アーティストが感じるハイレゾの魅力とは
「ハイレゾなら全部わかる!」女性声優界のハイレゾ第一人者、今井麻美さんインタビュー
▼話題は本格的にハイレゾへ
−− 歌い手、音楽を提供する側として、ハイレゾに対する考えや、意識していることなどはありますか?
今井さん:これはちょっと自慢なんですけれど、私の音源は最初からずっとハイレゾで収録されていたんです! 私というか、音マニアのスタッフさん達がいて、その方々が凄いんですけれど(笑) 今、“全アルバムハイレゾ化計画"という形で私の過去の楽曲も含めてハイレゾ配信がされていますが、それは全部そのままの形なんです。あとからハイレゾにした音源じゃないんですね。ハイレゾっていう言葉が一般的に広まり始めたのはこの数年だと思うんですけれど、その随分前からハイレゾに取り組んでいたんです。だからCDなんかは、もちろんCDに合わせた良いバランスでマスタリングをしていただいていますが、泣く泣くカットしている部分もあるんです。
−− CDフォーマットに落とし込む過程でダウンコンバートしているわけですね。時代を先取りしていますよね。
今井さん:ただ、絶対こんな時代が来ることを見越して、っていう感じじゃなかったですよ(笑) 私、覚えてます。収録が夜遅くまで掛かって、終電も過ぎちゃったことがあるんです。そんな時は時間もあるので趣味の話とかになるんですけれど、音マニアのスタッフさん達が「192・・・、96・・・」とか数字を言っていました! 私は何でも質問しちゃうんで、その時も「それって何ですか? これって何ですか?」って聞いたんですけど、色々とお話してもらっても分からなくて。「なるほど、とにかく凄いということですね!」みたいに流しました(笑) 最近になって分かったんです、「ああ、あの時のお話はそういうことだったのか!」って。それと一緒に思い出しました、あの会話は「やっちゃう? やっちゃう?」「やっちゃおっか!」みたいなノリで、絶対ハイレゾの普及とか考えてなかったです!(笑)
濱田さん:いやいや、こうなることは分かっていましたよ(笑) ただ昔は今ほどハードディスクにも余裕がなく、高いレートで録音していくとデータ容量が圧迫されて大変だった。だから最終的に96kHz/24bitが録音でも再生でも現実的なラインだろうと判断して、大体はそれで録ってきています。
−− 実際、現在の主流は96kHz/24bitですから、やはり先を読まれていたのですね。ではその一方で、手軽にハイレゾを楽しめる環境が整ってきて、多くの人が本当に細かい部分まで音を感じ取れるようになりました。それに対してプレッシャーはありますか?
今井さん:私は猪突猛進というか、入り込むタイプなんです。だから収録で歌っている時に気になったりはしなくて、歌うことだけに集中しています。ただ、プレッシャーとは違って、ハイレゾだと切れている部分がないというか、私が表現したかったことが表現されている、というのはあります。
−− というと?
今井さん:CDで聴いた時、本当に細かい所、数字で言うと0.00・・・っていうくらい細かい部分で、ブレスが入っていたらな、ここの余韻があったらな、とか悔しい思いをすることがあったんです。それがハイレゾの音源を聴いてみたら、「あれっ、入ってる!?」みたいな(笑) 「出来てた、私! やったー!」っていう(笑) さっきのCDにするためにカットされていたという部分も、ハイレゾだと全部分かるんだなって。
−− 今井さんの楽曲は全てハイレゾで制作されてきたわけですが、なかでも「BABYLON〜before the daybreak」のカップリング曲で先行ハイレゾ配信されました「leap of faith」は、ハイレゾに映えることを考え作られたとのことですが。
濱田さん:しかも「BABYLON〜before the daybreak」でもパイプオルガンの音は使っているんですけど、そっちは打ち込みなんですよ。表題曲ではなくカップリング曲に特殊な生楽器を持ってくる。普通は逆だろう、という(笑)
今井さん:楽器の音が良すぎて、歌い出しまでに1分以上掛かるんですよね (笑) それだけに、CDでも発売されていますが、ぜひハイレゾで聴いていただきたい曲に仕上がっています! あと、楽器ではハンマーダルシマーという楽器が使われているんです。これにはちょっとしたエピソードがあるんですよ。
−− ハンマーダルシマー、ですか? すいません、ちょっとどういった楽器なのか……。
今井さん:ですよね、私も知りませんでした(笑) 発見したのは、実は「ぶらり途中下車の旅」なんですよ。池田綾子さんもそうですが、私テレビを見て「あっ、これ!」っていうことが多いんです。番組では横浜沿線上でぶらっと下りて、ハンマーダルシマー教室に入っていったんです。そこで鳴っていた音を聴いて、なんて心の琴線に触れる音なんだろうって。それでこれを取り入れようって提案したんですけど、名前を覚えてなくって。「ダルシム?」とか言っていました(笑) みんなで調べて、「あっ、ハンマーダルシマーだ!」ってなったんです。
濱田さん:ちなみに、ハンマーダルシマーはいわゆる打弦楽器で、金属製の弦を木製のスティックで叩いて音を出す、ピアノの中身を外に出したような楽器です。
−− なるほど。そういった生楽器の音が含まれている曲は、確かにハイレゾではより楽しめそうですね。では現在ハイレゾで配信されている今井さんの楽曲の中で、ご自身でお薦めのタイトル、印象深いタイトルはありますか?
今井さん:初めてのアルバムになる『COLOR SANCTUARY』、その表題曲の「COLOR SANCTUARY」は、自分で作詞もした曲ということもあって思い入れがあります。ハイレゾで聴いたら、笑ってしまいました。これは『little legacy』に収録されている「Hasta La Vista - Blanco llama ver. -」もそうですね。この時、私は自分の歌に納得がいかなくて、凄く落ち込んでいたんです。収録スタジオでもみなさんが「大丈夫だよ、ちゃんと歌えてるよ」って言ってくださっているのに「いいんです、歌えてないのは自分で分かってますから!」みたいになっちゃって。楽器と歌は支えあう存在であって、同時にライバルでもあると考えています。凄い楽器の音に対して、それに見合うだけの歌を歌わないといけないなって。それが出来ない自分に塞ぎこんでしまったんです。けれど、その曲が形になって、そしてハイレゾで改めて聴いた時、笑ってしまったんです。私を支えてくれている楽器の音、皆さんの音はこんなに凄いんだって。少し肩の力が抜けたようでした。それから色んな場所で何度も歌ってきたので、今は前よりももっとうまく歌えると思います。
−− 「BABYLON〜before the daybreak」のカップリングのうちの1曲「シャングリラ(2015ver.)」のように、新録される可能性もありますか?
今井さん:『little legacy』ではどの曲を入れるべきかっていう話し合いがありましたが、そういう時に私の意見も少し取り入れてもらえるようになってきたんです。だから、いつかまた機会があるかもしれません。
−− では、濱田さんとしてはどのタイトルがお薦めでしょうか?
濱田さん:「leap of faith」もですが、やっぱり『little legacy』ですね。このアルバムは全曲全トラックを生音でハイレゾ録音したんです。生楽器の音をマイクで録音するということは、その場の空気も一緒に録っているということです。楽器をラインで繋いで録られた音と、生音をマイクで録った音はそこが違うんです。その空気を、ハイレゾならしっかりと感じ取っていただけると思います。お薦めは収録曲全部です。
今井さん:『little legacy』では本当に色んな楽器が使われましたよね。ギター、バイオリン、パーカッション。あとフルートなんかも。いつもそうなんですけれど、本当に皆さんと一緒になって作り上げた宝物のようなアルバムです。