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公開日 2024/04/02 06:30
アジア代理店のケント・プーン氏が来日

Roon Serverの新たな台風の目となるか?Grimm Audioの最新ネットワークプレーヤーを先行試聴!

土方久明

オーディオを愛する香港の実業家、ケント・プーン氏が来日



まだ寒さの残る3月末のある日、ネットワークオーディオを探求する僕にとってホットな出来事があった。プロユースのオーディオ機器やハイエンドのDAコンバーターなどを発売するWeiss Engneering(ワイス・エンジニアリング)のアジア代理店、Asia WeissのKent Poon(ケント・プーン)氏が来日するという。

アジアワイス代表のケント・プーン氏(右)と土方久明氏(左)。Grimm Audioの新製品「MU1」を一足早く持ってきてくれた

ケント氏の来日の大きな目的は、Weissと同じく輸入代理店を務めるオランダの総合オーディオメーカー、Grimm Audio(グリムオーディオ)の製品プロモーションである。今回は、日本初導入となる2機種のオーディオストリーマー「MU1」と「MU2」について詳しく解説してくれた。

ちなみにケント氏は、香港を拠点にオーディオ関連の幅広いビジネスを手がけているやり手の実業家である。Weiss、Grimm Audioのアジア代理店のほか、音質にこだわるジャズレーベル「JAZZ WORLD Records」の運営、さらにはモントルー・ジャズ・フェスティバル・チャイナの運営にも携わっている。「音楽の制作から再生まで一貫して手がけています」と誇らしげに語ってくれた。

ケント氏が手掛ける「JAZZ WORLD Records」のアルバム

アカデミックな研究成果をバックボーンとして持つ



改めてGrimm Audioの話に戻ろう。設立は2004年、オランダのアイントホーフェンに拠点を構えている。ケント氏によると、開発チームには大学教授や研究者が多く在籍しており、アカデミックな研究成果を元にオーディオの音質を追求しているのだという。特にプロフェッショナルオーディオの世界で評価が高く、高音質SACDの録音で知られるChannel Classicsのレコーディングでは、Grimm Audioの製品が多数使われている。

Channel Classicの録音には、レーベル創設時からGrimm AudioのADコンバーターが使用されており、30周年記念盤のジャケットにもGrimmのロゴが記載されている

プロ機のノウハウを活用したコンシューマー向け製品も多数ラインナップしており、DSP内蔵のアクティブスピーカー「LS1」シリーズやサブウーファー、マスタークロックジェネレーターなどが知られている。日本国内向けには、AZ AUDIOが輸入代理店を担当している。

国内向けにはクロックジェネレーター「CC1 MKII」などが輸入されていた

今回ケント氏は、Grimm Audioから発売される2種類のRoon Server/ストリーマーを持ってきてくれた。「MU1」はDACを搭載しないトランスポートで、「MU2」はDAC内蔵の単体ネットワークプレーヤーだ。SSDなどのストレージを内部に搭載することもできる。フロントには視認性のよい大型のディスプレイを搭載。UPnP再生には対応しておらず、純粋なRoon Serverとして利用できる製品となる。

DAC内蔵ネットワークプレーヤー/Roon Server「MU2」

ネットワークトランスポート/Roon Server(DACなし)「MU1」

シャーシは精巧な意匠が印象的で、天板がわずかに窪んでおり、本体操作とボリュームを兼ねた大型の操作ボタンが装備されている。外観形状は背面端子以外共通だが、操作ボタンは「MU1」のボタンは淡いゴールドカラー、「MU2」はシルバーカラーという違いがある。

天面はわずかに窪んでおり、そこに大型ボタンがはまる形になっている。ボリュームの操作感も良好

いずれも、自社で開発された計算能力の高いFPGAを搭載している。その大きな役割は「Pure Nyquist」と呼ばれるオーバーサンプリングのデジタルフィルターで、DAコンバーターに対して正確な信号を送り出すことができる。MU1は、同社のDSP内蔵アクティブスピーカーLS1と接続してシンプルな再生システムを構築することができるし、他社製DAコンバーターとの組み合わせも楽しめる。

同社のアクティブスピーカー「LS1」などと組み合わせてシンプルなシステム構築も可能

さらに、DAコンバーターを搭載する「MU2」にも大切な技術的特徴がある。それが、ディスクリートDAC回路「Major DAC」である。マルチビット処理と1ビット処理の「いいとこ取り」をした“1.5bit アーキテクチャ”と彼らは呼んでいる。なんと独自の11次ノイズシェーパーとなっており、ケント氏によると、Major DACは「まるでアナログテープでレコーディングされたかのような滑らかで力感のある音がする」のだという。

ネットワーク周りのインターフェイスは、音質を最重視した結果、あえてRJ-45のLAN端子のみを搭載。Wi-FiやBluetoothなどのワイヤレスには対応していない。

「MU2」の背面端子。WiFiやBluetoothは搭載しない

「これはいける!」と強い手応え。MU1とMU2の音質をチェック



東京都千代田区神保町にあるオーディオショップ・U-AUDIOでその音を確認した。ストリーマー以外の再生環境は、プリアンプがCH Precision「L10」、パワーアンプがBoulder「2150 MONO POWER AMPLIFIER」、スピーカーがMAGICO「M3」となる。

千代田区のU・AUDIOに「MU1」と「MU2」を持ち込み試聴テストを開始

まずはMU2から。MU2をRoon Coreとして、手持ちのハイレゾ音源をMU2に入れて再生を行った。音が出た瞬間に「これはいける!」という強い手応えを感じた。実にフラットな帯域バランスで、高音域から低音域にかけての質感が統一されている。

上がMU2、下がMU1

聴感上のSN比が高く、空間の見通しが抜群に良いのだ。つまり、ソースの音を音色、音調の両面で素直に出す。プロフェッショナルの世界で評価が高い理由がすぐに納得できた。女性ボーカル・アデルでは、コンパクトでフォーカスの良い口元が空間に浮かび上がるさまはかなりの実力だ。

フロントディスプレイは日本語のフォントにも対応している

続いてMU1をテスト。こちらはトランスポートなので、ここではdCSの最新鋭DAコンバーター「Bartók APEX」と組み合わせた。XLRデジタルケーブルを用いたAES/EBU接続だ。ケント氏によると、クロック信号の受け渡しのメリットによりGrimm Audioではこの接続を推奨しているとのこと。

気になる音質だが、高音域が躍動的でシャープかつスピード感が高いサウンドで、アデルのボーカルには血の通ったような色気もある。これはズバリdCSのDACが持つサウンドキャラクターそのものだが、特に音色に強い透明感を感じるのはMU1がトランスポートとして下支えしているからだろう。

総じて感じた印象としてはMU1、MU2ともソース機器として音がアキュレートだから、その後のステージであるアンプやスピーカーでサウンドキャラクターをコントロールしやすそうだということ。

AZ AUDIOの坂口氏によると、価格等も含めた国内展開についてはこれから進めていく段階だと言うが、僕は改めてGrimm Audioの予想以上の再生音に感心した。プロフェッショナルの世界で鍛えられた音響と電気工学の理論が、その再生音に大きく貢献していることは間違いない。

とにもかくにも、日本への正式導入が待ち通しい。

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