公開日 2022/01/06 06:30
【特別企画】オーディオ銘機賞2022 ハイエンド特別大賞受賞
優美な外観と卓越した音楽表現力。エストニアの至宝・エステロンのスピーカー「YB MkII」を堪能
山之内 正
アルヴォ・ペルトやヤルヴィ一族の名を出すまでもなく、エストニアが充実した音楽文化を育んできた地であることは音楽ファンならよく知っているはずだ。その地で生まれたエステロンのスピーカーは、直線部分を持たない優美な外見に話題が集中しがちで、実際にその唯一無二のデザインは称賛に値するものなのだが、やはりスピーカーは音楽性を抜きに語ることはできない。
優れたデザインがもたらす効用も含めて、今回は同社の最新モデルとして2021年に登場し、オーディオ銘機賞2022で「ハイエンド特別大賞」を受賞した「YB MkII」に焦点を合わせ、その音楽的な表現力に注目してみよう。
■フラグシップ機のノウハウを投入し、キャビネット素材とネットワークを一新
「YB MkII」は前身モデルであるYBとの外見上の違いはフット部分だけで、採用するユニット群もオリジナルの「YB」と同一である。それでは何が変わったのか。結論から言うと、キャビネットとネットワーク回路が異なる。同社の最新フラグシップである「FORZA」の開発時に得たノウハウが投入されているのだ。
キャビネットは大理石パウダーを含むコンポジット素材の組成を工夫し、さらに剛性を高めている。その変更による重量増は5?と小さくない。ネットワーク回路にはプレミアム仕様のオイルコンデンサーや配線材を投入し、十分な時間をかけて音を追い込んでいる。
FORZAの威容を体験したあとで「YB」や「YB MkII」に接すると、「これなら部屋に入りそう」と、現実的な考えが頭に浮かぶ。実際には洗練の極致というべき外観が似合う環境を整えることの方が大変なのだが、サイズに限れば導入のハードルは一気に低くなった。
別格ともいうべきFORZAのスケール感もその比率で小さくなってしまうのかと考えがちだが、そこは少し違う。大編成のオーケストラは低音楽器の下支えが厚いが、オリジナルのYBよりも発音の初速が大きく、響きが下に下がらず前方と上方に向けて広がっていく。キャビネットの剛性を上げた目的は、低音の動きと質感を改善することにあったのだ。そのオープンな低音のおかげで、見た目はスリムでも音場は広大で見通しがよく、リスニングルームの物理的な制約を忘れさせてくれる。
■演奏にのめり込むことも、細部に分け入ることもできる
100人を超える大編成のオーケストラ作品でスコアの上から下まですべての楽器が同時に音を出すと、大音響にマスクされて存在が消えてしまう楽器がある。コンサートホールでは、どんなに集中しても聴き取れない楽器があることをしばしば体験するはずだ。しかし、録音はそうではない。精密なマイク配置で適切にバランスを調整した場合に限られるが、R.シュトラウスやマーラーの作品で内声を受け持つヴィオラや木管楽器の2番奏者の動きに気付かせてくれるのだ。
「YB MkII」で聴いていると、何気なく聴いていると気付きにくいような楽器でも、いったん耳を集中させると他の楽器と並行して動いている様子が自然に浮かび上がってくることがある。一体感豊かなサウンドに身を浸すだけでなく、集中して音楽と向き合いたいときには演奏の細部に分け入って立体的な音の交錯を存分に味わうことができるのだ。
そんな多様な聴き方を提供するスピーカーは、実はそれほど多くはない。つねに細部を聴き取りにくいスピーカーは困るが、実際にはたくさんある。その一方、ディテール描写に長けたスピーカーの一部は、音楽の全体が見えにくくなってしまう傾向が無きにしもあらずで、ゆったり音楽に浸りたいときにそれを許してくれない。
北欧のライブハウスで収録されたジャズのライブ録音を「YB MkII」で聴くと、楽器イメージがリアルに立ち上がり、にじみのない音像がステージに並ぶ。それはそれで精度が高いのだが、感心したのはその間の空間からもいろいろな音や気配が伝わってくることだ。
実際に演奏をライブで体験すると、複数のプレーヤー間でフレーズを受け渡すときにリズムやテンポを微妙に動かすなど、アイコンタクトだけでなく音で合図やメッセージを送ることがある。即興の要素が強いジャズは特にそうだが、クラシックの演奏家も普通にやっている。ただし、それがオーディオ装置で再現できるかとなると話は別だ。視覚情報があればすぐに気付くが、音だけだと伝わりにくいこともある。
「YB MkII」は、そんなプレーヤー間のやり取りやテンポの揺らぎがとてもよく分かるスピーカーの一つだと思う。わかりやすく言えば臨場感豊かなサウンドと言い換えられるのだが、もう少し微妙なニュアンスまで含めて、音楽的な表現力が高いと感じるのだ。
Specifications
●形式:3ウェイ3スピーカー(密閉方式)●使用ユニット:【低域】220mm アルミニウム・コーン×1【中域】150mm特殊加工スライスド ・ ペーパーコーン×1【高域】25mm ベリリウム ・ ドーム×1●周波数特性:30〜40kHz●クロスオーバー周波数:80Hz/2kHz●出力音圧レベル:86dB●公称インピーダンス:6Ω●スピーカー端子:シングルワイヤ仕様●サイズ:332W×394D×1,260H?●質量:45?(1台)●付属:サランネット(マグネット着脱式)
(提供:アーク・ジョイア)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.183』からの転載です。
優れたデザインがもたらす効用も含めて、今回は同社の最新モデルとして2021年に登場し、オーディオ銘機賞2022で「ハイエンド特別大賞」を受賞した「YB MkII」に焦点を合わせ、その音楽的な表現力に注目してみよう。
■フラグシップ機のノウハウを投入し、キャビネット素材とネットワークを一新
「YB MkII」は前身モデルであるYBとの外見上の違いはフット部分だけで、採用するユニット群もオリジナルの「YB」と同一である。それでは何が変わったのか。結論から言うと、キャビネットとネットワーク回路が異なる。同社の最新フラグシップである「FORZA」の開発時に得たノウハウが投入されているのだ。
キャビネットは大理石パウダーを含むコンポジット素材の組成を工夫し、さらに剛性を高めている。その変更による重量増は5?と小さくない。ネットワーク回路にはプレミアム仕様のオイルコンデンサーや配線材を投入し、十分な時間をかけて音を追い込んでいる。
FORZAの威容を体験したあとで「YB」や「YB MkII」に接すると、「これなら部屋に入りそう」と、現実的な考えが頭に浮かぶ。実際には洗練の極致というべき外観が似合う環境を整えることの方が大変なのだが、サイズに限れば導入のハードルは一気に低くなった。
別格ともいうべきFORZAのスケール感もその比率で小さくなってしまうのかと考えがちだが、そこは少し違う。大編成のオーケストラは低音楽器の下支えが厚いが、オリジナルのYBよりも発音の初速が大きく、響きが下に下がらず前方と上方に向けて広がっていく。キャビネットの剛性を上げた目的は、低音の動きと質感を改善することにあったのだ。そのオープンな低音のおかげで、見た目はスリムでも音場は広大で見通しがよく、リスニングルームの物理的な制約を忘れさせてくれる。
■演奏にのめり込むことも、細部に分け入ることもできる
100人を超える大編成のオーケストラ作品でスコアの上から下まですべての楽器が同時に音を出すと、大音響にマスクされて存在が消えてしまう楽器がある。コンサートホールでは、どんなに集中しても聴き取れない楽器があることをしばしば体験するはずだ。しかし、録音はそうではない。精密なマイク配置で適切にバランスを調整した場合に限られるが、R.シュトラウスやマーラーの作品で内声を受け持つヴィオラや木管楽器の2番奏者の動きに気付かせてくれるのだ。
「YB MkII」で聴いていると、何気なく聴いていると気付きにくいような楽器でも、いったん耳を集中させると他の楽器と並行して動いている様子が自然に浮かび上がってくることがある。一体感豊かなサウンドに身を浸すだけでなく、集中して音楽と向き合いたいときには演奏の細部に分け入って立体的な音の交錯を存分に味わうことができるのだ。
そんな多様な聴き方を提供するスピーカーは、実はそれほど多くはない。つねに細部を聴き取りにくいスピーカーは困るが、実際にはたくさんある。その一方、ディテール描写に長けたスピーカーの一部は、音楽の全体が見えにくくなってしまう傾向が無きにしもあらずで、ゆったり音楽に浸りたいときにそれを許してくれない。
北欧のライブハウスで収録されたジャズのライブ録音を「YB MkII」で聴くと、楽器イメージがリアルに立ち上がり、にじみのない音像がステージに並ぶ。それはそれで精度が高いのだが、感心したのはその間の空間からもいろいろな音や気配が伝わってくることだ。
実際に演奏をライブで体験すると、複数のプレーヤー間でフレーズを受け渡すときにリズムやテンポを微妙に動かすなど、アイコンタクトだけでなく音で合図やメッセージを送ることがある。即興の要素が強いジャズは特にそうだが、クラシックの演奏家も普通にやっている。ただし、それがオーディオ装置で再現できるかとなると話は別だ。視覚情報があればすぐに気付くが、音だけだと伝わりにくいこともある。
「YB MkII」は、そんなプレーヤー間のやり取りやテンポの揺らぎがとてもよく分かるスピーカーの一つだと思う。わかりやすく言えば臨場感豊かなサウンドと言い換えられるのだが、もう少し微妙なニュアンスまで含めて、音楽的な表現力が高いと感じるのだ。
Specifications
●形式:3ウェイ3スピーカー(密閉方式)●使用ユニット:【低域】220mm アルミニウム・コーン×1【中域】150mm特殊加工スライスド ・ ペーパーコーン×1【高域】25mm ベリリウム ・ ドーム×1●周波数特性:30〜40kHz●クロスオーバー周波数:80Hz/2kHz●出力音圧レベル:86dB●公称インピーダンス:6Ω●スピーカー端子:シングルワイヤ仕様●サイズ:332W×394D×1,260H?●質量:45?(1台)●付属:サランネット(マグネット着脱式)
(提供:アーク・ジョイア)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.183』からの転載です。