公開日 2020/12/24 06:30
「重低音×タフ」な“XXシリーズ”に新モデルが登場
重低音の裏にある緻密なチューニング。JVCの完全ワイヤレス「HA-XC90T」レビュー!
高橋 敦
■「重低音×タフ」な“XXシリーズ”の最新完全ワイヤレス「HA-XC90T」
JVC「XX」は「重低音×タフ」という明快なコンセプトを掲げた人気シリーズ!と聞くとイマっぽい印象になるかもしれないが、実はシリーズ登場から約20年というロングラン! 当初はアメリカ市場向けに発売され、逆輸入の形での日本デビューが2011年7月。そのコンセプトは今日まで揺るぎない。
そして2020年。シリーズの長い歴史においても特に大きな意味を持つであろう新モデルが登場。それが「HA-XC90T」だ。
完全ワイヤレスモデルのトップエンド。デザインや使い心地などユーザーの感覚に届ける「手応え」のタフさにおいてシリーズの到達点を更新。もちろん重低音再生のレベルもさらに向上。今後の「重低音×タフ」の基準となるであろう、まさにフラグシップ。
イヤホン本体を目にする前、重厚なアルミケースを見た時点で視覚的に「デカイ!」とビビるかもしれない。しかしそのケースを手にすれば伝わってくるのは心地よい重み、明らかな頑強さ、マットな手触り、金属の冷たさ、握り込みたくなる太さ。「デカさの美学」さえ感じさせる手応えだ。ロック付きプッシュオープン機構やマグネット収納式吊り下げリングのギミックも実用性+ロマンで心をくすぐってくる。
大きさに比例したバッテリースペックも説得力十分。イヤホン本体のみで連続再生15時間な上にそれを2回フル充電、合計45時間再生だ。10分充電で約1時間30分再生のクイック充電にも対応。
このケース、確かにデカイ。しかしそのデカさを押し通す説得力を持っている。
そのケースからイヤホン本体を取り出すと……こちらも大柄ではある。しかしこちらにも納得の理由がある。
ひとつは前述の長時間連続再生のための大容量バッテリー、そしてラバープロテクター等による耐衝撃性とIP55相当の防水防塵を兼ね備える「TRIPLE PROOF」ボディという、シリーズコンセプトのうち「タフ」の部分を実現している要素。なお機能面では、対応スマートフォンとの組み合わせにおいては、True Wireless Stereo Plusによる接続安定性向上も実現される。
そしてもうひとつは、シリーズコンセプトのうち「重低音」の方をこれまでにないレベルに到達させた切り札、振動板径12mmという超大口径ドライバーだ。
一般論として、イヤホンのドライバーは振動板の口径が大きく振動板の面積が広いほど、より少ない動きでより多くの空気を動かすことができるため、低音再生において有利。
しかし完全ワイヤレスイヤホンは内部にアンテナや回路、バッテリーも搭載する必要があり、スペースに余裕がない。
にも関わらずこのモデルは12mmという大口径ドライバーの搭載を実現。「完全ワイヤレスとしては大口径」ではなく「普通のイヤホンでもあまりないくらい大口径」だ。
すると当然イヤホン本体の大型化は不可避。であるがこのシリーズなら「デカくてかっこいい」が許される! いやこのシリーズではむしろ求められる!
とはいえ大型であることで装着感が悪いならば問題だが、このモデルは大型なのに装着感も悪くはない。
本体のフォルムはよく練られており、付属イヤーピースも肉厚でグリップに優れる。おかげで、この大きさ重さなのに装着時の安定感は十分。「ウイング型パーツで耳への固定力をアップ」とかではなく普通の形にまとめられているおかげで、ウイングを耳にはめるのに手間取るなんてこともない。
ひとつだけ不安があるとすれば、付属イヤーピースがS/M/Lの3サイズのみで、きめ細かな中間サイズが用意されていないところ。
ただ、筆者が試したところでは、MとLの中間サイズとなる同社別売の「スパイラルドット」イヤーピースMLサイズの本体への装着、その状態でのケースへの収納・充電にも問題はなかった。完全ワイヤレス用ではない普通のイヤーピースでも問題なく収納できるのもデカさのおかげかもしれない。
そしてサウンドだが……これほど上質な重低音サウンドは滅多にない! と言えるレベルだ。
フラットバランスで素晴らしいサウンドなイヤホンは数多く存在するが、重低音サウンドでのこの完成度は稀有。たとえるなら、すらっとしたジュニアヘビー級のプロレスラーがスピーディーに動けるのは当然だが、ゴツゴツした超ヘビー級プロレスラーが同じように動き回れるのは稀有。そんな感じだ。重低音重視とした上での全体のバランスの再構築が実に見事。
おそらく大口径ドライバーの貢献が大きいのであろう、低音表現には大きな余裕が感じられる。
Robert Glasper「Better Than I Imagined」のベースとバスドラムはポップスではあまりないほど低い帯域に沈み込んでおり、その重心の低さをうまく再現できないイヤホンも珍しくない。しかしこのモデルはそこを苦もなく、むしろ得意ですと言わんばかりに、無理を全く感じさせない余裕っぷりで再生。
小口径ドライバーから無理に引き出した余裕のない低音にありがちな、どことなく不自然なアタック感や、低音の中でも特定の周波数帯域だけが妙に目立つといったことは、このモデルの低音再生にはない。低音再生に余裕のある超大口径ドライバーだからこそ、アタックは素直だし低域内での帯域バランスも自然。力みなく普通にすっと、深い帯域に沈み込んだ低重心サウンドを表現できている。ジュニアヘビー級のレスラーがヘビー級のレスラーを持ち上げて投げようとすれば力みまくりで無理矢理感もあるだろうが、ヘビー級のレスラー同士のそれはより自然な攻防となるのだ。
全体の帯域バランスはもちろんもう圧倒的に低音側がデカイ!
しかし高域側の存在感が弱いわけではない。前述の曲でも例えば、シンバルのドライでザシュッとした手触り感がしっかりと表現されているおかげで、低音側の大きなグルーヴだけではなく高音側での細かなリズムも気持ちよく伝わってくる。
また他アーティストでギターとベースがドロップチューニングにされているヘヴィな楽曲でも、そのギターとベースの重低音をしっかり捉えつつディストーションのエッジ感や輪郭もくっきりと立たせ、曲とこのイヤホン、両方の持ち味が発揮された。
加えてこのモデルにはそこからさらに低音強調機能までもが用意されている。右側イヤホンを三回タッチだ。ちなみにイヤホンのデカさを利用して、親指と中指でイヤホンをつまむ感じにしてその間の人差し指でタッチすると操作が安定する。
こちらは、ベースやバスドラムを太らせる帯域ではなく、その下の低音の響きの帯域を適度にプッシュ。ベースをボワンと膨らませてしまうことなく低音の深みを引き出す印象だ。
重低音サウンドとは低音をガンガン出せばよいなんて乱暴なものではない!低音をガンガン出しつつ音楽的な豊かさを維持するためにはむしろ、フラットバランスよりもさらに緻密なチューニングが必要なのだ! 開発者たちのそんな叫びが聞こえてきそうなサウンドがここに実現されている。
その叫びに「そうだ!」と叫び返すような人にとって、これほど強烈にぶっ刺さる完全ワイヤレスイヤホンは他にないだろう。
JVC「XX」は「重低音×タフ」という明快なコンセプトを掲げた人気シリーズ!と聞くとイマっぽい印象になるかもしれないが、実はシリーズ登場から約20年というロングラン! 当初はアメリカ市場向けに発売され、逆輸入の形での日本デビューが2011年7月。そのコンセプトは今日まで揺るぎない。
そして2020年。シリーズの長い歴史においても特に大きな意味を持つであろう新モデルが登場。それが「HA-XC90T」だ。
完全ワイヤレスモデルのトップエンド。デザインや使い心地などユーザーの感覚に届ける「手応え」のタフさにおいてシリーズの到達点を更新。もちろん重低音再生のレベルもさらに向上。今後の「重低音×タフ」の基準となるであろう、まさにフラグシップ。
イヤホン本体を目にする前、重厚なアルミケースを見た時点で視覚的に「デカイ!」とビビるかもしれない。しかしそのケースを手にすれば伝わってくるのは心地よい重み、明らかな頑強さ、マットな手触り、金属の冷たさ、握り込みたくなる太さ。「デカさの美学」さえ感じさせる手応えだ。ロック付きプッシュオープン機構やマグネット収納式吊り下げリングのギミックも実用性+ロマンで心をくすぐってくる。
大きさに比例したバッテリースペックも説得力十分。イヤホン本体のみで連続再生15時間な上にそれを2回フル充電、合計45時間再生だ。10分充電で約1時間30分再生のクイック充電にも対応。
このケース、確かにデカイ。しかしそのデカさを押し通す説得力を持っている。
そのケースからイヤホン本体を取り出すと……こちらも大柄ではある。しかしこちらにも納得の理由がある。
ひとつは前述の長時間連続再生のための大容量バッテリー、そしてラバープロテクター等による耐衝撃性とIP55相当の防水防塵を兼ね備える「TRIPLE PROOF」ボディという、シリーズコンセプトのうち「タフ」の部分を実現している要素。なお機能面では、対応スマートフォンとの組み合わせにおいては、True Wireless Stereo Plusによる接続安定性向上も実現される。
そしてもうひとつは、シリーズコンセプトのうち「重低音」の方をこれまでにないレベルに到達させた切り札、振動板径12mmという超大口径ドライバーだ。
一般論として、イヤホンのドライバーは振動板の口径が大きく振動板の面積が広いほど、より少ない動きでより多くの空気を動かすことができるため、低音再生において有利。
しかし完全ワイヤレスイヤホンは内部にアンテナや回路、バッテリーも搭載する必要があり、スペースに余裕がない。
にも関わらずこのモデルは12mmという大口径ドライバーの搭載を実現。「完全ワイヤレスとしては大口径」ではなく「普通のイヤホンでもあまりないくらい大口径」だ。
すると当然イヤホン本体の大型化は不可避。であるがこのシリーズなら「デカくてかっこいい」が許される! いやこのシリーズではむしろ求められる!
とはいえ大型であることで装着感が悪いならば問題だが、このモデルは大型なのに装着感も悪くはない。
本体のフォルムはよく練られており、付属イヤーピースも肉厚でグリップに優れる。おかげで、この大きさ重さなのに装着時の安定感は十分。「ウイング型パーツで耳への固定力をアップ」とかではなく普通の形にまとめられているおかげで、ウイングを耳にはめるのに手間取るなんてこともない。
ひとつだけ不安があるとすれば、付属イヤーピースがS/M/Lの3サイズのみで、きめ細かな中間サイズが用意されていないところ。
ただ、筆者が試したところでは、MとLの中間サイズとなる同社別売の「スパイラルドット」イヤーピースMLサイズの本体への装着、その状態でのケースへの収納・充電にも問題はなかった。完全ワイヤレス用ではない普通のイヤーピースでも問題なく収納できるのもデカさのおかげかもしれない。
そしてサウンドだが……これほど上質な重低音サウンドは滅多にない! と言えるレベルだ。
フラットバランスで素晴らしいサウンドなイヤホンは数多く存在するが、重低音サウンドでのこの完成度は稀有。たとえるなら、すらっとしたジュニアヘビー級のプロレスラーがスピーディーに動けるのは当然だが、ゴツゴツした超ヘビー級プロレスラーが同じように動き回れるのは稀有。そんな感じだ。重低音重視とした上での全体のバランスの再構築が実に見事。
おそらく大口径ドライバーの貢献が大きいのであろう、低音表現には大きな余裕が感じられる。
Robert Glasper「Better Than I Imagined」のベースとバスドラムはポップスではあまりないほど低い帯域に沈み込んでおり、その重心の低さをうまく再現できないイヤホンも珍しくない。しかしこのモデルはそこを苦もなく、むしろ得意ですと言わんばかりに、無理を全く感じさせない余裕っぷりで再生。
小口径ドライバーから無理に引き出した余裕のない低音にありがちな、どことなく不自然なアタック感や、低音の中でも特定の周波数帯域だけが妙に目立つといったことは、このモデルの低音再生にはない。低音再生に余裕のある超大口径ドライバーだからこそ、アタックは素直だし低域内での帯域バランスも自然。力みなく普通にすっと、深い帯域に沈み込んだ低重心サウンドを表現できている。ジュニアヘビー級のレスラーがヘビー級のレスラーを持ち上げて投げようとすれば力みまくりで無理矢理感もあるだろうが、ヘビー級のレスラー同士のそれはより自然な攻防となるのだ。
全体の帯域バランスはもちろんもう圧倒的に低音側がデカイ!
しかし高域側の存在感が弱いわけではない。前述の曲でも例えば、シンバルのドライでザシュッとした手触り感がしっかりと表現されているおかげで、低音側の大きなグルーヴだけではなく高音側での細かなリズムも気持ちよく伝わってくる。
また他アーティストでギターとベースがドロップチューニングにされているヘヴィな楽曲でも、そのギターとベースの重低音をしっかり捉えつつディストーションのエッジ感や輪郭もくっきりと立たせ、曲とこのイヤホン、両方の持ち味が発揮された。
加えてこのモデルにはそこからさらに低音強調機能までもが用意されている。右側イヤホンを三回タッチだ。ちなみにイヤホンのデカさを利用して、親指と中指でイヤホンをつまむ感じにしてその間の人差し指でタッチすると操作が安定する。
こちらは、ベースやバスドラムを太らせる帯域ではなく、その下の低音の響きの帯域を適度にプッシュ。ベースをボワンと膨らませてしまうことなく低音の深みを引き出す印象だ。
重低音サウンドとは低音をガンガン出せばよいなんて乱暴なものではない!低音をガンガン出しつつ音楽的な豊かさを維持するためにはむしろ、フラットバランスよりもさらに緻密なチューニングが必要なのだ! 開発者たちのそんな叫びが聞こえてきそうなサウンドがここに実現されている。
その叫びに「そうだ!」と叫び返すような人にとって、これほど強烈にぶっ刺さる完全ワイヤレスイヤホンは他にないだろう。
- トピック
- JVC
- 完全ワイヤレスイヤホン