公開日 2022/12/09 06:50
【連載】佐野正弘のITインサイト 第35回
ソフトバンクが“急速充電”スマホを猛プッシュ、その狙いとは
佐野 正弘
2022年、とりわけその前半に、日本市場で気を吐いていたスマートフォンメーカーといえばXiaomi(シャオミ)であろう。「Redmi Note 11」「Redmi Note 10T」「Redmi Note 11 Pro 5G」と、低価格のRedmi Noteシリーズを相次いで投入したのに加え、フラグシップ級の性能を備えゲーミングに注力した「POCO F4 GT」を販売するなど、立て続けに新製品をリリースしていたからだ。
円安が急速に進んだ後半以降は、その勢いを潜めたように見えるXioamiだが、それでも10月にはタブレットの新機種「Redmi Pad」を投入。そして昨日12月8日には、再びスマートフォン新機種「Xiaomi 12T Pro」を国内投入することを発表している。
Xiaomi 12T Proは、2021年に発売された「Xiaomi 11T Pro」の後継モデルであり、ハイエンドモデルの「Xiaomi」ブランドの名前が付く通り、高い性能を誇っているのが大きなポイント。実際Xiaomi 12T Proは、チップセットにクアルコム製の「Snapdragon 8+ Gen1」を採用し、さらにカメラには国内で販売されるモデルとして初めて、約2億画素のイメージセンサーを採用するなど、非常に高い性能を備えていることが分かる。
それに加えてXiaomi 12T Proは、5,000mAhのバッテリーを搭載し、専用の充電器を用いることで120Wの急速充電にも対応しており、わずか19分で100%の充電が可能というのも大きな特徴となっている。そしてこの特徴を強く打ち出し、Xiaomi 12T Proの販売に乗り出したのがソフトバンクだ。
ソフトバンクは、Xiaomi 12T Proの発表と同日に記者発表会を実施し、Xiaomi 12T Proを国内の携帯電話会社で独占販売することを明らかにしている(MVNOやオープン市場向けにはXiaomiが販売)。そしてソフトバンクが、Xiaomi 12T Proを販売するに当たって、強く訴求しているのがチップセットやカメラの性能ではなく、急速充電機能なのだ。
実際ソフトバンクは、Xiaomi 12T Proを「神ジューデン」スマホと分かりやすいキャッチフレーズを付けてアピール。さらに、俳優の吉沢亮さんと杉咲花さんを起用したテレビCMも展開するなど、アピールにかなり力を入れている様子がうかがえる。
ただ実は、120Wの急速充電はXiaomi 12T Proが初というわけではなく、Xiaomi 11T Proで既に実現しているものなので、そこまで新規性があるわけではない。それならば、国内初の約2億画素カメラなどをアピールした方がインパクトがあるように思えるのだが、ソフトバンクのアピールポイントが急速充電に特化している点は気になる。
しかもソフトバンクはここ数年来、モトローラ・モビリティの折り畳みスマートフォン「razr 5G」や、評価が二分したバルミューダの「BALMUDA Phone」、最近であればライカカメラが全面監修した「LEITZ PHONE 2」など、いくつかのスマートフォンを携帯電話会社として独占販売している。
だが、テレビCMを展開するほどプロモーションに力を入れた独占販売モデルはこれまでなかっただけに、Xiaomi 12T Proと急速充電に対する力の入れ具合が、従来とはかなり違っている様子も見て取ることができるだろう。
さて、その理由は一体どこにあるのだろうか。ソフトバンクの常務執行役員である菅野圭吾氏によると、1つにユーザーの急速充電に対する要求の大きさがあるようだ。
ソフトバンクの調査によると、スマートフォンの充電で困ったことがあると答えた人が7割以上存在する一方、既存の急速充電では満充電までに1時間弱の時間がかかってしまうことから、すぐ充電できる環境を整えることで、こうしたユーザーの悩みを解消したい考えがあったという。
そしてもう1つは、スマートフォンの画一化が進んでいることだと菅野氏は話す。確かに現在、スマートフォンに用いられるチップセットやイメージセンサーなどはある程度共通しており、それらを組み合わせればある程度満足できる内容のスマートフォンが出来上がることから、特徴が似通ってしまい差異化が難しくなっている。
そこで菅野氏は、Xiaomi側とスマートフォン新機種を投入するに当たって、ユーザーの課題を解決できる特徴を持ったスマートフォンを出せないか?というところから検討を始めたという。そしてリサーチの結果、バッテリーの持続や急速充電に対するニーズが高かったことから、急速充電に強みを持つXiaomi 12T Proを販売するに至ったようだ。
そうしたことからソフトバンクは、今後「神ジューデン」スマートフォンをシリーズ化していくことも打ち出しており、Xiaomi 12T Proに続く第2弾、第3弾のモデルも提供していく方針も見せている。菅野氏は具体的な計画はこれからとしながらも、「第2弾は来年中に出したい」と話しており、「神ジューデン」に強い意欲を見せている。
また菅野氏は、「神ジューデン」スマートフォンはハイエンドに限らず、Xiaomi 12T Proと同じくらいの急速充電ができるのであれば、ミドル・ローエンドのモデルも投入していく可能性を示したほか、そのパートナーがXioamiとは限らない様子も見せている。こうしたソフトバンクの姿勢から見えてくるのは、同社が中国メーカーからの端末調達を強化して、携帯他社との差異化を図ろうとしていることだ。
現在、スマートフォンの急速充電技術に力を入れているのは中国メーカーであり、XiaomiやOPPO、そしてスマートフォンでは日本に進出していないrealme(リアルミー)や、vivo(ビボ)などいくつかのメーカーが急速充電技術の開発を競っている状況だ。最近では、200Wを超える急速充電を実現する技術も出てきているようで、その力の入れ具合の大きさを見て取ることができるだろう。
一方でそうした急速充電技術は現状、各社の独自仕様であることが多いようで汎用性はない。それゆえ国内メーカーや、アップル、サムスン電子といった中国外のメーカーは、汎用性を重視してかそこまで急速充電に力を入れる様子は見せていない。
だがソフトバンクはその点に着目、独自仕様であっても急速充電技術を持つ中国メーカーからあえて端末調達を強化することにより、他の携帯3社とは異なる独自性を打ち出し、顧客獲得につなげていきたいのではないかと考えられる。とはいえ、それだけの急速充電を国内の基準を満たし、安全性を確保した上で実現できるかという点には難しさもあるだろう。
Xiaomi 12T Proに関しては、既に国内での実績がある120Wの急速充電であることに加え、安全性を重視した機能を多数取り入れていることもあって、ソフトバンクも“お墨付き”を出すに至っている。だが、記者からも急速充電の安全性を問う声が出ていただけに、国内投入に当たっては慎重な姿勢が求められるのもたしかだ。
円安が急速に進んだ後半以降は、その勢いを潜めたように見えるXioamiだが、それでも10月にはタブレットの新機種「Redmi Pad」を投入。そして昨日12月8日には、再びスマートフォン新機種「Xiaomi 12T Pro」を国内投入することを発表している。
■新スマートフォン「Xiaomi 12T Pro」投入。ソフトバンク独占販売も発表
Xiaomi 12T Proは、2021年に発売された「Xiaomi 11T Pro」の後継モデルであり、ハイエンドモデルの「Xiaomi」ブランドの名前が付く通り、高い性能を誇っているのが大きなポイント。実際Xiaomi 12T Proは、チップセットにクアルコム製の「Snapdragon 8+ Gen1」を採用し、さらにカメラには国内で販売されるモデルとして初めて、約2億画素のイメージセンサーを採用するなど、非常に高い性能を備えていることが分かる。
それに加えてXiaomi 12T Proは、5,000mAhのバッテリーを搭載し、専用の充電器を用いることで120Wの急速充電にも対応しており、わずか19分で100%の充電が可能というのも大きな特徴となっている。そしてこの特徴を強く打ち出し、Xiaomi 12T Proの販売に乗り出したのがソフトバンクだ。
ソフトバンクは、Xiaomi 12T Proの発表と同日に記者発表会を実施し、Xiaomi 12T Proを国内の携帯電話会社で独占販売することを明らかにしている(MVNOやオープン市場向けにはXiaomiが販売)。そしてソフトバンクが、Xiaomi 12T Proを販売するに当たって、強く訴求しているのがチップセットやカメラの性能ではなく、急速充電機能なのだ。
実際ソフトバンクは、Xiaomi 12T Proを「神ジューデン」スマホと分かりやすいキャッチフレーズを付けてアピール。さらに、俳優の吉沢亮さんと杉咲花さんを起用したテレビCMも展開するなど、アピールにかなり力を入れている様子がうかがえる。
ただ実は、120Wの急速充電はXiaomi 12T Proが初というわけではなく、Xiaomi 11T Proで既に実現しているものなので、そこまで新規性があるわけではない。それならば、国内初の約2億画素カメラなどをアピールした方がインパクトがあるように思えるのだが、ソフトバンクのアピールポイントが急速充電に特化している点は気になる。
しかもソフトバンクはここ数年来、モトローラ・モビリティの折り畳みスマートフォン「razr 5G」や、評価が二分したバルミューダの「BALMUDA Phone」、最近であればライカカメラが全面監修した「LEITZ PHONE 2」など、いくつかのスマートフォンを携帯電話会社として独占販売している。
だが、テレビCMを展開するほどプロモーションに力を入れた独占販売モデルはこれまでなかっただけに、Xiaomi 12T Proと急速充電に対する力の入れ具合が、従来とはかなり違っている様子も見て取ることができるだろう。
■新機種と共に急速充電に力を注ぐ理由
さて、その理由は一体どこにあるのだろうか。ソフトバンクの常務執行役員である菅野圭吾氏によると、1つにユーザーの急速充電に対する要求の大きさがあるようだ。
ソフトバンクの調査によると、スマートフォンの充電で困ったことがあると答えた人が7割以上存在する一方、既存の急速充電では満充電までに1時間弱の時間がかかってしまうことから、すぐ充電できる環境を整えることで、こうしたユーザーの悩みを解消したい考えがあったという。
そしてもう1つは、スマートフォンの画一化が進んでいることだと菅野氏は話す。確かに現在、スマートフォンに用いられるチップセットやイメージセンサーなどはある程度共通しており、それらを組み合わせればある程度満足できる内容のスマートフォンが出来上がることから、特徴が似通ってしまい差異化が難しくなっている。
そこで菅野氏は、Xiaomi側とスマートフォン新機種を投入するに当たって、ユーザーの課題を解決できる特徴を持ったスマートフォンを出せないか?というところから検討を始めたという。そしてリサーチの結果、バッテリーの持続や急速充電に対するニーズが高かったことから、急速充電に強みを持つXiaomi 12T Proを販売するに至ったようだ。
そうしたことからソフトバンクは、今後「神ジューデン」スマートフォンをシリーズ化していくことも打ち出しており、Xiaomi 12T Proに続く第2弾、第3弾のモデルも提供していく方針も見せている。菅野氏は具体的な計画はこれからとしながらも、「第2弾は来年中に出したい」と話しており、「神ジューデン」に強い意欲を見せている。
また菅野氏は、「神ジューデン」スマートフォンはハイエンドに限らず、Xiaomi 12T Proと同じくらいの急速充電ができるのであれば、ミドル・ローエンドのモデルも投入していく可能性を示したほか、そのパートナーがXioamiとは限らない様子も見せている。こうしたソフトバンクの姿勢から見えてくるのは、同社が中国メーカーからの端末調達を強化して、携帯他社との差異化を図ろうとしていることだ。
現在、スマートフォンの急速充電技術に力を入れているのは中国メーカーであり、XiaomiやOPPO、そしてスマートフォンでは日本に進出していないrealme(リアルミー)や、vivo(ビボ)などいくつかのメーカーが急速充電技術の開発を競っている状況だ。最近では、200Wを超える急速充電を実現する技術も出てきているようで、その力の入れ具合の大きさを見て取ることができるだろう。
一方でそうした急速充電技術は現状、各社の独自仕様であることが多いようで汎用性はない。それゆえ国内メーカーや、アップル、サムスン電子といった中国外のメーカーは、汎用性を重視してかそこまで急速充電に力を入れる様子は見せていない。
だがソフトバンクはその点に着目、独自仕様であっても急速充電技術を持つ中国メーカーからあえて端末調達を強化することにより、他の携帯3社とは異なる独自性を打ち出し、顧客獲得につなげていきたいのではないかと考えられる。とはいえ、それだけの急速充電を国内の基準を満たし、安全性を確保した上で実現できるかという点には難しさもあるだろう。
Xiaomi 12T Proに関しては、既に国内での実績がある120Wの急速充電であることに加え、安全性を重視した機能を多数取り入れていることもあって、ソフトバンクも“お墨付き”を出すに至っている。だが、記者からも急速充電の安全性を問う声が出ていただけに、国内投入に当たっては慎重な姿勢が求められるのもたしかだ。