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【連載】PIT INNその歴史とミュージシャンたち

第19回:山下洋輔さんが語る「ピットイン」の伝説と出会い<後編>

公開日 2012/12/17 14:44 インタビューと文・田中伊佐資
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ピットインのお客さんは素晴らしいけど
すべてを見通されているような恐さもある


思いついたらすぐピットインで
すぐにやらせてくれるからいい


佐藤: 振り返ってみると山下さんは「ピットイン」過去45年間で出演回数では史上最多です。

山下: どうも1番になったようですね。なにか思いついたらすぐ「ピットイン」で実践しているし。

佐藤: 実験の場でもありますね。

山下: 良武さんは、それをすぐやらせてくれるからいいんですよ。思い返すとゴールデン・ウィーク5日間ぶち抜きも多分僕が最初だったんじゃないかな。PANJAスイング・ オーケストラで、スイング・ジャズのパロディをやって、みんながフロアで踊ってくれた。

佐藤: 山下さんはなんでもできるということもあるんでしょうけど、発想が斬新で必ず人より一歩先を行ってますからね。次になにが出て来るんだろうという期待感が常にある。

山下: また「ピットイン」のお客さんが素晴らしいんですよ。寄席にたとえると「耳の肥えた客」でね。じっと聴いているからヘタなことはできない。すべてを見通されているような恐さがあります。

佐藤: ミュージシャンは共通して「ピットイン」は恐いということをよく言います。私がなにかをしてきたのではなくて、山下さんたちが作ってきた伝統の重みでしょうね。甲子園じゃないけど、魔物がいるんですよ(笑)。今でこそ世相が変わってきましたけど「ピットイン」はかつてのアングラ的な新宿文化とミュージシャンを仲介してきたという土壌がある。それがいまだに続けられているんだと思いますね。

山下: その通りです。

1991年の「新宿ピットイン」移転オープンイベントでのセッションの様子

佐藤: 山下さんは世界中で弾いていますけど、新宿が本拠地という意識はあるんじゃないですか。

山下: やっぱり新宿で弾くことはほかの地域と違いますよ。

佐藤: ありがとうございます。いやあ、なかなかダイレクトに言ってくれる人ではないんで(笑)。うれしいです。山下さんは「ピットイン」のことを実家とおっしゃっていたことがありますね。

山下: 育ったところだからね。

佐藤: テレビを観ていたら、山下さんがタモリに「カーナビを買って、『ピットイン』と音声入力したら『実家』と出る」と話していて、びっくりしました。そんなことあるわけないでしょう。

山下: これがおもしろいことに、タモリと言うと「病院」と出る(笑)。

佐藤: またまた、そんなわけないですよ。まあ、そうやって「ピットイン」を故郷のように言っていただくのはありがたいことです。全国に広めていただきまして。

山下: いいですね、持ちつ持たれつという関係が(笑)。

「スイングしなけりゃ意味がない/山下洋輔」 1984年に録音されたアルバム。この作品について山下さんは「タイトル曲の『スイングしなけりゃ意味がない』はいまでもアンコールの最後に弾いています。特別な曲ですね」と語っていた

岩原ピットインでは毎年合宿
リラックスした雰囲気が素晴らしい


佐藤: ハハハ。そういえばNHKの料理番組に出演したとき「岩原ピットイン」を舞台にしてもらったことも感謝しています。

山下: そうそう、シェフに鱈料理を習うという内容でした。「岩原ピットイン」にも浅からぬ縁があって、毎年「東京オペラシティ」のニューイヤー・コンサートの前に合宿させてもらっています。

佐藤: コンサートは2000年からすっかり恒例になりました。

山下: それまで合宿はいろんなところでやっていたんだけど、初めて岩原に行って「ここだ!」ということなった。完全に世間から遮断されているから音楽に集中できる。スタジオと食事が付いたホテルですからね。こんな素晴らしいところはない。もちろんライヴもやらせてもらっているけど、新宿とは違うリラックスした雰囲気がいいです。それと「スタジオピットイン」が僕としてはヒットですよ。通りがかってちょっと空いているとなると、すぐ弾かせてもらう。利用しているミュージシャンは多いみたいですね。

佐藤: 少しずつ浸透しています。

山下: ここで練習してから、ちょくちょく「昼の部」を覗いたりしてます。

佐藤: 山下さんが来ているとなるとミュージシャンは驚きますね。

山下: 「あっ」とか言ってます(笑)。

最新作では面白い事をやっている
ニューヨーク・トリオで披露したい


佐藤: ところで新作がつい先頃出ましたね。(※注:この記事は2011年7月発売の『analog vol.32』からの転載です)

山下: 『ディライトフル・コントラスト』というCDで、ニューヨーク・トリオ22年目の作品です。弦楽四重奏との共演もあり、めちゃくちゃ面白いことをやっています。コントラストが激しい内容なのでそういうタイトルにしました。このなかの曲は「ピットイン」でもちろんやっていますし、2011年秋にはニューヨーク・トリオで披露できると思います。

「ディライトフル・コントラスト」 山下洋輔ニューヨーク・トリオ with 飛鳥ストリングス 山下洋輔(p)、セシル・マクビー(b)、 フェローン・アクラフ(ds) ユニバーサル ミュージック UCCJ-2085 ¥3,000

佐藤: 今日は長時間いろいろと楽しいお話をありがとうございました。



写真 君嶋寛慶

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山下洋輔さん Yosuke Yamashita(ピアニスト)

1942年東京生まれ。1969年、山下洋輔トリオを結成し、フリー・フォームのエネルギッシュな演奏でジャズ界に大きな衝撃を与える。国内外の一流ジャズ・アーティストとはもとより、和太鼓やオーケストラなど異ジャンルとも意欲的に共演する。88年山下洋輔ニューヨーク・トリオを結成。国内のみならず世界各国で演奏活動を展開する。2000年に発表した自作協奏曲を、佐渡裕の指揮により04年にイタリア・トリノで再演。07年、セシル・テイラーとデュオ・コンサート開催。08年、「ピアノ協奏曲第3番<エクスプローラー>」を発表、CD化。アルバム『トリプル・キャッツ』リリース。09年5月、一柳慧作曲「ピアノ協奏曲第4番"JAZZ"」を世界初演。7月には、歴代メンバー総出演の「山下洋輔トリオ結成40周年記念コンサート」を開く。10年1月、恒例の東京オペラシティ・ニューイヤーでは、スタニスラフ・ブーニンを招き大きな話題を呼ぶ。99年芸術選奨文部大臣賞、03年紫綬褒章受章。国立音楽大学招聘教授。多数の著書を持つエッセイストとしても知られる。


ホームページアドレス http://www.jamrice.co.jp/yosuke/index.html



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