未発表の新モデル情報も明らかに
iFIオーディオ、ヴィンセント・ルーク氏が語るブランドの理念と今後の開発計画
「同じ英国に拠点を構えるXMOS社から、ICチップを購入していますが、多くのメーカーがソフトウェア開発も同時に依頼して買い取るスタイルであるのに対して、当社ではソフトは買わずに、ICチップだけを購入して自社の優秀なソフトウェアエンジニアがファームウェアのプログラムを開発しています。だからDSD512への再生対応など、先端のフィーチャーに素速く対応ができるし、設計の裾野を自由に広げることができるのです」
iFIオーディオでは「ICチップのデータシートは奥深く、先の先まで探求して開発に挑んでいる」という。だからDSD512やPCM764kHzのネイティブ対応など、マニアックな機能についても原理的な所から隅々まで解析して機能として盛り込んでしまう。「マニアックなDNAがiFIオーディオのスタッフ一同に浸透しています。もう、私たちの“癖”みたいなものなんです」とルーク氏は冗談交じりにおどけてみせる。
iFIオーディオの先端技術へのこだわりは、スタイリッシュなオールインワン真空管システム「Retro」にも反映されている。アンプ部となる「Stereo 50」もDSD512とPCM 768kHz/32bit対応という、実に”尖った”スペックを備えているのだ。
本機の場合は、先進のオーディオ再生スペックが男性ユーザーの興味を惹き付けながら、同時にBluetoothによるワイヤレス再生や温かみのあるデザインが女性の音楽ファンの気持ちを掴んでいるという。iFIオーディオのファン層を広げる牽引車にもなっているようだ。「最先端とレトロな要素を掛け合わせて、全く新しい価値を持つ製品を生み出せることがiFIオーディオの強み」とルーク氏は胸を張る。
さらに、今年の4月にはiFIオーディオからまた、非常に興味深いプレスリリースがあった。ブランドにとって第3のシリーズとなる「Pro」の開発がスタートしたというアナウンスだ。新しい「Pro」シリーズの正体について、ルーク氏に尋ねた。
「まずは真空管とソリッドステートのハイブリッド構成による、バランス対応のヘッドフォンアンプPro iCANの開発からスタートします。シリーズのコンセプトとしては、プロフェッショナル品質の高いオーディオパフォーマンスを、従来のmicroやnanoシリーズと同様に、ユーザーにお求めやすい価格で実現することです。Pro iCANの発売後、続いてPro iDSDに展開する計画もあります」
さらにルーク氏は「Pro iCAN」の説明を続ける。
「Pro iCANはどんなヘッドフォンにもマッチするフラッグシップモデルです。増幅回路は真空管とソリッドステートから選択ができて、バランス構成のフルディスクリートA級設計としています。micro iDSDほどではありませんが、クラウドデザインの手法によって寄せられたファンの声も採り入れながらつくっています。面白いフィーチャーの一例は、オプションとして提供する最大出力1,700Vの静電型ヘッドフォン用外付け『エナジャイザー・モジュール』です。これを装着することで、スタックスやゼンハイザーのOrpheus HE90など、代表的なモデルのために設計されたバイアス設定が選択できるようになります」
■micro&nanoシリーズの次期製品計画が明らかに
ルーク氏はさらに、今後iFIオーディオが計画している新製品の非常に興味深いプロジェクトについても、おもむろに話を切り出した。まずは「micro iDAC2」だ。
その名の通り、本機は現行「micro iDAC」の次世代モデルで、大きな違いは電源をバッテリーではなく、USBバスパワー仕様としたデスクトップスタイルのヘッドフォンアンプ内蔵USB DACとしたこと。そのコンセプトをルーク氏は次のように語っている。
「micro iDAC2は据え置き用途をメインに、自宅のHiFiシステムに組み込んで使うことを前提に開発したモデルです。機能構成も敢えてシンプルなものにして、DSD256までのネイティブ再生対応としています(※Windowsのみ、MacはDSD128までの対応で、PCMは最大384kHz対応となる)。内部にはnano iDSDと同じオーディオエンジンを搭載していますが、据え置きタイプなのでアナログ回路をさらに洗練させて高音質化を計りました。nano iDSDとmicro iDSDの中間価格帯に位置づける予定です。とはいえ、アナログライン出力のサウンドはmicro iDSDを凌ぐクオリティを実現していることもmicro iDSD2の大きな特徴です」
microシリーズについては、今年末の発売に向けてDSDネイティブ対応のADコンバーターも開発計画が進む。その詳細はまだ明かされなかったものの、コンセプトについてルーク氏は「これまではDSD対応のADコンバーターは非常に高価で、一般のオーディオファンが気軽に手を出せるものではありませんでした。プロのクオリティを、より手頃な価格で実現できるDSDネイティブのADコンバーターを作りたい」と説く。
さらにUSBパワーサプライの「iUSBPower」については、「micro iUSBPower 3」と「nano iUSBPower 3」の開発を計画している。シリーズの通しナンバーが一足飛びに「3」となった理由は端子がUSB3.0になるからだ。
nano iUSBPower3は1ペア、micro iUSBPower3は2ペアのオーディオ信号と電源のポートをそれぞれに搭載する。例えばmicroは片側をHDDなどストレージにつないで、もう片側をDAコンバーターに接続して使うことで、ノイズ対策の強化が図れる。本体の静音設計にもメスを入れたほか、micro iUSB3は外部接続機器への給電機能も付いてくる。iPhoneやAndroid機器などが高速充電できるようになるとのことだ。
■3種類の新しいアクセサリーも登場
またこの数ヶ月の間には新しいアクセサリー製品も3種類発表される。ひとつは真空管のコンバーターキットだ。同社iTubeやStereo 50でも採用している人気の高い真空管「GE 5670」は9ピン仕様だが、これを真空管「6922」用のソケットに装着して使うための変換器となる。
もうひとつのアクセサリーはアッテネーター(減衰器)。感度の高いIEM(インイヤーモニター)で音楽を聴くと、音がうるさく聴こえる場合があるというイヤホンユーザーからの声を受けて開発されたもので、micro iDSDが搭載するiEMatchの機能を独立させたようなアクセサリーとのことだ。感度設定は-12dBと-24dBの2種類から選べるようになる。
最後はmicroシリーズのiCANやiPhonoなどで使うことができる電源アダプター「iPower」だ。その最大の特徴はスイッチングを採用しながらアナログ約1mVという、測定器の測定限界値に迫る超低ノイズレベルを実現している点だ。
iFIオーディオの製品の評価はその誕生以来、世界各国で高まっているが、特に日本と北米での反響が大きいという。
ルーク氏は日本の印象について、「日本の皆様は音質への関心が非常に高く、マニアの方から一般の音楽ファンまで、高音質を求める意識が広く浸透しているところが他の国々と大きく異なっている」と捉えている。
「音に感度の高い、日本のユーザーの皆様から寄せられてくる声が、iFIオーディオ製品のクオリティアップを後押ししてくれていることに、いつも大変感謝しています。応援を背中に受けながら、iFIオーディオはこれからも“ほかのどこにもない製品”を形にして、皆様にお届けしたいと思います」と意気込みを語ってくれた。