ピコピコの時代からハイレゾまで
”ゲーム音楽”はゲームをプレイしていなくても楽しめるのか? 日本ファルコムにズバリ訊いた
▼ゲーム音楽に欠かせない“音源”の歴史
−− 続いて、ゲーム音楽における“音”の側面についてお話をお聞かせ下さい。ゲーム音楽と言えばデジタルサウンドが基本ですが、そこに用いられる音源はどのような遍歴を辿ってきたのでしょうか。
加藤:ちょっとゲームの歴史の話になりますけど、一番最初はアナログの音だった。インベーダーゲームとかね。それはそれで独特な味わいがあってファンもいますけど、その次にパソコンで音を作るようになって、ビープ音になった。ウチではこのビープ音で作ったのが最初かな。あの頃は音楽とはなかなか言いづらいけど、そのビープ音だけで作るんだよね。音程をしっかりとって、オーケストラ”っぽい”ものにしてみたり。そんなところからスタートしているから、それっぽいものにするだけで精一杯。次がピコピコ音源。ファミコンにはPSG(プログラマブル・サウンド・ジェネレーター)があった。
石川:ファミコンの場合は矩形波と三角波、ノイズを組み合わせた音に、エンベロープが1つ掛けられるものですね。出力はステレオとかじゃなく、全部一緒のところに出てくるので、音色とかはあんまり付けられない。ドラクエのテーマ曲だったり、階段を下りていく音だったりが分かりやすいですかね。
加藤:それでもプログラマーがピコピコ音じゃないものを作ろうと創意工夫して、後半は凄いものが出てきたよね。これがPSGの音なの、って驚くような。それで技術者が競争していた、ひとつの時代があった。ビープ音というまったくの矩形波から、その矩形波をコントロールできるPSGというものになったのは大きな進歩だった。そこから更に飛躍的に進んだのがFM音源。あれがゲーム機やパソコンで使えるようになって、色んな音が出せるようになった。FM音源だと正弦波が使えて、それに変調を掛けて、音色を作ることが出来る。それもまだ制限があるけどね。PSGにもFM音源にも、それぞれにファンがいる。それからデジタル音やアナログの電子音の時代になってきた。電気楽器がどんどん登場してきてね。
−− エレキギターやエレキベースなどの楽器ですね。
加藤:僕はハモンドオルガンが好きなんだけど、あれは電気楽器なんだよね。鍵盤を弾いたらトーンホイールが回転して、それを電気信号として処理して音にしている。その後、ミュージックワークステーションとか、電子楽器になっていった。そこでPCM録音の時代になって、自分達のやってきたことがガラッと変わった。PCMだったり、音楽CD規格のCD-DAで音を出すことがゲームで出来るようになった。
石川:スーパーファミコンですよね。サンプリング音が出せるようになって、例えば太鼓が鳴らせることとか、歓喜しました。CD-ROM2(シーディーロムロム*)なんかだとCD-DAでそのまま音が出せて、これは凄いと興奮して。ただその反面、メモリが全然足らなくて大変でしたね。
*注:CD-ROMをゲームソフトに採用したプラットフォーム
加藤:そういった制限の中で、自分達はずっと戦ってきたわけです。実際それまでは、ミュージシャンには絶対出来ない部分があった。演奏するのとは違うデジタルの技術が求められるからね。けどCD-DAになると、ある意味で普通にCDを出している一流どころのミュージシャンと同じ土俵に立たされるわけだから、これは大変だという気分になりましたね。とは言え、ウチはFM音源の頃から、レコードとか、カセットテープとか、CDとかのメディアで販売したりしてきたけど。
−− それはやはり、作っている音楽に自信があったからでしょうか?
加藤:どの音源にしろ、自分達にとってそれは、ひとつの楽器のようなものなんだよね。回路を加えたりといった工夫次第で、色んな音が出せる楽器。自分達はデジタルの世界に生きてきたけど、楽器を使って音楽を作ってきたんだという感覚がある。アプローチは異なっても、それはミュージシャンと変わらない。後は音楽性の問題として、良いもの、面白いものを作っている自信があった。世の中の人はまったく違うものとして見ているとは思うんですけどね。
そうやって段々、ゲーム機は音楽制作の環境が変わっていった。あと、パソコンではMIDIの時代もあったね。MIDIは「ここはこういう音を出す」という指示を出す規格だから、音源は別に用意する必要がある。その音源は各メーカーが出しているわけだけど、音が違うんですよ。
石川:色んなメーカーのサンプリングの音を聴き比べて、ここが良いね、というところを選んで使っていました。
加藤:サンプリングの音は、録音してそのまま出すだけじゃなくて、そこに電子的な加工をして良い音にして出すわけだから、個性が出るよね。
石川:社内で一時期、安いのに良い音のピアノ音源が流行ったりしましたね。
加藤:その頃はデータを保持したり、転送したり、そんなインフラが整っていなかったから、MIDIが流行ったんだろうね。音のデータはサイズが大きくなるから、取り扱いが大変になる。通信カラオケとか、ガラケーなんかもMIDIだったりして、この時代はしばらく続いたね。それから、圧縮音源やハイレゾ、といった今に至ると。