公開日 2022/11/26 06:45
【特別企画】オーディオ銘機賞2023 <金賞>受賞モデル
アキュフェーズ50年の集大成、モノラルパワーアンプ「A-300」は満場一致で支持される紛れもない銘機だ
井上千岳
アキュフェーズの50周年記念モデルを締めくくるモデルとして登場した、モノラルパワーアンプ「A-300」。高い評価を得たA-250を超える性能と音質を目標に、5年間の開発期間をかけ、さらなる「低雑音化」と「高出力化」が図られている。オーディオ銘機賞では審査委員全員の支持を受け、金賞を受賞した。そのサウンドを井上千岳氏が解説する。
2022年の創立50周年に向けて、3年前から続けられてきた記念モデルの最終版である。言うまでもなく誰もが期待したA級モノラルパワーアンプ。アキュフェーズの総力を傾けた集大成として、その意義は極めて深い。
近年のアキュフェーズ製品で、ことにアンプに関しては、S/Nの改善とダンピングファクターの向上が中心的な課題となってきた。他の性能はそれに伴って必然的によくなってくるもので、これを音質面から見れば静寂感と解像度の向上、スピーカーに対する制動力の改善という結果に現れる。その現時点での極点が本機なのである。
全体の構成は2017年発売の先行機A-250から大きく変わってはいない。出力段はMOS FET純A級10パラレル・プッシュプル2組。ただA級動作領域は従来の8Ω 100Wから125Wへ25%増加した。また出力素子も東芝製からフェアチャイルド製に変更されている。
出力は最大で1Ω 1000W(音楽信号のみ)まで保証されているが、サイズとの関係で法令による制限があり、実際にはもっと可能でもこの範囲に収めなければならないそうである。
これに伴って電源には大容量トロイダルトランスを新規に開発。平滑コンデンサーは従来どおりの特注品である。
高S/N化という点でまず見ておくべきなのが、信号入力部の構成である。増幅回路全体はインスツルメンテーション・アンプの2並列だが、この中で信号入力部のゲイン配分に見直しが行われている。入力部のゲインを以前の4倍から12.6倍に高め、逆に電力増幅部は6倍から2倍へと低減した。雑音指数は入力部の方が優れているため、こちらにより多くのゲインを持たせた方がS/Nに有利なのである。
ただこれだけのゲインを持たせるのはオペアンプでは無理で、この部分はディスクリート構成となった。本機が初ではないが、ここ数年のアキュフェーズ製品に共通して見られる手法である。
なお電力増幅部のうち電圧増幅段を2並列として歪みとノイズを低減するMCS+は同社の独自技術。本機では左右に各10パラレルの増幅部が装備されているため、そのそれぞれにMCS+を搭載したダブルMCS+となった。
さらに信号入力部には専用電源も用意されている。以上によって本機のS/Nは130dB以上。A-250に比べて約30%以上もの改善となっている。
もうひとつのダンピングファクターだが、これは内部の低インピーダンスが鍵となっている。まず出力段の基板に大型のバスバーを採用し、出力インピーダンスを低減している。ちなみに平滑コンデンサー同士をバスバーで接続するのは従来からだが、トランスとの位置を入れ替えてリーケージフラックスの影響を受けにくくしているのが今回の構成である。
スピーカー端子は以前からの方式で出力基板に直付け。端子直近から信号側とグラウンド側両方のフィードバックをかけバランスド・リモートセンシング方式で、逆起電力の制御も万全としている。さらに保護回路のMOS FETスイッチも、オン抵抗をこれまでの2.0mAから1.6mAのデバイスに変更した。
この結果ダンピングファクターは公称1000、実測値では2000以上とされていて、A-250に対して40%以上という大幅な改善が実現された。このことが音質にも確実に利いているが、それは後ほど触れる。
パワーアンプでの要望が多いというパワーメーターは、ホール素子を使った電流検出である。このため真の電力値を表示することが可能で、数値は5桁、40ポイントのLEDが使用されている。
なお気づきにくいかもしれないが、フロントパネルの把手が少し太くなった。力強さを考慮したデザインということである。
音を出してすぐに気が付くのは、ハイスピードでストレートな鳴り方だ。AB級シリーズに対してどちらかと言えば重心の低いバランスがA級シリーズにはあったが、本機では意外というくらいに瞬発力と切れのよさが全面に溢れている。特に低域が深いところまで軽く動いて、しかも動き方の強いことが印象的である。重くならない。量感は上がっているがもたれない。それが制動力の向上によるものであることは間違いない。ウーファーの制御が強力なのである。
これは例えばピアノやオーケストラ、ジャズなどで明らかで、どれも低音の立ち上がりが速く弾みがよく輪郭が明快だ。ピアノの低音部など非常によく沈むが、音色の変化が極めて微妙なのに驚く。ジャズのドラムやベースも弾力的で核がくっきり感じられる。
一方バロックでは音数が豊富で、鮮度が大変高い。楽器ひとつひとつが明瞭な存在感を持ち、空間の中にはっきりと並んでいるのが分かる。余韻の瑞々しさとともに、ディテールの表情が緻密で彫りが深い。それらがまた伸び伸びとしているのも、濁りがないからだ。
S/Nが極めて高いのである。信号の細部に歪みや汚れが乗らない。また変質することもない。だから音の純度が高く、情報量が豊富で表情が多彩なのである。
コーラスの深い音場、オーケストラの音色の鮮やかさなども特筆したい。どちらも澄み切った空間に音の粒子が飛び交うような生々しさがあり、音場全体が見えてくる。楽器や声が実体感に富んでいるのも、スピーカーがいかに正確に動いているかということの反映と言える。50年の集大成と呼ぶに相応しい紛れもない銘機である。
(提供:アキュフェーズ)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.187』からの転載です。
アキュフェーズの総力を傾けた集大成機。大出力化をさらに推進
2022年の創立50周年に向けて、3年前から続けられてきた記念モデルの最終版である。言うまでもなく誰もが期待したA級モノラルパワーアンプ。アキュフェーズの総力を傾けた集大成として、その意義は極めて深い。
近年のアキュフェーズ製品で、ことにアンプに関しては、S/Nの改善とダンピングファクターの向上が中心的な課題となってきた。他の性能はそれに伴って必然的によくなってくるもので、これを音質面から見れば静寂感と解像度の向上、スピーカーに対する制動力の改善という結果に現れる。その現時点での極点が本機なのである。
全体の構成は2017年発売の先行機A-250から大きく変わってはいない。出力段はMOS FET純A級10パラレル・プッシュプル2組。ただA級動作領域は従来の8Ω 100Wから125Wへ25%増加した。また出力素子も東芝製からフェアチャイルド製に変更されている。
出力は最大で1Ω 1000W(音楽信号のみ)まで保証されているが、サイズとの関係で法令による制限があり、実際にはもっと可能でもこの範囲に収めなければならないそうである。
これに伴って電源には大容量トロイダルトランスを新規に開発。平滑コンデンサーは従来どおりの特注品である。
入力部のゲイン配分を見直し、S/Nをさらに改善
高S/N化という点でまず見ておくべきなのが、信号入力部の構成である。増幅回路全体はインスツルメンテーション・アンプの2並列だが、この中で信号入力部のゲイン配分に見直しが行われている。入力部のゲインを以前の4倍から12.6倍に高め、逆に電力増幅部は6倍から2倍へと低減した。雑音指数は入力部の方が優れているため、こちらにより多くのゲインを持たせた方がS/Nに有利なのである。
ただこれだけのゲインを持たせるのはオペアンプでは無理で、この部分はディスクリート構成となった。本機が初ではないが、ここ数年のアキュフェーズ製品に共通して見られる手法である。
なお電力増幅部のうち電圧増幅段を2並列として歪みとノイズを低減するMCS+は同社の独自技術。本機では左右に各10パラレルの増幅部が装備されているため、そのそれぞれにMCS+を搭載したダブルMCS+となった。
さらに信号入力部には専用電源も用意されている。以上によって本機のS/Nは130dB以上。A-250に比べて約30%以上もの改善となっている。
ダンピングファクターは40%以上の大幅な改善
もうひとつのダンピングファクターだが、これは内部の低インピーダンスが鍵となっている。まず出力段の基板に大型のバスバーを採用し、出力インピーダンスを低減している。ちなみに平滑コンデンサー同士をバスバーで接続するのは従来からだが、トランスとの位置を入れ替えてリーケージフラックスの影響を受けにくくしているのが今回の構成である。
スピーカー端子は以前からの方式で出力基板に直付け。端子直近から信号側とグラウンド側両方のフィードバックをかけバランスド・リモートセンシング方式で、逆起電力の制御も万全としている。さらに保護回路のMOS FETスイッチも、オン抵抗をこれまでの2.0mAから1.6mAのデバイスに変更した。
この結果ダンピングファクターは公称1000、実測値では2000以上とされていて、A-250に対して40%以上という大幅な改善が実現された。このことが音質にも確実に利いているが、それは後ほど触れる。
パワーアンプでの要望が多いというパワーメーターは、ホール素子を使った電流検出である。このため真の電力値を表示することが可能で、数値は5桁、40ポイントのLEDが使用されている。
なお気づきにくいかもしれないが、フロントパネルの把手が少し太くなった。力強さを考慮したデザインということである。
瞬発力と切れのよさが全面に溢れている
音を出してすぐに気が付くのは、ハイスピードでストレートな鳴り方だ。AB級シリーズに対してどちらかと言えば重心の低いバランスがA級シリーズにはあったが、本機では意外というくらいに瞬発力と切れのよさが全面に溢れている。特に低域が深いところまで軽く動いて、しかも動き方の強いことが印象的である。重くならない。量感は上がっているがもたれない。それが制動力の向上によるものであることは間違いない。ウーファーの制御が強力なのである。
これは例えばピアノやオーケストラ、ジャズなどで明らかで、どれも低音の立ち上がりが速く弾みがよく輪郭が明快だ。ピアノの低音部など非常によく沈むが、音色の変化が極めて微妙なのに驚く。ジャズのドラムやベースも弾力的で核がくっきり感じられる。
一方バロックでは音数が豊富で、鮮度が大変高い。楽器ひとつひとつが明瞭な存在感を持ち、空間の中にはっきりと並んでいるのが分かる。余韻の瑞々しさとともに、ディテールの表情が緻密で彫りが深い。それらがまた伸び伸びとしているのも、濁りがないからだ。
S/Nが極めて高いのである。信号の細部に歪みや汚れが乗らない。また変質することもない。だから音の純度が高く、情報量が豊富で表情が多彩なのである。
コーラスの深い音場、オーケストラの音色の鮮やかさなども特筆したい。どちらも澄み切った空間に音の粒子が飛び交うような生々しさがあり、音場全体が見えてくる。楽器や声が実体感に富んでいるのも、スピーカーがいかに正確に動いているかということの反映と言える。50年の集大成と呼ぶに相応しい紛れもない銘機である。
(提供:アキュフェーズ)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.187』からの転載です。