開発期間は27ヶ月。試作パーツは数千に及ぶ
【開発者インタビュー】AudioQuest「NightHawk」は技術革新でヘッドホンの常識に挑む
■頭部および耳の形状を分析して立体設計されたイヤーパッド
ーー イヤーパッドにも装着感を高める工夫を施しているのでしょうか?
Gray氏 イヤーパッド表面の革ですが、これは卵の殻を潰して加工し、合成革とした材料を使っています。人工革ではありますが、そもそもの材料はオーガニックな素材です。直接肌に触れる部分ですから、耐久性や肌触りの良さはもちろん、オーガニックなものであるというのは良いことだと考えています。
イヤーパッドの形状については、まずは耳の形を真似ることに徹しました。たいていのヘッドホンでは、イヤーパッドの切り込みが単純に円形だったり楕円形だったりします。人間の耳の立体的な形を考慮した形状のイヤーパッドというのは、意外なことになかなか見当たりませんでした。
NightHawkのイヤーパッドは、耳の形似合わせてパッドの後頭部側を厚くし、顔側を薄くしています。そうすると、ちょうど真上から見たら、耳を含めた人間の顔の形にイヤーパッドが沿うようになりますよね。よって耳や側頭部に対する圧迫感を減らすことができ、長時間にわたって快適に装着できます。また、イヤーパッドに合わせてドライバーユニットも若干の角度を付けてハウジングに設置してあります。こうすることで、より自然な広がりがあるサウンドが得られるのです。
■木材だが溶ける特殊素材“リキッドウッド”を採用したイヤーカップ
ーー イヤーカップにはリキッドウッドという聞き慣れない素材が採用されています。
イヤーカップの素材については、ヘッドホンをデザインする観点から考えられる様々な材料を試しました。金属、樹脂、木材など各カテゴリーの素材について、音響面、装着感、そして製造のしやすさという要素から検討を重ねました。そして開発過程でたどり着いたのが、今回採用したリキッドウッドだったのです。
ーー リキッドウッドとはそもそもどのような素材なのでしょうか?
Gray氏 リキッドウッドの原料は名前の通り木材なのですが、その製造工程は非常に特殊です。“紙”の原料は、ご存じの通り木材から作られるパルプです。木材からパルプを構成するセルロース繊維を取り出す際に、木に剛性を与える組織に相当する“リグニン”という物質を分離します。このリグニンは、製紙において廃材となります。紙に剛性は必要ないですものね。
基本的には廃棄されていたこのリグニンを製紙業界から材料として回収し、全く別の素材から取り出したセルロースと合体させると、物質特性が変化して、火を通すと溶ける材料に変化します。これがリキッドウッドと呼ばれるものです。
ーー なるほど。
Gray氏 ここでポイントとなるのが「液体になること」です。要するに、木材でありながら、樹脂と同じような成型・製法が可能になるのです。ですからリキッドウッドを使えば、通常の木材ではまず作ることのできないような複雑な形状も、曲線を持った形状もつくることができるのです。しかも、木材と共通する音響特性や、適度な剛性も持ちあわせているのです。
ーー 音響的な長所と成形の自由度の高さを併せ持っている、非常に優れた素材ということなのですね。
Gray氏 ただし、樹脂に似ているとはいっても、やはりまったく別物なので、成型のノウハウを得るためには試行錯誤しました。壁圧から型を抜くときの角度、型取りに適した素材の配分、冷やし方や余熱の処理まで、最適な値を見つける必要があったのです。NightHawkに採用されたリキッドウッドは、ヘッドホンのイヤーカップを作るのに最適化された配合が採用されています。
ちなみにリキッドウッドはドイツで製造されている材料なのですが、今まで大量生産で使われた例はなく、よってヘッドホンで採用された例も恐らくないでしょう。もっとも実際に使ってみて、なぜ大量生産される製品に使われたことがないか理解できました。リキッドウッドは非常に扱いづらい素材なのです。
ーー イヤーパッドにも装着感を高める工夫を施しているのでしょうか?
Gray氏 イヤーパッド表面の革ですが、これは卵の殻を潰して加工し、合成革とした材料を使っています。人工革ではありますが、そもそもの材料はオーガニックな素材です。直接肌に触れる部分ですから、耐久性や肌触りの良さはもちろん、オーガニックなものであるというのは良いことだと考えています。
イヤーパッドの形状については、まずは耳の形を真似ることに徹しました。たいていのヘッドホンでは、イヤーパッドの切り込みが単純に円形だったり楕円形だったりします。人間の耳の立体的な形を考慮した形状のイヤーパッドというのは、意外なことになかなか見当たりませんでした。
NightHawkのイヤーパッドは、耳の形似合わせてパッドの後頭部側を厚くし、顔側を薄くしています。そうすると、ちょうど真上から見たら、耳を含めた人間の顔の形にイヤーパッドが沿うようになりますよね。よって耳や側頭部に対する圧迫感を減らすことができ、長時間にわたって快適に装着できます。また、イヤーパッドに合わせてドライバーユニットも若干の角度を付けてハウジングに設置してあります。こうすることで、より自然な広がりがあるサウンドが得られるのです。
■木材だが溶ける特殊素材“リキッドウッド”を採用したイヤーカップ
ーー イヤーカップにはリキッドウッドという聞き慣れない素材が採用されています。
イヤーカップの素材については、ヘッドホンをデザインする観点から考えられる様々な材料を試しました。金属、樹脂、木材など各カテゴリーの素材について、音響面、装着感、そして製造のしやすさという要素から検討を重ねました。そして開発過程でたどり着いたのが、今回採用したリキッドウッドだったのです。
ーー リキッドウッドとはそもそもどのような素材なのでしょうか?
Gray氏 リキッドウッドの原料は名前の通り木材なのですが、その製造工程は非常に特殊です。“紙”の原料は、ご存じの通り木材から作られるパルプです。木材からパルプを構成するセルロース繊維を取り出す際に、木に剛性を与える組織に相当する“リグニン”という物質を分離します。このリグニンは、製紙において廃材となります。紙に剛性は必要ないですものね。
基本的には廃棄されていたこのリグニンを製紙業界から材料として回収し、全く別の素材から取り出したセルロースと合体させると、物質特性が変化して、火を通すと溶ける材料に変化します。これがリキッドウッドと呼ばれるものです。
ーー なるほど。
Gray氏 ここでポイントとなるのが「液体になること」です。要するに、木材でありながら、樹脂と同じような成型・製法が可能になるのです。ですからリキッドウッドを使えば、通常の木材ではまず作ることのできないような複雑な形状も、曲線を持った形状もつくることができるのです。しかも、木材と共通する音響特性や、適度な剛性も持ちあわせているのです。
ーー 音響的な長所と成形の自由度の高さを併せ持っている、非常に優れた素材ということなのですね。
Gray氏 ただし、樹脂に似ているとはいっても、やはりまったく別物なので、成型のノウハウを得るためには試行錯誤しました。壁圧から型を抜くときの角度、型取りに適した素材の配分、冷やし方や余熱の処理まで、最適な値を見つける必要があったのです。NightHawkに採用されたリキッドウッドは、ヘッドホンのイヤーカップを作るのに最適化された配合が採用されています。
ちなみにリキッドウッドはドイツで製造されている材料なのですが、今まで大量生産で使われた例はなく、よってヘッドホンで採用された例も恐らくないでしょう。もっとも実際に使ってみて、なぜ大量生産される製品に使われたことがないか理解できました。リキッドウッドは非常に扱いづらい素材なのです。
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