公開日 2024/11/01 06:30
据え置き型ヘッドホンアンプの定番として、長年愛されているのがラックスマンのフラグシップモデルである。その歴史はヘッドホン市場が盛り上がる前である2002年の「P-1」から始まった。20余年を経た本年、集大成となる弩級モデル「P-100 CENTENNIAL」(以下、P-100)が発表され、大きな話題となっている。
モデル名に加えられたCENTENNIAL(センテニアル)は100周年の意味であり、ラックスマンが来年の2025年に創業100周年となることを記念したモデルにこの表記が加わるという。P-100はその記念モデル第一弾として登場することになる。その音を早速確認してみた。
P-100は筐体サイズが従来のフラグシップである「P-750u MARKII」よりも高くなり、同社製SACDプレーヤー並み。重量についても約20kgとかなりのサイズアップだ。一方で、定格出力についてはバランス駆動時8W×2(16Ω負荷)までと、変わっていない。それではここまで筐体が大きくなった理由はどこにあるのか。その気になる内容について、早速紹介していきたい。
まず一点目としては独自の増幅帰還エンジンLIFESの採用である。前モデルまでは出力から歪み成分のみをフィードバックさせて、音楽信号に影響を与えずに、より純度の高いサウンドを実現させるODNFを用いていた。ODNFは度重なるバージョンアップで回路規模も大きくなっていたといい、回路そのものやパーツのすべてを見直し、メイン回路と歪み検出回路を一体化することで回路規模を抑え、シンプルかつコンパクトな構成に置き換えたものがLIFESとなる。
LIFESは同社セパレートアンプやプリメインアンプなどで導入が始まっており、長期に渡り安定的に供給できる高性能FETを電圧増幅段に新採用。スペック面では回路単体でODNFに比べ歪みは約半分以下、SN比で3dB向上している。もし今回のLIFESと同じ構成をODNFで再現した場合、回路規模は約1.2倍にもなるという。
アンプ全体でLIFESを用いたフルディスクリート構成の3段ダーリントン回路を4台用意しており、定格出力(アンバランス接続で32Ω負荷・1W+1W)まではスイッチング歪みが発生しない純A級動作を実現。6.3mmアンバランス接続時は2台をパラレル駆動し、出力電流の供給能力を倍増させ、ドライブ力の高さと抑揚感溢れるダイナミックなサウンドを獲得。
P-100で新採用となった4.4mm端子や4ピンXLR端子を用いたバランス接続では4台のアンプを各々単独で用いるBTL駆動とし、左右セパレーションや定位感の向上、混変調歪の低減や電源レギュレーションの改善によって透明感の高いサウンドが楽しめる。
さらにP-100では4.4mm/4ピンXLR端子使用時にグラウンドの左右独立化を行う、GROUND DIVIDEモードも装備。BAL/G-DIVスイッチで切り替えることでパラレル・アンバランス駆動とし、パラレル駆動による力強さと、グラウンド独立による左右セパレーション向上を両立した。
なおヘッドホン出力には3ピンXLR端子も1つだけ用意されているが、これはもう一台のP-100を使い、8台のアンプをパラレル駆動させたパラレルBTLバランス駆動を実現できる。P-100背面にあるコントロール端子を繋ぎあうことで音量調整機構であるLECUA-EXが連携し、音量や左右バランスについて、マスターとなるLch側だけ操作すれば、スレーブとなるRch側も追随するという仕組みだ。BTLバランス接続でもアンバランス接続時のようなパラレル駆動の恩恵が受けられる、究極の仕様であり、1台当たり16Ω駆動で最大16Wという強力なモノラルアンプとすることで、ありとあらゆるヘッドホンを駆動できる。
この特別なモードは、2013年にP-700uを2台使ったパラレルBTLバランス駆動の試作機を作った時から構想があったといい、イベントでも2回ほど出展されたので、この試作機を聴いたことがある方もいらっしゃるだろう。10年の時を経て、ようやくその理想が現実のものとなった。
二点目としては独自の高純度電子制御アッテネーターLECUAの改良だ。ヘッドホンアンプでは2012年に登場の「P-700u」から、ICによるソリッドステート方式のLECUAを搭載している。P-100では位置検出用の摺動式ボリュームを、重量回転機構を組み込む高精度ロータリーエンコーダーとしたLECUA-EXへアップデート。ICも新世代のものとなり、0.5dBステップ・200段階のきめ細やかな音量調整を実現。チップ性能を生かしてもっと細やかなステップも設定できるそうだが、使い勝手を考慮し、0.5dBステップを採用したそうだ。
加えてP-100ではフロントパネルに3桁7セグメントLEDによる音量値表示も備えており、ケーブル比較など、厳密なリスニング時の再現性が高まっている。
そして三点目は電源部の強化だ。同社ヘッドホンアンプとして初めて左右独立・大容量OIコア型トランスを導入。表示回路などのアクセサリー系にも個別にトランスを用意した3基構成として相互干渉を抑え、左右セパレーションの向上に役立てている。このトランスの上にも電源基板が配置されるほど、中身は凝縮されているが、基板の下にサブシャーシを用意することで、トランスの磁束漏れの影響を抑えるシールド効果も持たせているという。
また平滑コンデンサーについても左右で個別に10,000μF×2のカスタムブロック型を用意。プリ・ドライバー段にも左右個別に3,300μF×2のカスタムブロックコンデンサーを用いて、より充実したハイイナーシャ(高慣性)電源を構築している。
筐体は同社SACDプレーヤー並みの大きなものとなり、天板はP-750u LIMITEDと同じ仕様の6mm厚アルミ板による3面オーバーサイズボンネットを採用。電源トランスと電源回路、メインアンプと入力段、この4つのブロックを分割したシャーシ構造によって相互干渉のみならず、筐体の堅牢性も高まっている。さらにボトムシャーシには出力段の放熱効果も担う2.9mm+1.2mmの2層式4.1mm鋼板を用いる他、グラデーション鋳鉄製フットによって低重心な筐体構造を実現した。
試聴は最終試作段階のものを用いて実施。2台使いのパラレルBTLバランス駆動はまだ音質調整前ということで今回は確認できなかったが、11/2に開催される「ヘッドフォン祭」では試聴機が用意できる見込みとのこと。その音が気になる方はぜひ会場にお越しいただきたい。
まずヘッドホンにフォーカル「UTOPIA SG」を用意。バランス接続にてP-750u LIMITEDとの聴き比べをしてみたが、印象的に感じたのは音場の見通しの良さである。一際S/Nの良いサウンドであり、音が立ち上がる瞬間の素早さ、余韻の透明感も丁寧に描き出す。楽器の分離度も向上し、オーケストラのハーモニーも抑揚良くリアルに表現。サウンドステージは広大で奥行きも深い。P-100はパワフルさに進化のベクトルを置かず、あくまで描写力、音場の空気感まで見逃さない、リアルさの追求にポイントを絞ったサウンドであるように感じる。GROUND DIVIDEモードではさらに音離れ良く緻密で、個々の描写の丁寧さ、階調表現の高さが際立ち、爽やかで一層大人びた上質なサウンドへ変貌した。
UTOPIA SGとアンバランス接続でも試してみたが、ロック音源のリズム隊のタイトなアタックもきつさなくすっきりとヌケ良く描きながら、ボディの密度やキレ味の高さも十二分に再現。ファットなエアー感も前に押し出してくる、パワフルさも兼ね備えている。ディストーションギターのリフも軽快にまとめ、ボーカルもハリ良くスムーズに描く。ピアノのしっとりとした落ち着き良い響きも魅力的で、オーケストラの管弦楽器は涼やかなハーモニーを聴かせてくれる。低域パートの軽やかさも相まって、音場の爽快さも増す印象だ。
ヘッドホンをソニー「MDR-Z1R」へ交換。まずはアンバランス接続で聴いてみたが、大口径な70mmドライバーも難なく鳴らし切っており、管弦楽器の柔らかい旋律や、安定感あるボーカルの滑らかさ、キックドラムのリッチなエアー感まで、過不足なく丁寧に描いている。GROUND DIVIDEモードでは落ち着き感も増し、低重心で緻密な描写となり、分離良く滑らかなサウンドに進化。ジャズのホーンセクションもハリ感と太さのバランスが良く、ピアノの響きも澄んだトーンで、低域方向の密度も高い。
オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」も試してみた。こちらもオーディオテクニカのヘッドホンとしては大口径となる58mmドライバーを積むオープン型で、MDR-Z1Rとともに鳴らし難い印象を持っていたのだが、非常にバランス良く澄み切ったサウンドで、低域方向も厚み良く、引き締め効果も伴い落ち着き良く安定的な描写となる。クールでキレ良いボーカルもきつくなく、息継ぎの生々しさも付帯感なく表現。オーケストラの旋律も解像度が高く、余韻の消え際まで鮮明に掴み取れる。抑揚豊かで伸び良いハーモニーが心地よい。
最後に2つのコイルパターンを持つユニークな振動板を採用した平面駆動型のメゼオーディオ「EMPYREAN」を試す。こちらもバランスに優れた低重心なサウンドを聴かせてくれる。低域方向の分解能も高く、ウッドベースの厚みやキックドラムの空気感も丁寧に描き分け、ダンピングも高い。音場も立体的でオーケストラのハーモニーは潤い良く芳醇だ。GROUND DIVIDEモードでは高S/Nかつ情報量も多く、楽器の艶やサウンドステージの広がりもリッチに表現。ロック音源のリズム隊も制動良く、シンバルの響きも上品にまとめる。ボーカルは肉付き良く穏やかで安定感も十分だ。口元の動きも自然でウェットである。
P-100は究極のヘッドホンアンプを目指したという開発陣の熱い思いと共に、長年に渡るフラグシップシリーズ開発で培ってきた、細部まで妥協しない実直な描写性、ヘッドホンリスニングでありながら、スピーカーリスニングにも通じる立体的な音場感も味わえる、まさに100周年を祝う集大成のモデルといえるだろう。
P-750u MARKIIからかなり高価な価格設定となったが、こうした背景を踏まえると決して高すぎるプライスではないと感じる。ただ迫力良く押し出すようなサウンドではなく、長時間じっくりと腰を据えてヘッドホンを楽しむリスナーにこそお薦めしたい、最良のヘッドホンアンプだ。
(提供:ラックスマン)
音場の空気感まで見逃さないリアルさを追求
ラックスマン「P-100 CENTENNIAL」レビュー!100周年記念“弩級”ヘッドホンアンプを各社ヘッドホンで聴く
岩井 喬ヘッドホンアンプの集大成、100周年記念モデル第一弾が登場!
据え置き型ヘッドホンアンプの定番として、長年愛されているのがラックスマンのフラグシップモデルである。その歴史はヘッドホン市場が盛り上がる前である2002年の「P-1」から始まった。20余年を経た本年、集大成となる弩級モデル「P-100 CENTENNIAL」(以下、P-100)が発表され、大きな話題となっている。
モデル名に加えられたCENTENNIAL(センテニアル)は100周年の意味であり、ラックスマンが来年の2025年に創業100周年となることを記念したモデルにこの表記が加わるという。P-100はその記念モデル第一弾として登場することになる。その音を早速確認してみた。
P-100は筐体サイズが従来のフラグシップである「P-750u MARKII」よりも高くなり、同社製SACDプレーヤー並み。重量についても約20kgとかなりのサイズアップだ。一方で、定格出力についてはバランス駆動時8W×2(16Ω負荷)までと、変わっていない。それではここまで筐体が大きくなった理由はどこにあるのか。その気になる内容について、早速紹介していきたい。
据え置きアンプ開発で培われた新増幅帰還エンジンLIFES搭載
まず一点目としては独自の増幅帰還エンジンLIFESの採用である。前モデルまでは出力から歪み成分のみをフィードバックさせて、音楽信号に影響を与えずに、より純度の高いサウンドを実現させるODNFを用いていた。ODNFは度重なるバージョンアップで回路規模も大きくなっていたといい、回路そのものやパーツのすべてを見直し、メイン回路と歪み検出回路を一体化することで回路規模を抑え、シンプルかつコンパクトな構成に置き換えたものがLIFESとなる。
LIFESは同社セパレートアンプやプリメインアンプなどで導入が始まっており、長期に渡り安定的に供給できる高性能FETを電圧増幅段に新採用。スペック面では回路単体でODNFに比べ歪みは約半分以下、SN比で3dB向上している。もし今回のLIFESと同じ構成をODNFで再現した場合、回路規模は約1.2倍にもなるという。
アンプ全体でLIFESを用いたフルディスクリート構成の3段ダーリントン回路を4台用意しており、定格出力(アンバランス接続で32Ω負荷・1W+1W)まではスイッチング歪みが発生しない純A級動作を実現。6.3mmアンバランス接続時は2台をパラレル駆動し、出力電流の供給能力を倍増させ、ドライブ力の高さと抑揚感溢れるダイナミックなサウンドを獲得。
P-100で新採用となった4.4mm端子や4ピンXLR端子を用いたバランス接続では4台のアンプを各々単独で用いるBTL駆動とし、左右セパレーションや定位感の向上、混変調歪の低減や電源レギュレーションの改善によって透明感の高いサウンドが楽しめる。
さらにP-100では4.4mm/4ピンXLR端子使用時にグラウンドの左右独立化を行う、GROUND DIVIDEモードも装備。BAL/G-DIVスイッチで切り替えることでパラレル・アンバランス駆動とし、パラレル駆動による力強さと、グラウンド独立による左右セパレーション向上を両立した。
なおヘッドホン出力には3ピンXLR端子も1つだけ用意されているが、これはもう一台のP-100を使い、8台のアンプをパラレル駆動させたパラレルBTLバランス駆動を実現できる。P-100背面にあるコントロール端子を繋ぎあうことで音量調整機構であるLECUA-EXが連携し、音量や左右バランスについて、マスターとなるLch側だけ操作すれば、スレーブとなるRch側も追随するという仕組みだ。BTLバランス接続でもアンバランス接続時のようなパラレル駆動の恩恵が受けられる、究極の仕様であり、1台当たり16Ω駆動で最大16Wという強力なモノラルアンプとすることで、ありとあらゆるヘッドホンを駆動できる。
この特別なモードは、2013年にP-700uを2台使ったパラレルBTLバランス駆動の試作機を作った時から構想があったといい、イベントでも2回ほど出展されたので、この試作機を聴いたことがある方もいらっしゃるだろう。10年の時を経て、ようやくその理想が現実のものとなった。
ボリューム回路、電源部も最新版にアップデート
二点目としては独自の高純度電子制御アッテネーターLECUAの改良だ。ヘッドホンアンプでは2012年に登場の「P-700u」から、ICによるソリッドステート方式のLECUAを搭載している。P-100では位置検出用の摺動式ボリュームを、重量回転機構を組み込む高精度ロータリーエンコーダーとしたLECUA-EXへアップデート。ICも新世代のものとなり、0.5dBステップ・200段階のきめ細やかな音量調整を実現。チップ性能を生かしてもっと細やかなステップも設定できるそうだが、使い勝手を考慮し、0.5dBステップを採用したそうだ。
加えてP-100ではフロントパネルに3桁7セグメントLEDによる音量値表示も備えており、ケーブル比較など、厳密なリスニング時の再現性が高まっている。
そして三点目は電源部の強化だ。同社ヘッドホンアンプとして初めて左右独立・大容量OIコア型トランスを導入。表示回路などのアクセサリー系にも個別にトランスを用意した3基構成として相互干渉を抑え、左右セパレーションの向上に役立てている。このトランスの上にも電源基板が配置されるほど、中身は凝縮されているが、基板の下にサブシャーシを用意することで、トランスの磁束漏れの影響を抑えるシールド効果も持たせているという。
また平滑コンデンサーについても左右で個別に10,000μF×2のカスタムブロック型を用意。プリ・ドライバー段にも左右個別に3,300μF×2のカスタムブロックコンデンサーを用いて、より充実したハイイナーシャ(高慣性)電源を構築している。
筐体は同社SACDプレーヤー並みの大きなものとなり、天板はP-750u LIMITEDと同じ仕様の6mm厚アルミ板による3面オーバーサイズボンネットを採用。電源トランスと電源回路、メインアンプと入力段、この4つのブロックを分割したシャーシ構造によって相互干渉のみならず、筐体の堅牢性も高まっている。さらにボトムシャーシには出力段の放熱効果も担う2.9mm+1.2mmの2層式4.1mm鋼板を用いる他、グラデーション鋳鉄製フットによって低重心な筐体構造を実現した。
音質レビュー:フォーカル、ソニー、オーディオテクニカ、メゼでチェック
試聴は最終試作段階のものを用いて実施。2台使いのパラレルBTLバランス駆動はまだ音質調整前ということで今回は確認できなかったが、11/2に開催される「ヘッドフォン祭」では試聴機が用意できる見込みとのこと。その音が気になる方はぜひ会場にお越しいただきたい。
まずヘッドホンにフォーカル「UTOPIA SG」を用意。バランス接続にてP-750u LIMITEDとの聴き比べをしてみたが、印象的に感じたのは音場の見通しの良さである。一際S/Nの良いサウンドであり、音が立ち上がる瞬間の素早さ、余韻の透明感も丁寧に描き出す。楽器の分離度も向上し、オーケストラのハーモニーも抑揚良くリアルに表現。サウンドステージは広大で奥行きも深い。P-100はパワフルさに進化のベクトルを置かず、あくまで描写力、音場の空気感まで見逃さない、リアルさの追求にポイントを絞ったサウンドであるように感じる。GROUND DIVIDEモードではさらに音離れ良く緻密で、個々の描写の丁寧さ、階調表現の高さが際立ち、爽やかで一層大人びた上質なサウンドへ変貌した。
UTOPIA SGとアンバランス接続でも試してみたが、ロック音源のリズム隊のタイトなアタックもきつさなくすっきりとヌケ良く描きながら、ボディの密度やキレ味の高さも十二分に再現。ファットなエアー感も前に押し出してくる、パワフルさも兼ね備えている。ディストーションギターのリフも軽快にまとめ、ボーカルもハリ良くスムーズに描く。ピアノのしっとりとした落ち着き良い響きも魅力的で、オーケストラの管弦楽器は涼やかなハーモニーを聴かせてくれる。低域パートの軽やかさも相まって、音場の爽快さも増す印象だ。
ヘッドホンをソニー「MDR-Z1R」へ交換。まずはアンバランス接続で聴いてみたが、大口径な70mmドライバーも難なく鳴らし切っており、管弦楽器の柔らかい旋律や、安定感あるボーカルの滑らかさ、キックドラムのリッチなエアー感まで、過不足なく丁寧に描いている。GROUND DIVIDEモードでは落ち着き感も増し、低重心で緻密な描写となり、分離良く滑らかなサウンドに進化。ジャズのホーンセクションもハリ感と太さのバランスが良く、ピアノの響きも澄んだトーンで、低域方向の密度も高い。
オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」も試してみた。こちらもオーディオテクニカのヘッドホンとしては大口径となる58mmドライバーを積むオープン型で、MDR-Z1Rとともに鳴らし難い印象を持っていたのだが、非常にバランス良く澄み切ったサウンドで、低域方向も厚み良く、引き締め効果も伴い落ち着き良く安定的な描写となる。クールでキレ良いボーカルもきつくなく、息継ぎの生々しさも付帯感なく表現。オーケストラの旋律も解像度が高く、余韻の消え際まで鮮明に掴み取れる。抑揚豊かで伸び良いハーモニーが心地よい。
最後に2つのコイルパターンを持つユニークな振動板を採用した平面駆動型のメゼオーディオ「EMPYREAN」を試す。こちらもバランスに優れた低重心なサウンドを聴かせてくれる。低域方向の分解能も高く、ウッドベースの厚みやキックドラムの空気感も丁寧に描き分け、ダンピングも高い。音場も立体的でオーケストラのハーモニーは潤い良く芳醇だ。GROUND DIVIDEモードでは高S/Nかつ情報量も多く、楽器の艶やサウンドステージの広がりもリッチに表現。ロック音源のリズム隊も制動良く、シンバルの響きも上品にまとめる。ボーカルは肉付き良く穏やかで安定感も十分だ。口元の動きも自然でウェットである。
P-100は究極のヘッドホンアンプを目指したという開発陣の熱い思いと共に、長年に渡るフラグシップシリーズ開発で培ってきた、細部まで妥協しない実直な描写性、ヘッドホンリスニングでありながら、スピーカーリスニングにも通じる立体的な音場感も味わえる、まさに100周年を祝う集大成のモデルといえるだろう。
P-750u MARKIIからかなり高価な価格設定となったが、こうした背景を踏まえると決して高すぎるプライスではないと感じる。ただ迫力良く押し出すようなサウンドではなく、長時間じっくりと腰を据えてヘッドホンを楽しむリスナーにこそお薦めしたい、最良のヘッドホンアンプだ。
(提供:ラックスマン)