神山健治監督特別インタビュー:ソニーの新技術「SBMV Extend」で更に美しく進化した「攻殻機動隊S.A.C」シリーズを観る
■神山監督が見た「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」&「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」
鈴木(敬称略):映像を作る監督という立場から、こういった映像を綺麗に届けられる技術についてどうお感じになりますか?
神山(敬称略):有り難いですね。制作者側が見ているのと同じ映像を視聴者にそのまま伝えるのは難しいと諦めている部分もありましたが、こういった技術で軽減されるのはありがたいことですね。
攻殻を作っていたころはフィルム的な映像を理想としていて、それを実現するために特殊効果やフィルター処理を結構入れたんです。マスターの段階では理想に近いものを送り出せたと思ったのですが、商品化されてから見ると、特殊効果を入れたものが逆効果になってしまうところもありました(笑)。ライティングの光のグラデーションがガスっぽい感じになってしまったりとか。
それと、DVDを作ったときは、暗いシーンで背景の黒に人物(セル画)の黒がうまく溶け込まず、セルの方が浮いてしまうのが気になっていました。同じ色で塗って、同じフィルターをかけているのに差が出てしまうんですね。こういうのも、階調の差がなくなればもっと馴染むのかなと。
鈴木:エンコードする側としては、「S.A.C.」や「2nd GIG」のどのあたりに苦労されましたか?
ソニーPCL・村井(敬称略):映像ディテールがソフトになるほどディティールの再現が難しく、バンドが出てしまいがちのですが、そこを今回のBDでは、例えば2話の雪のシーン(※編集部註:2nd GIGの第2話「飽食の僕 NIGHT CRUISE」)なんかは、セル画の黒が街の闇から浮かないように、「SBMV Extend」で馴染ませました。
鈴木:ただ、「SBMV Extend」を使えるようになったからといって、作業が簡単になった訳ではないんですよね(笑)?
村井:はい、作業的にはより処理が大変になりました(笑)。これまでの2倍くらいになった感じでしょうか。
神山:でも観ると、セルの部分の影が落ちすぎてしまうのが軽減されているのが分かりますね。当時苦労したシーンでここまでやってくれると有り難いな。視聴環境からしていろいろあるので、家庭で観るときの誤差までは考えないようにしているんですが、ソフトがここまでの水準を実現してくれるのは嬉しいです。
■神山監督にとっての「攻殻機動隊S.A.C.」とは
鈴木:神山監督にとって、「攻殻機動隊S.A.C.」という作品はどんな存在なのでしょうか?
神山:僕は「攻殻機動隊S.A.C.」がほぼ初監督作品ではありますが、やはりこういうビッグタイトルを監督する機会をいただけたことは、監督のキャリアとして大きなターニングポイントになりましたね。「攻殻機動隊S.A.C.」と「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」合わせて小さな映画を52本作ったような感覚でしたね。監督になったら試したいと思っていたことをここであらかた試せたので、それ以後の作品に対するアプローチも固まったように思います。とても特別な思い入れのある作品です。
鈴木:ファンとしては「攻殻機動隊S.A.C.」シリーズの続編を観たいなと思うのですが。
神山:そういう声を今でも頂くので、可能ならなんとか実現したいと思っています。皆さんの声も、実現に向けての後押しになると思います。
■根底に流れるものを同じくした「攻殻機動隊S.A.C.」と「東のエデン」という二作
鈴木:神山監督の作品として、今年6月まで放映していた「東のエデン」は記憶に新しいですよね。こちらを観ていて「攻殻機動隊S.A.C.」と共通したものを根底に持っている作品だと感じました。
神山:そうですね。「東のエデン」と「攻殻機動隊S.A.C.」は、絵柄や話の方向性は違いますが、世界観などのつながりに気づいてもらえると嬉しいです。
「東のエデン」はファンの間口を広げた作品なんですね。視聴者層も攻殻に比べたら10歳くらい若返りましたし、女性の比率も「攻殻機動隊S.A.C.」より多い。「東のエデン」から「攻殻機動隊S.A.C.」に入ってきてくれたり、逆に「攻殻機動隊S.A.C.」から「東のエデン」に興味を持ってくれるといいなと思います。
鈴木:画づくりとしては「攻殻機動隊S.A.C.」と「東のエデン」はどんな違いがあるのでしょうか?
神山:「東のエデン」ではあえて漫画っぽい映像を目指したので、キャラクターのエッジをはっきり出す方向でコンポジットしています。背景もグラデーションが少ない絵柄なので、エンコード作業にあまり負担をかけない作りになっているのではないでしょうか。
それと「東のエデン」は背景も紙ではなく直接PC上で描くようになったので、フィルターを掛けた際の背景とセル画の差も、「攻殻機動隊S.A.C.」より少なくなったと思います。
鈴木:今は「東のエデン」の劇場版制作作業でお忙しいところですよね。
神山:11月公開の1本目は今佳境に入っています。2本目は、まだ一部コンテを残しているところですね。テアトル新宿などで総集編を上映している(※)ので、テレビシリーズを見られなかった方もそこでおさらいして、劇場版を楽しんでもらえると嬉しいです。
※「東のエデン 総集編 Air Communication」:テレビシリーズを約2時間に凝縮した総集編。現在テアトル新宿、テアトルダイヤ、テアトル梅田にて公開中
作品は消費されて忘れられてしまうのが普通だと思うのですが、こうして「攻殻機動隊S.A.C.」「攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIG」のように新しいメディアで改めて発売させてもらえると、ずっと多くの方に観てもらえるのは有り難いですね。
【ソフトの紹介】
■攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX
・Blu-ray Disc BOX 1(BCXA-0187) 発売中 21,000円(税込)
・Blu-ray Disc BOX 2(BCXA-0188) 発売中 21,000円(税込)
■攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG
・Blu-ray Disc BOX 1(BCXA-0189) 11月25日発売 21,000円(税込)
・Blu-ray Disc BOX 2(BCXA-0190) 12月22日発売 21,000円(税込)
音声:ドルビーTrueHD(5.1ch)、リニアPCM(2ch)、ドルビーデジタル(5.1ch)※英語音声
映像:MPEG-4 AVC/H.264
特典:
・特製ブックレット(20ページ)
・キャスト対談「TALK!TALK!TALK!」(出演:田中敦子、大塚明夫、小山力也)
・「タチコマな日々」
【BOX 1のみ】
・ノンクレジットオープニング集
・第12話オーディオコメンタリー(出演:後藤隆幸、西尾鉄也、大松裕)
【BOX 2のみ】
・エンディング集
・ 第26話オーディオコメンタリー(出演:後藤隆幸、西尾鉄也、大松裕)
《全4BOX購入特典キャンペーン》
・BD-Live機能を使用したスタッフやキャストによるスペシャルオーディオコメンタリー(ダウンロード期間:2009年12月22日〜2010年6月30日)
【出演】神山健治監督、草薙素子役:田中敦子、バトー役:大塚明夫
詳細はhttp://dbeat.bandaivisual.co.jp/koukaku-special/bluray_campaign.htmlへ
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