HOME > インタビュー > SHURE開発者に聞く、新フラグシップ・イヤホン「SE846」誕生秘話

春のHP祭・直前スペシャルインタビュー

SHURE開発者に聞く、新フラグシップ・イヤホン「SE846」誕生秘話

公開日 2013/05/10 19:56 インタビュー/中林直樹、構成/ファイル・ウェブ編集部
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
−−ローパスフィルターのアイデアは、いつ生まれたものですか。
サリバン氏:SHUREの優秀なエンジニアであるスコット・フリンカーによるものです。彼は2009年頃からSHUREのイヤホン製品に携わっているアコースティックエンジニアで、彼の頭の中にそのアイデアは常にあったものと思いますが、開発過程でいくつもの試作をつくりながらテストを繰り返して、最終的に「SE846」に搭載することができました。


サリバン氏
−−フィルターの形状にも工夫があるものと思います。
サリバン氏:はい。サイズやフォルムを工夫してきましたが、特に“長さ”が重要でした。パスが長くなると、低域のロールオフが始まる周波が手前になり、反対に短くするロールオフが遅れてくるので、最適なサウンドに調整するために色々と苦労しました。フィルターの形状については構造的なもろさを克服するために、パターンを互い違いにしながら重ね合わせています。

−−ノズルインサートを交換して音のカスタマイズが楽しめるイヤホンというアイデアは画期的ですね。
サリバン氏:ノズル交換は開発途中で生まれてきたアイデアでした。低域と中高域を2つのパスに分けて高域を伸ばすため「SE846」にローパスフィルターを搭載した際、サウンドのピーク値を計測したら偶然に2つのプレゼンスピークができていることがわかりました。これを元にチューニングを変えて、全体のサウンドに違いが出るような機構を開発しました。では実際にこの機構をどう使いこなそうかと考えた時に、「3種類のノズルインサートを設けて、ユーザー自身が音をカスタマイズできるようにしたらどうか」というアイデアが生まれました。

−−3種類のノズルインサートはどのようにチューニングしていますか。
サリバン氏:ノズルインサートは「ブライト(Bright)」「バランス(Balanced)」「ウォーム(Warm)」の3種類です。それぞれのインサートの内部にはフィルターのようなグリッドが設けられ、このグリッドの目の粗さでピークの抑制をコントロールしています。グリッドを配置するポジションも色々と調整して、開発時に繰り返し音を聴き込みながら位置を決めました。初期段階では普通のまっすぐなチューブも入れてみたりしながら、どれくらい音が変わるのか効果をシュミレーションして、最終的に3種類のノズルインサートを同梱しています。


ノズルインサートの交換時に使用する工具である“ノズルキー”(写真左上)を使ってノズルインサートの交換を、ユーザー自身が楽しめる。交換用ノズルインサート。白がブライト、黒がウォームのノズルインサート
−−オーディオ的な趣味性の高いカスタム仕様ですね。遊べる楽しさを実感します。
サリバン氏:ありがとうございます。スピーカーでは電機的なアプローチからチューニングを変えることもできますが、イヤホンの場合は小さなハウジングの中にその機構を設けられるスペースが限られていますので、フィルターの交換というアコースティックなアプローチを採りました。スピーカーで言うところの、スピーカーの配置やグリルで音を変えてみるようなアプローチに近いと思います。

次ページ音決めはどのように行っている?

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE