ピコピコの時代からハイレゾまで
”ゲーム音楽”はゲームをプレイしていなくても楽しめるのか? 日本ファルコムにズバリ訊いた
早速だが皆さんは、“ゲーム音楽”についてどのようなイメージを持っているだろうか。激しく、物悲しく、壮大に、叙情的に、コミカルに、あらゆるシーンを盛り上げてくれる音楽は、ゲームにとって必要不可欠なものだ。あるフレーズを耳にするだけで、情景が浮かんでくるという思い出深い曲もあることだろう。その重要さに疑いの余地などなく、そればかりを聴くというファンも大勢いるほどだ。
では、ゲームから切り離して、単独の“音楽”として考えるとどうだろうか。おそらく、その印象がボヤケてしまう人も多いだろう。ゲームの内容に触れずに、音楽だけについて語ることはなかなか難しいはずだ。それほど密接にゲームと結びついているということの証だろうが、それは1つの疑問に行き着く。つまり「あるゲームの音楽は、そのゲームをプレイしたことがない人にとっても楽しめるものなのか」ということだ。
こんな不躾な質問に、これ以上ない回答者が応えてくれた。「音楽の日本ファルコム」とも評される、ゲームソフト・ブランド「日本ファルコム」だ。
日本ファルコムは「イース」や「軌跡」シリーズなど数々のヒット作を生み出すと共に、音楽事業においても常に先鋭的な取り組みを行い、成功をおさめている。そしてハイレゾというキーワードに対しても、ゲーム会社としていち早く録り下ろし音源を制作し世に送り出すなど、まさに業界をリードする存在だ。
この度は、日本ファルコムを「音楽の日本ファルコム」たらしめる存在へと導いた加藤正幸会長(以下、加藤)と、同社の音楽事業全般に携わる石川三恵子取締役部長(以下、石川)に、同社が考える“ゲーム音楽”についてお話を伺った。
▼ゲームから離れても“音楽”として聴けるように作っている
−− 早速ですが、まず“ゲーム音楽”とはどういったものか、ということについてのお考えをお聞かせ下さい。
加藤:結論から言うと、普通の音楽と一緒ということ。もちろん音楽だけに力を注げるアーティスト作品なんかとは出来ることが違うし、ゲームならではの縛りのようなものもある。けれど、少なくとも日本ファルコムでは、独立した曲として聴けるように音楽性を追求していますよ。社内では曲作りのルールとして、「ファルコム音楽三原則」というものを掲げています。
ファルコム音楽三原則
●一度聴いたら忘れられない思わず口ずさんでしまうメロディ
●ここぞというところに、グッとくるサビ
●起承転結が感じられる構成
−− 確かに、そのルールに則って作られた楽曲は、ゲームとは関係なくとも楽しめそうです。
加藤:全てがこうである必要はないけれどね。この基準は社内に作曲者が集まり始めて、曲作りが本格化する黎明期からずっと貫いている。その上で、昔から悩んでいるのは“ジャンル”について。一般的な楽曲や、いわゆるアニソンと呼ばれる音楽と、僕達のようなゲーム会社が作る音楽は、どういった違いがあるのか。特に最近市民権を得たアニソンと同一視されることが多いけど、ちょっと違うのは、アニソンって言うくらいだから主題歌、歌ものでしょ。自分達の作ってきたものはどちらかと言えばBGMなんですよ。時代の流れで主題歌を作るようになってきてはいるけどね。
−− そう言われてみると、購入する際にどこに区分けされているのか分からず、探してしまうことがあります。
加藤:そう、10年も20年も、もっと前からやってきて、それでもゲーム音楽っていうジャンルはあってないような感じ。自分達の場合は何をやっているのかと言えば、色んなジャンルの音楽を作っている。その時のアレンジャーがやっていることによって、プログレって呼ばれたり、ハードロックって呼ばれたり、メタルって呼ばれたり、色んな形になる。じゃあ、それを商品として出そうとしたら、どこのジャンルにも入らないんだよね。レコード屋さんに行っても、コーナーがない。一時期はあったけど、また減ってきた。そうなると置きにくいし、探しにくい。iTunes musicだと「サントラ」に入ってて、e-onkyo musicだと「ANIME/GAME」に入っている。そういったコーナーがなければ、「その他」なんて所に入れられていたりする。だから、ゲーム音楽というジャンルを確立させたい、また一方でその括りから出たい、ということを目標にやってきた部分はあります。よく言っていたことは、映画音楽のようになりたい。
−− 映画の劇伴のような音楽ということですか?
加藤:そのものじゃないけどね。つまり、もとは映画音楽として作られた曲でも、今はスタンダード・ナンバーに数えられていたりするじゃない。色んな場所で何度も聴いたことはあったけど、これって映画音楽だったんだ、みたいな曲。その曲はもう映画音楽じゃないジャンルの棚に入っていたりするわけだから。ゲーム音楽からスタンダード・ナンバーのようなものを出したいと、昔はよく冗談混じりに言っていましたね。
−− なるほど、映画音楽が初出の有名な楽曲は数多く存在しますし、映画音楽それ自体も一般的なジャンルとして確立しています。そしてゲーム音楽は共通する状況がありながら、不思議と不明瞭な立ち位置になりがちかもしれません。
加藤:ゲームに親しんでくれている人には違和感が無くても、そうでない人には軽んじられてしまうことがあるじゃないですか。ゲーム音楽だというだけで、聴いてすら貰えない。それは確かにゲームの音楽ではあるんですが、包括する“音楽ジャンル”は普通の音楽好きにも受け入れて貰えるものなのに。前によくあったのは、ゲーム音楽に対して偏見と言うか先入観を持った人に曲を聴いてもらうと、「なんだ、普通の曲じゃないですか」って感想が出てくること。
−− ゲームはグラフィック面の進化が目立ちますが、音楽も同様に先に進んできているにも関わらず、未だに“ピコピコサウンド”のイメージを脱していない人もいるように感じます。
石川:特にRPGのようなゲームだと、ドラマティックな展開を盛り上げるための曲が用意されたりしているじゃないですか。後はメインテーマだったり、そういった印象に残りやすいものは、やっぱり普通に曲として作られていると思います。
加藤:ただ、単純にBGMとして作っているというゲーム会社もあるとは思うけど、ウチは少し考え方が違う。音楽を先に作って、それに合わせて画面を作ったりするから。
石川:良い曲だからボツにするのは勿体無いと、シナリオやプログラムの担当者が曲に合わせてシーンやイベントを追加してくれたりすることもあるんですよ。他にも、ゲームだとフィールドや戦闘の時に流れる音楽は、音が途切れると気持ち悪いからループさせるように作ることが求められます。けど、それだと曲としておかしくなるから「出来ません」って戦ったり。そのくらい音楽に力を入れています。
加藤:そうやって本気で音楽に取り組んでいくと、ゲーム音楽って何だろう、ジャンルはどうなるんだろうと悩むわけです。ただ最初に言った通り、ゲームの一部としての役割はもちろんあるけど、その枠を超えて単一の“音楽”として成り立っている楽曲を日本ファルコムは作っている。おかしな表現かもしれないけど、普通に聴いていただければ良いなと思いますね。
では、ゲームから切り離して、単独の“音楽”として考えるとどうだろうか。おそらく、その印象がボヤケてしまう人も多いだろう。ゲームの内容に触れずに、音楽だけについて語ることはなかなか難しいはずだ。それほど密接にゲームと結びついているということの証だろうが、それは1つの疑問に行き着く。つまり「あるゲームの音楽は、そのゲームをプレイしたことがない人にとっても楽しめるものなのか」ということだ。
こんな不躾な質問に、これ以上ない回答者が応えてくれた。「音楽の日本ファルコム」とも評される、ゲームソフト・ブランド「日本ファルコム」だ。
日本ファルコムは「イース」や「軌跡」シリーズなど数々のヒット作を生み出すと共に、音楽事業においても常に先鋭的な取り組みを行い、成功をおさめている。そしてハイレゾというキーワードに対しても、ゲーム会社としていち早く録り下ろし音源を制作し世に送り出すなど、まさに業界をリードする存在だ。
この度は、日本ファルコムを「音楽の日本ファルコム」たらしめる存在へと導いた加藤正幸会長(以下、加藤)と、同社の音楽事業全般に携わる石川三恵子取締役部長(以下、石川)に、同社が考える“ゲーム音楽”についてお話を伺った。
▼ゲームから離れても“音楽”として聴けるように作っている
−− 早速ですが、まず“ゲーム音楽”とはどういったものか、ということについてのお考えをお聞かせ下さい。
加藤:結論から言うと、普通の音楽と一緒ということ。もちろん音楽だけに力を注げるアーティスト作品なんかとは出来ることが違うし、ゲームならではの縛りのようなものもある。けれど、少なくとも日本ファルコムでは、独立した曲として聴けるように音楽性を追求していますよ。社内では曲作りのルールとして、「ファルコム音楽三原則」というものを掲げています。
●一度聴いたら忘れられない思わず口ずさんでしまうメロディ
●ここぞというところに、グッとくるサビ
●起承転結が感じられる構成
−− 確かに、そのルールに則って作られた楽曲は、ゲームとは関係なくとも楽しめそうです。
加藤:全てがこうである必要はないけれどね。この基準は社内に作曲者が集まり始めて、曲作りが本格化する黎明期からずっと貫いている。その上で、昔から悩んでいるのは“ジャンル”について。一般的な楽曲や、いわゆるアニソンと呼ばれる音楽と、僕達のようなゲーム会社が作る音楽は、どういった違いがあるのか。特に最近市民権を得たアニソンと同一視されることが多いけど、ちょっと違うのは、アニソンって言うくらいだから主題歌、歌ものでしょ。自分達の作ってきたものはどちらかと言えばBGMなんですよ。時代の流れで主題歌を作るようになってきてはいるけどね。
−− そう言われてみると、購入する際にどこに区分けされているのか分からず、探してしまうことがあります。
加藤:そう、10年も20年も、もっと前からやってきて、それでもゲーム音楽っていうジャンルはあってないような感じ。自分達の場合は何をやっているのかと言えば、色んなジャンルの音楽を作っている。その時のアレンジャーがやっていることによって、プログレって呼ばれたり、ハードロックって呼ばれたり、メタルって呼ばれたり、色んな形になる。じゃあ、それを商品として出そうとしたら、どこのジャンルにも入らないんだよね。レコード屋さんに行っても、コーナーがない。一時期はあったけど、また減ってきた。そうなると置きにくいし、探しにくい。iTunes musicだと「サントラ」に入ってて、e-onkyo musicだと「ANIME/GAME」に入っている。そういったコーナーがなければ、「その他」なんて所に入れられていたりする。だから、ゲーム音楽というジャンルを確立させたい、また一方でその括りから出たい、ということを目標にやってきた部分はあります。よく言っていたことは、映画音楽のようになりたい。
−− 映画の劇伴のような音楽ということですか?
加藤:そのものじゃないけどね。つまり、もとは映画音楽として作られた曲でも、今はスタンダード・ナンバーに数えられていたりするじゃない。色んな場所で何度も聴いたことはあったけど、これって映画音楽だったんだ、みたいな曲。その曲はもう映画音楽じゃないジャンルの棚に入っていたりするわけだから。ゲーム音楽からスタンダード・ナンバーのようなものを出したいと、昔はよく冗談混じりに言っていましたね。
−− なるほど、映画音楽が初出の有名な楽曲は数多く存在しますし、映画音楽それ自体も一般的なジャンルとして確立しています。そしてゲーム音楽は共通する状況がありながら、不思議と不明瞭な立ち位置になりがちかもしれません。
加藤:ゲームに親しんでくれている人には違和感が無くても、そうでない人には軽んじられてしまうことがあるじゃないですか。ゲーム音楽だというだけで、聴いてすら貰えない。それは確かにゲームの音楽ではあるんですが、包括する“音楽ジャンル”は普通の音楽好きにも受け入れて貰えるものなのに。前によくあったのは、ゲーム音楽に対して偏見と言うか先入観を持った人に曲を聴いてもらうと、「なんだ、普通の曲じゃないですか」って感想が出てくること。
−− ゲームはグラフィック面の進化が目立ちますが、音楽も同様に先に進んできているにも関わらず、未だに“ピコピコサウンド”のイメージを脱していない人もいるように感じます。
石川:特にRPGのようなゲームだと、ドラマティックな展開を盛り上げるための曲が用意されたりしているじゃないですか。後はメインテーマだったり、そういった印象に残りやすいものは、やっぱり普通に曲として作られていると思います。
加藤:ただ、単純にBGMとして作っているというゲーム会社もあるとは思うけど、ウチは少し考え方が違う。音楽を先に作って、それに合わせて画面を作ったりするから。
石川:良い曲だからボツにするのは勿体無いと、シナリオやプログラムの担当者が曲に合わせてシーンやイベントを追加してくれたりすることもあるんですよ。他にも、ゲームだとフィールドや戦闘の時に流れる音楽は、音が途切れると気持ち悪いからループさせるように作ることが求められます。けど、それだと曲としておかしくなるから「出来ません」って戦ったり。そのくらい音楽に力を入れています。
加藤:そうやって本気で音楽に取り組んでいくと、ゲーム音楽って何だろう、ジャンルはどうなるんだろうと悩むわけです。ただ最初に言った通り、ゲームの一部としての役割はもちろんあるけど、その枠を超えて単一の“音楽”として成り立っている楽曲を日本ファルコムは作っている。おかしな表現かもしれないけど、普通に聴いていただければ良いなと思いますね。