公開日 2024/08/19 06:35
DALI(ダリ)が創業40周年を迎えたのを機に、日本市場への輸入を行っているディーアンドエムホールディングスが記念イベントを開催した。音楽の楽しさを雄弁に伝えるダリならではの魅力に加え、現在の到達点も垣間見ることができ、興味深い体験となった。
海外のオーディオショウでのダリのブースは、リビングやホームシアターに近い環境で音を体験できるように工夫を凝らした展示が多い。落ち着いたインテリアが醸し出す穏やかな空気が心地良く、音楽が生活に根付いている光景を連想させる。家庭でゆったり音楽に浸ることに焦点を合わせ、スピーカー作りに取り組んできたダリらしいアプローチだと思う。
そんなダリの姿勢と設計思想の理解に役立つ事実をシニアサウンドマスターの澤田龍一さんが説明してくれた。1つ目は高域再生の考え方。ダリのトゥイーターはソフトドームを中心に据え、上位機種でリボンユニットを加えるハイブリッド手法を用いているが、その背景として、超高域への広帯域化よりも可聴帯域の音色を重視する姿勢がうかがえるという。実際に「EPICON」シリーズでも再生帯域の高域側は30kHzにとどまり、50kHzまたはそれ以上に及ぶ製品が珍しくないなか、控えめに見えてしまう。
一方、ダリが採用する29mm口径のソフトドーム型振動板には長所も存在する。具体的には、超高域がなだらかに減衰し、ハードドーム型の振動板に比べると固有の共振ピークが発生しにくいことが一つ。そして、シルクを用いることで振動板を軽量化し、トランジェントを改善する長所もある。
リボン型ユニットを加える理由も指向性の改善にあり、帯域の拡大にこだわっているようには見えない。EPICONシリーズや「RUBICON」シリーズのフロア型モデルでも超高域は30kHzまたは34kHzにチューニングしている(±3dB)。それでも可聴帯域外まで伸びているので、ハイレゾ再生で不利になることは考えにくい。
独自技術「SMC」がもたらす音質改善効果にも注目する必要がある。電気的に絶縁した鉄粉を固めたSMC材をウーファーやミッドレンジの磁気回路に採用。渦電流が発生せず、中低域の歪が劇的に低減するというダリのオリジナル技術だ。耳につきやすい三次高調波歪に注目すると、ウーファーやミッドレンジの高域側に相当する1 - 2kHz近辺の歪を低減する効果が大きく、声や旋律楽器の質感向上が期待できる。
試聴室に移動し、現行スピーカーの代表機種と一部旧モデルの音を確認した。
1994年に導入された「ROYAL MENUET II」を最初に聴いた。「MENUET」シリーズはダリを代表する小型スピーカーで、30年以上にわたって人気を維持してきたロングセラーだ。初代機の「DALI 150 MENUET」(1992年発売)も記憶しているが、そのすぐ後に発売された「ROYAL MENUET」の音はさらに鮮明に憶えている。声やアコースティックギターの瑞々しい潤いと、ウォームだが表情の振れ幅が大きいことに強い印象を受けたのだ。
ROYAL MENUET IIで聴いたルーカス・グラハム「Funeral」はピアノにウッディな感触があり、オルガンの柔らかい響きとの溶け合いが美しい。ヴォーカルに乗るエコーが過剰にならず、ピアノとの声のバランスがとても自然だ。
続いて聴いた「MENUET」は2015年に発売された現行モデルで、トゥイーターとウーファーを近接配置して見た目の印象は変わっているが、ボディ感のあるヴォーカルなど、基本的な音調は受け継いでいる。サウンドステージ左右の広がりと奥行きの深さにROYAL MENUETとの違いを聴き取れるが、ピアノの丸みを帯びた音色はそのまま受け継いでいる。
美しい木目仕上げが目を引く「MENUET SE」はクロスオーバーネットワークのパーツや配線材を吟味した特別仕様のモデルで、冒頭の静寂感など、より洗練された方向への進化を聴き取ることができた。エフェクトも含めて音数が増えたように感じるし、ヴォーカルの表情も陰影を増している。
MENUETシリーズは、見通しの良い音場など小型スピーカーならではの長所にあらためて感心させられた。ブックシェルフ型を3機種聴いたあと、今度は上位シリーズのフロア型3モデルでも同じ音源を試聴し、それぞれの再生音を確認した。
最初に聴いた「OBERON 5」はヴォーカルとオルガンの低音に厚みが加わり、スローバラードらしい落ち着いたテンポが心地よい。ピアノの左手は楽器の重量感を感じさせ、深みのあるヴォーカルをバランス良く支えている。ペアで10万円台半ばという価格だが、音が痩せたりバランスが偏ることがなく、とても聴きやすい音を奏でてくれた。
「OPTICON 6 Mk2」につなぎ替えると、これまでとは違う種類の音の変化があった。オルガンとピアノは1オクターブ下の音が加わったと思わせるほどの深い低音を聴かせ、冒頭の鐘の音の遠近感も別格。ヴォーカルは高音域まで硬さがなく、声域の移行も実になめらかだ。ピアノが刻むリズムに落ち着きを感じるが、ヴォーカルの表情はよりエモーショナルになり、強く引き込まれる。
最後に聴いた「RUBIKORE 6」は発表前の参考モデルで、価格も未定とのこと。フラグシップの「KORE」や「EPIKORE 11」の流れを汲む格上のスピーカーだけに、声の質感の高さやサウンドステージの立体感は明らかに別格と思わせる。外観は存在感があるが、曲を聴いているうちにスピーカーの存在は気にならなくなり、声や楽器の立体的なイメージが澄んだ音場のなかに浮かび上がってくる。
新開発のドライバーユニットやクロスオーバーネットワークのリファインがもたらす反応の良いサウンドからは、フラグシップの完成を経て獲得したダリの最新の成果を聴き取ることができた。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
可聴帯域の音色を重視した設計思想
創業40年を迎えた老舗スピーカーブランド・DALI。ブランドの軌跡と到達点を探る
山之内 正生活に根付いた音楽再生を追求するデンマークブランド
DALI(ダリ)が創業40周年を迎えたのを機に、日本市場への輸入を行っているディーアンドエムホールディングスが記念イベントを開催した。音楽の楽しさを雄弁に伝えるダリならではの魅力に加え、現在の到達点も垣間見ることができ、興味深い体験となった。
海外のオーディオショウでのダリのブースは、リビングやホームシアターに近い環境で音を体験できるように工夫を凝らした展示が多い。落ち着いたインテリアが醸し出す穏やかな空気が心地良く、音楽が生活に根付いている光景を連想させる。家庭でゆったり音楽に浸ることに焦点を合わせ、スピーカー作りに取り組んできたダリらしいアプローチだと思う。
「可聴帯域」の音色を重視するユニット設計の考え方
そんなダリの姿勢と設計思想の理解に役立つ事実をシニアサウンドマスターの澤田龍一さんが説明してくれた。1つ目は高域再生の考え方。ダリのトゥイーターはソフトドームを中心に据え、上位機種でリボンユニットを加えるハイブリッド手法を用いているが、その背景として、超高域への広帯域化よりも可聴帯域の音色を重視する姿勢がうかがえるという。実際に「EPICON」シリーズでも再生帯域の高域側は30kHzにとどまり、50kHzまたはそれ以上に及ぶ製品が珍しくないなか、控えめに見えてしまう。
一方、ダリが採用する29mm口径のソフトドーム型振動板には長所も存在する。具体的には、超高域がなだらかに減衰し、ハードドーム型の振動板に比べると固有の共振ピークが発生しにくいことが一つ。そして、シルクを用いることで振動板を軽量化し、トランジェントを改善する長所もある。
リボン型ユニットを加える理由も指向性の改善にあり、帯域の拡大にこだわっているようには見えない。EPICONシリーズや「RUBICON」シリーズのフロア型モデルでも超高域は30kHzまたは34kHzにチューニングしている(±3dB)。それでも可聴帯域外まで伸びているので、ハイレゾ再生で不利になることは考えにくい。
独自技術「SMC」がもたらす音質改善効果にも注目する必要がある。電気的に絶縁した鉄粉を固めたSMC材をウーファーやミッドレンジの磁気回路に採用。渦電流が発生せず、中低域の歪が劇的に低減するというダリのオリジナル技術だ。耳につきやすい三次高調波歪に注目すると、ウーファーやミッドレンジの高域側に相当する1 - 2kHz近辺の歪を低減する効果が大きく、声や旋律楽器の質感向上が期待できる。
2ウェイブックシェルフのロングセラー機・歴代「MENUET」を聴き比べ
試聴室に移動し、現行スピーカーの代表機種と一部旧モデルの音を確認した。
1994年に導入された「ROYAL MENUET II」を最初に聴いた。「MENUET」シリーズはダリを代表する小型スピーカーで、30年以上にわたって人気を維持してきたロングセラーだ。初代機の「DALI 150 MENUET」(1992年発売)も記憶しているが、そのすぐ後に発売された「ROYAL MENUET」の音はさらに鮮明に憶えている。声やアコースティックギターの瑞々しい潤いと、ウォームだが表情の振れ幅が大きいことに強い印象を受けたのだ。
ROYAL MENUET IIで聴いたルーカス・グラハム「Funeral」はピアノにウッディな感触があり、オルガンの柔らかい響きとの溶け合いが美しい。ヴォーカルに乗るエコーが過剰にならず、ピアノとの声のバランスがとても自然だ。
続いて聴いた「MENUET」は2015年に発売された現行モデルで、トゥイーターとウーファーを近接配置して見た目の印象は変わっているが、ボディ感のあるヴォーカルなど、基本的な音調は受け継いでいる。サウンドステージ左右の広がりと奥行きの深さにROYAL MENUETとの違いを聴き取れるが、ピアノの丸みを帯びた音色はそのまま受け継いでいる。
美しい木目仕上げが目を引く「MENUET SE」はクロスオーバーネットワークのパーツや配線材を吟味した特別仕様のモデルで、冒頭の静寂感など、より洗練された方向への進化を聴き取ることができた。エフェクトも含めて音数が増えたように感じるし、ヴォーカルの表情も陰影を増している。
3ウェイフロア型の定番シリーズ&最新機をチェック
MENUETシリーズは、見通しの良い音場など小型スピーカーならではの長所にあらためて感心させられた。ブックシェルフ型を3機種聴いたあと、今度は上位シリーズのフロア型3モデルでも同じ音源を試聴し、それぞれの再生音を確認した。
最初に聴いた「OBERON 5」はヴォーカルとオルガンの低音に厚みが加わり、スローバラードらしい落ち着いたテンポが心地よい。ピアノの左手は楽器の重量感を感じさせ、深みのあるヴォーカルをバランス良く支えている。ペアで10万円台半ばという価格だが、音が痩せたりバランスが偏ることがなく、とても聴きやすい音を奏でてくれた。
「OPTICON 6 Mk2」につなぎ替えると、これまでとは違う種類の音の変化があった。オルガンとピアノは1オクターブ下の音が加わったと思わせるほどの深い低音を聴かせ、冒頭の鐘の音の遠近感も別格。ヴォーカルは高音域まで硬さがなく、声域の移行も実になめらかだ。ピアノが刻むリズムに落ち着きを感じるが、ヴォーカルの表情はよりエモーショナルになり、強く引き込まれる。
最後に聴いた「RUBIKORE 6」は発表前の参考モデルで、価格も未定とのこと。フラグシップの「KORE」や「EPIKORE 11」の流れを汲む格上のスピーカーだけに、声の質感の高さやサウンドステージの立体感は明らかに別格と思わせる。外観は存在感があるが、曲を聴いているうちにスピーカーの存在は気にならなくなり、声や楽器の立体的なイメージが澄んだ音場のなかに浮かび上がってくる。
新開発のドライバーユニットやクロスオーバーネットワークのリファインがもたらす反応の良いサウンドからは、フラグシップの完成を経て獲得したダリの最新の成果を聴き取ることができた。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)