公開日 2023/12/28 06:40
新技術を投入し進化を続ける
英国老舗スピーカーブランド・モニターオーディオ50年の歴史を振り返る
井上千岳
2022年に、創業50年を迎えたイギリス・モニターオーディオ。革新的なモデルを世に送り出し、スピーカーの世界を革新してきた同社の代表的なトピックスを紹介しながら、これまでの製品や特徴的な技術を振り返る。
英国を代表するスピーカー・メーカーであり、世界的にもリーディング・カンパニーのひとつとして知られるモニターオーディオだが、その発祥は1972年。2022年に創立50周年という記念の年を迎えて新たな時代に入ったいま、草創期から現在にいたる半世紀の歩みを振り返ってみることにしたい。
モニターオーディオが誕生したのは、英国ケンブリッジに近いテバーシャムという小さな町である。創業者はモー・イクバル(Mo Iqbal)という人物で、数人のエンジニアとともにハンドメイドでスピーカーの製作に携わっていた。「MA1」というブックシェルフ型で、これが同社の第1号機である。
それがどれだけのビジネスになったのかはわからない。しかし1976年には生産拡大のため、エセックスのレイリーに専用工場を建設している。また翌77年には「MA7」が発売され、同社の最もポピュラーなモデルとなった。
さらに79年にはダイレクト・ドライブのレコードプレーヤーを発売している。こういう具合で最初の10年余りが経過する。
最初の転機は1980年代の半ばに訪れる。1985年、初のメタルドーム・トゥイーターを搭載した「R852MD」の発売がそれである。モニターオーディオは早くからメタルユニットの開発を手がけ、このジャンルのパイオニアとして知られてきたが、その始まりがこのモデルというわけである。
そしてこれが翌86年には、「R352MD」でゴールドドームトゥイーターに変わる。アルミ/マグネシウム合金にセラミック・コーティングを施した画期的なトゥイーターで、つまり現在のC-CAMと同じ。その原型がここで形成されたのである。
1989年、ついにセラミック・サンドイッチ・コーンが開発される。C-CAMテクノロジーの直接のオリジンである。最初の搭載機は「Studio 10」。後にSilver Studioとして復活するこの名称を、しばらく記憶しておいてほしい。
1991年、それまで様々に研究・開発が行われてきたセラミック・メタル・ユニットを、C-CAMという名称で発表する。これによってモニターオーディオは、パルプやファブリックなどソフト系の振動板から完全に離脱することとなった。記念すべき年である。
ここまでの20年弱を、仮に同社の草創期と呼ぶことにしておきたい。ビジネスとしては順調に展開してきたし独自のユニット開発にも成功した。しかしまだ市場は英国々内が専らで、今日のようなビジネス規模にはほど遠かった。
たぶんこの頃だと思われるが、ディーン・ハートレー(Dean Hartley)が入社する。その後技術部門の総責任者として数々の製品を開発してゆく中心人物だが、このことがおそらく同社発展の原動力と考えて間違いない。
1995年、モニターオーディオでは“As close as it gets”というスローガンを掲げ、ロゴも制定してリブランドを行う。同じ年に発売されたのがフロア型の「Studio 20SE」で、これが世界的な評価を獲得するきっかけとなった。また日本にも入っている。
2000年、モニターオーディオはレイリーに本社を移転。以降今日まで、ずっと同社の拠点であり続けている。
同じ年、RST(Rigid Surface Technology)が発表された。振動板の表面にディンプルを設けるなどの加工を施して強度を高める技術で、日本の折り紙からヒントを得たものだという。C-CAMはそれ自体優れた素材だが、それだけでは振動板として完成されたものにはならない。RSTと組み合わされて初めて完全体となるのである。現在まで続くモニターオーディオの根幹技術がここで確立された。
これより2年先立つ1998年、Bronzeシリーズが導入される。また翌99年にはSilverシリーズもリリースされた。そしてレイリーへ移転して2年後の2002年、ついにGold Referenceシリーズが発売になる。この時点をモニターオーディオの第2の転機と見たい。
GRシリーズの発売に際して、同社ではホワイトペーパーを発表した。そこにはその後のことも含めて、あらゆる問題点が記されている。全てはここが原点なのである。転機というのはその意味だ。
さてこれでGold、Silver、Bronzeと同社の基幹となる3つのシリーズが出揃った。ここからの発展は実に目覚ましいという一言に尽きる。
ちなみに同じ年、Silverは第2世代のSilver Studio(SS)に代わっている。往年のStudioシリーズの名が、ここで復活したわけである。
世の中はホームシアターが全盛期を迎えている。これに対応して開発されたのがRadiusシリーズで、MMP(Metal Matrix Polymer)という新素材を振動板に採用した。サテライト・サイズの小型モデルだが、この音が素晴らしく、同社最大のヒット作のひとつとなった。
また同じ頃iPodおよびiPhone用のi-Deckも発売されている。ただこちらはわが国では少し早すぎたのか、大ヒットにまでは至らなかったようだ。
この2000年代はモニターオーディオにとって最も発展した時期と言ってよく、毎年売り上げが倍々になっているというような話をセールス・マネージャーから聞いた覚えがある。そしてその動きを決定的にしたのが、2007年に発売された「Platinumシリーズ」である。
言うまでもなくGoldに代わるフラグシップで、C-CAMをリボン・トゥイーターに応用した新ユニットが注目を集めた。
また2009年にはロゴもリニューアルされ、新たに“Design for Sound”というスローガンも制定されている。ここが第3の転機と言えるだろう。
この後は新技術のオンパレードだ。筒状のミッドレンジ用エンクロージャーTLE、共振防止素材ARC、ボイスコイル/振動板間のダンピングを強化する特許技術DCF……。HiVeIIバスレフポートもこの時期だ。
Gold、Silver、Bronzeという基幹シリーズは順調にモデルチェンジを繰り返し、その度に新たな技術が搭載されてゆく。また生産拠点を中国に求め、専用工場に技術者を常駐させて徹底管理の下で高精度な製造体制が整備された。世界統一価格が実現できたのもそのためと言っていい。
2016年、ちょっとした衝撃が走る。Platinumがモデルチェンジされて第2世代となったが、折角のC-CAMリボンを廃棄しMPD、いわゆるハイル・ドライバーを採用したのである。この決断にはびっくりしたものだ。
その後も経営は好調に推移してきたが、この間ディーン・ハートレーが退社。またRoksanを買収したのも記憶に新しい。そして2022年、「Platinum III」と「Silver 100 LE」が発売され、創立50周年を明るい展望のうちに迎えたのである。
(提供:ナスペック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です。
創業50周年を迎えたモニターオーディオの歴史
英国を代表するスピーカー・メーカーであり、世界的にもリーディング・カンパニーのひとつとして知られるモニターオーディオだが、その発祥は1972年。2022年に創立50周年という記念の年を迎えて新たな時代に入ったいま、草創期から現在にいたる半世紀の歩みを振り返ってみることにしたい。
モニターオーディオが誕生したのは、英国ケンブリッジに近いテバーシャムという小さな町である。創業者はモー・イクバル(Mo Iqbal)という人物で、数人のエンジニアとともにハンドメイドでスピーカーの製作に携わっていた。「MA1」というブックシェルフ型で、これが同社の第1号機である。
それがどれだけのビジネスになったのかはわからない。しかし1976年には生産拡大のため、エセックスのレイリーに専用工場を建設している。また翌77年には「MA7」が発売され、同社の最もポピュラーなモデルとなった。
さらに79年にはダイレクト・ドライブのレコードプレーヤーを発売している。こういう具合で最初の10年余りが経過する。
メタルドーム・トゥイーターのパイオニア
最初の転機は1980年代の半ばに訪れる。1985年、初のメタルドーム・トゥイーターを搭載した「R852MD」の発売がそれである。モニターオーディオは早くからメタルユニットの開発を手がけ、このジャンルのパイオニアとして知られてきたが、その始まりがこのモデルというわけである。
そしてこれが翌86年には、「R352MD」でゴールドドームトゥイーターに変わる。アルミ/マグネシウム合金にセラミック・コーティングを施した画期的なトゥイーターで、つまり現在のC-CAMと同じ。その原型がここで形成されたのである。
1989年、ついにセラミック・サンドイッチ・コーンが開発される。C-CAMテクノロジーの直接のオリジンである。最初の搭載機は「Studio 10」。後にSilver Studioとして復活するこの名称を、しばらく記憶しておいてほしい。
1991年、それまで様々に研究・開発が行われてきたセラミック・メタル・ユニットを、C-CAMという名称で発表する。これによってモニターオーディオは、パルプやファブリックなどソフト系の振動板から完全に離脱することとなった。記念すべき年である。
ここまでの20年弱を、仮に同社の草創期と呼ぶことにしておきたい。ビジネスとしては順調に展開してきたし独自のユニット開発にも成功した。しかしまだ市場は英国々内が専らで、今日のようなビジネス規模にはほど遠かった。
たぶんこの頃だと思われるが、ディーン・ハートレー(Dean Hartley)が入社する。その後技術部門の総責任者として数々の製品を開発してゆく中心人物だが、このことがおそらく同社発展の原動力と考えて間違いない。
1995年、モニターオーディオでは“As close as it gets”というスローガンを掲げ、ロゴも制定してリブランドを行う。同じ年に発売されたのがフロア型の「Studio 20SE」で、これが世界的な評価を獲得するきっかけとなった。また日本にも入っている。
2000年、モニターオーディオはレイリーに本社を移転。以降今日まで、ずっと同社の拠点であり続けている。
同じ年、RST(Rigid Surface Technology)が発表された。振動板の表面にディンプルを設けるなどの加工を施して強度を高める技術で、日本の折り紙からヒントを得たものだという。C-CAMはそれ自体優れた素材だが、それだけでは振動板として完成されたものにはならない。RSTと組み合わされて初めて完全体となるのである。現在まで続くモニターオーディオの根幹技術がここで確立された。
Goldシリーズの登場で第2の転機を迎える
これより2年先立つ1998年、Bronzeシリーズが導入される。また翌99年にはSilverシリーズもリリースされた。そしてレイリーへ移転して2年後の2002年、ついにGold Referenceシリーズが発売になる。この時点をモニターオーディオの第2の転機と見たい。
GRシリーズの発売に際して、同社ではホワイトペーパーを発表した。そこにはその後のことも含めて、あらゆる問題点が記されている。全てはここが原点なのである。転機というのはその意味だ。
さてこれでGold、Silver、Bronzeと同社の基幹となる3つのシリーズが出揃った。ここからの発展は実に目覚ましいという一言に尽きる。
ちなみに同じ年、Silverは第2世代のSilver Studio(SS)に代わっている。往年のStudioシリーズの名が、ここで復活したわけである。
ホームシアター向け製品やiPhone向け製品なども展開
世の中はホームシアターが全盛期を迎えている。これに対応して開発されたのがRadiusシリーズで、MMP(Metal Matrix Polymer)という新素材を振動板に採用した。サテライト・サイズの小型モデルだが、この音が素晴らしく、同社最大のヒット作のひとつとなった。
また同じ頃iPodおよびiPhone用のi-Deckも発売されている。ただこちらはわが国では少し早すぎたのか、大ヒットにまでは至らなかったようだ。
この2000年代はモニターオーディオにとって最も発展した時期と言ってよく、毎年売り上げが倍々になっているというような話をセールス・マネージャーから聞いた覚えがある。そしてその動きを決定的にしたのが、2007年に発売された「Platinumシリーズ」である。
言うまでもなくGoldに代わるフラグシップで、C-CAMをリボン・トゥイーターに応用した新ユニットが注目を集めた。
2000年代後半から新技術を立て続けに発表
また2009年にはロゴもリニューアルされ、新たに“Design for Sound”というスローガンも制定されている。ここが第3の転機と言えるだろう。
この後は新技術のオンパレードだ。筒状のミッドレンジ用エンクロージャーTLE、共振防止素材ARC、ボイスコイル/振動板間のダンピングを強化する特許技術DCF……。HiVeIIバスレフポートもこの時期だ。
Gold、Silver、Bronzeという基幹シリーズは順調にモデルチェンジを繰り返し、その度に新たな技術が搭載されてゆく。また生産拠点を中国に求め、専用工場に技術者を常駐させて徹底管理の下で高精度な製造体制が整備された。世界統一価格が実現できたのもそのためと言っていい。
2016年、ちょっとした衝撃が走る。Platinumがモデルチェンジされて第2世代となったが、折角のC-CAMリボンを廃棄しMPD、いわゆるハイル・ドライバーを採用したのである。この決断にはびっくりしたものだ。
その後も経営は好調に推移してきたが、この間ディーン・ハートレーが退社。またRoksanを買収したのも記憶に新しい。そして2022年、「Platinum III」と「Silver 100 LE」が発売され、創立50周年を明るい展望のうちに迎えたのである。
(提供:ナスペック)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.190』からの転載です。
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