公開日 2023/07/13 06:30
今回は、ポーランドで卓越したオーディオエレクトロ企業として活躍するHEM社が、2020年に創業したオーディオブランド、Ferrum Audio(フェルム・オーディオ)のDAC、「WANDLA」(ワンドラ)を紹介します。
まず、その創業者、Marcin Hamerla(マルチン・ハメラ)氏を紹介しましょう。氏は、ワルシャワ工科大学で電子工学を学んだのち、軍需産業とオーディオ製品の製造に携わってきたそうで、ニューヨークのMytekとの協業により蓄積された高いソフトウェア開発力とオーディオ的な感性を併せ持ち、質実剛健でユニークな製品開発を行なっているそうです。
私個人としては、ハイレゾの黎明期に登場したMytekの「STEREO 192-DSD DAC」を思い出しますね。Macの当時のデジタル伝送方式となるFireWire入力からの信号を高速で高精度クロックに同期させる画期的なJET-PLLやアナログとデジタルの音量調整器。さらにアップサンプリング機能や外部クロック同期など、プロ機としても使用できるほどファームウェアが充実していましたね。これらにも貢献したのがハメラ氏だったのです。
Ferrum Audioとしては、すでにUSB-DAC「ERCO」とヘッドホンアンプ「OOR」などを発売していますが、今回はこれらとデザインを統一したフラグシップとなるDAC「WANDLA」が登場したわけです。
さて、そのWANDLAを紹介しましょう。まずデザインです。マットなブラックを基調とし、左側にFeとレタリングした茶色のエンブレムがあしらわれています。Feは元素記号の「鉄」、Ferrumはラテン語で鉄を意味するそうです。これにこだわっておられるようで、筐体全体もスチール製です。入力機能としては、USB Type-C、AES/EBU、S/PDIF (同軸/光)、I2SとARC(オーディオリターンチャンネル:テレビのHDMI端子からの音声をAVアンプなどへ伝送する)を装備しています。
また音量調整可能なプリアンプ機能があり、デジタル入力だけではなく、RCAのアナログ入力1系統をRCAとXLRバランスで出力できます。フロントのカラータッチパネルを使用し、入力選択やフィルターモード、その他の設定が行ます。その表示も明瞭度が高く見やすいです。
本機で特筆すべき機能としては、ハイレゾ再生アプリケーションとして有名なHQ PlayerのJussi Laako(ユッシ・ラーコ)氏と共同開発した独自のデジタルフィルター2種、HQガウス・フィルターとHQアポタイジング・フィルターを採用していることです。
前者は、最適な時間周波数応答(インパルス応答)に重点を置いたアポタイジングフィルターで、格別に優れた過渡応答と空間情報を提供するそうです。なお、アポタイジングフィルターとは、インパルス応答の先頭部で発生する小さなギザギザ波形のプリ・リンギングを低減するか、排除するフィルターのことです。オーディオ的には、演奏のさまを明瞭度高く描写することに貢献します。
後者は、特に現代のレコーディング向けのアポタイジングフィルターで、実際の音響で行われた録音、または豊富な空間情報を含む録音に適しているとのことです。言い換えると、クラシックのような生演奏や自然界の音に最適なフィルターで、インパルス応答のプリ・リンギングだけではなく、応答波形の直後の小さなギザギザ波形のポスト・リンギングも低減したか、排除した応答波形と推察されます。従って、音の立ち上がりのアタック、立ち上がりを強調させず、自然な音の立ち上がりや音のグラディエーションが体験できます。
そのほかに、本機は、ESSの最高峰の32bitDACチップ、ES9038PROを1基搭載するので、その内部のシャープ・ロールオフとスロー・ロールオフのフィルターなども選択可能にしています。
内部も観察しましたが、このコンパクトな筐体の中に驚くほどに魅力的な技術が搭載されています。信号伝送を最短化していることも特徴です。
まず、デジタル入力信号の流れとして、注目したことは、中央付近にある四角い基板です。これは独自開発の「SERCE(セルチェ)」というデジタル処理部モジュールです。アナログ信号以外のUSB、AES/EBU、S/PDIF、HDMIなどのデジタル信号は、すべてこのモジュールで処理されます。そのコアとなるのが、ARMプロセッサーです。USBレシーバーや前述の独自フィルター、MQAデコーダー処理を行うほか、バーブラウンのデジタルトランシーバー「DIX4192」を使用したAES/EBU、S/PDIF入力の伝送処理も行なっています。
このモジュールを通過したデジタル信号は、ダイナミックレンジ132dB(モノラル動作で140dB)と全高調波歪み率、-122dBの性能値を誇るESSのES9038PROに伝送されます。調べによると、このチップには60MHzから100MHzのマスタークロックが必要とのことで、本機では100MHzの安定度が高く高精度な大型水晶発振器を直近に配置しています。これにより、DA変換特性とDACチップ内部のジッター低減回路に大きく貢献しています。
また、このDACチップは、内部に8式のDACを内蔵しています。これを左右4式に分け、出力段(ローパス・フィルター)をバランス化しています。1chあたり4式のDACが並列駆動するため、変換誤差が低減し、変換のリニアリティが向上します。その結果、特に弱音の再現性が向上します。
なお、このDACチップは、電流出力なので、I/V変換回路が必要となります。特に高電流出力なので、抵抗やディスクリートで構成されることがありますが、本機では高電流を受けるに最適なバッファーアンプ半導体、TIの「BUF634A」を採用しています。その帯域幅は、210MHzで250mAの高速バッファーです。スルーレートも極めて高く、3,750V/μsの性能値です。
ESSに詳しい技術者からの話ですが、このI/V変換回路は非常に大切で、音質に大きく影響するとのことです。このDACチップで変換されたアナログ信号は、「MUSES 72323」を1chあたり1式使用した高精度アナログボリュームに接続します。音量調整不要の場合は、リレー切り替えでバイパスされます。
次にアナログ信号は、出力段(ローパス・フィルター)に接続し、アナログ出力される仕組みです。基板上のオペアンプの文字が見づらいのですが、主なオペアンプとしては、アナログ・デバイセズの高スルーレート1,000V/μsの「LT1364」やTIの超高精度特性の「OPA2182」を組み合わせているようです。また、表面実装の抵抗にも気を使い、高精度、高音質抵抗を選択していることも確認できます。
メイン電源としては、標準では、24VのACアダプターを使用しますが、基板の左側に高品位な電源回路を装備するほか、SERCEモジュール、DACチップ、アナログ回路の素子などの直近にレギュレータ電源を配置しています。
また、オプションで同社のリニア/スイッチング・ハイブリッド構成の電圧可変型高品位DC電源「HYPSOS」の接続も可能にしています。この電源は、大型リングトライダルトランスと4,700μF/63Vのフィルターコンデンサーを4式搭載しています。リニア電源で生成した基準電源を元に、後段のARMプロセッサーを使用した制御可能なスイッチング電源により、直流電圧を5 - 30V(0.1V刻み)に可変するだけではなく、出力波形をユーザーの好みに応じて変更可能にしていることが特徴です。しかも、接続機器に供給する直流電圧を監視し、常に電圧を自動調整しています。こんな直流電源ユニットは、他に類を見ないですね。
その音質を、リファレンスのアキュフェーズのプリアンプ「C-3900」とA級パワーアンプ「A-75」、そしてB&W「802 D3」で確認しました。トランスポートとしてDELA「N1Z」のUSB出力を使用しました。
色々なジャンルのハイレゾを再生しましたが、ESSのDACチップの効果を最大限に引き出す同社の回路により、極めて音に透明感があり、高解像度であることが特徴です。フラットレスポンスで高密度な音です。中低域の量感も魅力的です。前述のスルーレートが極めて高いアナログ出力段の効果により、弱音から強音まで、一音一音を際立てるところがあります。特にオーケストラの壮大なフォルテッシモは高い音圧でスピード感がありますね。
空間にリアルな音像を描くことが好きであれば、フィルターモードをHQガウスにすると良いでしょう。楽器や声のエッジを明瞭にするところがあります。オーディオ愛好家が好きな音かもしれません。一方で、HQアポタイジングでは、音の立ち上がりの強調感や音のエッジを感じさせず、ナチュラルな音で倍音も豊潤に聴こえてきます。どちらが良いという訳ではなく、再生音源で変えると良いと思います。クラシック好きなら後者が良いかもしれません。
次に別売の電源ユニット、HYPSOSを接続してみました。すると、聴感上良い意味でマイルドかつアナログ的な浸透力のある音質へと変化しました。それだけではなく、弱音の透明度が高まり、解像度やダイナミックレンジが拡張した印象も受けました。ヴォーカル曲を再生すると、空間描写性が高まり、演奏が生々しくなった印象も受けます。一方で、私は付属のACアダプターによる色付けの少ないフレッシュな音も好きです。アナログの質感を加えたい方には、HYPSOSもオススメしたいと思うところです。
このように、WANDLAはデザイン、搭載技術、音質がうまくバランスしていることが魅力で、長く愛用できることでしょう。積極的にプリ機能を使用し、パワーアンプ・ダイレクト接続やパワード・スピーカーをドライブし、シンプルでハイエンドなシステムを構築するのもいい考えです。HYPSOSとヘッドホンアンプOORを導入して、3筐体のハイエンド・ヘッドホンシステムも実現したいものです。
最後に、私の気に入っているハイレゾ・アルバムも紹介しておきます。ヒラリー・ハーンが1年間の休暇をし、久々に録音したのが「ECLIPSE」(エクリプス)というアルバムです。
ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲から始まりますが、そのスケールの大きな演奏には、オケの響きと溶け合い、深淵さも加わり魅力的です。最後のカルメン幻想曲も、ハーンが演奏すれば、演奏の格好の良さが目に浮かぶようです。
最も注目し感激したのは、アルゼンチンの現代作曲家、ヒナステラのヴァイオリン協奏曲です。第1楽章の冒頭から5分23秒にわたりカデンツァが聴けます。その旋律を紡いでゆくアーティキュレーション、重音を弾く響き、デリカシーに富んだ一音一音。演奏への想いや集中力までも伝わってくる思いがします。その後、オケと向き合い、ダイナミックな演奏を展開。後半には、南米の神秘さが聴け、最後は、オケとともに響きの万華鏡を見るような濃厚な音楽を展開します。
48kHz/24bitですが、そんなことを感じさせないほど、ハーンの実在感ある演奏とリアリティの高いオケの響きが堪能できます。さすが24bit。ダイナミックレンジが広いです。
(提供:エミライ)
強化電源HYPSOSの導入も効果的
合理的な設計思想と音質への飽くなき追求。Ferrum Audioの旗艦DAC「WANDLA」、高密度なハイエンドの音世界
角田郁雄高度なソフトウェア技術とオーディオ感性を併せ持つFerrum Audio
今回は、ポーランドで卓越したオーディオエレクトロ企業として活躍するHEM社が、2020年に創業したオーディオブランド、Ferrum Audio(フェルム・オーディオ)のDAC、「WANDLA」(ワンドラ)を紹介します。
まず、その創業者、Marcin Hamerla(マルチン・ハメラ)氏を紹介しましょう。氏は、ワルシャワ工科大学で電子工学を学んだのち、軍需産業とオーディオ製品の製造に携わってきたそうで、ニューヨークのMytekとの協業により蓄積された高いソフトウェア開発力とオーディオ的な感性を併せ持ち、質実剛健でユニークな製品開発を行なっているそうです。
私個人としては、ハイレゾの黎明期に登場したMytekの「STEREO 192-DSD DAC」を思い出しますね。Macの当時のデジタル伝送方式となるFireWire入力からの信号を高速で高精度クロックに同期させる画期的なJET-PLLやアナログとデジタルの音量調整器。さらにアップサンプリング機能や外部クロック同期など、プロ機としても使用できるほどファームウェアが充実していましたね。これらにも貢献したのがハメラ氏だったのです。
Ferrum Audioとしては、すでにUSB-DAC「ERCO」とヘッドホンアンプ「OOR」などを発売していますが、今回はこれらとデザインを統一したフラグシップとなるDAC「WANDLA」が登場したわけです。
タッチで操作できるフロントディスプレイで各種設定が可能
さて、そのWANDLAを紹介しましょう。まずデザインです。マットなブラックを基調とし、左側にFeとレタリングした茶色のエンブレムがあしらわれています。Feは元素記号の「鉄」、Ferrumはラテン語で鉄を意味するそうです。これにこだわっておられるようで、筐体全体もスチール製です。入力機能としては、USB Type-C、AES/EBU、S/PDIF (同軸/光)、I2SとARC(オーディオリターンチャンネル:テレビのHDMI端子からの音声をAVアンプなどへ伝送する)を装備しています。
また音量調整可能なプリアンプ機能があり、デジタル入力だけではなく、RCAのアナログ入力1系統をRCAとXLRバランスで出力できます。フロントのカラータッチパネルを使用し、入力選択やフィルターモード、その他の設定が行ます。その表示も明瞭度が高く見やすいです。
本機で特筆すべき機能としては、ハイレゾ再生アプリケーションとして有名なHQ PlayerのJussi Laako(ユッシ・ラーコ)氏と共同開発した独自のデジタルフィルター2種、HQガウス・フィルターとHQアポタイジング・フィルターを採用していることです。
前者は、最適な時間周波数応答(インパルス応答)に重点を置いたアポタイジングフィルターで、格別に優れた過渡応答と空間情報を提供するそうです。なお、アポタイジングフィルターとは、インパルス応答の先頭部で発生する小さなギザギザ波形のプリ・リンギングを低減するか、排除するフィルターのことです。オーディオ的には、演奏のさまを明瞭度高く描写することに貢献します。
後者は、特に現代のレコーディング向けのアポタイジングフィルターで、実際の音響で行われた録音、または豊富な空間情報を含む録音に適しているとのことです。言い換えると、クラシックのような生演奏や自然界の音に最適なフィルターで、インパルス応答のプリ・リンギングだけではなく、応答波形の直後の小さなギザギザ波形のポスト・リンギングも低減したか、排除した応答波形と推察されます。従って、音の立ち上がりのアタック、立ち上がりを強調させず、自然な音の立ち上がりや音のグラディエーションが体験できます。
そのほかに、本機は、ESSの最高峰の32bitDACチップ、ES9038PROを1基搭載するので、その内部のシャープ・ロールオフとスロー・ロールオフのフィルターなども選択可能にしています。
厳選したハイスペックなパーツを採用し信号経路も最短化
内部も観察しましたが、このコンパクトな筐体の中に驚くほどに魅力的な技術が搭載されています。信号伝送を最短化していることも特徴です。
まず、デジタル入力信号の流れとして、注目したことは、中央付近にある四角い基板です。これは独自開発の「SERCE(セルチェ)」というデジタル処理部モジュールです。アナログ信号以外のUSB、AES/EBU、S/PDIF、HDMIなどのデジタル信号は、すべてこのモジュールで処理されます。そのコアとなるのが、ARMプロセッサーです。USBレシーバーや前述の独自フィルター、MQAデコーダー処理を行うほか、バーブラウンのデジタルトランシーバー「DIX4192」を使用したAES/EBU、S/PDIF入力の伝送処理も行なっています。
このモジュールを通過したデジタル信号は、ダイナミックレンジ132dB(モノラル動作で140dB)と全高調波歪み率、-122dBの性能値を誇るESSのES9038PROに伝送されます。調べによると、このチップには60MHzから100MHzのマスタークロックが必要とのことで、本機では100MHzの安定度が高く高精度な大型水晶発振器を直近に配置しています。これにより、DA変換特性とDACチップ内部のジッター低減回路に大きく貢献しています。
また、このDACチップは、内部に8式のDACを内蔵しています。これを左右4式に分け、出力段(ローパス・フィルター)をバランス化しています。1chあたり4式のDACが並列駆動するため、変換誤差が低減し、変換のリニアリティが向上します。その結果、特に弱音の再現性が向上します。
なお、このDACチップは、電流出力なので、I/V変換回路が必要となります。特に高電流出力なので、抵抗やディスクリートで構成されることがありますが、本機では高電流を受けるに最適なバッファーアンプ半導体、TIの「BUF634A」を採用しています。その帯域幅は、210MHzで250mAの高速バッファーです。スルーレートも極めて高く、3,750V/μsの性能値です。
ESSに詳しい技術者からの話ですが、このI/V変換回路は非常に大切で、音質に大きく影響するとのことです。このDACチップで変換されたアナログ信号は、「MUSES 72323」を1chあたり1式使用した高精度アナログボリュームに接続します。音量調整不要の場合は、リレー切り替えでバイパスされます。
次にアナログ信号は、出力段(ローパス・フィルター)に接続し、アナログ出力される仕組みです。基板上のオペアンプの文字が見づらいのですが、主なオペアンプとしては、アナログ・デバイセズの高スルーレート1,000V/μsの「LT1364」やTIの超高精度特性の「OPA2182」を組み合わせているようです。また、表面実装の抵抗にも気を使い、高精度、高音質抵抗を選択していることも確認できます。
メイン電源としては、標準では、24VのACアダプターを使用しますが、基板の左側に高品位な電源回路を装備するほか、SERCEモジュール、DACチップ、アナログ回路の素子などの直近にレギュレータ電源を配置しています。
また、オプションで同社のリニア/スイッチング・ハイブリッド構成の電圧可変型高品位DC電源「HYPSOS」の接続も可能にしています。この電源は、大型リングトライダルトランスと4,700μF/63Vのフィルターコンデンサーを4式搭載しています。リニア電源で生成した基準電源を元に、後段のARMプロセッサーを使用した制御可能なスイッチング電源により、直流電圧を5 - 30V(0.1V刻み)に可変するだけではなく、出力波形をユーザーの好みに応じて変更可能にしていることが特徴です。しかも、接続機器に供給する直流電圧を監視し、常に電圧を自動調整しています。こんな直流電源ユニットは、他に類を見ないですね。
音に透明感があり、フラットレスポンスで高密度
その音質を、リファレンスのアキュフェーズのプリアンプ「C-3900」とA級パワーアンプ「A-75」、そしてB&W「802 D3」で確認しました。トランスポートとしてDELA「N1Z」のUSB出力を使用しました。
色々なジャンルのハイレゾを再生しましたが、ESSのDACチップの効果を最大限に引き出す同社の回路により、極めて音に透明感があり、高解像度であることが特徴です。フラットレスポンスで高密度な音です。中低域の量感も魅力的です。前述のスルーレートが極めて高いアナログ出力段の効果により、弱音から強音まで、一音一音を際立てるところがあります。特にオーケストラの壮大なフォルテッシモは高い音圧でスピード感がありますね。
空間にリアルな音像を描くことが好きであれば、フィルターモードをHQガウスにすると良いでしょう。楽器や声のエッジを明瞭にするところがあります。オーディオ愛好家が好きな音かもしれません。一方で、HQアポタイジングでは、音の立ち上がりの強調感や音のエッジを感じさせず、ナチュラルな音で倍音も豊潤に聴こえてきます。どちらが良いという訳ではなく、再生音源で変えると良いと思います。クラシック好きなら後者が良いかもしれません。
電源ユニットHYPSOSの追加で、さらにマイルドかつ浸透力のある音質に変化
次に別売の電源ユニット、HYPSOSを接続してみました。すると、聴感上良い意味でマイルドかつアナログ的な浸透力のある音質へと変化しました。それだけではなく、弱音の透明度が高まり、解像度やダイナミックレンジが拡張した印象も受けました。ヴォーカル曲を再生すると、空間描写性が高まり、演奏が生々しくなった印象も受けます。一方で、私は付属のACアダプターによる色付けの少ないフレッシュな音も好きです。アナログの質感を加えたい方には、HYPSOSもオススメしたいと思うところです。
このように、WANDLAはデザイン、搭載技術、音質がうまくバランスしていることが魅力で、長く愛用できることでしょう。積極的にプリ機能を使用し、パワーアンプ・ダイレクト接続やパワード・スピーカーをドライブし、シンプルでハイエンドなシステムを構築するのもいい考えです。HYPSOSとヘッドホンアンプOORを導入して、3筐体のハイエンド・ヘッドホンシステムも実現したいものです。
イチオシ・ハイレゾアルバムも紹介!ヒラリー・ハーンの「エクリプス」
最後に、私の気に入っているハイレゾ・アルバムも紹介しておきます。ヒラリー・ハーンが1年間の休暇をし、久々に録音したのが「ECLIPSE」(エクリプス)というアルバムです。
ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲から始まりますが、そのスケールの大きな演奏には、オケの響きと溶け合い、深淵さも加わり魅力的です。最後のカルメン幻想曲も、ハーンが演奏すれば、演奏の格好の良さが目に浮かぶようです。
最も注目し感激したのは、アルゼンチンの現代作曲家、ヒナステラのヴァイオリン協奏曲です。第1楽章の冒頭から5分23秒にわたりカデンツァが聴けます。その旋律を紡いでゆくアーティキュレーション、重音を弾く響き、デリカシーに富んだ一音一音。演奏への想いや集中力までも伝わってくる思いがします。その後、オケと向き合い、ダイナミックな演奏を展開。後半には、南米の神秘さが聴け、最後は、オケとともに響きの万華鏡を見るような濃厚な音楽を展開します。
48kHz/24bitですが、そんなことを感じさせないほど、ハーンの実在感ある演奏とリアリティの高いオケの響きが堪能できます。さすが24bit。ダイナミックレンジが広いです。
(提供:エミライ)