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公開日 2022/05/13 13:20
将来の動画撮影などにも期待

天の川銀河の超巨大ブラックホール撮影、近くにあるから逆に難しかった【Gadget Gate】

Munenori Taniguchi
世界8か所にある電波望遠鏡を統合して利用することで、仮想的に地球サイズの電波望遠鏡として動作させる「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」が、我々の住む太陽系も属する天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール「いて座 A*」の姿を画像化することに、初めて成功した。

Image: ESO

ブラックホールを “見る” ための唯一の方法は、ブラックホールがその強力な重力場で光を曲げることで、周囲に光子をまとった影のように見える「ブラックホールシャドウ」を画像化することだ。



EHTは、世界に散らばる電波望遠鏡を組み合わせることで、最も離れた観測所を直径とした仮想の電波干渉計とし、そのデータを統合して高解像度な画像を生成する。理論的にはこの直径となる距離が離れるほど、得られるデータも高解像化していく。ただ、そのためには充分な量の光子が得られる必要性がある。

今回の観測では、アルマ望遠鏡の広い観測面積と、超巨大ブラックホールが非常に明るく見える波長を選ぶことで、十分な光量を確保した。これによりEHTの性能は、例えるならニューヨークからロサンゼルスに置かれたコインを見て、そこに刻印されている製造年の文字を読み取れるほどになったとのこと。

EHTは2019年に、おとめ座領域にある楕円銀河「M87」の中心にあるブラックホール「おとめ座A*」を画像化し、世界を驚かせた。天文学者らは、次は天の川銀河の中心にあるブラックホールをとらえることを期待した。とはいえ、はるかに遠いM87の中心のブラックホールをとらえることができたのだから、天の川銀河のブラックホールをとらえるのが簡単かといえば、そんなことはなかった。

EHTのイメージ(Image: ESO)

いて座 A*は、太陽の400万倍以上の質量をもつ超巨大ブラックホールとされる。しかしそれはM87のおとめ座A*に比べ1000分の1程度と小さく、またはるかに近いため、数時間〜数分という短時間で観測状況が変化してしまう。世界に散らばる電波望遠鏡の観測データを揃えるのに丸1日を要するEHTにとって、いて座 A*は画像化が難しい相手だった。

わかりやすくいえば、M87の場合は何度か撮影してもまったく同じように見えるため、画像化の処理が簡単だった。しかし、天の川銀河のブラックホールは近くにあるため、観測される電波の変化も大きくなる。複数の電波望遠鏡で撮影すると、そのどれもが違う様子を示してしまい、1枚の画像にするのが困難だったとのことだ。

研究者らは、数日間かけて収集した観測データから様々な画像を平均化。さらに足りないデータを補うため、5年もの歳月をかけて複数のスーパーコンピューターでシミュレーションを実施した。さらに推論可能な画像処理アルゴリズムを開発することで、最終的には真っ黒な、事象の地平面のすぐ外側に「ドーナッツ型の光輪」が見えるその姿が得られたとしている。なおこの光輪は、一般相対性理論による予測によく一致している。

今回の成果によって、天文学者らは2つの異なるブラックホールの画像を比較し、「超巨大ブラックホールがどのように振る舞うか」に関するモデルを改良できるようになったとしている。そして、周囲のガスの振る舞いについての理解が深まれば、銀河がどのように形成され、進化するかもわかるかもしれない。

また、今後はさらに鮮明なブラックホール画像の撮影や、ブラックホールが時間とともにどのように変化するかを動画化することなどが期待されるところだ。

Source: European Southern Observatory
via: Space.com, Ars Technica



※テック/ガジェット系メディア「Gadget Gate」を近日中にローンチ予定です。本稿は、そのプレバージョンの記事として掲載しています。

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