大手に向けてかけられたもの。それゆえスマートフォンメーカーの中で、最も携帯大手からの販売を重視してきたサムスン電子には非常に不利に働く規制でもある。携帯大手だけに依存した体制では、今後は販売を伸ばすことが難しく、自社単独での販路を確立する必要があると判断したのだろう。
もう1つの要因として見逃せないのが、Googleのスマートフォン「Pixel」シリーズの販売が急拡大していることだ。日本では長らくアップルが過半数のシェアを獲得する最大手となっており、サムスン電子と、シャープなどの国内メーカーがそれに続く第2グループを形成するという状況が長く続いてきた。
だが、そこに急速に台頭してきたのがGoogleで、とりわけ2023年発売の「Pixel 7a」でNTTドコモへの端末供給を再開して以降、販売数が劇的に増加。一部調査会社の調査では2023年、日本のスマートフォン市場でGoogleが500%の成長を遂げたとの報告もなされている。
もちろんサムスン電子にとってGoogleは、OSの「Android」を提供する重要なパートナーでもあるのだが、国内のスマートフォン市場では非常に大きな脅威となる可能性が出てきたことから、危機感を強めていることは確かだろう。Googleは日本での知名度やブランド力が絶大なだけに、サムスン電子としてもGoogleに対抗するには一層のブランド力向上が必要と判断し、自社での販売拡大に踏み切ったといえそうだ。
ただ、日本のオープン市場はあまり大きいとは言えないだけに、販売拡大には限界もあるように感じる。一層の販路拡大に向けては、やはり携帯大手からの販売、具体的にいえば長らく端末を供給していないソフトバンクとの取引再開に踏み切るかどうかが、大きなポイントになってくるのではないだろうか。
■「Galaxy S24」シリーズ国内発売から見える日本市場戦略
Galaxy S24シリーズは、従来力を入れてきたカメラの強化だけでなく、自社独自のAI技術「Galaxy AI」を活用した、新しい機能を数多く搭載しているのが特徴。文字起こしに対応したボイスレコーダーや、音声通話を他の言語に翻訳してくれる「リアルタイム通訳」、さらには撮影した写真のオブジェクトを移動し、その後を生成AI技術で埋める編集機能などを実現している。
その詳細については以前、グローバル版の発表に際して本連載で触れているほか、最上位モデル「Galaxy S24 Ultra」のグローバル版のレビューも実施しているので、そちらを参照頂きたい。グローバル版では、デバイス上でのAIによる日本語の処理があまり得意ではなかったが、同社ではその後日本での発売に向け、日本語のAI処理性能強化にかなり力を入れているとのこと。実際の精度がどの程度高まっているのかどうか、ぜひ発売後に再び試してみたいところだ。
そこで今回は、Galaxy S24の発表で見えたサムスン電子の新たな日本市場戦略を考察をしてみたいと思う。まず、日本向けに投入されるGalaxy S24シリーズだが、Galaxy S24 Ultraとスタンダードモデルの「Galaxy S24」のみとなっており、従来のGalaxy Sシリーズと同様、大画面モデルの「Galaxy S24+」は投入されないようだ。
携帯電話会社向けの販路も、従来通りNTTドコモとKDDI(auブランド)となっている。「Galaxy S23」を販売していた楽天モバイルが外れている点はやや気になるが、それよりむしろ気になるのは、同時に発表されたSIMフリー版、要はオープン市場向けモデルの発売である。
サムスン電子は、今回携帯電話会社向けモデルの発売と同時に、SIMフリー版モデルの発売も発表。Galaxy S24とGalaxy S24 UltraのSIMフリー版を「Samsungオンラインショップ」で4月11日に発売するとしているのだが、その発売日は携帯2社向けモデルの発売日と全く同じ。それゆえ、Galaxy S24シリーズが発売されないソフトバンクや楽天モバイルのユーザーも、SIMフリー版を購入すればNTTドコモやauのユーザーと同じ日に使えてしまうのだ。
このことは、日本市場におけるサムスン電子の戦略が劇的に変わったことを示している。それは従来貫いてきた、携帯2社からのスマートフォン販売に重きを置く方針から、自社独自でのスマートフォン販売も強化していく方針へと戦略を転換したことだ。
実はその兆しは2022年から見られたもので、同年にはサムスン電子として初めて日本のオープン市場に向けたSIMフリースマートフォン「Galaxy M23 5G」の販売を開始。以降も、オープン市場向けモデルの販売を徐々に増やしており、2023年には折り畳みスマートフォンの最新モデル「Galaxy Z Flip5」「Galaxy Z Fold5」のSIMフリー版を販売している。
また2023年には、Samsungオンラインショップを設立すると共に、ブランド戦略も大きく転換。日本における企業ブランドの表記と呼称を「Galaxy」から「Samsung」に変更している。そして今回の新製品で、携帯2社向けモデルとオープン市場向けのSIMフリーモデルの同時販売を実現したことによって、携帯2社だけによらない販路開拓へと明確に踏み出したわけだ。
なぜサムスン電子が、従来の戦略を大きく転換したのかといえば、要因の1つは国内スマートフォン市場の低迷である。2023年には複数の国内メーカーが撤退を表明するなど、日本のスマートフォン市場はとても冷え切っている状況。そこに影響しているのは1つに円安、そしてもう1つは政府によるスマートフォンの値引き規制である。
とりわけ後者の規制は、これまで「1円スマホ」などスマートフォンの大幅値引き施策で顧客を獲得してきた、携帯大手に向けてかけられたもの。それゆえスマートフォンメーカーの中で、最も携帯大手からの販売を重視してきたサムスン電子には非常に不利に働く規制でもある。携帯大手だけに依存した体制では、今後は販売を伸ばすことが難しく、自社単独での販路を確立する必要があると判断したのだろう。
もう1つの要因として見逃せないのが、Googleのスマートフォン「Pixel」シリーズの販売が急拡大していることだ。日本では長らくアップルが過半数のシェアを獲得する最大手となっており、サムスン電子と、シャープなどの国内メーカーがそれに続く第2グループを形成するという状況が長く続いてきた。
だが、そこに急速に台頭してきたのがGoogleで、とりわけ2023年発売の「Pixel 7a」でNTTドコモへの端末供給を再開して以降、販売数が劇的に増加。一部調査会社の調査では2023年、日本のスマートフォン市場でGoogleが500%の成長を遂げたとの報告もなされている。
もちろんサムスン電子にとってGoogleは、OSの「Android」を提供する重要なパートナーでもあるのだが、国内のスマートフォン市場では非常に大きな脅威となる可能性が出てきたことから、危機感を強めていることは確かだろう。Googleは日本での知名度やブランド力が絶大なだけに、サムスン電子としてもGoogleに対抗するには一層のブランド力向上が必要と判断し、自社での販売拡大に踏み切ったといえそうだ。
ただ、日本のオープン市場はあまり大きいとは言えないだけに、販売拡大には限界もあるように感じる。一層の販路拡大に向けては、やはり携帯大手からの販売、具体的にいえば長らく端末を供給していないソフトバンクとの取引再開に踏み切るかどうかが、大きなポイントになってくるのではないだろうか。